04.3
                                   林 正幸

  物質とエネルギーの世界

  基礎実験


        目 次
  
[a]ブラウン運動
  [b]発熱変化と吸熱変化
  [c]ヘスの法則
  [d]メタノールの燃焼熱
  [e]蒸気機関車(演示実験)
  [f]簡単燃料電池
  [g]簡単太陽炉の製作

  テキスト


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[a]ブラウン運動
(1)10倍にうすめた牛乳1滴をスライドガラスにのせ、カバーガラスをかける。
(2)顕微鏡を250倍にして観察する。
<記録>



<準備>
・約10倍にうすめた牛乳
・スライドガラス、カバーガラス、スポイト
・顕微鏡

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[b]発熱変化と吸熱変化
(使い捨てかいろ)
(1)鉄粉45gが入った紙コップに食塩薬さじ2杯を加えてしばらく割りばしでかき混
ぜてみる。
(2)それだけでは発熱がないことを確認できたら、50ml三角フラスコに水をくんで
ピペットでその3mlを加え、よくかき混ぜ続ける。
(3)温度が上がってきたら、温度計を差し込んで調べる。何℃まで上がるか。
注意:温度計はかき混ぜに使用してはいけない。
(4)温度が下がり乾燥した状態になったら、もう一度水3mlを加えてかき混ぜる。
(5)終わったら紙コップごと教卓に返す。
(アンモニアの発生)
(1)50mlビーカーに、塩化アンモニウム薬さじ2杯と水酸化カルシウム薬さじ2杯
を入れて、ガラス棒でよくかき混ぜる。
(2)アンモニアの発生を確認し、ビーカーの底に触ってみる。
(硫酸の水への溶解)

                  - 1 -

(1)100mlビーカーに水約50mlを入れる。ガラス棒でかき混ぜながら濃硫酸
10mlを少しずつ溶解し、温度の変化を観察する。
注意:濃硫酸に水を加えると危険である。
(2)できたうすい硫酸はそのまま教卓に返す。
(酢酸ナトリウムの凝固)
(1)液体状態の酢酸ナトリウムが入ったポリ袋を手で触り、常温であることを確かめる。
(2)チャックを開いて、結晶の酢酸ナトリウム1粒を投入する。
(3)凝固の様子と温度の変化を観察する。
(4)ポリ袋はそのまま返却する。
<記録>



<準備>
・鉄粉(#300)、食塩
・紙コップ、割りばし、温度計
・50ml三角フラスコ、5mlピペット
・塩化アンモニウム、水酸化カルシウム
・50mlビーカー、ガラス棒
・100mlビーカー、ガラス棒、温度計(かいろと別にする)
・濃硫酸、5mlピペット
・過冷却の酢酸ナトリウム三水和物
  (500mlビーカーに結晶酢酸ナトリウム500gと水50mlを入れ、加熱して
   融解する。すこし放冷して表面に膜ができ始めたら、チャック付きポリ袋(85×
   60mm)に約30mlずつ注ぐ。チャックを閉じ、それを上にして放冷する。)
・小粒の固体の酢酸ナトリウム三水和物

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[c]ヘスの法則
(イメージ)
       コース1             コース2
      水100mlに          水100mlに
   段階a:水酸化ナトリウムを加える  段階c:五酸化二リンを加える
   段階b:五酸化二リンを加える    段階d:水酸化ナトリウムを加える
 各段階の温度上昇を計測する。
(薬品の準備)

                  - 2 -

注意:どちらの薬品も皮膚に激しい作用を持つ。また吸湿性なのでびんのふたを取りっ放
   しにしない。
(1)水酸化ナトリウム4.0gを手早く計量し、薬包紙でおひねりにし、広口びんにしま
う。続いてもうひとつ同じおひねりをつくってびんにしまう。
(2)同様に手早く五酸化二リン2.4gのおひねりを2つ別の広口びんに準備する。
(段階a)
(1)乾いたポリコップを2つ重ね、これにメスシリンダーで水道水100mlを注ぐ。
(2)温度計付きの発泡スチロールのふたをし、コップをまわすようにして振り混ぜ、温
度が安定したら読み取る。
注意:振り混ぜるときに水がこぼれ出ないように注意をする。
参考:温度は0.2℃刻みで(最小目盛りの1/5)読み取る。
   コース1のスタート温度(    )℃
(3)温度計付きのふたをとり、水酸化ナトリウムのおひねりをピンセットで取り出し、
薬品のみを残らず水に投入し、再びふたをする。
(4)コップをまわすようにして振り混ぜ、水酸化ナトリウムを溶解させる。そして上昇
し切ったときの温度を読み取る。
参考:コップの底から溶解状態が観察できる。
    段階aの温度(    )℃
(5)ふたをとってBTB0.2mlを加え、変色を確認する。
(段階b)
(6)続いて、五酸化二リンのおひねりをピンセットで取り出し、はさみで上の部分を切
り取ってすこし薬品が見えるようにする。そして薬包紙ごと水に浮かせて再びふたをし、
振り混ぜて五酸化二リンを反応させる。そして上昇し切ったときの温度を読み取る。
    段階bの温度(    )℃
(段階c)
(1)別のポリコップ(2重)に水100mlを注ぎ、振り混ぜて温度が安定したら
読み取る。
   コース2のスタート温度(    )℃
(2)同様に五酸化二リンを加えて、温度を読み取る。
    段階cの温度(    )℃
(3)ふたをとってBTB0.2mlを加え、変色を確認する。
(段階d)
(4)同様に水酸化ナトリウムを投入し、温度を読み取る。
    段階dの温度(    )℃
(かたづけ)

                  - 3 -

(1)器具を水洗いする。
<記録>



<準備>
・水酸化ナトリウム、五酸化二リン
・薬さじ、薬包紙、てんびん、ピンセット、はさみ
・広口びん  ×2
・ポリコップ  ×4
・温度計付きの発泡スチロールのふた(自作)  ×2
・100mlメスシリンダー
・BTB

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[d]メタノールの燃焼熱
(イメージ)
 メタノールを燃焼させ、その熱エネルギーをアルミ片に貯め、水を加えて全体の温度上
昇を計測する。
(操作)
(1)菓子の缶(半径8.5cm)を断熱容器に収め、アルミ片523gを入れ、温度計を
差し入れてその温度を計測する。
    (   )℃
参考:菓子の缶は鉄製で154gあり、この熱容量はアルミニウム77gに相当する。つ
   まり実質的にはアルミ片600gを用いることになる。
注意:温度は0.2℃刻みで読み取る。
(2)正確な目盛りを印したビーカーに水1[l]を入れ、ときどきかき混ぜながら温度
を計測する。
    (   )℃
(3)メタノールを入れたアルコールランプの、キャップの内側を拭ってから被せて全体
の質量を計測する。
    (      )g
(4)アルミ片をならして丸い金網を被せ、三脚を入れて網を支え、全体を静かに逆さに
する。
(5)アルコールランプに点火して手に持ち、アルミ片をまんべんなく5分間加熱する。
注意:この加熱が結果を左右する。炎は先端が網からすこし離れるようにする。半径が3、

                  - 4 -

   6cmの2つの同心円を頭に描き、順にくり返し炎でたどるように加熱する。
(6)時間が来たらキャップを被せてアルコールランプを消す。菓子の缶と三脚をそのま
ま元にもどして三脚を外し、水1[l]を注ぎ、金網を除いて温度計を差し入れ、ガラス
棒でかき混ぜながら、到達温度を計測する。
    (   )℃
(7)合間を利用してアルコールランプの質量を計測して、燃焼したメタノールの質量を
求める。
    (    )g
(8)水を捨ててアルミ片を大型バットに取り出し、ブロワーで乾燥する。菓子の缶も乾
燥する。
(9)できるなら次のデータを使って、メタノール1molの燃焼熱を計算してみよ。
    熱容量  アルミニウム   0.88J/g・℃
         水        4.2
    メタノールのモル質量   32g/mol
<記録>



<準備>
・菓子の缶(「ゴーフル」(1500円)の缶が手ごろ 直径17cm、高さ9cm、質
  量154g、鉄製)
・断熱容器(発泡スチロールで自作)
・丸い金網
  (20meshステンレス網を切断し、周囲を折り曲げてつくる)
・三脚
・アルミ片 523g
  (幅10mm、厚さ1mm、長さ2mのアルミLアングルを、電気のこぎりで2cm
   幅に切断する。6本で予備もできる。)
・はかり(1kg用)
・電子天びん(200g用で、0.01gまでは計測できるもの)
・アルコールランプ(ガラス製)
  (ランプの芯は短くして炎が小さくなるようにする)
・メタノール
・1[l]ビーカー
  (正確な1[l]の目盛りを印しておく)

                  - 5 -

・アルコール温度計、ガラス棒
・大型バット、ブロワー

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[e]蒸気機関車(演示実験)
<準備>
・模型の蒸気機関車(ナカムラ)
・ミシン油、つまようじ、テッシュ
・注射器、水、プラスドライバー
・固形燃料、カッター、マッチ、軍手

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[f]簡単燃料電池
(1)バットの底を上にして炭素板を乗せ、クッキングペーパー2枚を被せ、1mol/l
水酸化ナトリウム水溶液14mlを染み込ませる。
(2)もう1つの炭素板を乗せて手まわし発電機に接続し、2分ほど電気分解をして、す
ぐに発電機のクリップを外す。
参考:発電機は右まわしするとコンセントの上側が正極になる。
   たとえば上の炭素板をプラス極になるように決めておく。
(3)そしてメロディテスターを接続する。
注意:テスターは極性があるので、プラス(赤コード)をプラス極に接続する。
(4)続いてソーラーモーターを接続する。
(5)終わったらクッキングペーパーは廃棄容器に捨てる。
参考:事後にクッキングペーパーはホウ酸で中和処理する。
<記録>



<準備>
炭素板(170×40×5mm ターミナル付き)  ×2
クッキングペーパー(5×14cm) ×2
バット
1mol/l水酸化ナトリウム水溶液、5mlピペット
手まわし発電機
メロディテスター
ソーラーモーター、クリップコード
廃棄容器(バット)、ピンセット

                  - 6 -

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[g]簡単太陽炉の製作
(イメージ)
 等辺台形を貼り合わせてパラボラをつくる。台形は2段で、1段あたり8枚である。焦
点距離が10cmになるように設計されている。
(製作)
(1)工作用紙1枚と1/3に次の図形を描く。
    等辺台形を8枚ずつ、合計16枚
  1段目  上底:3.8cm、下底: 7.8cm、高さ5.0cm
  2       7.8      11.4     5.0
参考:7.8 11.6 19.4 23.2 31.0 34.8 42.6 46.4
   2.0 5.8 13.6 17.4 25.2 29.0 36.8 40.6 48.4
   11.4 19.2 30.6 38.4
   1.8 9.6 21.0 28.8 40.2
    1段目を固定する長方形 4組
  3.0×2.0cm、3.0×2.0cm
    2段目の台形の支える長方形 4組
  7.0×1.6cm、7.0×4.3cm、7.0×4.0cm
参考:1.6 5.9 9.9
    台板
  28.0×28.0cm
(2)台形部分の裏に、のりでアルミホイルをしわにならないように貼り付ける。
(3)すべての図形を切り出す。
(4)セロテープで1段目の台形を、1カ所を除いて貼り合わせる。
(5)1段目を固定する長方形2枚をつないで4組とし、1つおきに半分を台形に貼り付
ける。
(6)1段目につなげて、2段目の台形を、1カ所を除いて貼り合わせる。
(7)2段目の台形の支える長方形3枚を、上の順につないで4組とし、1つおきに台形
に貼り付ける。
参考:1段目を固定する長方形と同じ列にする。
(8)セロテープで貼り合わせて、パラボラを完成する。
(9)台板に固定する。
参考:1段目の台形の上底は、中心から4.6cmに来る。
   2段目の台形を支える底面の外端は、中心から13.8cmに来る。
(実験)
(10)大陽に向け、焦点に手先をかざしてみる。

                  - 7 -

(11)先生が製作した大陽炉を使って、ゆで玉子(「ひかり玉子」)をつくる。
<記録>



<準備>
・工作用紙(51×37cm)と1/3(51×12cm)
・アルミホイル
・のり、はさみ、定規、セロテープ

<追記(09.2)>
 ポリカーボネートミラー(厚さ0.5mm)を使えば、すこし高価になるがしっかりして
いるので、パラボラを固定したり支えたりする必要がなく、したがって台紙も不要になり、
工作が簡単になる。
(1)ポリカーボネートミラーで上の寸法の等辺台形16枚を切り取る。
(2)セロテープで1段目の台形を、1カ所を除いて貼り合わせる。
(3)2段目の台形を1段目に貼り合わせる。
(4)1段目の残っている1カ所と、それに続く2段目を貼り合わせる。
(5)2段目の台形のすき間を貼り合わせる。
(6)ミラーの保護シートをめくる。















                  - 8 -

  物質とエネルギーの世界

        目 次
  
1.エネルギーとは何か
  2.物質のエネルギー
  3.化学的変化とエネルギー
  4.熱化学方程式
  5.ヘスの法則と生成熱
  6.物質エネルギーの利用
  7.地球上のエネルギー


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1.エネルギーとは何か

 エネルギーという用語は身近である。「あの人はエネルギーがある」「エネルギーが切
れて動けない」とか、石油エネルギー、太陽エネルギー、水素エネルギー、エネルギー問
題といったようである。しかし改めてエネルギーとは何かと尋ねられたら、どう返事をす
ればよいだろうか。

[a]物質の身分証明書
[1]いきなり本質から始める。エネルギーとは「物質が存在することに伴って必然的に
持つもの」である。物質はエネルギーを持たずには存在できない。
  「物質はその種類によって、また同じ物質でもその状態によって、
               それぞれある決まった量のエネルギーを持つ。

そして物質が持つエネルギーの量は物質の量に正比例する。
 水1molが持つエネルギーの量、二酸化炭素1molが持つエネルギーの量、塩化ナ
トリウム1molが持つエネルギーの量はそれぞれに決まっている。
 そして同じ水1molでも、20℃と80℃ではエネルギーの量が(異なる)。また0
℃の水1molと0℃の氷1molでもエネルギーの量が異なる。同じ二酸化炭素1
molでも、圧力が1atmのものと2atmのものではエネルギーの量が異なる。同じ
塩化ナトリウム1molでも、固体状態と水に溶解した状態ではエネルギーの量が異なる。
 言い換えると、同じ種類、同じ状態の物質1molが(異なる)量のエネルギーを持つ
ことはあり得ない。エネルギーの量は物質の種類、状態を示す身分証明書のようなもので
ある。ただし誤解のないように注意するが、異なる種類、異なる状態の物質1molがた
またま同じ量のエネルギーを持つことはある。
参考:物質1molとは、それを構成する極く小さい粒子がアボガドロ定数
   (6×1023 )の個数だけ集まった量である。
[2]さらに踏み込んでみる。アインシュタインによると、物質はエネルギーそのもので
ある。質量がmの物質が静止しているとき、そのエネルギーの量Eはそれに光速cの2乗
を掛けた量である。
      E = mc2
 また真空もエネルギーを持って存在しており、現代天文学ではそれを暗黒エネルギーと
呼び、宇宙はそのために加速的に膨張しているのではないかと考えている。
[b]エネルギーの基本的形態

                  - 9 -

[1]エネルギーにはいろいろな形態があるが、基本的なものは運動エネルギーと位置エ
ネルギーである。
[2](運動エネルギー)は物体がある速度で運動していることに対応して持つエネルギ
ーである。運動エネルギーEは、物体の速度をv、質量をmとすると次のように表される。
    E = (1/2)mv2
つまり運動エネルギーは速度の2乗に比例する。
[3]位置エネルギーは初歩的には「高い位置にある物体ほど大きい位置エネルギーを持
つ」と言われる。これを図のように宇宙的視野で見直してみよう。

    

 地面は地球である。物体が落下するのは、物体と地球が万有引力で引き合っているため
である。高いとは物体と地球の距離が大きいことである。
 こうして(位置エネルギー)は
    「引き合う物体どうしが
          ある距離で位置していることに対応して持つエネルギー」
である。そして距離が(大きい)ほど位置エネルギーが大きい。なお引力の種類は万有引
力だけでなく、電気的引力でも磁気的引力でも構わない。
参考:たがいに反発し合う物体どうしにも位置エネルギーは存在する。

[c]エネルギー保存の法則
[1]物質はその状態が変化したり、化学反応などにより他の物質に変化したりするとき、
まわりの物質とエネルギーのやり取りをする。物質が孤立しているなら、物質の内部でエ
ネルギーの形態が転換する。そしていずれの場合も
    「エネルギーの全体の量は一定に保たれる。
これは(エネルギー保存の法則)と呼ばれる。
[2]1atmの下で、100℃の水1molが沸とうして、100℃の水蒸気になる場
合、水は41kJのエネルギーをまわりから得る。このときまわりは同じ41kJのエネ
ルギーを失う。多くの場合それは燃焼ガスのエネルギーである。
 ここでkJとはエネルギーの量を表す単位である。
    1kJ = 1000J

                  - 10 -

そしてJ(ジュール)はエネルギーの量の基本単位である。
備考:ここで取り上げた数値は物質が持つエネルギーそのものではなく、厳密には物質の
   エンタルピーである。今後ともこの違いは無視する。
[3]化学的事例ではないが、地表付近で1kgのボールが1m落下すると、位置エネル
ギーが9.8J減少し、代わりに運動エネルギーが9.8Jに増加する。つまり位置エネル
ギーが運動エネルギーに転換する。

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2.物質のエネルギー

[a]実験「ブラウン運動」
[1]それでは物質はどんな形態のエネルギーを持つのだろうか。うすめた牛乳を顕微鏡
で観察すると、脂質でできた脂肪球という小さい粒子が揺れ動くように乱雑な運動をして
いる。これは(ブラウン運動)と呼ばれるが、花粉を観察してこれを発見したブラウンは、
花粉が生きているからだと誤解した。
 これは顕微鏡でも観察できない極く小さい水分子自身が乱雑に運動しており、これは熱
運動と呼ばれる。その水分子が脂肪球に衝突をくり返すために起こる。こうして私たちは
間接的に分子の(熱運動)を観察することができる。
 ちなみに水中の石ころのように大きくなると、各方向の衝突が平均化されてブラウン運
動は観察できなくなる。
[2]熱運動の形式は固体、液体、気体によって異なるが、たとえは気体分子が飛行する
運動については次の関係式が成り立つ。
    (1/2)mv2 = (3/2)kT
      m:分子1個の質量[kg]
      v:分子の平均飛行速度[m/s]
      k:ボルツマン定数  1.38×10-23[J/K]
      T:絶対温度(K(ケルビン))
参考:絶対温度はこの世の最低温度を0とした尺度で、せっ氏温度tと次の関係がある。
       T = t+273
 上の式は計算しにくいのでアボガドロ定数倍する、つまり1molの分子についての関
係式に直す。
    (1/2)(M/1000)v2 = (3/2)RT
      M:モル質量[g/mol]
      R:気体定数  8.3[J/K・mol]
参考:モル質量とはその物質1molの質量のことである。
[例題]15℃の空気の中の酸素分子の平均飛行速度を計算せよ。酸素分子のモル質量は

                  - 11 -

32[g/mol]である。
  絶対温度は288Kであるから
    (1/2)(32/1000)v2 = (3/2)×8.3×288
    v2 = 224100
    v = 473
                    答 473[m/s]
 極く小さい酸素分子がこのように大きい平均飛行速度で運動していることは、熱運動が
いかにめまぐるしいかを窺わせる。
[3]始めの関係式からわかるように、分子の質量が小さいほど平均飛行速度は大きくな
る。
 また左辺は分子の飛行運動の平均運動エネルギーである。したがって平均運動エネルギ
ーは(温度)のみに依存し、絶対温度に正比例しており、分子の種類には無関係である。
言い換えると、温度は分子の飛行運動の平均運動エネルギーの大小を表している。
 このことは気体の他の形式の熱運動や液体や固体のいろいろな熱運動にも当てはまる。
平たく言えば、
    「温度は熱運動の平均の激しさを表している。
つまり温度が同じなら、熱運動の平均の(激しさ)は分子の種類に依らず同じである。
[4]以上で分かるように、物質は膨大な運動エネルギーを持つ。
備考:振動という形式の運動には位置エネルギーも含まれる。

[b]沸とう
[1]水を加熱するとやがて100℃になり、沸とうが始まる(1atmの下では)。加
熱を続けるとどんどん水蒸気が発生するが、その温度は100℃である。
 液体では水分子はほぼ接触してひしめくような状態にあるが、気体では水分子は広い空
間にばらばらと存在する。
[2]加熱によりエネルギーを得て、分子間の距離が大きくなる。これは水が(位置エネ
ルギー
)を持つことを窺わせる。化学結合の学習では、原子どうしがイオン結合や共有結
合や金属結合をして引き合う。また分子どうしが、極性による引力や水素結合などの分子
間力で引き合うことが出てくる。
[3]物質は位置エネルギーも持つ。そして液体より気体の方が、結合した分子よりばら
ばらの原子の方がより(大きい)位置エネルギーを持つことに注意しよう。

[c]内部エネルギー
[1]熱運動や化学結合・分子間力によって物質がエネルギーを持つことが分かったが、
これとは別に物質は全体(かたまり)としてある速度で運動したり、ある高さに位置する

                  - 12 -

ことによってもエネルギーを持つ。前者のエネルギーは物質を構成する極く小さい粒子が
担っており、物質がその内部に貯めているという意味で(内部エネルギー)と呼ばれる。
これからは内部エネルギーを中心に話を進める。

[d]熱エネルギー
[1]熱という用語は日常的にもよく使われる。しかし「風邪で熱がある」などと、誤っ
て物体の中に熱が含まれるように言う。これは18世紀の「熱素説」の名残である。
 これからは熱の代わりに熱エネルギーという用語を使うことにしょう。そうすれば科学
的にも正しい表現になる。そして熱エネルギーとは、内部エネルギーのうち熱運動による
エネルギーのことである。
[2]加熱とは(熱エネルギー)を与えることである。伝熱とは、激しく熱運動している
粒子の熱エネルギーが、ゆるやかに熱運動している隣の粒子に与えられることによって、
熱エネルギーが移動することである。

課題:ポットに水を入れ、激しく振ると水の温度が上がるか。

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3.化学的変化とエネルギー

[a]実験「発熱変化と吸熱変化」
[1]使い捨てかいろ
 鉄粉に食塩を混ぜてすこし水を加えてかき混ぜると、温度が(90)℃くらいまで上昇
する。このとき空気中の酸素を含めて次の反応が起きる。
    4Fe + 3O2 + 6H2O ―→ 4Fe(OH)3
                    水酸化鉄(V)
ここで食塩は反応を促進する触媒のはたらきをする。
[2]アンモニアの発生
 塩化アンモニウムに水酸化カルシウムを加えてかき混ぜると、アンモニアが発生してビ
ーカーの底が(冷たく)なる。このとき次の反応が起きる。
  2NH4Cl + Ca(OH)2 ―→ CaCl2 + 2H2O + 2NH3
                 塩化カルシウム
[3]硫酸の水への溶解
 水に少しずつ濃硫酸を溶解すると、沸とうするほどになる。
[4]酢酸ナトリウムの凝固
 液体状態の酢酸ナトリウムに固体の酢酸ナトリウム1粒を加えると、(凝固)が起こっ
て温かくなる。

                  - 13 -

 液体を冷却すると凝固点以下になっても固体にならないことがある。凝固点以下の温度
で液体である状態は過冷却と呼ばれる。

[b]等温等圧変化
[1]上の3つの実験では時間が経つと、温度が高くなる場合はまわりに熱エネルギーを
与えて、まわりと同じ温度になる。また変化前の物質もまわりと同じ温度であった。この
ように最終的に温度が変化しないと言える変化は等温変化と呼ばれる。また圧力も大気圧
に保たれる。つまり(等温等圧変化)である。そして等温等圧変化においてまわりに熱エ
ネルギーを与える変化は発熱変化と呼ばれる。
[2]「アンモニアの発生」のように温度が低くなる場合は、時間が経つとまわりから熱
エネルギーを奪って、まわりと同じ温度になる。等温等圧変化においてまわりから熱エネ
ルギーを奪う変化は(吸熱変化)と呼ばれる。
 これからは等温等圧変化を中心に話を進める。そして数値が出てくる場合は、とくに断
らない限り25℃、1atmの下におけるものである。
[3]化学的変化がまわりに与える熱エネルギーを、このテキストでは一般的に変化熱と
呼ぶことにする。そして化学反応に伴う変化熱は(反応熱)と、物質が溶解するときの変
化熱は溶解熱と呼ばれる。まわりから熱エネルギーを奪う場合はマイナスの符号を付ける。
備考:三態変化に伴う変化熱は、その定義からすべてプラスの数値になる。

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4.熱化学方程式

[a]熱化学方程式
[1]化学的変化に伴って発熱や吸熱があるのは、1章の説明から当然のことである。つ
まり変化前の物質のエネルギーが変化後の物質のエネルギーより大きければ、変化に伴っ
て余分になるエネルギーをまわりに与える。逆に(変化後)の物質のエネルギーの方が大
きければ、不足するエネルギーをまわりから奪うはずである。そして化学的変化において
は、まわりに与えたり奪ったりするエネルギーは熱エネルギーであることが多い。
 これは逆に見ることもできる。ある変化が(発熱)であれば、変化前の物質のエネルギ
ーが変化後の物質のエネルギーより大きく、吸熱であれば変化後の物質のエネルギーの方
が大きいわけである。
[2]このことをさらにくわしく説明する。水素と酸素が反応する場合を考える。水素1
molと酸素(1/2)molが反応して、液体の水1molが生成するとき、まわりに286
kJのエネルギーを与える(25℃、1atmの下において)。このことは次のように書
き表される。
    H2 + (1/2)O2 = H2O(液) + 286kJ

                  - 14 -

ここで H2 は水素を表すと同時に、水素1molのエネルギーの量を表す。つまり数学の
代数のように、H2 はある数値の代わりの記号でもある。同様に O2 は酸素と、酸素1
molのエネルギーを表す。したがって (1/2)O2 は酸素(1/2)molのエネルギーである。
そして H2O(液) は液体の水と、その1molのエネルギーである。ちなみに水素や酸素
は通常気体であるが、水は3つの可能性があるので、(液) というように状態を指定する必
要がある。
4 すると上の式は、水素1molと酸素(1/2)molのエネルギーは、液体の水1molの
エネルギーに286kJ加算した量に等しいことを意味する。このような式は(熱化学方
程式
)と呼ばれる。なお左辺と右辺が等号で結ばれることに注意しよう。
[3]それでは液体の水1molがまわりから41kJのエネルギーを奪って水蒸気にな
る変化の熱化学方程式はどうなるだろうか。
    H2O(液) = H2O(気) − 41kJ
つまり液体の水1molのエネルギーは、水蒸気1molのエネルギーから41kJ減算
した量に等しい。吸熱変化では右辺の数値の符号が(マイナス)になる。
問1 次の変化を熱化学方程式で表せ。
(1)鉄1mol、酸素(3/4)mol、液体の水(3/2)molが反応して水酸化鉄(V)1
molが生成すると、まわりに403kJのエネルギーを与える。

(2)塩化アンモニウム1molと水酸化カルシウム(1/2)molが反応して、アンモニア
1molが発生して液体の水などが生成すると、まわりから78kJのエネルギーを奪う。


[b]エネルギー変化グラフ
[1]以上のことはグラフに描いても分かりやすい。上で取り上げた水素1molが燃焼
する変化では次のようである。

    

横軸は変化を表し、左の方は変化前を、右の方は変化後を意味する。別の学習では変化の
最中を扱うこともある。縦軸は物質のエネルギーを表す。左の横線の高さは水素1mol
と酸素(1/2)molのエネルギーを示し、右の横線の高さは液体の水1molのエネルギー

                  - 15 -

を示す。右の横線が低く、落差は286kJである。右の横線の方が低い場合は発熱にな
る。
 なお物質のエネルギーは、エネルギーを計測する(基準)によって変化する。しかしど
のような基準を選ぼうとも落差は同じになる。こうして横線の高さそのものは明示しない
こともある。
問2 問1の変化をエネルギー変化グラフで描け。




[c]熱化学方程式の演算
[1]熱化学方程式は代数式であるので、数学的な演算をして新しい方程式を導き出すこ
とができる。
 たとえば上の水素1molが燃焼する変化の熱化学方程式は次のように変形できる。
    H2O(液) = H2 + (1/2)O2 − 286kJ
この方程式から、液体の水1molが分解されて水素1molと酸素(1/2)molが生成す
ると、まわりから286kJのエネルギーを奪うことが分かる。もしそれを電気分解で実
現するなら、286kJの電気エネルギーを必要とする。
[2]次の2つの熱化学方程式がある。
    C + O2 = CO2 + 394kJ
    CO + (1/2)O2 = CO2 + 283kJ
上式から下式を辺々減算して整理してみよう。
    C − CO + (1/2)O2 = 111kJ
    C + (1/2)O2 = CO + 111kJ
この方程式から、炭素1molと酸素(1/2)molが反応して(不完全燃焼して)一酸化炭
素1molが生成すると、まわりに111kJのエネルギーを与えることが分かる。
 上の2つの熱化学方程式は実際の計測でも容易に得られるが、それから導き出される下
の方程式は計測が容易ではない。しかしこのように理論的に得ることができる。このこと
は次章で生成熱としてさらに深める。

[d]補 足
[1]「硫酸の水への溶解」では、硫酸1molが十分な水に溶解すると、まわりに95
kJのエネルギーを与える。この熱化学方程式は次のようである。
    H2SO4 + aq = H2SO4aq + 95kJ
ここでaqは十分な水を、 H2SO2aq は水に溶解した硫酸1molを意味する。もし

                  - 16 -

水が少ないと、その硫酸水溶液に水を追加するとさらに発熱する。高校では十分な水を使
う場合のみを扱う。
[2]「酢酸ナトリウムの凝固」では、「凍れば冷たいのではないか」と疑問に感じる生
徒がいる。固体を加熱して液体になるから、液体のエネルギーは固体のエネルギーより大
きい。であれば凝固が(発熱)になるのは当然のことである。
 日常経験では過冷却の水などはなく、水が自発的に凍ることはない。水を凍らせるには
まわりを0℃より低くして強制的に液体の水からエネルギーを奪う必要がある。これが凝
固=冷たいという誤解を与える。しかし考えてみると水を強制的に凍らせるときにも、液
体の水はまわりにエネルギーを与えている。

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5.ヘスの法則と生成熱

[a]実験「ヘスの法則」
[1]1章では「同じ種類、同じ状態の物質1molが異なる量のエネルギーを持つこと
はあり得ない。」ことを天下り的に学習した。このことはどのように確認できるだろうか。
 実験では始めの物質として次を準備する。
  水 H2O  100ml=100g
  水酸化ナトリウム NaOH   4.0g=0.1mol
  五酸化二リン P25  2.4g=(0.1/6)mol=0.017mol
途中の物質は
  コース1  五酸化二リンと、水酸化ナトリウム水溶液(塩基性)
  コース2  水酸化ナトリウムと、リン酸水溶液(酸性)
である。ちなみに五酸化二リンと水からリン酸ができる反応式は次のようである。
    P25 + 3H2O ―→ 2H3PO4
そして終わりの物質は次になる。
  リン酸ナトリウム Na3PO4 の水溶液  106.4g
水酸化ナトリウムと五酸化二リンの量は、過不足なくすべてリン酸ナトリウムになるよう
に計算してある。全体の反応式は次のようである。
     P25 + 6NaOH ―→ 2Na3PO4 + 3H2
[2]始めの3種の物質はある決まった量のエネルギーを持ち、終わりのリン酸ナトリウ
ム水溶液もある決まった量のエネルギーを持つので、どちらのコースを通ろうとも、全体
としてまわりに与えるエネルギー量は同じになるはずである。実験では断熱してその熱エ
ネルギーで温度が上昇するようにする。したがって途中では物質が異なり温度上昇が異な
っても、全体としての温度上昇は(同じ)になるはずである。
[3]結果は次のようであり

                  - 17 -

    コース1   途中の温度上昇  ( 9.8)℃
           全体の      (24.0
    コース2   途中の温度上昇  ( 7.4)℃
           全体の      (23.8
理論通りである。
[4]山登りに例えてみよう。麓からどのコースで頂上に至ろうとも、登った高さは同じ
であり、頂上や麓の標高が物質のエネルギーに相当する。これに対して歩いた距離はコー
スに依って異なる。歩いた距離はまるで実験に要する時間のようである。

[b]水の熱容量
[1]ここで化学的変化がまわりに与えたり奪ったりするエネルギー量を計測する方法の
ひとつを説明する。
 物質1molがその温度を1℃上げるのに必要とする熱エネルギーは、モル熱容量と呼
ばれる。これは温度によって少しずつ変化していくが、比較的せまい温度範囲では一定と
見なすことができる。液体の水のモル熱容量は75.3J/mol・℃である。このままでは
通常の計測には使いにくいので1gあたりに換算すると
    水の熱容量  4.2J/g・℃
である。
[2]「ヘスの法則」で水酸化ナトリウムが十分な水に溶解する場合の発熱量を求めてみ
る。実験では水酸化ナトリウム4.0g=0.1molを100ml=100gの水に溶か
すと、あるデータでは温度が9.8℃上昇した。できる水酸化ナトリウム水溶液104gは、
その濃度が希薄であるため(熱容量)が水と同じと見なすことができる。したがってこの
変化に伴って
    4.2×104×9.8 = 4280[J]= 4.3[kJ]
の熱エネルギーをまわりに与えることが分かる。1molあたりでは43kJとなり、こ
れは水酸化ナトリウムの(溶解熱)と呼ばれる。文献値は
    水酸化ナトリウムの溶解熱  45kJ/mol
であり、よい計測ができている。これは熱化学方程式では次のように表される。
    NaOH + aq = NaOHaq + 45kJ
問1 五酸化二リン2.4g=(0.1/6)mol=0.017molを100gの水に溶か
すと、温度が7.4℃上昇した。次の熱化学方程式のQを求めよ。
    P25 + 3H2O(液) + aq = 2H3PO4 aq + QkJ



                 - 18 -

                         (答 Q=190

[c]生成熱
[1]化学的変化における左辺の物質と右辺の物質の全体としての差だけでなく、個々の
物質1molのエネルギーを表す工夫をする。
 このためにエネルギーを計測する基準を「すべての単体1molのエネルギーは0kJ
とする」と定める。そして物質の(生成熱)を「物質1molがその成分元素の(単体
から生成するときまわりに与えるエネルギー」とする。
[2]たとえば4章の熱化学方程式
    H2 + (1/2)O2 = H2O(液) + 286kJ
から、液体の水の生成熱は286kJ/molである。この変化を新しい基準でエネルギー
変化グラフに描くと左図のようになる。

    

つまり液体の水のエネルギーは−286kJ/molである。
[3]エチレン C24 の生成熱は−52kJ/molである。マイナスの符号はエチレン
が単体から生成するときにまわりからエネルギーを奪うことを意味する。その熱化学方程
式は次のようである。
    2C + 2H2 = C24 − 52kJ
またグラフは右図のようになり、エチレンのエネルギーは52kJ/molである。このよ
うに物質1molのエネルギーと生成熱は(符号)が反対になるので注意を要する。
 次のように物質の生成熱を利用してさまざまな熱化学方程式をつくることができる。
[例題]エチレン、二酸化炭素、液体の水の生成熱は、それぞれ−52、394、286
kJ/molである。エネルギー変化グラフを描いて、次の熱化学方程式のQを求めよ。
    C24 + 3O2 = 2CO2 + 2H2O(液) + QkJ

    

                         答 Q=1412

                  - 19 -


課題:いろいろな中和反応や溶解が発熱か吸熱か、調べてみよう。
   変化熱を計測して、熱化学方程式をつくってみよう。

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6.物質エネルギーの利用

[a]実験「メタノールの燃焼熱」
[1]( 5.0)℃のアルミ片(実質は600g相当)を空き缶に入れ、金網を被せて逆
さにし、メタノールが入ったアルコールランプで5分加熱する。そして缶を元にもどし、
水温が( 4.8)℃の水1000mlを加え、ガラス棒でかき混ぜて温度を計測すると
( 9.4)℃まで上昇した。燃焼したメタノールは(1.26)gである。
[2]実験データを使って、メタノールの燃焼熱を計算する。アルミニウムの熱容量は
0.88J/g・℃であるから、アルミ片が得た熱エネルギーは
    0.88×600×(4.4)= (2320)J
であり、水が得た熱エネルギーは
    4.2×1000×(4.6)=(19320)J
である。メタノールの燃焼が与えた熱エネルギーは
    (21640)J =(21.64)kJ
である。1mol=32gあたりでは
    (21.64)×32/(1.26)=(550)kJ/mol
となる。ちなみに文献値は645kJ/molである。より正確な計測にはボンブ熱量計を
用いる。
    CH3OH + (3/2)O2 = CO2 + 2H2O(気) +645kJ
[3]物質エネルギーを利用するには
    「物質を化学的変化によってよりエネルギーが小さい物質に変化させる」
ようにすればよい。
 人類は太古から物質エネルギーを(燃焼)によって熱エネルギーに転換して利用してき
た。それは現代でも調理や暖房に利用している。

[b]実験「蒸気機関車」(演示実験)
[1]それでは熱エネルギーに仕事をさせてみよう。一般に(仕事)をする方はエネルギ
ーを失い、仕事をされる方は同じ量のエネルギーを(得る)。こうして仕事の量は、仕事
を通して得たエネルギーの量で表す。そして仕事にはエネルギーのやり取りが伴う。
[2]模型の蒸気機関車に水を入れて固形燃料に火をつけると、しばらくして動き出す。
問 仕組みと動作原理を考えよう。

                  - 20 -




[3]人類が最初に成功したのは蒸気エンジンである。これは産業革命を引き起こす原動
力になった。ワットが発明した蒸気機関車(SL)では、圧力容器の中で水を沸とうさせ
て高温の水蒸気をつくる。それを弁を使ってシリンダーに注入する。水蒸気はピストンを
押す。
 それは加熱されてできる水蒸気が、まわりの常温の空気中の分子より(大きい)運動エ
ネルギーを持つ。ピストンの両側では気体分子が飛行運動によって衝突をくり返している
が、運動エネルギーが大きい分子はより大きい衝撃力(圧力)を与えるためである。ピス
トンの直線運動はロッドによって車輪の回転運動に変えられる。
 車輪の回転に合わせて弁を逆にし、車輪(はずみ車)の勢いを利用して、ピストンを元
にもどしながら水蒸気を排気する。そし再び水蒸気を注入する・・・。こうして熱エネル
ギーが列車の運動エネルギーに転換する。
 ワットは水が沸とうするとき、やかんのふたがカタカタと持ち上げれることがヒントに
なったそうである。
[4]その後人類は、シリンダーの中で燃料を燃焼させる内燃エンジンや、気体を羽根に
吹き付けるタービンエンジンなどを発明し、動力や輸送に利用している。
 またそれで発電機をまわしている。このとき運動エネルギーが電磁誘導によって電気エ
ネルギーに転換する。

[c]人類のエネルギー消費量
[1]現代の主要なエネルギー源は石油、石炭、天然ガス、ウランであり、1996年の
世界のエネルギー消費量は1年間に石油換算で84億トンである(「世界国勢絵図」よ
り)。これをもとにエネルギー消費量をキロジュール単位で計算してみよう。
[2]石油の燃焼熱(発熱量)は平均44kJ/gであり、100万倍すると
       44000000kJ/トン=0.44億kJ/トン
になる。したがって
    84×100000000×0.44=3700000000[億kJ]
         =37[京kJ] (1京(きょう)=10000兆)
となる。つまりエネルギー消費量は1年間におよそ(40京kJ)である。
 そしてこのまま経済活動を続ければ、この数値は2050年には3倍になると見積もら
れる。

[d]効率

                  - 21 -

[1]エネルギーに仕事をさせるとき、供給するエネルギーの一部は目的から外れて失わ
れる。たとえば自動車では、熱エネルギーが排気ガスとして失われたり、それから転換さ
れた運動エネルギーが駆動システムの摩擦によって失われたりする。
 供給するエネルギー量に対する、目的に適う仕事量の比率は効率と呼ばれる。
    効率 = 目的に適う仕事量/供給するエネルギー量
現在の普通自動車の効率は10%あまりである。もし摩擦がゼロにできれれば、平坦な道
路では一端加速すれば、永久に走行できるはずである。
[2]熱エネルギーに仕事をさせると、本質的な制約が隠れている。熱力学の理論による
と、高温の熱源とまわりの空気など(低温の熱源という)の温度差によって、効率は最大
でも次の値を超えられない。
  最大効率 =(高温の絶対温度 − 低温の絶対温度)/(高温の絶対温度)
蒸気機関車では200℃=473Kの水蒸気を利用する。その圧力は大気圧の16倍であ
る。低温を15℃=288Kとすると
  最大効率 =(473−288)/473=0.39=39[%]
となる。
 現在の火力発電の効率は平均 1/3 程度であり、1/2 あたりが限界と言われる。そのひと
つの理由は高温に耐えられる材料が無いことである。
[3]言うまでもなく、エネルギーを利用する(効率)を高めることは、人類の基本課題
である。

[e]実験「簡単燃料電池」
[1]手まわし発電機で水酸化ナトリウム水溶液を電気分解すると、プラス極(陽極)で
は酸素が発生して一部が炭素板に吸着される。またマイナス極(陰極)では水素が発生し
てやはり一部が吸着される。
 そしてメロディテスターを接続すると音楽が流れ、ソーラーモータがまわり、電池にな
っていることが確認できる。
[2]水素側の電極では、水素が次のように電子を与える。
    4OH- + 2H2 ―→ 4H2O + 4e-
これに対して酸素側の電極では酸素が次のように電子を奪う。
    4e- + 2H2O + O2 ―→ 4OH-
参考:ここでは上の反応式を厳密に理解する必要はない(詳しくは講座プラン「電子やり
   取り反応の世界」を参照)。
[3]全体としての反応は水素が燃焼する場合と同じである。
    2H2 + O2 ―→ 2H2
 実験のように燃焼と同じ反応を利用して、電気エネルギーを与える装置は(燃料電池

                  - 22 -

と呼ばれる。実際には酸素の代わりに空気が利用される。 参考:水素を使う燃料電池の電極での反応式はその種類によって異なるが、全体としての
   反応式は同じである。
[4]燃焼反応そのものは熱エネルギーを与える。そして燃焼でも燃料電池でも、水素
(と酸素)が与える全体のエネルギー量は同じであり、それは水素と酸素のエネルギー量
と水のエネルギー量の差であり、これはエネルギー保存の法則から変わりようがない。
 しかし火力発電に比べて、燃料電池では物質エネルギーを効率よく利用できる。実用化
されている燃料電池の効率は80%を越える(同時に発生する熱エネルギーの利用を含
む)。

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7.地球上のエネルギー

[a]簡単太陽炉の製作
[1]自作の大陽炉に手先をかざすと、(熱く)感じられる。
 また先生が製作した大陽炉を使って、おいしいゆで玉子(「ひかり玉子」)ができる。
[2]太陽は(核融合)によって膨大な放射エネルギーを宇宙に発散している。それは主
に水素の原子核4つが融合してヘリウムの原子核になる核反応で、水素の原子核が持つエ
ネルギーが放射エネルギーに転換する。放射エネルギーとは電磁波が持つエネルギーであ
り、太陽が発散するのは主に近赤外線、(可視光線)、紫外線である。太陽からの放射エ
ネルギーは太陽エネルギーと呼ばれる。
 その強度は地球の軌道付近では
    1.37kJ/s・m2
つまり、太陽に向いた1m2 の面積に1sあたり1.37kJのエネルギーが到着する。こ
の数値は太陽定数と呼ばれる。
 しかし雲による反射などでその34%が宇宙に失われ、大気などがその19%を吸収し、
地表が吸収するのは全体の47%である。

    
        (新地学教育講座「気象T」より)

[3]つまり地球は(太陽定数)の66%を受ける。その面積は地球の断面積であり、地

                  - 23 -

球の半径は6370kmである。したがって地球が1年間に受ける太陽エネルギーは
  1.37×0.66×3.14×(6.37×106 )2 ×3600×24×365
    =3.6×1021 [kJ] = 360000[京kJ]
である。
 人類の消費エネルギー40京kJ(6章を参照)が、太陽エネルギーの0.01%余り、
言い換えると太陽エネルギーは人類のエネルギー消費量の(1万)倍程度であることは頭
に入れておこう。

[b]エネルギーは使い捨て
[1]ここでエネルギーのもうひとつの特徴を説明する。人類が消費するエネルギーはや
がて熱エネルギーに転換する。そして熱エネルギーは高温から低温に伝わって同じ温度に
なる。そうなる最大効率(6章を参照)がゼロになるので、もう仕事をさせることができ
ない。
 エネルギー保存の法則が成り立つにもかかわらず
    「エネルギーは本質的に(使い捨て)である。」
人類は常にエネルギーを獲得し続ける必要がある。その意味で()エネルギーは私たち
の道徳の基本である。
[2]これは人類が利用するさまざまな物質と好対照である。物質は元素からできており、
元素は不滅であるから、物質は本質的に(循環)して利用し続けることが可能である。た
だし物質を循環利用するためにもエネルギーが必要である。

[c]太陽エネルギーの行方
[1]地球が受ける太陽エネルギーは、途中で大気が吸収してその熱エネルギーに転換す
る。そして赤道付近と両極付近のアンバランスが大気の大循環を産み出す。偏西風や貿易
風である。
 地表に届くほとんどは、陸地や海洋が吸収してその熱エネルギーに転換する。そして地
表付近の大気に伝わって大気の熱エネルギーに転換し、上昇気流を産み出す。また水を蒸
発させて水蒸気のエネルギーに転換し、大気と混合して移動する。
 以上が関わり合ってさまざまな気象現象を産み出す。(風力エネルギー)も、波力エネ
ルギーも、水力エネルギーも、もとをただせば太陽エネルギーである。
 ちなみに海洋が得る熱エネルギーのアンバランスは海流を産み出す。
[2]地表に届く太陽エネルギーのわずかな部分は、植物が利用する。緑色植物は(光合
)によってブドウ糖(と酸素)を生産する。その熱化学方程式は次のようである。
    6CO2 + 6H2O = C6126 + 6O2 − 2802kJ
               ブドウ糖

                  - 24 -

つまり太陽エネルギーはブドウ糖(と酸素)のエネルギーに転換する。言い換えるとブド
ウ糖(と酸素)は(太陽エネルギー)を蓄積する。そのエネルギーは1年間におよそ
    5.0×1018 kJ = 500京kJ
である。これは地球が受ける太陽エネルギーの0.14%であり、地表が吸収する量の
0.19%である。つまり植物は地表に届く太陽エネルギーのおよそ1000分の2を利用
している。そして人類のエネルギー消費量はその10%程度である。
問1 光合成によって1年間に生産されるブドウ糖は何億トンか。


                         (3200億トン)
[3]光合成で産み出されたブドウ糖は、そのままあるいは他の糖質、脂質、タンパク質
などに変化して、植物自身や動物などの栄養になり、生命活動のためのエネルギーに転換
する。これは主に(酸素)呼吸によっており、その熱化学方程式は光合成と逆向きである。
    C6122 + 6O2 = 6CO2 + 6H2O + 2802kJ
    ブドウ糖
こうして生物の生活は太陽エネルギーで支えられていることが分かる。

    

[4]石炭は今から3億5千万年前から始まる古生代石炭紀に、余剰のブドウ糖が8千万
年かけて蓄積し変化したものである。石油や天然ガスあるいはメタンハイドレートの起源
は定かではないが、生物起源とすれば同様の過程があったはずであり、そうでなくても一
度限りのエネルギー源である。
 これらをわずか100年程度で消費し尽くそうとする人類の活動が、地球(環境)を破
壊することは自明である。

[d]持続可能なエネルギー源
[1]永続的に獲得できるエネルギー源は太陽をおいて他にはないと言える。地熱エネル
ギーは大量に利用することが困難であり、海水に含まれる重水もそれを利用できる核融合
技術が当面開発されそうにない。
[2]太陽電池は半導体の性質を利用して太陽エネルギーを電気エネルギーに転換する。
現在の効率は15%であるが、それを40%まで引き上げることが期待される。

                  - 25 -

 風力発電は基本技術がすでに確立しており、最近大きな注目を集めている。一説による
と、風力エネルギーだけで人類が現在消費するエネルギーをまかなうことができるそうで
ある。
 「バイオマス」は生物が生産する資源という意味である。これは主に光合成によって生
産されるので、エネルギー量で見ると人類のエネルギー消費量の10倍余りある。バイオ
マスは地球が46億年を掛けて築き上げた自然の循環の一部であるから、本来的には環境
を破壊しない。これは資源(物質)として石油に代わるべきものである。そしてエネルギ
ー源としては、余剰や廃棄物をそのまま燃料として、あるいはアルコールやメタンに変化
させて利用することができる。
参考:食糧はバイオマスの一部と考えることもできる。
[3]ここで「水素エネルギー」に触れておく。一部の人たちは水素がエネルギー源にな
るなら、これは水にいくらでも含まれるから、エネルギー問題は解決すると誤解する。4
章で学習した次の熱化学方程式をもう一度見てみよう。
    H2 + (1/2)O2 = H2O(液) + 286kJ
確かに水素は酸素と反応してエネルギーを与える。しかしそれを水からつくると同じ量の
エネルギーを必要とする。効率を考えると余計にエネルギーが必要である。
 水素が未来のエネルギー源として注目されるのは、燃料電池の燃料などになり、それに
よって排出されるのが水であって大気を汚染しないためである。
参考:現在の燃料電池の多くは、燃料の水素を石油などからつくるので、単純に環境にや
   さしいとは言えない。
[4]最後に、太陽エネルギーは地球上で熱エネルギーに転換しながら蓄積していくのだ
ろうか。もしそうなら地球はやがて火の玉になってしまう。そうではない。地球は太陽か
ら受けると同じ量のエネルギーを、温度が低い宇宙に対して遠(赤外線)に転換して発散
している。その前にできるだけ利用するのが人類の知恵である。エネルギーは減るもので
はないから・・・。
問2 太陽エネルギーを利用するアイデアを出してみよう。








                  - 26 -



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