11.1
                               事務局:林 正幸

 MOLの会通信11−1号

 今回は岡田、加藤、林まさ、福島、藤井、船橋、堀の7名が参加しました。新しい仲間
1名を含みます。
 下の項目の他に、岡田さんの提案で、センター試験の化学の問題の検討もしました。最
近は化学の平均点が物理や生物より数点低く、化学が敬遠される傾向にあるとのことです。
そのとき私(林)が話題にした異性体探しの分子式は C242 で、生徒たちは幾何異性
体、光学異性体を含む12種の異性体をすべて見つけました。
 なお酢酸エチルの合成法も検討する予定でしたが、時間が無くなり次回にまわすことに
なりました。

針金を使う振動反応(林まさ)

 安房科学塾で岩田さんが見せてくれた不思議な反応を、やってみたところ簡単に再現で
きた。100mLビーカーに1mol/Lリン酸約45mLと35%過酸化水素水5mLを
入れ、鉄の針金(形は自由)を、6mol/L塩酸で表面の亜鉛を取り除き、水洗いして投
入すると、周期的に水素が発生した。加温すると周期が短くなるが、針金のどの部分でも
同時に水素が発生する。
 岩田さんは「厳密な反応機構はまだわからないが」としながら、不動態形成を含む次の
4連の反応式を提案している。
    Fe + 2H+ ―→ Fe2+ + H2
    2Fe2+ + H22 + H2O ―→ Fe23 + 4H+
    Fe23 + 6H+ ―→ 2Fe3+ + 3H2
    2Fe3+ + H2 ―→ 2Fe2+ + 2H+
 私はよく理解できず、自分流に次の反応機構を仮定してみました。
    2Fe ―→ 2Fe2+ + 4e-              (1)
    2Fe2+ + H22 + 2H+ ―→ 2Fe3+ + 2H2O  (2)
    2e- + 2Fe3+ ―→ 2Fe2+             (3)
    2e- + 2H+ ―→ H2                 (4)
反応(1)により、針金付近に鉄(U)イオンができ、針金中に電子が貯まる。鉄(U)イオ
ンは過酸化水素と水素イオンによって反応(2)のように鉄(V)イオンになる。鉄(V)イ
オンと水素イオンでは、前者の方が電子を奪いやすく反応(3)が起こり、鉄(U)イオン

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にもどる。針金付近の過酸化水素が不足してくると、反応(4)が起こって、水素が発生
する。そのとき水素の泡の上昇で過酸化水素が針金付近に補給されて反応(2)が再開さ
れ、水素の発生は停止する。ちなみに水素イオンは移動速度が格段に大きい。そして電子
は針金の中を移動できるので、針金付近に過酸化水素が残っている部分があれば、反応
(3)が起こって水素イオンは電子を奪えない。こうして水素の発生は同時に起こる。
    Fe ←→ Fe2+ + 2e-      0.440V(酸化還元電位)
    H2 ←→ 2H+ + 2e-       0.000
    Fe2+ ←→ Fe3+ + e-     −0.771
 そしてスズも2価と4価のイオンが似た関係にあるので試してみましたが、これはうま
く行きませんでした(ただし大して工夫はしていません)。

酸化還元反応(林まさ)

 講座プラン「酸化剤と還元剤」をつくったので、その中の面白そうな実験を紹介した。
(a)かんしゃく玉
 これまでマッチの刷り面を利用していたが、マッチがあまり使われなくなったので方法
を変更した。両面テープを1cmほどに切り、片側のカバーを外し、赤リンを少量貼り付
ける。もう1枚に塩素酸カリウムを貼り付ける。両者を向かい合わせて重ね、木板で挟ん
で金づちでたたくと爆発した。赤リンが多いと、火の着いた赤リンが飛び出すので注意。
なお残骸はまとめて燃焼させて処理する。
 これは「酸素原子のやり取り」の実験の1つと位置づけており、次の反応が起こる。
    KClO3 ―→ KCl + 3O
    5O + 2P ―→ P25
全体の反応式は次のようになる。
    5KClO3 + 6P ―→ 5KCl + 3P25
     酸化剤    還元剤
(b)ヨウ素の生成と消滅
 2%ヨウ化カリウム水溶液5mLに1%デンプン水溶液1,2滴を加える。これに35
%過酸化水素水1mLを加えると、青色に変化する。それに5%チオ硫酸ナトリウム水溶
液2,3滴を加えると色が消える。しばらくすると再び青色になるので、同じようにチオ
硫酸ナトリウム水溶液を加えると色が消える。これをくり返すことができた。
 これも半分は「酸素原子のやり取り」の実験の1つと位置づけており、次の反応が起こ
る。
    H22 ―→ H2O + O
    O + 2KI ―→ K2O + I2
    K2O + H2O ―→ 2KOH(付随して起こる)

                  - 2 -

全体の反応式は次のようになる。
    H22 + 2KI ―→ 2KOH + I2         (5)
    酸化剤  還元剤
 残りはすこし難しいが、チオ硫酸ナトリウムを加えると、次の反応が起こりヨウ素が還
元される。
    I2 + 2Na223 ―→ 2NaI + Na246  (6)
                      四チオン酸ナトリウム
 ちなみに反応(5)に比べて反応(6)の速度がはるかに大きいので、チオ硫酸ナトリ
ウムが存在する限り実質的にヨウ素は生成しない。このことは「時計反応」に利用されて
いる。
(c)ナトリウムと塩素
 少量の塩素を使い試験管中で実験できるようにした。銅線を密に渦巻きにし、折り曲げ
て燃焼さじにする。試験管にさらし粉小さじ1杯を入れ、濃塩酸1mLを加えてゴムせん
を乗せる。ナトリウムを2mm角に切って燃焼さじに乗せ、バーナーの炎に入れて液体の
玉にし、これを塩素中に差し入れると、発火してオレンジ色の炎を上げ白煙を生じる。反
応後は、燃焼さじは水に浸け、試験管はチオ硫酸ナトリウム水溶液を加えて残った塩素を
処理する。
 これは「酸化数の増減」の実験の1つと位置づけており、次のようである。
      0    0      +1 -1
    2Na + Cl2 ―→ 2NaCl
    還元剤  酸化剤
(d)硫酸酸性の過マンガン酸カリウムと銅
 木板に銅板を置き、クッキングペーパー1枚を載せて2%塩化ナトリウム水溶液6mL
を浸み込ます。試験管に0.005mol/L過マンガン酸カリウム水溶液4mLと(1+
2)硫酸2mLを入れる。セロハンを被せ、クッキングペーパー1枚を載せて試験管の水
溶液を浸み込ます。炭素板を被せて、デジタル電圧計で調べると、銅板が負極になってい
た。
 数分ショートしてから、炭素板を取り除いて上側のペーパーの色を観察すると、赤紫色
が消えて過マンガン酸イオンが変化したことが分かった。またセロハンから上を取り除き、
下側のペーパーを白紙に載せ、濃アンモニア水2mLをかけると、青色になり銅イオンの
生成が確認された。
参考:実験では過マンガン酸カリウムのろ紙が褐色になりましたが、後で確認実験すると
   無色になり、使った炭素板が汚れていたためと考えられます。
 これは「電子のやり取り」の実験の1つと位置づけており、銅板が負極になることから、
銅が電子を与え(還元剤)、硫酸酸性の過マンガン酸カリウムが電子を奪う(酸化剤)こ

                  - 3 -

とが分かる。
  負極  Cu ―→ Cu2+ + 2e-
  正極  5e- + MnO4− + 8H+ ―→ Mn2+ + 4H2
 ちなみに福島さんから、酸化剤の酸素が水になる反応が多いのはどうしてだろうかとい
う疑問が出ました。これはどう考えたらよいのでしょうか。酸性にしているので水素イオ
ンがあるから、とも言えるでしょうか・・・。
(e)亜硫酸と硫化水素
 試験管に2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液3mLと1mol/L塩酸3mLを入れると、
塩酸酸性の亜硫酸の水溶液ができる。木板に炭素板を置き、クッキングペーパー1枚を載
せて試験管の水溶液を浸み込ます。別の試験管に10%硫化ナトリウム水溶液1mLと水
4mLを入れる。セロハンを被せ、クッキングペーパー1枚を載せて試験管の水溶液を浸
み込ます。これに1mol/L塩酸2mLをかけると、硫化水素の水溶液になる。もう1枚
の炭素板を被せて、デジタル電圧計で調べると、硫化水素の側の炭素板が負極になってい
た。
 数分ショートしておいてから、ピンセットで上側のペーパーを50mLビーカーに移し
て絞ると、水溶液が白濁しており硫黄の生成がうかがわれた。また下側のペーパーを別の
50mLビーカーに移して絞ると、これも水溶液が白濁しており硫黄の生成がうかがわれ
た。
 これも「電子のやり取り」の実験の1つと位置づけており、硫化水素の側の炭素板が負
極になることから、硫化水素が電子を与え(還元剤)、塩酸酸性の亜硫酸が電子を奪う
(酸化剤)ことが分かる。
  負極  H2S ―→ S + 2H+ + 2e-
  正極  4e- + H2SO3 + 4H+ ―→ S + 3H2

3D−影絵(船橋)

 1cmほど離した2つの高輝度LEDに偏光板を直交するように被せる。これでフラー
レン模型(モル・タロウ)を照明し、表面に紙ヤスリをかけたアルミ板に影を映す。そし
て偏光眼鏡をかけると影が立体的に見えた。模型をゆっくり回転させると立体構造がいろ
いろな角度から眺められる。白紙に映しても立体的に見えないのは、反射光が偏光ではな
くなるためである。
 氷は水分子がダイヤモンド構造に配列しており、その模型を回転させると、角度によっ
て空洞があることが分かった。
 模型そのものを眺めてもよいわけだが、その影を見るのも面白い。

                  - 4 -

ポスカ3D(船橋)

 黒色の紙に、ポスカ(ポスターカラー)で絵などを描く。専用の3D眼鏡をかけると、
赤、黄、緑、青の順に浮き上がって見えた(赤が一番浮き上がる)。
 意見交換するうちに、眼鏡は回折格子レプリカが縦縞になるように貼ってあると推定さ
れた。1mmに100本程度の粗いもののようである。光の波長 λ と回折角 θ には次
の関係がある。
    dsinθ = nλ(d:格子幅、n:整数)
波長が長いほど、回折角が大きい。つまり赤色は手前に浮き上がって見えるわけである。
なお、混色はよく見えないし、背景が白色でもよく見えない。
 この商品は三菱鉛筆から売り出されたが、すでにナリカ(中村理科)から同様のものが
販売されている。
 そしてこれを今年の科学の祭典の出し物にしてはどうかということになった。黒色の紙
に絵などを描き、眼鏡も自作したら、子どもは喜ぶだろう。
参考:愛知物理サークルでの検討の中で「ブレーズド回折格子」と呼ばれるものが使われ
   ていることが判明しました。これはその断面がのこぎりの歯のようになった回折格
   子で、一方の1次の回折光のみが強調されます。そしてめがねの右眼は左の1次の
   回折光が、左眼は右のそれが強調されるように貼られています。この種の回折格子
   が入手できれば、科学の祭典の出し物にできます。

 他に4D−サプライズというマジック(株式会社テンヨー)も見せてもらいました。こ
れは半透明のプラ板の箱を通してみると、壁の横縞しか見えないが、箱を取り除くとその
前に自由の女神が現れるという趣向である(くわしくは実物に接してください)。半透明
のプラ板は、ある方向には光が散乱されやすく、その直角方向には散乱されにくくなって
いる。
参考:これも物理サークルで、かまぼこ型レンズが縦に並んでいることが判明しました。
   レンズの焦点(焦線と言うべきか)付近からの光は横方向に散乱されやすくなりま
   す。

錯 視(船橋)

 湾曲したプラレール(トミカ)2つを取り出した船橋さん。「同じ長さですね。でも1
つをこうして押し縮めて短くします。」 そして並べて比較すると短くなっていた(よう
に見えた)。「今度は引っ張って長くします。」 並べて比較すると長くなっていた(よ
うに見えた)。
 生徒たちにやって見せると、思わず「すごい!」と叫ぶ。そして自分たちでやってみる
うちに秘密に気付く。
 昔からある錯視ですが、身近なおもちゃを使い、話術とそれらしい仕草が加わると、不

                  - 5 -

思議が拡大します。

糖類の学習(岡田)

 糖類の学習は、構造式が複雑でポイントを捉えにくい。教師の側からは黒板に書くのも
大変である。そこで構造式を拡大コピーしてゴム磁石を着け、黒板に貼れるようにした。
脱水反応する部分を囲む赤丸や、それで形成されるエーテル結合や、生成する水分子も貼
り付ける。これで3種のグルコースやフルクトース、そしてマルトース、スクロース、デ
ンプン(アミロース)、セルロースなどの説明がしやすくなった。後2者については、分
子模型でらせん型や直線型も示した。またビスコースレーヨン、アセチルセルロース、ニ
トロセルロースなどにも応用した。
 まったくのアナログであるが、生徒の受けはよかった。
 私(林)も現役のときは、かなり沢山の黒板に貼り付けるプレートをつくって活用して
いました。それは反応の説明だけでなく、重要事項のプレートもくり返し使っていました。
生徒には印象に残りやすかったと思います。

米粉パンなど(加藤)

 小麦アレルギーの子どもたちに、おいしい米粉パンをつくりたいと研究を始めた。市販
の米粉パンないしその材料のほとんどは、ねばり(二酸化炭素の泡を逃さない)を持たせ
るためにグルテンが追加されていて駄目である。
 ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を使うという情報を得て、試してみ
たところおいしい米粉パンができた。
 HPMCは、セルロース [C672(OH)3]n の単位あたり3つあるヒドロキシ基の一
部が、メトキシ基 −OCH3(これだけだとメチルセルロース 接着剤)や2−ヒドロキ
シプロポキシ基 −OCH2CH(OH)CH2 に置き換わった高分子であり、増粘多糖類の
仲間である。
 なお米粉には添加物が含まれるものが多く、今回はアレルギー専門店(御器所)で入手
した。これから米粉の選別もしていきたい。
 関連して藤井さんから、セルロースは分子がシート状になっていると聞いたという話が
出ました。生物学辞典によると、2本の分子がシート状のペアをつくり、それがさらに束
になってミクロフィブリルを形成しているとのことでした。

 わらを原料にして紙をつくる研究も始めた。わらを煮る(蒸煮)アルカリには木灰(炭
酸カリウムを含む)を使った。ほぐし(叩解 こうかい)も臼を使ってやるつもりである。
 私(林)も授業でわらを原料にした紙づくりをしてきました。蒸煮には水酸化ナトリウ
ムを使い、叩解はミキサーを利用した。そして全員にはがき大の紙を抄かせた(抄紙)。

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(ここまで一時間) 一日自然乾燥すると、うすい緑黄色のわらの香りがする紙ができ上
がりました。

 トレハロースについて知りたい。保水性が高いようである。クマムシは乾燥状態になる
と、グルコースをトレハロースに変えて乾眠する。そして水を得ると、復活して活動を始
める。近年林原(糖化メーカー)がデンプンから安価大量に生産できる技術を開発した。
 トレハロースは、2つのグルコースが1位のヒドロキシどうしで脱水縮合した2糖類
122211 である(岡田さんの教材が役に立った!)。
 ウィキペディアによると、保湿成分として化粧品に使われるほか、加えて上品な甘味の
ため食品添加物にも多用されています。

 また干し柿の白い粉は何だろうかという疑問も出された。
 総合食品事典(同文書院)によると、白粉はグルコース(ブドウ糖)やフルクトース
(果糖)の結晶で、乾燥により濃縮された糖液が表面に浸み出したものです。ちなみに渋
柿の渋味はポリフェノールの1種のタンニン酸で、乾燥により酸化重合して黒変し、不溶
性になって渋味がとれます。

雲の発生(福島)

 「炭酸抜けま栓」という器具がある。炭酸が抜けないというのには疑問があるが、びん
に取り付けて(合わせて約800円)簡単に加圧できる。そこで内部が濡れた状態で線香
の煙を入れ、加圧してから一気に大気圧まで減圧すると雲が発生する。圧力の変化を実感
するために風船も入れておく。また短冊状の温度計(しくみはよく分からない)で温度変
化も観察する。この温度計は熱容量が小さいので、この実験では断熱の圧縮と膨張で数℃
の変化があった。
参考:断熱変化では空気では次の関係があります。
     T2/T1 =(P2/P10.286
   断熱膨張で、T1= 298[K](25℃)、P2/P1=0.8とすると
   T2=280[K](7℃)となります。
混乱を避けるため、生徒には断熱膨張の方のみを見せた。
 関連して、中学の気象分野では水蒸気が水滴になることを凝結と教えられる。そのため
高校の化学で気体が液体になることを凝縮と教えようとすると、定着しにくいという問題
が出されました。凝結とは凝縮と凝固を合わせた表現ではないかという意見も出ました。
 しかし理化学辞典などを調べると、凝結は凝縮のこととあります。(加えてコロイドの
凝集ないし凝析のことでもある。) 新地学教育講座(東海大学出版会)によると、凝固
は凍結と表現されています。したがって用語の不統一というのが現実のようです。これは

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教育にとってはマイナス要因です。




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