06.11
                                   林 正幸

    酸と塩基

     目 次
  1.酸とは、塩基とは
  2.酸性の強弱
  3.pHと化学反応
  4.酸性酸化物と塩基性酸化物
  5.水素イオンのやり取り
  6.塩の加水分解と緩衝溶液

  実験目次へ

目次へ
 この「講座プラン」は電解質、イオン反応式、物質量、モル濃度などの基礎を前提にす
る。
 またこれは講座プラン「電子やり取り反応の世界」とセットであり、5,6節はその学
習が済んでいると理解しやすい。

1.酸とは、塩基とは

[a]酸と酸性(アレニウスの定義)
[1]実験1では、水に滴下したBTB(ブロモチモールブルー)が、塩酸(気体の塩化
水素が水に溶けたもの 水を64%含む)を加えても、硫酸(水を2%含む)を加えても、
酢酸を加えても、緑色から黄色になった。
 ちなみにBTBのような試薬は指示薬と呼ばれ、他にフェノールフタレイン、メチルオ
レンジなどがある。
 3種の物質を水に溶かしてマグネシウムリボンを加えると、いずれも気体が発生し、硫
酸の場合に点火して調べると、それは水素であると推定された。ただし酢酸では気体の発
生はゆっくりであった。
 演示実験1では、3種の物質を水で十分に薄めて味見すると、いずれも酸味があった。
[2]他方で水に滴下したBTBが、水酸化ナトリウムを加えても、水酸化カルシウムを
加えても、アンモニア水(気体のアンモニアが水に溶けたもの 水を72%含む)を加え
ても、緑色から青色になった。ちなみに水酸化カルシウムは水に溶けにくかった。
[3]そして水に滴下したBTBの色が、塩酸を加え、水酸化ナトリウムを加え、硫酸を
加え、水酸化カルシウムを加え、酢酸を加え、アンモニア水を加えると、黄色と青色の間
を往復した。
 ちなみに水酸化カルシウムを加えたときには白色沈でんが生じた(これは硫酸カルシウ
ムが生成したのであるが、深入りはしない)。
[4]塩酸(塩化水素)、硫酸、酢酸、そして硝酸、リン酸などはまとめて酸と呼ばれる。
実験1と演示実験1から分かるように、これらは次のような共通の性質を示す。
@酸味がある
ABTBを黄色にする(リトマス紙を赤色にする)

                  - 1 -

Bマグネシウムや亜鉛などの金属と反応して水素を発生する
C塩基性という性質を打ち消す
これらの性質は酸性と呼ばれる。注意したいのは、酸性とは酸が水に溶けたときに示す性
質である。演示実験2では、水をほとんど含まない濃硫酸に亜鉛片を投入しても、水素は
発生しなかった。
 なお塩基性という性質はすぐ後で説明する。
備考:リトマスはかつてよく使われた指示薬である。
[5]酸性を示すのは、酸が次のように水中で電離して生じる水素イオンである。
  塩酸        HCl ―→ H+ + Cl-   (1)
               水素イオン 塩化物イオン
  硫酸  第1段階  H2SO4 ―→ H+ + HSO4-   (2)
                     硫酸水素イオン
      第2段階  HSO4- ―→ H+ + SO42-   (3)
                      硫酸イオン
  酢酸        CH3COOH ―→ H+ + CH3COO-
                         酢酸イオン
  硝酸        HNO3 ―→ H+ + NO3-
                     硝酸イオン
  リン酸 第1段階  H3PO4 ―→ H+ + H2PO4-
                     リン酸二水素イオン
      第2段階  H2PO4- ―→ H+ + HPO42-
                     リン酸水素イオン
      第3段階  HPO42- ―→ H+ + PO43-
                      リン酸イオン
 したがって
    酸:水に溶けて水素イオンを生成する物質
である。これは[b]項のの塩基と共に、アレニウムによる定義である。なお5,6節で
は、別の定義について学習する。
 硫酸やリン酸は、いくつかの段階を経て複数の水素イオンを生じる。硫酸は2価の酸、
リン酸は3価の酸と呼ばれ、塩酸などは1価の酸と呼ばれる。そしてたとえば硫酸が2つ
の段階の電離をするときの全体の反応式は次のようである。
    H2SO4 ―→ 2H+ + SO42-   (4)
これは、反応式(2)と(3)を代数学的に辺々を足し算すれば求められる。
 なお酢酸は示性式というタイプの化学式を使っている。当面ただひとつだけなので覚え
てしまおう。また酢酸分子は、水素イオンにならない水素を含む。

                  - 2 -

[6]ここで2つ注意をする。水素イオン H+ は考えてみると1個の陽子を表すことにな
り、単独では安定に存在できない。実際はそれが水分子と結び付いたオキソニウムイオン
である。
    H+ + H2O ―→ H3+
           オキソニウムイオン
しがたってたとえば塩酸の電離は次のように表せる。
    HCl + H2O ―→ H3+ + Cl-   (5)
しかし通常は反応式(1)のように水素イオンを使って表すことになっている。
 2つめは、ほとんどの酸の水素原子は共有結合している。しかし水分子の助けを借りて
まるでイオン性物質のように電離するのである。だから電解質には、水に溶けるイオン性
物質と共に、共有結合性の酸が含まれる。

[b]塩基と塩基性(アレニウスの定義)
[1]水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水(アンモニア)などはまとめ
て塩基と呼ばれる。これらは次のような共通の性質を示す。
@ある種の苦味がある
ABTBを青色にする(リトマス紙を青色にする)
B酸性という性質を打ち消す
これらの性質は塩基性と呼ばれる。塩基性とは塩基が水に溶けたときに示す性質である。
[2]塩基性を示すのは、塩基が次のように水中で電離して生じる水酸化物イオンである。
  水酸化ナトリウム   NaOH ―→ Na+ + OH-   (6)
               ナトリウムイオン 水酸化物イオン
  水酸化カルシウム
      第1段階   Ca(OH)2 ―→ [Ca(OH)]+ + OH-

      第2段階   [Ca(OH)]+ ―→ Ca2+ + OH-
                    カルシウムイオン
  アンモニア水     NH3 + H2O ―→ NH4+ + OH-   (7)
                    アンモニウムイオン
 したがって
    塩基:水の溶けて水酸化物イオンを生成する物質
である。
 水酸化カルシウムは2価の塩基と呼ばれる。水酸化ナトリウムなどは1価の塩基と呼ば
れる。
 水酸化カルシウムが2つの段階の電離をするときの全体の反応式は次のようである。

                  - 3 -

    Ca(OH)2 ―→ Ca2+ + 2OH-
 なおアンモニア分子には水酸基 OH がなく、水と反応して水酸化物イオンを生成する。
当面はひとつだけなので覚えてしまおう。
[3]水酸基を持つ塩基の多くは、水酸基が金属原子とイオン結合している。したがって
塩基はイオン性物質の電解質である。
 この講座プランでは酸と塩基の共通の性質を中心に学習するが、言うまでもなく酸や塩
基はそれぞれ固有の性質も持っている。

[c]中和反応と塩(えん)
[1]実験1では、どの塩基も酸性を打ち消し、どの酸も塩基性を打ち消すことを確認し
た。それは次の反応に依っている。
    H+ + OH- ―→ H2O   (8)
水素イオンは酸から生じ、水酸化物イオンは塩基から生じるので、全体としては酸と塩基
が反応することになる。これは中和反応と呼ばれる。
[2]それでは中和反応を普通の反応式で書いてみよう。硫酸と水酸化ナトリウムの反応
を例にする。始めに硫酸からの水素イオンがすべて反応する場合を考える。それぞれは次
のように電離する。
    H2SO4 ―→ 2H+ + SO42-   (4)
    2NaOH ―→ 2Na+ + 2OH-   (6)
ここで下の反応式の係数が2倍になっているのは、水酸化物イオンの個数を硫酸からの水
素イオンの個数に合わせるためである。そして次の反応が起こる。
    2H+ + 2OH- ―→ 2H2O   (8)
以上3つの反応式を辺々を足し算すると次のようになる。
    H2SO4 + 2NaOH ―→ 2H2O + Na2SO4   (9)
                       硫酸ナトリウム
なお普通の反応式では、2Na+ と SO42- は Na2SO4 になる。この場合は硫酸に対
して2倍の物質量の水酸化ナトリウムが必要である。
[3]それでは硫酸からの水素イオンの一方のみが反応する場合、つまり硫酸に対して同
じ物質量の水酸化ナトリウムが反応する場合はどうなるだろうか。2節でも説明するが、
電離は段階を重ねるほど起こりにくくなることを頭において
    H2SO4 ―→ H+ + HSO4-   (2)
    NaOH ―→ Na+ + OH-   (6)
    H+ + OH- ―→ H2O   (8)
を足し算すると次のようになる。

                  - 4 -

    H2SO4 + NaOH ―→ H2O + NaHSO4
                    硫酸水素ナトリウム
 ちなみに中和反応のイオン反応式はすべて(8)である。ただし酸と塩基の反応につい
て5,6節では新しい展開がある。
[例題1]次の中和反応について、普通の反応式を完成せよ。
(1)HCl + NaOH ―→
(2)2CH3COOH + Ca(OH)2 ―→
(3)HNO3 + NH3 ―→
(4)H3PO4 + NaOH ―→
(5)2H3PO4 + 3Ca(OH)2 ―→
    解 答
(1)HCl + NaOH ―→ H2O + NaCl   (10)
                   塩化ナトリウム
(2)2CH3COOH + Ca(OH)2 ―→ 2H2O + (CH3COO)2Ca
                           酢酸カルシウム
(3)HNO3 + NH3 ―→ NH4NO3
             硝酸アンモニウム
(4)H3PO4 + NaOH ―→ H2O + NaH2PO4
                  リン酸二水素ナトリウム
(5)2H3PO4 + 3Ca(OH)2 ―→ 6H2O + Ca3(PO4)2
                        リン酸カルシウム
 中和反応を普通の反応式で書くのは、慣れれば簡単である。なお例題の(3)では反応
式に水が出てこない。それはアンモニアが電離するときに水を消費し、生成する水を帳消
しにするからである。イオン反応式で書けば、当然に水が生成する。
[4]中和反応で水と共に生成する物質は塩(えん)と呼ばれる。塩の種類は多く、この
項でもすでに7種が登場した。水素イオンになる水素を残した NaHSO4
NaH2PO4 のような塩もある。また塩化水酸化マグネシウム Mg(OH)Cl のように、
水酸化物イオンになる水酸基を残した塩もある。
 なお塩の化学式から、中和反応を逆にたどって、元の酸と塩基を見い出せる。
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2.酸性の強弱

[a]酸の強弱
[1]酸性が水中の水素イオンによって生じるなら、酸性の強さは水素イオンのモル濃度
に比例すると考えられる。

                  - 5 -

 演示実験3では、モル濃度が0.5mol/Lの塩酸と酢酸に「電球テスター」を差し入
れたところ、塩酸では明々とついたが、酢酸ではぼんやりとついただけだった。
[2]水素イオンは他のイオンに比べて格段に移動しやく、水溶液の電導度は、主に水素
イオンのモル濃度に依存している。
 と言うことは、酸には電離しやすいものとそうでないものがある。塩酸はほぼ100%
電離して、水中に塩化水素分子 HCl はほとんど残っていない。これに対して酢酸は電
離するのは元の酢酸分子の1%程度であり、上の実験では水中の水素イオンのモル濃度は
0.005mol/Lほどである。
 電離しやすさを正確に扱うには、化学平衡の理論が必要である。しかしここでは深入り
せずに、電離度というものを紹介する。これは元の酸が水に溶けてどれくらい電離するか
という数値で、塩酸なら電離度が1、酢酸なら電離度が0.01というわけである。
[3]電離度が1ないしそれに近い酸は強酸と呼ばれる。これに対して電離度が0.01以
下の酸は弱酸と呼ばれる。塩酸は強酸、酢酸は弱酸である。
 ここで2価以上の酸の強弱を説明する。たとえば硫酸では、第1段階は強酸である。し
かし第2段階の電離は桁違いに起こりにくくなる。反応(2)と(3)を比べてみよう。
第2段階ではすでに負電気を持つ陰イオンから、正電気を持つ陽イオンが離れる必要があ
り、これは電気的引力を考えると起こりにくい。したがって硫酸の第2段階は強酸と弱酸
の中間になる。リン酸は第1段階が強酸と弱酸の中間であり、第2段階は弱酸、そして第
3段階はもっと起こりにくく当然に弱酸である。
 酸の強弱を第1段階でまとめると、次のようである。
    塩酸、硫酸、硝酸 > リン酸 > 酢酸
      強酸             弱酸
 塩基も同様にまとめると次のようである。
    水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム >> アンモニア水
          強塩基             弱塩基
 なお5節では、酸の強弱についてより進んだ考えを学習する。

[b]酸性の強弱
[1]酸性が水中の水素イオンにより、塩基性が水中の水酸化物イオンによるなら、どち
らも存在しないのが中性と言えそうである。確かに大体はその通りである。しかし私たち
はこれを踏み越えねばならないところに来ている。
 酸も塩基も溶けていない純粋な水は中性とされる。しかし純粋な水も次のようにわずか
に電離している。
    H2O ―→ H+ + OH-   (11)
これは反応(8)と逆向きの反応である。そして純粋な水では水素イオンと水酸化物イオ

                  - 6 -

ンのモル濃度はもちろん同じであり
    10-7 mol/L
というごく小さい数値である(厳密には25℃の場合)。
 これで定義が正確になる。中性とは、水素イオンと水酸化物イオンのモル濃度が等しく、
10-7 mol/Lの場合である。
[2]またもや化学平衡の理論によると、純粋な水でも酸や塩基などが溶けた水溶液でも、
水素イオンと水酸化物イオンのモル濃度の積は一定である。この積は水のイオン積と呼ば
れ、次の数値になる。
    [H+ ][OH- ] = 10-14   (12)
ここで [H+ ] は水素イオンのモル濃度、[OH- ] は水酸化物イオンのモル濃度を表す。
 純水に酸を溶かすと [H+ ] は大きくなる。酸性とは、正確には [H+ ] が10-7
mol/Lより大きい場合である。そのとき [OH- ] は10-7 mol/Lより小さい。
 同様に考えると、塩基性とは [OH- ] が10-7 mol/Lより大きく、したがって
[H+ ] が10-7 mol/Lより小さい場合である。
参考:指数の意味と計算法
   ・10-7 = 1/107 = 1/10000000 > 0
   ・10-1 > 10-2
   ・100 = 1
   ・10-2 ×10-12 = 10-14
[3]それなら塩基性の強弱も [H+ ] で表せる。たとえば1mol/Lの水酸化ナトリウ
ムを考えてみよう。強塩基で電離度は1だから、その [OH- ] も1mol/Lである。こ
こで水の電離による水酸化物イオンは無視できる量であることに注意しよう。すると関係
式(12)から
    [H+ ] = 10-14 mol/L
である。つまり [OH- ] が1mol/Lの塩基性の強さは、[H+ ] が10-14 mol/L
と表せる。
 酸性、中性、塩基性(液性という)をまとめると次のようになる。
      酸性   [H+ ] > 10-7 mol/L
      中性   [H+ ] = 10-7
      塩基性  [H+ ] < 10-7

[c]水素イオン指数(pH)
[1]話はさらに進む。水素イオンのモル濃度の指数の符合を変えた数値に注目する。こ
れは水素イオン指数と呼ばれ、略してpH(ピーエイチ)と表す。数学的には
    pH = −log[H+ ]   (13)

                  - 7 -

である。
 1mol/Lの塩酸のpHはいくつか。強酸で電離度が1だから [H+ ] も1mol/L
である。これは指数を使って100 mol/Lと表せるので、そのpHは0である。それで
は0.1mol/Lの塩酸のpHはいくつか。この [H+ ] は0.1mol/Lである。これ
は10-1 mol/Lだから、pHは1である。中性はpHが7である。そして1mol/L
の水酸化ナトリウムは、上で計算したように [H+ ] が10-14 mol/Lだから、pHは
14である。
 pHは1ずれると、水素イオンのモル濃度が10倍違うことに注目しよう。
[2]このことは、水素イオンのモル濃度の「桁」に注目しようと言うのである。化学で
はモル濃度が2倍、3倍となってもあまり影響がなく、10倍、100倍、つまり桁が変
化するようになってやっと大きな影響があることも多いからである(だから中性の水素イ
オンのモル濃度も無視できない!)。このことが実感できるようになったら化学の学習も
核心に近づく。
[3]pHを含めて液性をまとめ直してみる。

    

 最後に注意しておく。この節の[b]項で展開したのは、比較的にモル濃度が希薄な水
溶液で成り立つ理論である。したがってpHは通常は0と14の間で使われる。
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3.pHと化学反応

[a]身近なもののpH
[1]演示実験4では、身近なもの、主に食品類のpHを、pHメーターを使って計測し
てみた。
  レモン 2.3    食酢 2.6     みかん 3.2
  ソース 3.5    スポーツドリンク(アクエリアス) 3.6
  ビール 4.3    しょう油 4.5   日本酒 4.5
  コーヒー 5.1   紅茶 5.7     大根おろし 6.0
  とうふの水(塩化マグネシウム) 6.3  緑茶 6.4
  牛乳 6.7     ほうれん草のゆで水 7.2

                  - 8 -

  水道水 6.7 & 7.4         せっけん水 9.9
  こんにゃくの水(水酸化カルシウム) 12.1
食品類は酸性のものが多い。もっとも塩基性が強いと味が悪くなる。
 人体に関しては
  だ液  6〜7.5
  胃酸  1〜2
  汗   5.5〜6.5
  尿   4.5〜7.5
である。唾液が少ないと口内が酸性化して虫歯になりやすく、胃酸の正体は塩酸であり、
出過ぎると食道が炎症を起こす(胸やけ)。汗は皮膚(皮脂膜)を弱酸性に保って細菌の
繁殖を抑え、尿は血液の状態を反映する。

[b]pHと化学反応
[1]演示実験5では、紫キャベツの色素の色がpHによって図のように変化した。

    

 色の変化は、化学反応で色素の構造が一部変化することによって起こる。つまりこれは
pHによって、物質の反応の仕方が変わってくる事例である。視点を変えると、紫キャベ
ツの色素はpHの判定に利用できる。
 なお実験では、pHが5,6など7に近い水溶液はつくらなかった。というのは希釈に
よる誤差が重なったり、水道水のpHが正確に7とは言えなかったりするためである。言
い換えると水道水をpH7とするのはすこし誤差を伴う。この領域で正確なpHを実現す
るには、緩衝溶液というものを用いる。これについては6節で学習する。
[2]実験2では、いろいろなpHの水溶液に、赤紫色の過マンガン酸カリウム
KMnO4 水溶液と無色のチオ硫酸ナトリウム Na223 水溶液を加えると、次のよう
にpHによっていろいろな変化が観察できた。
  pH 0:無色になり、やがて白色に濁る
     2:無色になる
     4:褐色に濁り、一部が沈でんになる

                  - 9 -

     7:    同上
    10:    同上
    12:    同上
    14:緑色になる
 過マンガン酸カリウムとチオ硫酸ナトリウムは酸化還元反応をする。過マンガン酸カリ
ウムは、含まれる過マンガン酸イオン MnO4- が赤紫色である。そしてpHが0や2の
酸性では、ほぼ無色の2価のマンガンイオン Mn2+ に変化する。pHが4から12の中
性およびそれに近い領域では、褐色の酸化マンガン(W) MnO2 に変化し、これは水に溶
けにくい。pHが14の塩基性では、緑色のマンガン酸イオン MnO42- に変化する。こ
れに対応してチオ硫酸ナトリウムに含まれるチオ硫酸イオン S232- は硫酸イオン
SO42- に変化する。さらにこれとは別にチオ硫酸ナトリウムは、酸性では硫黄が生成す
る反応も起こる。硫黄の微粒子は白色である。
 細かい反応の中身を記憶せよというのではない。物質の反応の仕方がpHによって変わ
ってくる典型例と捉えてほしい。教科書などで「酸性の下で」とか、「中性ないし塩基性
の下で」などという記述をときどき目にするのは、pHが物質の反応の仕方に深く係わっ
ていることを示している。
[3]いろいろなpHの水溶液に、過酸化水素水を加えると、pH14の水溶液ではすこ
しだけ泡が発生した。
 これから過酸化水素は、塩基性では分解しやすいことが分かる。消毒薬のオキシフル
(3%過酸化水素)は、リン酸を加えて分解を防ぐ。
 さらに大根の汁を加えると、pHが4から12の水溶液で泡がよく発生した。pH14
の水溶液の泡の発生状態は変わらなかった。
 過酸化水素は次のように分解して酸素を発生する。
    2H22 ―→ 2H2O + O2
    過酸化水素
この反応は触媒として酸化マンガン(W)を加えると促進されることはよく知られている。
 生物の体内では代謝の結果として活性酸素が発生し、それを分解する過程で過酸化水素
が生成するため、この分解を促進するカタラーゼという酵素(生体内の触媒)がある。濃
度が高いのはレバー(肝臓)であるが、実験ではにおいを考慮して大根を選んだ。
 カタラーゼはpH4から12で酵素活性を示した。多くの酵素が中性付近で活性を示す
が、胃液に含まれるペプシンというタンパク質を分解する酵素はpH2で活性が最大にな
る。6節では血液の例を学習するが、生体内の反応にとってpHは大切なはたらきをして
いる。

[c]中和の量的関係

                  - 10 -

[例題2]硫酸が水素イオンになる水素を残さず、水酸化ナトリウムと次のように反応す
る。
    H2SO4 + 2NaOH ―→ 2H2O + Na2SO4   (9)
濃度が不明な硫酸水溶液が10mLある。モル濃度が0.100mol/Lの水酸化ナトリ
ウムで中和したところ、必要な体積は18.6mLであった。硫酸が2価の酸、水酸化ナト
リウムが1価の塩基であることを考慮して、この硫酸水溶液のモル濃度を求めよ。
    解 答
 中和はすべて次の反応式になる。
        H+ + OH- ―→ H2O   (8)
つまり中和が完結すると、酸から生じる水素イオンの物質量と塩基から生じる水酸化物イ
オンの物質量は等しくなる。
 硫酸水溶液のモル濃度を c mol/Lとすると、その10mLに含まれる硫酸の物質量

    c×(10/1000)[mol]
したがってそれから生じる水素イオンの物質量は
    2×c×10/1000[mol]
となる。
 同様に考えると、水酸化ナトリウム水溶液18.6mLに含まれる水酸化ナトリウムの物
質量は
    0.100×(18.6/1000)[mol]
したがってそれから生じる水酸化物イオンの物質量は
    1×0.100×18.6/1000[mol]
となる。
 こうして次の方程式が成り立つ。
    2×c×10/1000 = 1×0.100×18.6/1000
共通の1000を省くと
    2×c×10 = 1×0.100×18.6   (14)
これを解いて
    c = 0.093[mol/L]
となる。
[1]例題の方程式(14)を吟味すると、一般に次の関係式が成り立つことが分かる。
    nAAA = nBBB   (15)
      nA:酸の価数  cA:酸のモル濃度  vA:酸の体積
      nB:塩基の価数  cB:塩基のモル濃度  vB:塩基の体積
単位に関して、体積は[mL]でも[L]でもよいことは明らかである。ただしこの関係

                  - 11 -

式を、水素イオンになる水素や水酸化物イオンになる水酸基を残す塩が生成する中和反応
に使ってはならない。そのような場合は化学量論の基本に帰って、実際の反応式をにらん
で考える。
 この関係式は、価数が等しい酸と塩基であれば、モル濃度が等しければ中和する酸水溶
液の体積と塩基水溶液の体積は等しいことを示している。これは次項で利用しよう。

[d]中和滴定(その1)
[1]それでは中和が完結する中和点はどのように検出できるだろうか。
 実験3の[a]では、塩酸および酢酸水溶液それぞれ10mLを、水酸化ナトリウム水
溶液で中和した。濃度はすべて0.100mol/Lであり、ユニバーサル指示薬を加えた。
そして反応溶液のpHと滴下体積の関係が図のようになった。

  

このようなグラフは滴定曲線と呼ばれる。塩酸の場合も酢酸の場合も、中和点付近におい
てpHが急激に変化した。それぞれ反応式は次のようである。
    HCl + NaOH ―→ H2O + NaCl   (10)
    CH3COOH + NaOH ―→ H2O + CH3COONa   (16)
                        酢酸ナトリウム
[2]これはpHの定義から納得できるだろう。塩酸の場合で考えてみよう。水酸化ナト
リウム水溶液を9.9mL加えた時点のpHを計算する。塩酸からの水素イオンはあと
1/100残っている。体積がほぼ2倍になっていることを考慮すると、そのモル濃度は
次のようになる。

                  - 12 -

    0.1×(1/100)/2 = 0.0005[mol/L]
これは0.001=10-3 mol/Lと0.0001=10-4 mol/Lの間である。つま
りpHは3と4の間で、ユニバーサル指示薬はまだ赤色のままである。2節[c]項で学
習したように、pHは1ずれると水素イオンのモル濃度が10倍違う数値だからである。
備考:関係式(13)を使うと、pHは3.3と計算される。
[3]酢酸の場合は、弱酸であるため様子が異なる部分もあるが、それでも中和点付近で
はpHの変化は十分に急激である。一般にこのことは、強酸と強塩基、あるいは一方が弱
酸か弱塩基の中和反応について言える。
 ちょっと待て! 弱酸である酢酸は1%程度しか水素イオン(と酢酸イオン)に電離し
ないのではないか(2節[a]項を参照)。それは、強塩基である水酸化ナトリウムから
生じる水酸化物イオンが水素イオンと反応して水になるに連れてまた酢酸が1%程度電離
し・・・、こうしてズルスルと酢酸から水素イオンが引き出されてしまう。だから10
mL加えたところが中和点になり、通常の化学量論において問題は起こらないのである。
しかし最後のすこしの部分については課題が残る。これについては、中和点のpHが弱塩
基性であることを含めて、6節で取り上げる。
 よく使う指示薬の変色を図に示す。

    

灰色の部分は変色域と呼ばれ、この領域で変色が起こり、他の領域では色の変化はほとん
どない。
 これから塩酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和では、どの指示薬を使ってもよいことが
分かる(チモールブルーについては黄色と青色の変色域を使う)。これに対して酢酸水溶
液と水酸化ナトリウム水溶液の中和では、フェノールフタレインやチモールブルーが適切
であることが分かる。
[4]実験3の[b]では、フェノールフタレインを指示薬にして、5倍に希釈した食酢
10mLを0.100mol/L水酸化ナトリウムで中和して、酢酸のモル濃度を計測した。
このような分析法は中和滴定と呼ばれる。あるデータでは、滴下体積は14.1mLであっ
た。
 5倍に希釈した食酢中の酢酸のモル濃度は、関係式(15)を使って
    1×c×10 = 1×0.100×14.1

                  - 13 -

      c = 0.141[mol/L]
となる。したがって元の食酢の酢酸のモル濃度は
    0.141×5 = 0.705[mol/L]
である。
参考:これはパーセント濃度に換算すると、4.2%になる。
目次へ

4.酸性酸化物と塩基性酸化物

[a]硫黄から硫酸をつくる
[1]実験4の[a]では、硫黄を集気びんの中で燃焼させ、水と振り混ぜるとBTBが
黄色になった。
 硫黄の燃焼反応は次のようであり、気体の二酸化硫黄が生成する。
    S + O2 ―→ SO2
           二酸化硫黄
二酸化硫黄は無色で刺激臭のある気体である。これと水との反応は次のようであり、亜硫
酸が生成する。
    SO2 + H2O ―→ H2SO3    (タイプ1)(17)
               亜硫酸
そのため水溶液は酸性を示す。亜硫酸(の第1段階)は強酸と弱酸の中間である。亜硫酸
は塩化バリウムとは反応しない。
 ちなみに硫黄が燃焼しているとき、後半に白く煙った。これは生成する二酸化硫黄がび
んの中の水蒸気を捕まえて反応(17)を起こす。そしてできる亜硫酸がさらに水分子を
捕まえ、また二酸化硫黄を捕まえ・・・と亜硫酸水溶液の微粒子(ミストと呼ばれる)が
生じるためである。このミストが光を散乱して白く煙って見えるのである。
[2]亜硫酸水溶液に過酸化水素水を加え、続いて塩化バリウム水溶液を加えると、白色
沈でんが生じた。
 亜硫酸と過酸化水素は次のように反応して硫酸が生成する。
    H2SO3 + H22 ―→ H2SO4 + H2
         過酸化水素
硫酸の方は塩化バリウムと次のように反応して、水に溶けにくい硫酸バリウムを生成する。
    H2SO4 + BaCl2 ―→ BaSO4 + 2HCl
         塩化バリウム  硫酸バリウム
なおイオン反応式は次のようである。
    SO42- + Ba2+ ―→ BaSO4
        バリウムイオン

                  - 14 -

白色沈でんによって硫酸の生成を確認したわけである。
参考:三酸化硫黄なら、水と次のように反応して、直接に硫酸が生成する。
    SO3 + H2O ―→ H2SO4   (タイプ1)
   三酸化硫黄
   これは二酸化硫黄と合わせて、硫黄酸化物 SOx と呼ばれる。

[b]割りばしから炭酸などをつくる
[1]実験4の[b]では、割りばしを集気びんの中で燃焼させ、水と振り混ぜるとBT
Bが黄色になった。
 はしの成分元素の炭素が燃焼して二酸化炭素が生成する。
    (C)+ O2 ―→ CO2
 二酸化炭素は無色で無臭の気体である。これと水との反応は次のようであり、炭酸が生
成する。
    CO2 + H2O ―→ H2CO3   (タイプ1)(18)
               炭酸
そのため水溶液は酸性を示す。炭酸は弱酸である。
[2]割りばしをよく燃焼させ、できた灰を水に落としてかき混ぜるとBTBが青色にな
った。
 灰には、はしの成分元素のカリウムが炭酸カリウム K2CO3 となって含まれる。これ
がすこし塩基性であることは6節で学習する。

[c]チョークから水酸化カルシウムをつくる
[1]実験4の[c]では、炭酸カルシウム製のチョークをそのまま水に浸けておくと、
ユニバーサル指示薬が深緑色になった。炭酸カルシウム CaCO3 がすこし塩基性である
ことも6節で学習する。
[2]同じチョークをバーナーで強熱し、水に浸けるとユニバーサル指示薬が紫色なった。
 炭酸カルシウムは強熱すると次のように分解して、酸化カルシウムを生成する。
    CaCO3 ―→ CaO + CO2   (19)
          酸化カルシウム
酸化カルシウムも白色固体で、見た目の変化はない。もちろん二酸化炭素は空気中に失わ
れる。
 炭酸カルシウムは水と次のように反応して、水酸化カルシウムを生成する。
    CaO + H2O ―→ Ca(OH)2   (タイプ3)
加熱時間が短いので生成する水酸化カルシウムは少ないが、すでに学習したようにこれは
強塩基であり、明らかに水溶液の塩基性が強まる。

                  - 15 -


[d]酸性酸化物と塩基性酸化物
[1]整理してみよう。二酸化硫黄や二酸化炭素は、タイプ1の反応のように
@水と反応して酸になる
性質がある。そして次の[f]項でタイプ2の反応として学習するように
A塩基と反応して塩を生成する
性質もある。
 同じような性質を持つ酸化物に二酸化窒素 NO2 、五酸化二リン P25 などがあり、
これらは酸性酸化物と呼ばれる。非金属の酸化物の多くは酸性酸化物である。
[2]酸化カルシウムは、タイプ3の反応のように
B水と反応して塩基になる
性質がある。そして次の[f]項でタイプ4の反応として学習するように
C酸と反応して塩を生成する
性質もある。
 同じような性質を持つ酸化物に酸化ナトリウム Na2O 、酸化マグネシウム MgO 、
酸化銅(U) CuO などがあり、これらは塩基性酸化物と呼ばれる。金属の酸化物の多く
は塩基性酸化物である。
 ここで注意する。すべての酸性酸化物が@とAの両方の性質を持つわけではない。また
すべての非金属の酸化物が酸性酸化物とは言えない。一部の金属では酸素と多く化合した
ものは酸性酸化物になる。同様に、塩基性酸化物によってはCの性質のみを持つものもあ
る。つまり以上は大まかなまとめである。

[e]酸性雨
[1]酸性酸化物の多くは気体である。石炭の主成分元素は炭素であり、石油や天然ガス
の主成分元素は炭素と水素であるので、これらを燃焼すると二酸化炭素が発生する。もち
ろん生物の呼吸によっても二酸化炭素は発生する。雨には大気中の二酸化炭素が溶け込む
ので、そのために元来、雨はpHが6くらいの酸性である。
 ところが石炭や石油には硫黄元素も含まれ、燃焼に伴って二酸化硫黄が発生する。亜硫
酸が炭酸より強い酸であることはすでに学習したが、それだけではない。大気中の酸素が
太陽からの紫外線や浮遊微粒子の助けを借りて、亜硫酸を強酸である硫酸に変化させてい
く。
[2]さらに燃焼では空気を加えるが、空気は高温になるとその成分の窒素と酸素が化合
して一酸化窒素や二酸化窒素が発生する。いわゆる窒素酸化物 NOx である。
    N2 + O2 ―→ 2NO
           一酸化窒素

                  - 16 -

    N2 + 2O2 ―→ 2NO2
           二酸化窒素
 演示実験6では、赤褐色の二酸化窒素は水と反応して強酸である硝酸を生成した。その
反応式は次のようである。
    3NO2 + H2O ―→ 2HNO3 + NO   (タイプ1)
同時に生成する一酸化窒素は無色であり、理論的には二酸化窒素の1/3の体積になる。
 大気中では反応は異なるが、同じく硝酸が生成する。一酸化窒素は水に溶けにくいが、
大気中で二酸化窒素に変化していく。ちなみに窒素酸化物の身近な発生源は自動車である。
[3]化石燃料の大量消費は、硫黄酸化物や窒素酸化物による大気汚染を引き起こす。こ
れはpHが5や4(あるいはそれ以下)の酸性雨をもたらし、コンクリートなどを腐食し、
土壌や湖沼という環境を破壊して森林の立ち枯れや魚類の死滅を引き起こす。また汚染し
た大気を呼吸することで、慢性気管支炎(いわゆる「ぜんそく」)などの健康被害を引き
起こす。
        2000年度の降水のpH(年平均)
    札幌 4.59   仙台 4.93   川崎 4.53
    大阪 4.77   北九州 5.20*   屋久島 4.57
        (*:1999年度  「理科年表環境編」より)

[f]酸化物の反応(その2)
[1]酸性雨に対する防止技術のひとつに「排煙脱硫」がある。これは工場や火力発電所
の排煙を水酸化カルシウムと次のように反応させ
    SO2 + Ca(OH)2 ―→ CaSO3 + H2O   (タイプ2)
               亜硫酸カルシウム
さらに空気中の酸素で酸化して硫酸カルシウム(石こう)CaSO4 を生産する。脱硫
(硫黄分を除く)には他にもさまざまな方法がある。
 これは「酸性酸化物が塩基と反応して塩を生成する」反応の例である。ちなみに水酸化
ナトリウム水溶液の試薬びんの口のまわりが白色になるのも同じタイプの反応である。
    CO2 + 2NaOH ―→ Na2CO3 + H2O   (タイプ2)
               炭酸ナトリウム
大気中の二酸化炭素と水酸化ナトリウムが反応して、固体の炭酸ナトリウムが生成するた
めである。
[2]胃酸過多の人に酸化マグネシウムを含む薬を投与する。すると胃酸である塩酸と次
のように反応して胸やけがおさまる。
    MgO + 2HCl −→ MgCl2 + H2O   (タイプ4)
              塩化マグネシウム

                  - 17 -

 これは「塩基性酸化物が酸と反応して塩を生成する」反応の例である。ちなみに錆びた
銅板をバーナーで加熱してから塩酸に浸けてきれいにするのも同じタイプの反応である。
    CuO + 2HCl ―→ CuCl2 + H2O   (タイプ4)
   酸化銅(U)       塩化銅(U)
加熱により表面の銅が酸化銅(U)になり、これが塩酸と反応して塩化銅(U)として水に溶
けて取り除かれるためである。
[3]製鉄では、鉄鉱石に含まれる不純物の二酸化ケイ素や酸化アルミニウムを除去する
ために、石灰岩を加える。これは溶鉱炉(高炉)の中で、実験4のように分解する。
    CaCO3 ―→ CaO + CO2   (19)
そして酸化カルシウムが次のように反応して「スラグ」と呼ばれる液体になり融解した鉄
の上に分離して浮く。
    CaO + SiO2 ―→ CaSiO3   (タイプ5)
        二酸化ケイ素 ケイ酸カルシウム
    CaO + Al23 ―→ Ca(AlO2)2   (タイプ5)
      酸化アルミニウム アルミン酸カルシウム
 酸化カルシウムは塩基性酸化物であり、二酸化ケイ素や酸化アルミニウムは酸性酸化物
である。つまりこれらは
D塩基性酸化物と塩基性酸化物が反応して塩を生成する
というタイ2プの反応である。なお反応(19)は、このタイプ5と逆向きの反応である。
 ちなみにタイプ5の反応は、ガラスやセメントの製造にも利用されている。
参考:酸化アルミニウムは塩基性酸化物としてはたらくこともある。
目次へ

5.水素イオンのやり取り

[a]ブレンステッドの定義
[1]酸と塩基の定義を見直してみよう。1節では、塩酸が水に溶けて酸性を示すときの
反応式を、オキソニウムイオンを使って次のように書いた。
    HCl + H2O ―→ H3+ + Cl-   (5)
これを塩化水素が水素イオン H+ を失い、水が水素イオンを得ると捉えるのである。
    HCl ―→ H+ + Cl-   (20)
    H+ + H2O ―→ H3+   (21)
辺々を足し算すれば反応式(5)になる。そして塩化水素は水素イオンを失うので酸、水
は水素イオンを得るので塩基と定義する。
 すると酸と塩基の反応は「水素イオンのやり取り」になり、講座プラン「電子やり取り
反応の世界」と同じように考えていく道が開ける。

                  - 18 -

 これまで中和反応はすべて次のように書けた。
    H+ + OH- ―→ H2O   (8)
オキソニウムイオンを使えば次のようである。
    H3+ + OH- ―→ 2H2O   (22)
これを水素イオンのやり取りで捉えると次のようになる。
    H3+ ―→ H+ + H2O   (23)
    H+ + OH- ―→ H2O   (24)
オキソニウムイオンは水素イオンを失うので酸、水酸化物イオンは水素イオンを得るので
塩基である。
    酸:水素イオンを失う物質
    塩基:水素イオンを得る物質
これはブレンステッドとローリーによる定義である。なおこの定義には水中という制約は
付いていない。
[2]反応(23)は、反応(21)と逆向きの反応である。「電子やり取り反応」もそ
うであったが、反応は条件によって右向きにも左向きにも進行するのである。
 反応(20)が逆向きに進行すると、塩化物イオンは水素イオンを得るので塩基である。
となると一般に酸が水素イオンを失った残りは塩基であり、塩化物イオンは塩化水素とい
う酸の共役(きょうやく)塩基と呼ばれる。
[3]水素イオンを失う傾向の大小の順番を付けてみよう。なお新しい定義では
  酸の強弱:水素イオンを失う傾向が大きいか小さいか
になる。
備考:「傾向」という用語は、イオン化傾向などと使われる。そして私は理論的には化学
   ポテンシャルの意味で使うことにする。
 塩化水素もオキソニウムイオンも水素イオンを失うが、反応(5)が起こることからす
ると次のようである。
    HCl > H3+
つまり塩化水素はオキソニウムイオンより強い酸である。
 また反応(24)が次のように
    H2O ―→ H+ + OH-   (25)
逆向きに進行すれば水も水素イオンを失うが、反応(22)が起こることからすると次の
ようである。
    H3+ > H2
つまりオキソニウムイオンは水より強い酸である。
 これらを水素イオンを失う傾向が大きい順番に、つまり酸が強い順番に上から並べてみ
よう。

                  - 19 -

    HCl ―→ H+ + Cl-   (20)
    H3+ ―→ H+ + H2O   (23)
    H2O ―→ H+ + OH-   (25)
これは「水素イオン得失表」である。左辺は酸が並び、上ほど右向きの変化が起こりやす
い。言い換えると、右辺は共役塩基(単に塩基と言ってもよい)が並び、下ほど左向きの
変化が起こりやすい。だから右下がりの斜線で結ばれる塩化水素と水の反応や、オキソニ
ウムイオンと水酸化物イオンの反応は起こりやすいわけである。
[4]ここで改めて水に注目しよう。反応(23)からすると、オキソニウムイオンの共
役塩基である。ところが反応(25)のように、水は別の反応で水素イオンを失うので酸
でもある。つまり水は酸でも塩基でもある。似たようなことが「電子やり取り反応」でも
あった。
 しかしそれだけではない。反応(25)の左辺の水は酸であり、反応(23)の右辺の
水は塩基である。これらは右上がりの斜線で結ばれ、その反応は次のように反応(11)
をオキソニウムイオンを使って書いたものである。
    2H2O ―→ H3+ + OH-   (26)
この反応は起こりにくいはずである。しかしすでに学習したようにすこしは起こる。つま
り言いたいのは、「電子得失表」の段階では右上がりの斜線で結ばれる反応は無視してき
たが、「水素イオン得失表」ではすこしは起こる反応にも気配りしよう。
 ちなみに左辺どうしの物質や右辺どうしの物質では「水素イオンやり取り反応」が成り
立たない。

[b]水素イオン得失表
[1]実験5では、酢酸ナトリウム CH3COONa に希塩酸を加えると、酢酸が生成し
たことがにおいから確認できた。
 この反応はイオン反応式では次のようである。
    CH3COO- + H3+ ―→ CH3COOH + H2O   (27)
酢酸イオンは酢酸ナトリウムに由来し、オキソニウムイオンは塩化水素から生じる。これ
を水素イオンのやり取りで捉えると次のようである。
    H3+ ―→ H+ + H2
    H+ + CH3COO- ―→ CH3COOH
これからオキソニウムイオンは酢酸より水素イオンを失う傾向が大きいことが分かる。
    H3+ > CH3COOH
つまりオキソニウムイオンは酢酸より強い酸である。
備考:この反応は、アレニウスの定義の下で、「弱酸の塩に強酸を加えると弱酸と強酸の
   塩が生成する」というタイプの反応の例になっている。

                  - 20 -

     CH3COONa + HCl ―→ CH3COOH + NaCl  (27')
[2]塩化アンモニウム NH4Cl に水酸化カルシウムを加えると、アンモニアが発生し
た。
 アンモニアは無色で刺激臭のある気体である。この反応はイオン反応式では次のようで
ある。
    NH4+ + OH- ―→ NH3 + H2
アンモニウムイオンは塩化アンモニウムに由来し、水酸化物イオンは水酸化カルシウムに
由来する。これを水素イオンのやり取りで捉えると次のようである。
    NH4+ ―→ H+ + NH3
    H+ + OH- ―→ H2
これからアンモニウムイオンは水より水素イオンを失う傾向が大きいことが分かる。
    NH4+ > H2
つまりアンモニウムイオンは水より強い酸である。共役塩基の方からみると、水酸化物イ
オンはアンモニアより強い塩基である。
備考:この反応は、アレニウスの定義の下で、「弱塩基の塩に強塩基を加えると弱塩基と
   強塩基の塩が生成する」というタイプの反応のひとつの例になっている。
     2NH4Cl + Ca(OH)2 ―→ 2NH3 + 2H2O + CaCl2
[3]アンモニアを濃塩酸の入った試験管に近づけると、白煙が生じた。
 濃塩酸からは塩化水素が揮発しており、次の反応で塩化アンモニウムが生成する。
    HCl + NH3 ―→ NH4Cl
             塩化アンモニウム
これを水素イオンのやり取りで捉えると次のようである。
    HCl ―→ H+ + Cl-
    H+ + NH3 ―→ NH4+
塩化水素はアンモニウムイオンより水素イオンを失う傾向が大きい。
    HCl > NH4+
塩化水素はアンモニウムイオンより強い酸であり、アンモニアは塩化物イオンより強い塩
基である。
 ちなみに塩化アンモニウムは固体であり、微粒子となって白煙になる。
[4]ここで上の実験結果も含め、高校段階にふさわしい「水素イオン得失表」の全体を
次ページに掲げよう。
 水素イオン得失表を眺めると、左辺には見慣れた酸が並んでいる。そして右辺には塩基
としてアンモニアがある。と共に、酸が水素イオンを失った陰イオンが並んでいる。そし
て2価や3価の酸から生じ、かつ水素イオンになる水素を残した陰イオンは、左辺にも並
ぶ。これらは相手物質によって酸としても塩基としてもはたらくわけである。

                  - 21 -

            水素イオン得失表
     酸          (共役)塩基         pK
 @  HCl      ←→ H+ + Cl-         −7.0
 A  H2SO4     ←→ H+ + HSO4-        −5.2
 B  H3+      ←→ H+ + H2O          −1.7
 C  HNO3     ←→ H+ + NO3-         −1.4
 D  HSO4-     ←→ H+ + SO42-          1.9
 E  H3PO4     ←→ H+ + H2PO4-         2.2
 F  CH3COOH  ←→ H+ + CH3COO-       4.8
 G  H2CO3     ←→ H+ + HCO3-         6.4
 H  H2S      ←→ H+ + HS-           7.0
 I  H2PO4-    ←→ H+ + HPO42-         7.2
 J  NH4+      ←→ H+ + NH3           9.2
 K  HCO3-     ←→ H+ + CO32-         10.2
 L  HPO42-    ←→ H+ + PO43-         12.4
 M  HS-      ←→ H+ + S2-          14.0
 N  H2O      ←→ H+ + OH-          15.7

 pK(ピーケー)は電離指数と呼ばれる。これは酸の強さを示し、小さいほど水素イオ
ンを失う傾向が大きい(これ以上の説明はしない)。
備考:複雑にしないため、金属水酸化物そして酸性酸化物・塩基性酸化物などはこの表か
   ら省く。

  これからはこの得失表を活用して考えて行こう。
[5]ただし確認しておく。ブレンステッドの定義によれば、酸と塩基の反応で生成する
のはやはり酸と塩基である。アレニウスの定義から派生する中和反応や塩という考えは、
ここには存在しない。また酸性・塩基性という考えも、基本的にはアレニウスの定義の下
でのことである。ブレンステッドの定義では、酸の強弱、塩基の強弱が注目される。

[c]水素イオン得失表の活用
[1]実験5の[b]では、アンモニアが入った試験管を水に倒立すると、内部の水面が
上がり、フェノールフタレインが赤色になった。
 アンモニアは水に溶けやすく、すでに学習したように水酸化物イオンを生じるので塩基
性を示す。
    NH3 + H2O ―→ NH4+ + OH-   (7)

                  - 22 -

水素イオン得失表では水(Nの左辺)とアンモニア(Jの右辺)は右上がりの斜線で結ば
れるので、この反応は起こりにくい。だからアンモニアは、アレニウスの定義の下で弱塩
基である。
[2}実験5の[c]では、塩化アンモニウムに、リン酸ナトリウムを混ぜるとアンモニ
アが発生することがにおいから確認できた。しかしリン酸二水素ナトリウムを混ぜても変
化は起こらなかった。
 これは、塩化アンモニウム NH4Cl に由来するアンモニウムイオン NH4+(Jの左
辺)は、リン酸ナトリウム Na3PO4 に由来するリン酸イオン PO43-(Lの右辺)と
右下がりの斜線で結ばれるのでこの反応は起こりやすい。この反応はイオン反応式で書く
と次のようである。
    NH4+ + PO43- ―→ NH3 + HPO42-
しかしリン酸二水素ナトリウム NaH2PO4 に由来するリン酸二水素イオン
2PO4-(Eの右辺)とは右上がりの斜線で結ばれるのでこの反応は起こりにくいためで
ある。
[3]水に溶かした硫化ナトリウムに、リン酸を加えると気体が発生し、硫化水素のにお
いがした。しかしリン酸水素二ナトリウムを加えても変化は起こらなかった。
 リン酸 H3PO4(Eの左辺)もリン酸水素二ナトリウム Na2HPO4 に由来するリン
酸水素イオン HPO42-(Iの左辺)も、硫化ナトリウム Na2S に由来する硫化物イオ
ン S2-(Mの右辺)と右下がりの斜線で結ばれるので、どちらも硫化水素イオン HS-
を生成する反応は起こりやすい。
 そしてリン酸(Eの左辺)と硫化水素イオン(Hの右辺)はやはり右下がりの斜線で結
ばれるので、硫化水素 H2S が生成する反応は起こりやすい。しかしリン酸水素イオン
(Lの左辺)と硫化水素イオン(Hの右辺)は右上がりの斜線で結ばれるので、硫化水素
が生成する反応は起こりにくい。反応式は複雑になるので省略する。
[4]塩酸や硫酸のような強酸を水に溶かして扱うと、次のようにしてオキソニウムイオ
ンを生成する。
    HCl + H2O ―→ H3+ + Cl-   (5)
    H2SO4 + H2O ―→ H3+ + HSO4-
つまり酸の強さのランクがオキソニウムイオンまで下がる。
 また水酸化ナトリウムのような強塩基を水に溶かして扱うと、次のように電離して水酸
化物イオンを生成する。
    NaOH ―→ Na+ + OH-   (6)
これは塩基の強さのランクが水酸化物イオンまで下がることを意味する。これらは溶媒で
ある水の「水平化効果」と呼ばれる。

                  - 23 -

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6.塩の加水分解と緩衝溶液

[a]塩の加水分解
[1]実験4の[b]では炭酸カリウム K2CO3 がすこし塩基性を、また[c]では炭
酸カルシウム CaCO3 がすこし塩基性を示した。
 これらの塩には水酸化物イオンになる水酸基 OH がない。しかし水素イオン得失表を
見てみよう。どちらの物質にも炭酸イオン CO32-(Kの右辺)が含まれる。そして水
(Nの左辺)がある。これらは右上がりの斜線で結ばれ、次の反応がすこし起こるはずで
ある。
    H2O + CO32- ―→ OH- + HCO3-   (28)
                  炭酸水素イオン
こうして生成する水酸化物イオンがすこし塩基性を示すのである。
 ここでアレニウスの定義にもどって考えると、炭酸カリウムと炭酸カルシウムはそれぞ
れ次の中和反応で生成する塩である。
    H2CO3 + 2KOH ―→ 2H2O + K2CO3
         水酸化カリウム
    H2CO3 + Ca(OH)2 ―→ 2H2O + CaCO3
ちなみに水酸化カリウムは強塩基である。反応(28)は、中和反応と逆向きに、塩と水
が反応するので、塩の加水分解と呼ばれる。しかしブレンステッドの定義の下では、どち
らも水素イオンやり取り反応として統一的に扱うことができる。
[2]演示実験7では、炭酸水素ナトリウムを水に溶かすと、すこし塩基性を示した。ま
たリン酸二水素ナトリウムや塩化アンモニウムを水に溶かすと、すこし酸性を示した。
 炭酸水素ナトリウム NaHCO3 は水素イオンになる水素がある塩である。しかし得失
表からすると、炭酸水素イオン(Gの右辺)と水(Nの左辺)は、次の反応がすこし起こ
る。
    H2O + HCO3- ―→ OH- + H2CO3   (29)
だからすこし塩基性になる。
 リン酸二水素ナトリウム NaH2PO4 では、リン酸二水素イオン(Iの左辺)と水
(Bの右辺)は、次の反応がすこし起こる。
    H2PO4- + H2O ―→ H3+ + HPO42-   (30)
だからすこし酸性になる。
 塩化アンモニウム NH2Cl では、アンモニウムイオン(Jの左辺)と水(Bの右辺)
は、次の反応がすこし起こる。
    NH4+ + H2O ―→ H3+ + NH3   (31)
だからすこし酸性になる。

                  - 24 -

[3]ちょっと待て! 炭酸水素ナトリウムからチェックしよう。炭酸水素イオンは反応
Kの左辺にもある。それなら反応Bの右辺の水と次のように反応しないか?
    HCO3- + H2O ―→ CO32- + H3+   (32)
解決の糸口は斜線の傾きにある。右上がりでは、傾きが大きいほど一層起こりにくい。そ
して傾きはpKの差で調べることができるのである。反応(32)の傾きは11.9である。
これに対して反応(29)の傾きは9.3である。それなら(29)の方が全体を支配する
であろう。
 リン酸二水素ナトリウムでは、反応Eの右辺のリン酸二水素イオンと反応Nの左辺の水
は、次のように反応する。
    H2O + H2PO4- ―→ OH- + H3PO4
この反応の傾きは13.5である。これに対して反応(30)の傾きは8.9であり、こち
らが全体を支配する。
 塩化アンモニウムでは、アンモニウムイオンではなく、塩化物イオン(反応@の右辺)
と水(反応Nの左辺)が次のように反応する。
    H2O + Cl- ―→ OH- + HCl  (33)
この反応の傾きは22.7である。これに対して反応(31)の傾きは10.9であり、こ
ちらが全体を支配する。
[4]さて塩化ナトリウムを水に溶かすと、中性であった。
 塩化物イオンと水の反応は反応(33)である。 他方でくり返し学習したように、反
応Nの左辺の水と反応Bの右辺の水との反応もすこしは起こる。
    2H2O ―→ H3+ + OH-   (26)
この反応は水だけで起こり、同じモル濃度のオキソニウムオンと水酸化物イオンが生じ、
中性である。この反応の傾きは17.4である。
 反応(33)のようにこれより傾きの大きい反応がすこし起こっても、それによって生
じる水酸化物イオンは実質的に無視できるのである。言い換えると、塩の加水分解が意味
を持つのは反応の傾きが17.4以下の場合である。

[b]中和滴定(その2)
[1]弱酸である酢酸と強塩基である水酸化ナトリウムの中和反応を考える。
    CH3COOH + NaOH ―→ H2O + CH3COONa   (16)
実験3では、中和点で反応溶液はすこし塩基性を示した。その理由が今では理解できる。
つまり中和によって生成する酢酸ナトリウムの水溶液は、次のようにすこし加水分解する。
    H2O + CH3COO- ―→ OH- + CH3COOH
生成する水酸化物イオンのためにすこし塩基性になるのである。このように塩の加水分解
は中和滴定において指示薬を選ぶ参考になる。

                  - 25 -

[2]さらにこれを普通の反応式に直してみよう。
    H2O + CH3COONa ―→ NaOH + CH3COOH
まさに中和反応と逆向きの反応である。とすれば、酢酸と水酸化ナトリウムを同じ物質量
だけ中和反応させても、水中では完全に100%酢酸ナトリウムに変化するわけではない
ことを意味する。ただしそれは量的にはわずかで、通常の化学量論では無視できる。
 ちなみに強酸である塩酸と強塩基である水酸化ナトリウムの反応
    HCl + NaOH ―→ H2O + NaCl   (10)
では、未反応の部分は化学量論で無視できるだけでなく、上の[a]項のようにpHでも
無視できるのである。
 しかし弱酸と弱塩基の反応になると、単純でない事例が生まれる。

[c]緩衝溶液
[1]演示実験8では、純粋な水のpHは、塩酸や水酸化ナトリウム水溶液を数滴加える
と大きく変化したが、酢酸と酢酸ナトリウムを溶かした混合水溶液のpHは1mL加えて
もあまり変化しなかった。
 純粋な水での変化は、pHが桁の変化を基に定義されているので当然であるが、混合水
溶液ではどうしてそうなるのだろうか。
[2]この水溶液には酢酸と共に酢酸イオンが含まれる。酢酸イオンは、酢酸の共役塩基
である。これに強酸を加えると、それによるオキソニウムイオンが次のように酢酸イオン
と反応して酢酸に変化する。
    CH3COO- + H3+ ―→ CH3COOH + H2O   (27)
つまり酸の強さのランクが弱酸である酢酸まで下がる。これに強塩基を加えると、それに
よる水酸化物イオンは次のように酢酸と反応して酢酸イオンに変化する。
    CH3COOH + OH- ―→ CH3COO- + H2
つまり塩基の強さのランクが弱塩基である酢酸イオンまで下がる。こうしてpHが変化し
にくくなる。言い換えると、酢酸と酢酸ナトリウムの混合水溶液は「水平化効果」を持つ
のである。
[3]このように強酸や強塩基を加えてもpHが変化しにくい水溶液は緩衝溶液と呼ばれ
る。上のことは一般に酸とその共役塩基の組み合わせで起こり、緩衝溶液にはさまざまな
種類がある。
 血液のはたらきには体内環境を一定に保つことがあり、そのひとつが緩衝作用である。
正常な血液のpHは7.4(±0.05)であり、pHが6.8から8.0の間を越えると生
命が維持できなくなる。
 血液の緩衝作用は、主に炭酸と炭酸水素イオンによっている。これらは反応Gの酸と共
役塩基である。

                  - 26 -

 細胞呼吸によって炭酸水素イオンが産み出されて血液に供給される。これはわずかなオ
キソニウムイオン(10-7 mol/L以下)と次のように反応して、一部が炭酸に変化す
る。
    HCO3- + H3+ ―→ H2CO3 + H2O   (34)
そして炭酸は肺において次のように分解して二酸化炭素が排出される(肺呼吸)。
    H2CO3 ―→ CO2 + H2
ちなみにこの反応は反応(18)と逆向きの反応である。こうして血液には炭酸と炭酸水
素イオンがほどよく存在するのである。つまり反応(34)が一種の定常状態にある。
 血液にオキソニウムイオンが加わると次のように反応し
    HCO3- + H3+ ―→ H2CO3 + H2O    (34)
水酸化物イオンが加わると次のように反応する。
    H2CO3 + OH- ―→ HCO3- + H2
このような緩衝作用によって血液のpHは7.4付近に保たれる。
 過呼吸になると、緩衝作用の一方の担い手である炭酸が多く失われ、それを補うように
反応(34)が進んで水素イオンの濃度が下がり、血液は塩基性になって生命が危険にさ
らされる。


実 験

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        実験目次
  実験1 酸とは、塩基とは
  演示実験1 酸味
  演示実験2 希硫酸と濃硫酸
  演示実験3 電離度
  演示実験4 身近なもののpH
  演示実験5 紫キャベツの色素とpH
  実験2 pHと化学反応
  実験3 中和滴定とpH
  
実験4 酸化物から酸と塩基をつくる
  演示実験6 二酸化窒素から硝酸をつくる
  実験5 水素イオンのやり取り
  演示実験7 塩の加水分解
  演示実験8 緩衝溶液

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実験1 酸とは、塩基とは
[a]BTBの変色
(1)6本の試験管にそれぞれ水5cmほどを入れ、BTB2滴ずつを加えて振り混ぜる
(色を確認する)。
(2)次の物質を加え、色の変化を観察する。
    @36%濃塩酸1mL  A98%濃硫酸1mL  B酢酸1mL
    C水酸化ナトリウム1粒  D水酸化カルシウム小さじ1杯
    E28%濃アンモニア水1mL
注意:CとDはガラス棒でかき混ぜ、他は振り混ぜる。
備考:酸性が強いと赤みを帯びる。
(3)廃液はビーカーに集める([b]と[c]も)。後でまとめて中和処理する。
[b]マグネシウムと酸
(1)3本の試験管にそれぞれ水5cmほどを入れ、次の物質を加えて振り混ぜる。
    @36%濃塩酸1mL  A98%濃硫酸1mL  B酢酸1mL
(2)マグネシウムリボン約3cmずつを投入し、様子を観察する。そのとき硫酸の入っ

                  - 27 -

た試験管の口には、ゴムせんを逆さにして被せておく。
(3)ゴムせんを取ってマッチで点火する。
[c]酸と塩基の反応
(1)100mLビーカーに水約40mLを入れ、BTB8滴を加えて振り混ぜる。
(2)まず濃塩酸0.5mLを加えてガラス棒でかき混ぜる(変色を確認する)。次に水酸
化ナトリウム1粒を入れてかき混ぜる。これを水溶液が変色するまでくり返す。次に濃硫
酸0.5mLを加えてかき混ぜる(変色を確認する)。
 さらに水酸化カルシウム小さじ1杯を加えてかき混ぜる。これを水溶液が変色するまで
くり返す。さらに酢酸0.5mLを加えてかき混ぜる(変色を確認する)。さらに濃アンモ
ニア水0.5mLを加えてかき混ぜる。これを水溶液が変色するまでくり返す。

(3)最後に、容器類はブラシをかけながら水洗いする。
<メモ>




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演示実験1 酸味
(1)100mLビーカーに水約100mLずつを入れる。
(2)次の物質を加えてかき混ぜる。
    @濃塩酸10滴  A濃硫酸10滴  B酢酸1mL
(3)ピペットで手のひらに採り、味見をする。

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演示実験2 希硫酸と濃硫酸
 一方の試験管では水5mLに濃硫酸1mLを加えて振り混ぜ、他方の試験管には濃硫酸
6mLを入れる。
 それぞれに亜鉛片を投入して、様子を観察する。

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演示実験3 電離度
 300mLビーカーに水約200mLを入れ、濃塩酸10mLを加えて約0.5
mol/Lの水溶液をつくる。同様に酢酸6mLを加え、約0.5mol/Lの水溶液をつく
る。
 これらに「電球テスター」を差し入れて、電球の点き具合を調べる。
参考:電球テスターは、100W電球に銅板の電極を付けたものである。

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                  - 28 -

演示実験4 身近なもののpH
 身近なもの、主に食品類のpHを、pHメーターで計測してみる。
参考:ホリバのツインpHを使用。

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演示実験5 紫キャベツの色素とpH
(1)200mLビーカーに水約100mLを入れ、粗く刻んだ紫キャベツをひたひたま
で加え、バーナーで加熱し、ときどき振り混ぜて色素を抽出する。
参考:水はすべて水道水を使う。
(2)試験管立てに11本の目盛付き試験管を並べ、両端に1mol/L塩酸20mL
と1mol/L水酸化ナトリウム20mLを入れ、それぞれpH0とpH14の水溶液であ
る。
 また中央の試験管に水そのものを20mL入れてpH7とする。残りの試験管にも水
18mLずつを入れる。
(3)酸用の5mLピペットで、pH0の水溶液2mLを隣の試験管に移し、ピペットで
液を出し入れして混合する。これはpH1の水溶液である。
 次にそのピペットでこの水溶液2mLをまた隣の試験管に移し、同様に混合してpH2
の水溶液をつくる。
 さらにpHが3と4の水溶液もつくる。
(4)塩基用の5mLピペットで、同様に操作して、pHが13〜10の水溶液をつくる。
(5)別の5mLピペットで、試験管に抽出液4mLずつを勢いよく加え、できる変色列
を観察する。
注意:抽出液を混ぜ過ぎない方がきれいである。背景に白紙をおく。

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実験2 pHと化学反応
[a]いろいろなpHの水溶液の調製(代表者)
(1)4個の100mLビーカーを並べ、水道水(pHはだいだい7である。)約100
mLずつを入れる。
(2)1つめのビーカーに1mol/L塩酸(pH0である)1mLを入れ、そのピペット
で液を出し入れして混合する。これがpH2の水溶液である。
 同じピペットでこの水溶液1mLを2つめのビーカーに移して同様に混合する。これが
pH4の水溶液である。
(3)1mol/L水酸化ナトリウム(pH14である)と別のピペットを使って、同じよ
うにpHが12と10の水溶液をつくる。
参考:pH0の塩酸とpH14の水酸化ナトリウム水溶液の試薬びんも準備する。
[b]過マンガン酸カリウムの場合

                  - 29 -

(1)試験管立てに7本の試験管を並べ、それぞれpHが0,2,4,7(これは水道
水),10,12,14の水溶液を1/3ずつ入れる。
(2)0.01mol/L過マンガン酸カリウム1mLずつを加え、振り混ぜて様子を観察
する。
(3)続いて5%チオ硫酸ナトリウム1mLずつを加え、振り混ぜて様子を観察する。
[c]酵素カタラーゼの場合
(1)大根をおろし金でおろし、絞った液約10mLを試験管にろ過する。
(2)[b]と同様に、pHが0,2,4,7,10,12,14の水溶液を準備する。
(3)35%過酸化水素水1mLずつを加え、振り混ぜて様子を観察する。
(4)大根の汁1mLずつを加え、振り混ぜて様子を観察する。

(5)最後に、すべての容器類はブラシをかけながら水洗いする。
<メモ>




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実験3 中和滴定とpH
備考:ビュレット、ホールピペットの細かな扱い方はその場で実演を交えて説明する。
[a]滴定曲線
(1)50mLビュレットに、0.100mol/L水酸化ナトリウムを充填する。
注意:スタート時のビュレットの目盛りを記録する。
   目盛りの読みとりは0.1mLあるいは0.05mLまででよい。
(2)ホールピペットを使って、50mLビーカーに0.100mol/L塩酸10mLを
採り、ユニバーサル指示薬10滴を加える。
参考:この指示薬はpHによって「実物色見本」のように変色し、4から10の間で0.5
   刻みにpHを判定できる。pHが4より小さくても4の色を保ち、またpHが10
   より大きくても10の色を保つ。
備考:「実物色見本」については、「任意のpH溶液の調製」を参照。
(3)水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、ビーカーを振り混ぜ続ける。0.5刻みの変色を
検出したら直ちにコックを閉めて、pHと滴下体積を記録する。そして再び滴下し、0.5
刻みの変色を検出したら直ちにコックを閉めて、pHと滴下体積を記録する。これをくり
返す。
 とくに滴下体積が10mLに近づいたら注意深く操作する。
参考:2人で協力するとよい。

                  - 30 -

   1滴でpHが0.5刻みを越えて変色することもある。
   1回目は、速く滴下し途中でコックを閉めないで、様子を見る。
   そして2回目にpHと滴下体積の計測をする。
(4)0.100mol/L酢酸についても同様に実験する。
参考:こちらは手間がかかる!
(5)反応溶液のpHと滴下体積の関係をグラフにまとめる。
[b]食酢中の酢酸のモル濃度
(1)5倍に希釈した食酢10mLを、ホールピペットを使って50mLビーカーに採り、
フェノールフタレイン2滴を加える。
参考:フェノールフタレインという指示薬はpH9あたりで、無色(酸性側)から赤色
   (塩基性側)に変色する。
(2)0.100mol/L水酸化ナトリウムを滴下して振り混ぜ、変色したら直ちにコッ
クを閉めて、滴下体積を測る。
(3)関係式(15)を使って、元の食酢中の酢酸のモル濃度を求める。
(4)最後に、容器類はブラシをかけながら水洗いする。
<メモ>



  pH  滴下量  pH  滴下量  pH  滴下量  pH  滴下量








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実験4 酸化物から酸と塩基をつくる
[a]硫黄から硫酸をつくる
(1)50mLビーカーの目盛を利用して、集気びんに水約25mLを入れ、これにBT
B0.5mLを加えて振り混ぜる。
注意:中性の緑色にならないときは、水洗いし直す。
(2)燃焼さじに硫黄小さじ半分を採り、バーナーの炎に入れて点火し、それを集気びん
に差し入れ、発生する気体を逃がさないようにガラス円板でできるだけふたをして燃焼さ

                  - 31 -

せる。
参考:硫黄は液体になり、黒っぽくなったら、見えなくても点火している。
注意:燃焼さじを水に触れないようにする。
(3)白煙がこもったら燃焼さじを取り出し、水をかけて火を消す。
注意:炎が見えなくても燃えている。
   発生する二酸化硫黄は呼吸器に影響する。
(4)集気びんはガラス円板でふたをして振り混ぜ、様子を観察する。
(5)さらに2本の試験管にそれぞれ反応溶液4cmほどを入れ、一方に35%過酸化水
素2滴を加えて振り混ぜる。
(6)両方の試験管に2%塩化バリウム水溶液2mLを加えて振り混ぜ、様子を観察する。
[b]割りばしから炭酸などをつくる
(1)集気びんなどを水洗いして、水約25mLとBTB0.5mLを入れる。また50
mLビーカーにも水約25mLとBTB0.5mLを入れる。
(2)割りばし半ぜんを、その先をバーナーの炎に入れて点火して集気びんに差し入れ、
ガラス円板でできるだけふたをして燃焼させる。
(3)火が消えたら取り出し、ガラス円板でふたをして振り混ぜ、様子を観察する。
(4)割りばしの方はもう一度点火して5cmほどをできるだけ完全に燃焼させ、灰を準
備したビーカーに落とす。
(5)ビーカーを振り混ぜ、様子を観察する。
[c]チョークから水酸化カルシウムをつくる
(1)試験管2本にそれぞれ、水4cmほどとユニバーサル指示薬5滴を入れる。
(2)チョーク(炭酸カルシウム製)を半分に割り、一方をそのまま試験管に投入して振
り混ぜ、様子を観察する。
(3)もう半分を銅線の先に固定し、1分間ほどバーナーで強く加熱する。
参考:炎の上半分が温度が高い。
(4)続いて1分ほど放冷したら、残りの試験管に投入して振り混ぜ、様子を観察する。
参考:ユニバーサル指示薬の色とpH
    色   赤   橙   黄   黄緑   深緑   青紫   紫
   pH   4   5   6   7    8    9   10 
           酸性   >   中性   <   塩基性

(5)チョークは不燃物に捨て、すべての容器類はブラシをかけながら、水洗いする。
<メモ>


                  - 32 -



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演示実験6 二酸化窒素から硝酸をつくる
(1)ドラフトで、100mLメスシリンダーに二酸化窒素を捕集する。
参考:銅1gと濃硝酸10mL
(2)300mLビーカーに水約200mLを入れ、ユニバーサル指示薬2mLを加える。
(3)メスシリンダーを水に倒立して、様子を観察する。

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実験5 水素イオンのやり取り
[a]酢酸の生成
(1)3つのシャーレを準備し、2つに酢酸ナトリウム薬さじ1杯ずつを入れる。
(2)空いたシャーレと残りの一方に、3mol/L塩酸5mLずつを入れる。
(3)両方が入ったシャーレをガラス棒でかき混ぜ、3つのシャーレのにおいを調べる。
酢酸のにおいがするものがあるか。
[b]アンモニアの発生(その1)
(1)200mLビーカーに水約100mLとフェノールフタレイン0.5mLを入れる。
 また試験管に濃塩酸3mLを入れ、ゴムせんをする。
(2)薬包紙に、塩化アンモニウムと水酸化カルシウムを薬さじ1杯ずつ採り、ガラス
棒で混ぜ、乾いた試験管に入れる。
(3)これにL字導管を着けて試験管ばさみで水平に持ち、バーナーで加熱して発生する
アンモニアを、乾いた試験管2本に上方置換で捕集する。
参考:アンモニアは水蒸気があるため白く煙るので、それを目印にする。
(4)すぐに1本目は、(1)のビーカーにそのまま倒立させ、様子を観察する。
 続いて2本目は、そのまま(1)の試験管に近づけ、ゴムせんを外して様子を観察する。
[c]アンモニアの発生(その2)
(1)2枚の薬包紙に、塩化アンモニウム薬さじ1杯ずつを採る。
(2)一方にはリン酸二水素ナトリウム、他方にはリン酸ナトリウムを薬さじ1杯加え、
ガラス棒で混ぜる。
(3)それぞれ試験管に移し、バーナーで加熱し、においを調べる。アンモニアのにおい
がするものがあるか。
[d]硫化水素の発生
(1)2本の試験管に水約4cmずつを入れ、硫化ナトリウム小さじ1杯ずつを加え、振
り混ぜて溶かす。
(2)一方に3mol/Lリン酸2mL、他方にリン酸水素二ナトリウム薬さじ1杯を加え
て振り混ぜ、様子を観察する。

                  - 33 -

<メモ>




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演示実験7 塩の加水分解
 4つの100mLビーカーに、それぞれ純水約50mLとユニバーサル指示薬1mLを
入れてガラス棒でかき混ぜる。
 それぞれに次の物質を薬さじ半分ほど加え、別々のガラス棒でかき混ぜて、色の変化を
観察する。
    @炭酸水素ナトリウム  Aリン酸二水素ナトリウム
    B塩化アンモニウム  C塩化ナトリウム

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演示実験8 緩衝溶液
(1)2個の200mLビーカーに、それぞれ水約100mLを入れ、酢酸0.2mLと酢
酸ナトリウム・三水和物1gを加えて溶かす。これはpH5の緩衝溶液である。
参考:この水溶液は、酢酸について約0.033mol/L、酢酸ナトリウムについて約
   0.067mol/Lになる。
 別に2個の300mLビーカーにそれぞれ水約100mLを入れる。
(2)すべてにユニバーサル指示薬1mlを加えて色を観察する。
(3)水には1mol/L塩酸を数滴加えて、緩衝溶液には数滴そして続いて1ml加えて、
それぞれ色の変化を観察する。
(4)残りの水と緩衝溶液に対して、同様に1mol/L水酸化ナトリウムを加えて、それ
ぞれ色の変化を観察する。











                  - 34 -


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