12.1
林 正幸
物質の状態(新訂)
実験・実習
実験目次
演示実験1 びっくりさせてあ缶!(水素の爆発)
実験1 ブラウン運動
実験2 メタノール風船
実験3 パスカルの原理
実験4 大気の圧力
実験5 水圧と深度
実験6 かんたん蒸気圧
実験7 分圧の法則
実験8 減圧沸とう
実験9 二酸化炭素の融解とブタンの沸とう
発展実験1 二酸化窒素の拡散
発展実験2 大気圧と高度
発展実験3 メタノール蒸気圧の温度変化
発展実験4 冷やしてお湯が沸く
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演示実験1 びっくりさせてあ缶!(水素の爆発)
(1)アルミ缶と台を紹介する。
参考:風の影響を受けるので、窓は閉めた方がよい。
(2)アルミ缶の穴を指で塞ぎ、水上置換で簡易ボンベから水素を目一杯に捕集し、底の
くぼみにたまった水を吹き飛ばしてから缶を静かに台に載せる。
(3)指を離し、穴をふさいでいる水の膜をろ紙で吸い取り、穴から出る水素に点火し、
その小さな炎でろ紙に点火して燃焼していることを確認する。
(4)実験が進行中であることを告げて、静かに待つ。
<記録>
<準備>
・アルミ缶
250mL缶の上面を切り取り、底にくぎで穴を開ける。
・台
板に、缶を載せたときすき間ができるように、2本のマッチを固定する。
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実験1 ブラウン運動
(1)10倍にうすめた牛乳1滴をスライドガラスにのせ、カバーガラスをかける。
(2)顕微鏡を250倍にして観察する。
<記録>
- 1 -
<準備>
・約10倍にうすめた牛乳
・スライドガラス、カバーガラス、スポイト
・顕微鏡
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実験2 メタノール風船
(1)ポリ袋にメタノール10mLを入れ、空気を追い出し、口を絞って指で押さえる。
(2)バットに90℃以上の熱湯を1/3ほど入れる。
(3)すぐにポリ袋を熱湯に浸け、全体を暖める。
参考:破裂しそうになったら、一度湯から出す。
(4)終わったら、メタノールをこぼさないようにポリ袋を返す。
<記録>
<準備>
・ポリ袋 23×34cm
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実験3 パスカルの原理
(1)水が入った状態で50mL注射器と5mL注射器をチューブつないで台に固定する。
両方のピストンを指で押し合って、水が静止するときの力を比べてみる。
参考:ピストンの押す部分は、その面積がピストンの断面積に等しくなるようにカットし
てある。
(2)2つの50mL注射器ではどうであろうか。
(3)空気が入った状態で(1)(2)の実験をしてみよ。そのとき体積の変化にも注目
せよ。
(4)空気1mLを入れて穴をふさいだ1mL注射器を向きを変えて2つ、50mL注射
器に収納し、空気が60mL入った状態で穴を、穴の空いたゴムせんでふさぐ。
(5)50mL注射器のピストンを押して、両方の注射器の中の空気の体積変化を観察せ
よ。
参考:まさつでピストンが動きにくいことを考慮せよ。
<記録>
- 2 -
<準備>
・チューブ
耐寒透明チューブ(内径3mm) 2cm
・台
板を195mmに切り、注射器のシリンダーの端が引っかかるようにする。板は万力で
机に固定し、注射器はビニールテープで固定する。
・穴をふさいだ1mL注射器
針を付ける部分を電気のこぎりで半分の長さに切り、空気1mLを入れて接着剤で穴を
ふさぎ、固まったらさらにピストンとシリンダーの不要部分を切り落とす。
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実験4 大気の圧力
(a)ゴムピタ
(1)「ゴムピタ」を平滑な机に置いて、端からめくってみよ。そして中央の取っ手を持
ち上げてみよ。
(b)空き缶つぶし
(1)250mLアルミ缶に水約10mLを入れ、バーナーで加熱して水蒸気を充満させ
る。
(2)500mLビーカーに水を9分目まで入れておき、缶をトングで挟んで、水がこぼ
れないように素早く上面を水面に浸ける。
<記録>
<準備>
・「ゴムピタ」(自作)
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実験5 水圧と深度
(0)デジタル圧力計を90.0〜110.0kPaに設定する。
(1)500mLメスシリンダー(プラスチック製)に水を入れる。
(2)水圧センサーを差し入れて、圧力と深度の関係を調べよ。
参考:大気圧は100.0kPaに設定されており、それは水面にかかっている。
圧力計はチューブ内の水面の位置の圧力を表示する(なぜか考えてみよ)。したが
- 3 -
て深度とは、その位置とメスシリンダーの水面の距離である。
注意:チューブの先に泡が入ったり水が残ったりしたら、つまようじなどでとり除く。
(3)500mL三角フラスコに水を入れ、底の位置で、口の真下と横の端とで圧力を調
べよ。
<記録>
<準備>
・デジタル圧力計
自作の電源デジタル表示装置に搭載した圧力計。次のホームページを参照
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/ne69.htm
±0.1kgf/cm2のセンサーを使い、レンジを90.0〜110.0kPaに、大気圧は
100.0kPaになるように設定する。
・水圧センサー
±0.1kgf/cm2のセンサーに40cmの耐寒透明チューブをめっき線で固定し、先
の30cmの部分に定規をビニールテープ(70×6mm)で固定する。
0〜1cm、15〜16cm、26〜27cm、29〜30cmの間
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実験6 かんたん蒸気圧
(a)水
(1)5ml注射器に、30℃の水をすこし入れる。
(2)ピストンを引いて空間をつくる。それからピストンを放すとどうなるか。
(3)ピストンをさらに強く引くとどうなるか。
そして
(4)5ml注射器に、55℃の水をすこし入れる。
(5)ピストンを引いて空間をつくる。引く力は30℃の水に比べてどうか。
(6)80℃の水で、同じように実験する。
(b)メタノール
(1)5ml注射器に、30℃のメタノールをすこし入れる。
(2)ピストンを引いて空間をつくる。引く力は30℃の水に比べてどうか。
(3)55℃のメタノールで、同じように実験する。
<記録>
- 4 -
備考:盛口さんのアイデアを利用
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実験7 分圧の法則
(a)100kPaの空気の中の蒸気圧
(0)デジタル圧力計を100.0〜150.0kPaに設定する。
(1)針の付いた5mL注射器に、空気を含まないでメタノール約1mLを採っておく。
(2)乾いた250mL試薬びんに、コック(開いた状態)付きガラス管と圧力センサー
が付いたゴムせんを強く締める。
注意:シールテープの巻いた向きを考慮して締める。
(3)これにおもりを付け、500mLビーカーに入れて水をあと数mmまで注ぎ、温度
計を差し入れてバーナーで加熱する。
(4)試薬びんをしばしば上下して温度が均一になるようにしながら30℃にし、圧力が
100kPaであることを確認してコックを閉じる。
(5)針をゴムせんに刺し、注射器のメタノールを試薬びんに注入し、注射器はそのまま
にし、温度が30℃であることを確認して圧力を計測する。
注意:針の扱いにはすこし練習が必要である。
( )kPa
(b)50kPaの空気の中の蒸気圧
(0)デジタル圧力計を50.0〜100.0kPaに設定する。
(1)(a)と同じように、注射器にメタノールを採り、新しい250mL試薬びんにゴ
ムせんを締め、水に沈めて加熱する。
(2)30℃になったら、コック付きガラス管に水流ポンプをつないで減圧し、圧力計が
50kPa付近になったらコックを閉め、ゴム管を外して水流ポンプを止める。
注意:この圧力センサーは40kPa以下にすると破壊される。
(3)温度が30℃であることを確認して、正確な圧力を読み取る。
( )kPa
(4)針をゴムせんに刺すと注射器のメタノールが吸い込まれるので、温度が30℃であ
ることを確認して圧力を計測する。
( )kPa
<記録>
- 5 -
<準備>
・デジタル圧力計
±0.5kgf/cm2のセンサーを使う。
・ゴムせん
5号ゴムせんに、9cmの耐寒透明チューブ(外径6mm)とコック付きガラス管(φ
6mm)を通し(ドリルは7mmと6.5mmを使う)、ガラス用接着剤(スコット3M)
を塗り、針を刺す場所も確保する(針は事前に数回刺して慣らしておくとよい)。そして
シールテープを巻き付ける。
・おもり
シャックル(12MM 190g)
・250mL試薬びん
首にシャックルがはまる小さ目のもの
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実験8 減圧沸とう
(1)約60℃の湯を試験管に1/3ほど注ぎ、小型温度計を入れてガラス管つきゴムせ
んをしっかりとねじ込む。
(2)水流ポンプにつなぎ、水を流して減圧し、様子を観察する。
(3)観察が終わったら、ゴムせんを外してから水を止める。
<記録>
<準備>
・小型温度計
防水スプレーをかけておく。
・ゴムせん
ガラス管とゴムせんの間にワセリンを塗っておく。
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実験9 二酸化炭素の融解とブタンの沸とう
(a)二酸化炭素の融解
(1)ドライアイス(固体の二酸化炭素)の小片を5mL注射器に詰め、ピストンを押し
て針穴をゴムせんに押し当て、圧力の上昇に負けないようにして、その状態で様子を観察
- 6 -
する。
(b)ブタンの沸とう
(1)ドラフトに準備された液体のブタン数mLと小型温度計が入った試験管を手に取り、
はじめに沸点を調べる。
(2)続いて口を指で押さえて沸とうを止めて、温度と圧力の変化を調べる。
(3)今度は指を放して様子を観察する。
(4)ブタンの入った試験管はもとに戻す。
備考:(b)は四ヶ浦さんのアイデア
参考:ブタンの蒸気圧
−0.5℃ 100kPa
5 123
10 148
15 176
20 208
<記録>
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発展実験1 二酸化窒素の拡散
(1)二酸化窒素を捕集した集気びんの上に空気が入った集気びんを乗せ、手早くガラス
円板を抜いて口を合わせ、様子を観察する。
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発展実験2 大気圧と高度
(1)300mL三角フラスコに水を数cmの深さに入れ、マジックで1cm刻みに目盛
りを書いたガラス管の付いたゴムせんをしっかりと締める。
(2)バットに入れて放置する。
(3)ガラス管内の水位が落ち着いたら、体温が伝わらないように体から離してバットを
持ち、管内の水位に注意しながら、静かに階段を上り下りする。
参考:1階と4階を上り下りする。エレベータがあれば利用する。
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発展実験3 メタノール蒸気圧の温度変化
(0)デジタル圧力計を0〜100.0Paに設定する。
(2)250ml試薬びんに少量のメタノールを入れ、沸とう直前の湯にしばらく浸けて
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びん内にメタノール蒸気を充満させ、取り出してシールテープを巻き付けたゴムせんをす
る。
(3)あらためて熱湯に浸けて、ゆっくり温度を下げて所定の温度で圧力を読み取る。
60℃ ( )kPa
50 ( )
40 ( )
30 ( )
参考:メタノールの蒸気圧(文献値 グラフの内挿値)
0℃ 4.1kPa
10 7.4
20 13.0
30 21.9
40 35.6
50 55.8
60 84.8
<準備>
・デジタル圧力計
±1kgf/cm2のセンサーを使う。
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発展実験4 冷やしてお湯が沸く
(1)200mL丸底フラスコに水を半分ほど入れ、首の部分をスタンドに固定してバ
ーナーで強く加熱して、よく沸とうした状態にする。
(2)200mLビーカーに水道水を準備する。
(3)バーナーを外すや、軍手ですぐにゴムせんをしっかりと締め、丸底フラスコを逆さ
にスタンドに固定し直し、全体をバットに入れる。
注意:フラスコを低い位置に固定し直す。
(4)フラスコの上から水をかけて冷やす。様子を観察しながら何度か水をかけてみる。
- 8 -
知識と理論
目 次
1.熱運動と分子間力
2.状態と温度
3.圧 力
4.状態と圧力
5.状態図
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この講座では分かりやすいために、分子性物質を中心にして話を進める。
1.熱運動と分子間力
[a]熱運動
[1]演示実験1では、上面を切り取り底に穴を開けたアルミ缶に水上置換で水素を詰め、
静かにマッチ棒にまたがせ、穴から出る水素に点火すると、しばらく時間をおいてから爆
発が起こって缶が飛び上がった。
缶の中の水素は空気によって押し上げられて穴から噴出する。しかしそれだけなら爆発
は起きない。軽い水素が上にあり重い空気が下にあっても、気体はかき混ぜなくても互い
にしだいに混合していく(これは時間はかかるが液体でも起こり、「拡散」と呼ばれる)。
上部の水素の中では次第に酸素(空気)の濃度が上がっていく。穴の付近でその濃度が限
界を越えると火が中に入り、下ほど酸素の濃度は高いので一気に燃焼して爆発が起こる。
つまり気体では分子は運動している(くわしくは次節)ので、分子は互いに入り混じっ
ていくわけである。(気体が軽い重いと言うのは、混合するまでの話である。)
[2]実験1では、うすめた牛乳を顕微鏡で観察すると、脂肪球という小さい粒子が揺れ
動くように乱雑な運動をしていた。
これはブラウン運動と呼ばれる。顕微鏡でも観察できない極く小さい水分子自身が乱雑
に運動しており、その水分子が脂肪球に不均等に衝突をくり返すために起こる。つまり液
体でも分子は運動している(くわしくは次節)。
ちなみに固体でも分子は運動している。このような分子の運動は「熱運動」と呼ばれる。
そして分子の世界にまさつ力はなく、運動がしだいに緩やかになることはない。
[b]分子間力
ところで分子どうしの間にはどんな力がはたらくだろうか。講座プラン「原子はどのよ
うに結合するか」では、共有結合に極性がある場合にはたらく「配向による引力」や「水
素結合」について学習した。
分子間にはたらく力は、一般的に次ページのグラフのようにその距離によって変化する。
より具体的には、ある分子中のひとつの原子と他の分子中のひとつの原子が接近すること
をイメージしよう。
分子どうしが近づくにつれて引力はしだいに大きくなり、ある距離で最大になる。さら
に近づくと引力は小さくなり、やがて分子間力は反発力に変わり、それは急激に大きくな
る。この反発力は分子をつくる原子の電子殻どうしが、その負電気によって反発すること
から生じる。反対に分子どうしはある程度離れると、その引力は無視できるほど小さくな
- 9 -

る。このことは分子が引力圏から離れると表現しよう。
ここで分子の大きさについて考えてみよう。(球形と考えられる分子では)分子間力が
ゼロになる距離を分子の大きさと捉えることができる。その場合、分子どうしは分子間力
がゼロになる距離を越えて近づくことは可能であり、分子や原子はビー玉ではなく、スー
パーボールのようなイメージになる。
備考:分子の大きさは、次節に出てくる、その温度における格子間距離と捉えることもで
きる。
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2.状態と温度
[a]温度とは
これまで温度は熱い冷たいの程度を示すものとして受け止めてきただろう。より本質的
には
「温度は分子の熱運動の激しさの程度を示す」
と言える。熱運動が激しいほど温度は高いのである。
備考:「激しさ」とは、1自由度あたりのエネルギーをやさしく表現している。
そして通常は次のように言うことが多い。
「温度が高くなると、分子の熱運動の激しさが大きくなる。」
そして温度が同じであれば、どの種の物質であれ、固体、液体、気体であれ、熱運動の激
しさは同じである。これについては講座プラン「物質とエネルギー」でさらに学習する。
ちなみに温度には最低があり、それは−273℃である。これに対して最高温度はなく、
いくらでも高い温度がある。くわしくは講座プラン「気体状態」で学習する。
[b]固体と融解
とりあえず大気の圧力の下において、水のようなものの温度が変化する場合について大
まかな記述をしてみよう。
固体には結晶と無定形があるが、この講座では結晶のみに注目する。固体(結晶)では
- 10 -
分子はほぼ接触して規則的に配列している。
参考:分子などの配列が不規則な固体は「無定形」と呼ばれる。炭素を例にすると、ダイ
ヤモンドや黒鉛などは結晶であるが、すすは無定形である。
その様子は単位格子(こうし)の積み重なりとして表されることは講座プラン「原子はど
うように結合するか」ですこし触れた。そして分子はそれぞれの格子点を中心に振動(熱
運動)している。こうして固体はかたまりとしての形が保持される。
温度が高くなるに連れて振動の激しさは大きくなり、格子点の間隔がわずかずつ大きく
なり、固体の体積は膨張する。
そしてついに熱運動(振動)が固体状態を維持できる限界まで激しくなると、その温度
で融解が起こる。融解している(固体と液体が共存している)間は、その温度は一定に保
たれる。
参考:液体が固体になる変化は凝固と呼ばれる。
[c]液体と沸とう
[1]液体では分子はほぼ接触して乱雑に集合している。そして分子はたがいに押し合い、
すき間をすり抜けるように移動している。こうして液体は流動性を持つ。
温度が高くなるに連れて「押し合い・すり抜け」(熱運動)の激しさは大きくなり、す
き間がわずかずつ増えて、液体の体積は膨張する。
[2]そしてついに熱運動が液体状態を維持できる限界まで激しくなると、その温度で沸
とうが起こる。沸とうしている間は、その温度は一定に保たれる。
参考:気体が液体になる変化は凝縮ないし液化と呼ばれる。
実験2では、ポリ袋に少量の液体のメタノールを入れ、口を絞って手で押さえ、90℃
以上の湯に浸けると、ポリ袋が大きく膨らんでパンパンになった。
ポリ袋の中は気体のメタノールである。気体ではその体積が、液体に比べて格段に大き
くなるが、分子自身が膨らんだわけではない。

なお沸点以下の液体でもそして固体でも、その表面から蒸発ないし昇華が起こって気体
が生じるが、これについては4節でくわしく学習する。
参考:固体から気体への変化と、気体から固体への変化はいずれも昇華と呼ばれる。
また沸とうには(そして厳密には融解にも)温度と共に圧力が関係するが、これについ
- 11 -
ても4節でくわしく学習する。
[d]気体
[1]気体では分子は広い空間にばらばらと存在している。そして分子は自由にかつ乱雑
に飛行し、衝突をくり返している。
参考:「飛行」は、正確には並進運動と言われる。
こうして気体は流動性を持つと共に、容器全体に拡がる。分子と分子の間は何も無い真空
である。
温度が高くなるに連れて飛行速度は大きくなり衝突は激しくなって、容器が変形できる
なら、その体積はしだいに大きくなる。くわしくは講座プラン「気体の状態」で学習する。
固体(結晶)、液体、気体のイメージ(動きは省く)を図に示しておく。

[2]もっと温度が高くなるとどうなるだろうか。分子は解離して原子になっていく。
さらに温度が高くなると、原子が破壊されて電気を持つ粒子になる。それはイオンであ
ったり電子であったりする。さらにイオンも破壊されてついには原子核がむき出しになっ
ていく。このように電気を持つ粒子になった状態は「プラズマ」と呼ばれる。太陽はプラ
ズマであり、身近なものでは発光している蛍光灯の内部も一部がプラズマである。
参考:イオン結晶はプラズマでない。
[e]状態の温度依存性
温度が低く熱運動の激しさが小さいときは、分子どうしは引力圏から離れられない。分
子どうしはほぼ接触して、物質は固体ないし液体である。そして温度が高く熱運動の激し
さが大きいときは、分子どうしは衝突の前後を除いて引力圏から離れている。分子は広い
空間にばらばらと存在して、物質は気体である。
こうして見ると、温度とは分子間距離を大きくする要因であり、温度が高いほど分子ど
うしは引き離される。
4節では状態の圧力依存性について学習する。
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3.圧 力
[a]圧力とは何か
- 12 -
[1]圧力とはどんなものであろうか。中学校では、単位面積あたりにどれだけの力がは
たらいているかを示すと学習した。たとえば1m2(平方メートル)あたりに1N(ニュート
ン) の力がはたらいていれば、その圧力は1Pa(パスカル)である。また空気には重さが
あり、地面にはその重力(に相当する力)がかかってる。その圧力は平地ではおよそ
100kPa(キロパスカル)=1000hPa(ヘクトパスカル)である。
参考:気象ではヘクトパスカルが使われる。
1hPa = 100Pa
[2]実験3では、水を入れた場合も空気を入れた場合も、2つの注射器をつないで台に
固定し、水が動かないようにピストンを押し合うと、注射器の大きさが違うときは、小さ
い注射器(ピストンの断面積が小さい)の方は小さい力になる。
これは水や空気が静止しているとき、どちらのピストンも指が同じ圧力で押しているこ
とを示す。そしてピストンに対して力の釣り合いで考えると、ピストンに接する中の水や
空気も同じ圧力で押している。さらにピストンとそれに接する中の水や空気に対して作用
反作用の法則で考えると、ピストンに接する水や空気も同じ圧力で押されている。つまり
それぞれのピストンに接する水や空気は同じ圧力を及ぼしかつ受けている。
そして空気の場合に、その体積は圧力に応じて変化することが分かる。つまり圧力が大
きいほど体積は小さくなる(講座プラン「気体状態」でくわしく学習する)。
また実験3では、穴をふさいだ小さい注射器2つを入れた大きい注射器の穴をふさいで
ピストンを押すと、3つの注射器中の空気の体積が共に同じ割合で小さくなった。
これは大きい注射器中の空気が小さい注射器のピストンに、自らが受けているのと同じ
圧力を及ぼしている。つまり大きい注射器中の空気の圧力は、ピストンに接する部分だけ
でなく、内部でも同じであることを示す。そして空気の内部のどの位置でも器壁のどの部
分も、さらに同じ位置において上から下へも下から上へも右から左へも前から後へもどの
向きも、圧力が同じである。
以上から
「静止している気体や液体では、圧力はどの部分も同じである」
と言え、これはパスカルの原理と呼ばれる。なおこの原理は、[b]で学習する高低差が
無視できるという条件を必要とする。
[3]実験3の意味することに従うと
「圧力は物質がまわりを押し広げる程度を示す」
と言える。実験2で「メタノール風船」がパンパンに膨らんだことを思い出そう。そして
「圧力は物質が押し込められる程度を示す」
とも言える。圧力をこのように捉えることはそれほど難しくはないだろう。
固体についても、圧力は存在する。それには大きい注射器の中の水に、たとえば木のブ
ロックを入れて考えてみればよい。ただし固体に関しては、複雑な面もある。木のブロッ
- 13 -
クを上下から押し込める場合、上下方向の圧力と、前後・左右方向などの圧力は同じにな
らない。化学では主に、水中の木のブロックのように、圧力が均質である場合を扱う。
[4]圧力は物質が押し込められる程度を示すと言うとき、液体や固体ではどうだろうか。
日常的な圧力変化では体積変化は見られない。そして液体や固体は非圧縮性であるとさえ
表現される。このことは1節[b]のグラフにおいて、分子間距離が小さくなるとたがい
の反発力が急激に大きくなることの現れなのである。分子間距離がまったく変化していな
いわけではない。
地球内部のような高い圧力の下では、たとえば水は大気圧(100kPa)の
1000倍の圧力になると、体積が4.5%減少する。
このように液体や固体では、多かれ少なかれ、圧力が高くなると分子間距離は小さくなり、
それにより反発力が生じる。
これに対して気体ではどうだろうか。圧力が高くなると体積は目に見えて小さくなる。
つまり分子どうしの平均の距離が小さくなる。しかし分子どうしの距離は、時々刻々と大
きく変化しており、自由に飛行しているときは反発力は生じていない。
そこで別のとらえ方をしてみよう。気体分子は壁をつくる分子と衝突したり、あるいは
気体分子どうしが衝突したりしている。その衝突の瞬間を考えてみる。このとき分子間距
離は小さくなって反発力が生じる。そしてそれによって分子どうしは再び離れていく。こ
こに注目すると、液体や固体との整合性が良くなる。
備考:圧力は、単位体積あたりの反発力による位置エネルギーの合計に比例する。そして
気体では、同じく自由に飛行している運動エネルギーの合計にも比例する。
P = nRT/V Σek = (3/2)nRT
∴ P = (2/3)Σek/V
[b]重力による圧力
[1]人工衛星の中のような無重力空間は別として、地球上では重力によって圧力が生じ
る。
地面には大気が乗っており、その重力(に相当する力)がかかって平地ではおよそ
100kPaの圧力を生じる。
参考:大気圧は変動している(天気図を見よ)。平地ではその平均値はおよそ100
kPaである。海抜0mにおける正確な平均値は101.3kPaである。
1Pa = 1N/m2
であり
1kPa = 1000Pa
であるので、これは1m2あたり100000Nの力がかかっている。重力加速度は9.8
- 14 -
m/s2であるから大気の質量は
m = F/a = 100000/9.8 = 10200 ≒ 10000[kg]
となる。
参考:運動の法則は次のようである。
F = ma
(F:力[N] m:質量[kg] a:加速度[m/s2])
これはかなり高い圧力である。
1m2 = 10000cm2
であるので、1cm2あたり約1kgの物体の重力(に相当する力)がかかっている。
[2]実験4(a)では、「ゴムピタ」は端からは簡単にめくることができるが、中央の
取っ手を持ち上げて机から離すことはできなかった。
めくる場合は、空気が下側にも入り込んで下から上にも圧力をおよぼし、上からの圧力
と釣り合って打ち消す。しかし中央で持ち上げる場合は、上から下への圧力のみで、持ち
上げる手の力ではとても対抗できないのである。
実験4(b)では、100℃の水蒸気が内部に充満した空き缶を、素早くその上面を水
に浸けると、水が入る間もなくつぶれた。
始めは、パスカルの原理から内部の水蒸気と外部の大気の圧力は同じである。それが水
に浸けると、水蒸気が冷やされて凝縮し気体の水分子が減少することなどのため内部の圧
力が小さくなる。これに対して外部は100kPaのままであるためである。
どちらの実験も、大気の圧力がかなり高いことを示す。にもかかわらず、私たちは日頃
それを感じていない。その理由は、パスカルの原理により、体のどの部分も同じ圧力にな
っているからである。しかし飛行機が離着陸するときなどには、一時的に体の内外の圧力
差を耳で感じる。
そして実験3を想い出してみよう。始めの実験では、2つの注射器のピストンには、指
による圧力の他に、大気圧もかかっていた。それでも結論はかわらない。また後の実験で
は、指で押していないときにも、大気圧は常にかかっていた。
[3]高度が上がると、上に乗っている大気が少なくなり、大気圧は低くなるはずである。
それはどの程度であろうか。平地で10m上がる場合を考える。
底面積が1m2で高さが10mの空気の重量(質量ではなく力)だけ圧力は小さくなる。
空気の密度は15℃で(大気圧は平均値とする)
1.23g/L = 1.23kg/m3
であるので、その質量は
1.23×10 = 12.3[kg]
その重量は
12.3×9.8 = 121 ≒ 120[N]
圧力の減少分は
- 15 -
120Pa = 0.12kPa
となる。
参考:任意の温度と圧力の下における空気の密度は講座プラン「気体状態」でその計算法
を学習する。
これは、平地での大気圧100kPaに比べてわずかであり、通常の実験では高低差は
無視できる。
[4]これに対して水圧はどうであろうか。実験5では、深度が1cm大きくなるごとに
圧力が0.1kPaずつ高くなった。また三角フラスコの底の位置で、口の真下と横の端と
で圧力は同じであった。
前者の結果を、計算で裏付けてみよう。深度が1cmの場合、底面積が1m2で高さが
1cm=0.01mの水の質量は、密度が
1g/cm3 = 1000kg/m3
であるので
1000×0.01 = 10[kg]
その重量は
10×9.8= 98 ≒ 100[kg]
圧力の増加分は
100Pa = 0.1kPa
となり、実験と一致する。
後者の結果は、水圧が深度のみで決まり、実際にその真上に水が乗っている必要はない
ことを示す。これは意外であるかもしれないが、パスカルの原理からは自明な帰結である。
一般に
「重力による圧力は、高度や深度が同じなら同じ数値になる」
のである。これにはもちろん大気や水が静止していると見なせる場合、という条件が付い
ている。
さて深度1cmで水圧が0.1kPa増加するなら、深度10m=1000cmで100
kPa増加する。海水の密度は水とそれほど違わないので、これは海水にも使える。海面
に約100kPaの大気圧がかかっていることを考慮すると、深度10mの海中での圧力
は約200kPa、深度20mでの圧力はおよそ300kPaとなる。
このように液体の圧力は、その密度が気体の1000倍くらいあるので、実験において
も高低差が無視できない場合が出てくる。
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4.状態と圧力
[a]液体の蒸気圧
[1]常温たとえば30℃において、真空の容器に少量の水を注入するとどうなるだろう
- 16 -
か。その温度では水は液体のはずだから何の変化も起こらないだろうか。実際には水の一
部が蒸発して容器内は水蒸気で飽和される。そしてその水蒸気が4.2kPaの圧力を示す。
このように液体と共存する蒸気(気体)が示す圧力は、その温度における液体の飽和蒸気
圧、あるいは単に液体の蒸気圧と呼ばれる。
これはたとえば砂糖が水に溶解するのに似ている。30℃において水に十分な量の固体
の砂糖を投入してみよう。砂糖は溶解していき、やがて飽和状態になって一部が固体の砂
糖として残り、そのときの濃度は68%になる。
ここでひとつ注意する。上の記述は水蒸気に注目して「水蒸気の圧力」が・・・として
いるが、これは水の圧力でもある。だから容器内の「水(気体と液体の両方の水)の圧
力」が・・・などと記述してもよいのである。パスカルの原理を思い出そう。
[2]液体の蒸気圧は、その温度において液体と共存する蒸気が、どの程度にまわりを押
し広げるかを示す(同時に、液体と共存する蒸気がまわりからどの程度に押し込められる
かも示す)。
実験6では、注射器に30℃の水を採るだけでは蒸発は起こらなかった。それは100
kPaの大気圧によって、注射器内の水は押し込められるからである。
そこで指で針穴をふさぎピストンを引っ張ると空間(水蒸気)ができた。注射器内の水
の圧力を水の蒸気圧まで減らすと、常温でも水が蒸発して水蒸気と水が共存できる。そし
てピストンを放すと水蒸気は凝縮して元の水にもどる。
さらにピストンを強く引っ張って、水の圧力がその蒸気圧より小さくなると、どんどん
蒸発が起こってピストンが抜けてしまう。
備考:この講座プランでは化学平衡の概念は使わない。
[3]そして実験6では、55℃の水では、空間(水蒸気)をつくるためにピストンを引
く力はすこし(はっきりしないかもしれない)小さくなった。80℃の水では、かなり小
さくなった。これは温度が高くなるにつれて、水の蒸気圧が高くなることを示す。正確な
数値は次のようである。
温度 蒸気圧
30[℃] 4.2[kPa]
55 15.5
80 46.7
またメタノールでは、やはり30℃に比べて55℃では、空間(メタノール蒸気)をつ
くるためにピストンを引く力はかなり小さくなった。また同じ温度の水に比べて、引く力
はかなり小さかった。これは温度が高くなるにつれて、メタノールの蒸気圧が高くなる。
またメタノールの蒸気圧は、同じ温度の水の蒸気圧より高いことを示す。正確な数値は次
のようである。
- 17 -
温度 蒸気圧
30[℃] 21.5[kPa]
55 68.4
液体の蒸気圧と温度の関係を示すグラフは「液体の蒸気圧曲線」と呼ばれる。次にいく
つかの物質の液体の蒸気圧曲線を紹介する。

[b]熱運動の速度分布
ここでひとつの疑問が生まれる。真空の容器に入れた常温の水が、なぜ蒸発して気体に
なるか。ひとつの捉え方は、温度が同じでも熱運動の激しさにはばらつきがあるからであ
る。気体を例にして2つの温度において、それぞれの飛行速度を持つ分子がどれくらいの
割合で存在するかを示すグラフを紹介する。このグラフは理論的に導かれ、実験的にも確
認されている。

温度が低くても速度が大きい分子もいくらか存在し、逆に温度が高くても速度が小さい
- 18 -
分子もいくらか存在する。そして平均の飛行速度は、温度が高いほど大きい。熱運動とい
う用語を使えば、熱運動の平均の激しさは、温度が高いほど大きい。熱運動の性質を考え
ると、このように激しさにばらつきがある方が自然である。そしてより正確には
「温度は分子の熱運動の平均の激しさを示す」
のである。あるいは
「温度が高くなると、分子の熱運動の平均の激しさが大きくなる。」
だから、液体の水の分子の一部は常温でも蒸発して気体の水蒸気になるのである。
[c]状態の圧力依存性
もうひとつの捉え方は、圧力の影響である。圧力とは分子間距離を小さくする要因であ
り、圧力が高いほど分子どうしは押し込められる。だから圧力が高いときは物質は固体か
液体である。そして圧力が低いときは物質は気体である。こうして、温度と共に圧力も、
固体、液体、気体という物質の状態に影響することが分かる。
真空の容器内では、圧力はゼロである。それなら分子はばらばらになり、水は気体の水
蒸気になる。しかしすべて気体になることはできない。それは水蒸気が増えるにつれてそ
の圧力が高くなる。水蒸気は自身の圧力によって押し込められる。こうしてその温度にお
ける蒸気圧が決まる。
さらに言えば、温度が低くても圧力が小さければ、物質は気体として存在できる。より
具体的には、その温度における蒸気圧より低い圧力であれば、気体として存在できる。こ
うして常温でも水は水蒸気として存在することは可能なのであり、蒸発は起こるわけであ
る。
[d]蒸発と沸とう
[1]実験7では、30℃において、少量のメタノールを100kPaの空気が入った試
薬びんに注入しても、水流ポンプでほぼ50kPaに減圧した空気が入った試薬びんに注
入しても、圧力上昇はほぼ同じになった。計測例は次のようであった。
100kPaの空気の場合 121.6−100.0 = 21.6[kPa]
50kPa 〃 69.4−48.8 = 20.6[kPa]
どちらの場合も、その温度におけるメタノールの蒸気圧の分だけ圧力が上昇したのであ
る。これはメタノールの蒸発にとって空気が存在しても真空であっても同じであることを
窺わせる。そして全体の圧力は、空気の圧力とメタノール蒸気の圧力の合計になる。
これは混合気体全般に成り立ち、ドルトンの「分圧の法則」と呼ばれる。つまり
「混合気体のある成分の振る舞いは他の成分が存在しないかのようである。」
そしてそれぞれの成分の圧力は分圧と呼ばれ、
「全体の圧力は分圧を加算したものになる。」
- 19 -
これは気体では広い空間に分子がばらばらと存在するだけであり、他の分子がほとんどじ
ゃまにならないためである。
[2]さて水の状態は、閉鎖された容器内ではなく、大気と接する開放されたビーカーな
どにおいてはどうなるだろうか。温度は30℃であるとする。大気圧100kPaが水の
表面に及んでいる。しかし実験7から分かるように、液体の表面の水分子にとってはそれ
は真空と同じである。
そこで水の表面から蒸発が起こって、それは水蒸気の分圧が4.2kPa([a]を参
照)になるまで続くはずである。しかし大気は広いため、発生する水蒸気はどんどん散ら
ばっていくので水蒸気の分圧が水の蒸気圧に達することはない(湿度が100%にならな
い限り)。こうしてすべての液体の水が蒸発して水蒸気になるわけである。これが水の沸
点である100℃にならなくても、洗濯物が乾く理由である。
[3]ところが液体の内部の水分子にとって環境は異なる。水は100kPaで押し込め
られている。だから内部の水分子はその場でばらばらの水蒸気になることはできない。
しかし温度が100℃まで高くなると、水の蒸気圧が100kPa(水の蒸気圧曲線を
参照)に達する。すると図のように内部の水分子が大気圧に対抗して、その場で広い空間
をつくって水蒸気になることができる。これが沸とうという現象であり、表面からの蒸発
と合わせて内部でも蒸発が起こって水蒸気の泡ができる。このように沸とうは蒸発の特別
な姿である。

[4]実験8では、小さい温度計を入れた試験管に約60℃の水を注ぎ、水流ポンプにつ
ないで減圧すると、100℃より低い温度でも沸とうが起こり、しだいに水の温度が下が
っていき、沸とうは常温付近まで続いた。
水流ポンプで試験管内の空気を抜くと、内部の圧力は小さくなっていく。仮に水の温度
が55℃になっているとしよう。するとその温度における水の蒸気圧である15.5kPa
- 20 -
まで圧力が下がった時点で沸とうが始まる。そしてそれには蒸発熱が必要であり、水の温
度が下がって蒸気圧も低くなる。しかし水流ポンプがさらに圧力を下げていくので、続い
て沸とうが起こる。このように沸とうは圧力が液体の蒸気圧に等しくなると起こる。
沸点は圧力に依存しており、圧力が低くなると沸点は低くなる。逆に圧力なべでは、内
部の圧力を高くして水の沸点を100℃以上にする。これによって食材は高温で調理でき
るようになる。
[問1][a]の液体の蒸気圧曲線を利用して
@メタノール、エタノールの100kPaの下での沸点を求めよ。
(65℃ 78℃)
A富士山(63.8kPa)における水の沸点はいくらか。
(88℃)
こうして液体の蒸気圧曲線は、縦軸から横軸の方へ見れば、それぞれの圧力における沸
点のグラフでもある。そして圧力が高いほど、沸点は高くなる。
目次へ
5.状態図
[a]固体の蒸気圧
液体と同じようにある温度において、真空の容器に少量の固体の水つまり氷を置くと、
その一部が昇華して容器内は水蒸気で飽和される。たとえば温度が−10℃なら氷の蒸気
圧は0.26kPaであり、−20℃なら0.10kPaである。
実験6と同じように、容器を注射器に置き換えて考えよう。水蒸気の圧力(注射器内の
圧力)がその温度における氷の蒸気圧より小さいときは、さらに氷は昇華して水蒸気にな
り、その圧力が大きくなっていく。容器内の圧力がその温度における氷の蒸気圧と等しい
ときは、変化は起こらない、つまり氷と水蒸気は共存する。逆に容器内の圧力がその温度
における氷の蒸気圧より大きいとき(氷と水蒸気は共存している状態で注射器をすこし押
したとき)は、水蒸気は昇華して氷になり、その圧力は小さくなっていく。
固体の蒸気圧と温度の関係を示すグラフは「固体の蒸気圧曲線」と呼ばれる。
[b]凝固と圧力
[1]ある圧力において、液体が凝固して固体になる温度は凝固点と呼ばれる。これは液
体と固体が共存する温度であり、融点でもある。一般に、圧力が高いと物質は押し込めら
れるので、温度が高くても凝固する。つまり圧力が高くなると、凝固点は高くなる。
二酸化炭素を例にすると、圧力が1000kPaでは−56.0℃、2000kPaでは
−55.5℃である。このように凝固点に対する圧力の影響は、沸点ほど顕著ではない。
備考:それぞれの圧力における凝固点は、クラウジウス−クラペイロンの式から近似計算
- 21 -
した数値である。
縦軸を圧力に横軸を凝固点にして描いたグラフは「凝固曲線」と呼ばれる(融解曲線と
も言える)。
二酸化炭素の温度がその圧力における凝固点より低いときは、二酸化炭素は固体として
存在する。そして温度がその圧力における凝固点に等しいときは、固体と液体が共存する。
逆に温度がその圧力おける凝固点より高いときは、液体として存在する。
水は特殊で圧力が高くなると、始めは凝固点が低くなって200MPaで−20℃にな
り、その後は高くなって2500MPaで100℃を越える。水の特殊性については、講
座プラン「原子はどのように結合するか」を手がかりに考えてみよう。
参考:1MPa(メガパスカル)= 1000kPa
[2]圧力がたいへん高くなり分子がつぶれて原子が重なるほどになると、電子は所属原
子がはっきりしなくなって自由電子のように振る舞い、金属の性質が生まれてくる。木星
の内部は金属水素になっていると推測される。もっと圧力が高くなると、原子がつぶれ陽
子と電子が融合してすべてが中性子からなる中性子星になる。そしてさらに圧力が高くな
ってできるのが、ブラックホールである。
ダイアモンドアンビルという道具がある。これは2つのダイアモンドの間にサンプルを
挟んで締め付けるもので、40万MPaの圧力を生み出す。これによって高圧下における
物質の性質を調べることができる。こうして地球内部における岩石や鉱物の変化も、地表
で再現できるようになった。
[c]状態図
[1]二酸化炭素の方を例にして、その液体の蒸気圧曲線、固体の蒸気圧曲線、凝固曲線
を一緒にした図を見てみよう。

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このような図は(純粋な)物質の状態図と呼ばれる。なおこの図の縦軸の圧力は対数目盛
になっており、液体や固体の蒸気圧曲線は4節[a]のグラフと逆に曲がって表示されて
いる。
[2]ここで液体の蒸気圧曲線の部分を使って確認する。やはりピストン付きのシリンダ
ーに詰められた二酸化炭素を考える。0℃における液体の蒸気圧は3450kPaである。
したがってもし0℃、100kPa(A点)の下で二酸化炭素が液体であれば、蒸発して
気体になっていく。だから0℃、100kPaの下では二酸化炭素は、状態図に記されて
いるように気体として安定に存在する。そしてもし0℃、5000kPa(B点)の下で
気体であれば、凝縮して液体になっていく。だから0℃、5000kPaの下では液体と
して安定に存在する。そしてすでに学習したように、0℃、3450kPa(C点)であ
れば、液体と気体が共存する。
他の位置でも同じように考えてみると、純粋な物質の状態図では、下(右下)が気体、
右上が液体、左上が固体の領域になる。これは、温度が高くなるほど分子間どうしは引き
離され、圧力が高くなるほど分子どうしを押し込められるから当然である。
そして曲線上の温度、圧力の下では2つの状態が共存する。
それでは3つの曲線が交わる点の温度、圧力であればどうなるか。ここでは気体、液体、
固体が共存する。この点は三重点と呼ばれ、二酸化炭素では−56.2℃、510kPa
(D点)である。
[3]ピストンで押してシリンダー内の圧力が常に3450kPaになるようにする。そ
して温度を100℃から下げていく。すると0℃(C点)になると凝縮(液化)して液体
になり、さらに−54.8℃(E点)になると凝固して固体になる。この変化は状態図では、
液体の蒸気圧曲線と凝固曲線を水平に横切る線として表される。これは三重点より大きい
圧力の場合である。
これに対して二酸化炭素の圧力が100kPaになるように押すと、つまり大気圧で押
すとどうだろうか。この場合は−79℃(F点)になると昇華して、液体を経ずに直接に
固体になる。つまり三重点より小さい圧力の下では、液体は生じない。この変化は状態図
では、固体の蒸気圧曲線を水平に横切る線として表される。これらの変化は逆向きにたど
ることもできる。
ここでG点について触れておこう。これは臨界点と呼ばれ、液体と気体の区別が無くな
る(密度が等しくなる)温度、圧力であり、二酸化炭素では31℃、7280kPaであ
る。
[4]別の変化を見てみよう。実験9(a)では、注射器に詰めた固体の二酸化炭素(ド
ライアイス)が、針穴をゴムせんに押し当ててピストンを押していると、やがて融解して
液体になった。
これは固体と気体が共存する状態で温度が高くなるにつれて、固体の蒸気圧曲線に沿っ
- 23 -
て(FからD点へ)圧力が高くなり、やがて三重点に達して融解が起こったのである。
ドライアイスを大気中に放置すると、昇華する気体の二酸化炭素の分圧は100kPa
を越えないので温度は−79℃(F点)に保たれ、ケーキやアイスクリームを保冷するこ
とができる。
水の三重点は0.01℃、0.61kPaであるので、大気圧は三重点の圧力より大きい。
したがって大気中において固体の水つまり氷の温度を上げていくと、固体、液体、気体と
状態変化することが可能である。
ただしこれは固体や液体の表面からの昇華や蒸発が無視できる程度に速く加熱する必要
がある。たとえば冷凍庫の氷が昇華して直接に気体になり、長い時間が経つと氷が無くな
るような事例もある。
[問2]水の状態図の概略を書いてみよ。ただし縦軸は対数目盛りでなく、通常の圧力目
盛りとする。

[5]実験9(b)では、小さい温度計を入れた試験管中の液体のブタンは沸とうしてお
り、その温度は約0℃であった。試験管の口を指で押さえると沸とうが止まり、ブタンの
温度が上がり圧力が大きくなった。そして指を放すと激しい沸とうが起こり、温度が約0
℃まで下がった。
ブタンの−0.5℃における液体の蒸気圧は100kPaである。言い換えると100
kPaにおける沸点は−0.5℃である。また10℃における蒸気圧は148kPaである。
指で押さえると、−0.5℃、100kPaから液体の蒸気圧曲線に沿って温度と圧力が上
がっていく。10℃になると蒸気圧(試験管内の圧力)は148kPaである。
ここで指を離すと、状態図においていきなり10℃、100kPaに跳ぶことになる。
これはブタンが気体として安定に存在する位置であるので、激しい沸とうが起こる。大気
圧が蒸気圧より小さい沸とうである。そして安定した沸とうが起こる−0.5℃まで温度が
下がる。これは状態図では水平な線で表される。
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