(林 正幸)


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q98−011

水の電気分解に電解質を加えるのはどうしてか

質 問
「水の電気分解」で
「水だけではH+やOH-が少ないので電気伝導性を大きくするために、少量の硫酸、水酸化ナトリウムを入れる。これらによって生じるイオンは、電気分解の妨げにならない。」
といろいろものには書いてありますが、なぜ、電気分解に関係のないイオンを入れて電気伝導性が大きくなるのですか?


説 明
 電池もそうですが、電気分解では、電極での反応は教えられても、水溶液がどうなるのかは、あいまいになっていることが多いですね。
 水に硫酸を加えた電気分解について考えてみましょう。電極はどちらも白金で反応しないとします。まず陰極では電子を得る反応が起こりますが、反応物質は硫酸からできた水素イオンになり、次のように変化します。
    2e- + 2H+ ―→ H2  (1)
このとき相手を失った硫酸イオンが生じ、陰極付近の水溶液は負電気を帯びます(正確には「電気的二重層」というものを形成します)。
 次に陽極では電子を失う反応が起こりますが、反応物質は水分子で次のように変化します。
    2H2O ―→ 4H+ + O2 + 4e-  (2)
陰イオンである硫酸イオンも電子を失う可能性はありますが、このイオンは安定で、高校段階では硫酸イオンが反応する例は見当たりません。そしてこのとき反応でできた水素イオンのため、陽極付近の水溶液は正電気を帯びます。
 ちなみに、陽極での反応を次のように説明する場合があります。水は電離して水素イオンと水酸化物イオンができており、陽極では水酸化物イオンが電子を失う。
    4OH- ―→ 2H2O + O2 + 4e-  (3)
そして水酸化物イオンの濃度が低くなる結果、水の電離平衡が次のように右に移動する。
    4H2O ―→ 4H+ + 4OH-
この2つの反応式を積算する(1)と同じ反応式になります。しかし私は直接に(2)の反応式を覚えてくれることを期待します。というのは、硫酸を加えた酸性水溶液中の水酸化物イオンのモル濃度は10^-14mol/l程度で、そこから反応を考えるのは不自然だからです。もちろん水に水酸化ナトリウムを溶かした場合は、陽極では(3)の反応が正しいわけです。ただしこの場合は陰極の反応が次のように変わってきます。
    2e- + 2H2O ―→ H2 + 2OH- + 2e-
わざわざこのようなことを書いたのは、水の電気分解と言っても、場合によってそれぞれの電極で起こる反応が異なっていることに気付いてほしいからです。
 さて話を本題に戻しましょう。上に説明したようにして電極付近の水溶液が電気を帯びることは、そのままでは直ちに電極での反応をストップさせてしまう原因になります。たとえば陽極では付近の水溶液の正電気は、電源(電池など)の正極が電子を奪うことを妨げます。陰極につないだ負極が電子を与えることとて同じです。つまり電極付近の水溶液が帯びる電気を解消する仕組みが存在しないと、電極反応は進行することができないのです。
 するとあなたは、「正電気をもつ水素イオンと負電気をもつ硫酸イオンがたがいに近づいて中和し合えばよい」と答えるでしょう。それはそうなのですが、ちょっと待ってください。液体である水溶液中の分子やイオンはどうなっているでしょうか。それはさしずめ満員電車です。離れたところに友だちを見付けたからといって、おいそれと近づくことができないのです。ここで硫酸や水酸化ナトリウムや硫酸ナトリウムのような電解質の登場です。これらを水に溶かすと、水溶液は至るところに陽イオンと陰イオンが分散します。陽極付近の水素イオンは一歩動いて隣の陽イオンを押します。するとその陽イオンはやはり一歩動いてその隣の陽イオンを押します。このことが次々に起これば、個々ののイオンはすこししか動かないのに、正電気は遠くまで運ばれることになります。つまり玉突き式に電気を送るのです。陰極付近の相手を失った硫酸イオンも同じです。こうして電極反応はスムーズに進行できるようになるのです。ときどき電気分解を次のように図解していることがあります。つまり、水溶液中の陰イオンが陽極に引かれて走って来て反応し、陽イオンが陰極に引かれて走って来て反応する・・・・・。これは大きな誤解です。
 ここで水に硫酸を加えた電気分解の整理をしておきます。硫酸は、まず電解質として水溶液の電気伝導性を高め電極反応をスムーズに進行させます。そして陰極ではそれからできた水素イオンが電子を得て水素になり気体として発生し、付近の水溶液の相手を失った硫酸イオンは、陽極から玉突き式に押されてきた別の水素イオンで電気的に中和されます。他方陽極では水が電子を失って水素イオンと酸素になり、酸素は発生して水溶液の外に出ます。残った水素イオンは陰極から玉突き式に押されてきた硫酸イオンで電気的に中和されます。だから、陰極付近の硫酸は部分的に減少し、陽極付近の硫酸はそれと同じ量だけ増加します。同じ量になることは、反応式(1)を2倍してから反応式(2)と比較してしてください。そしてもし陽極と陰極の間に「隔膜」のようなものがなく水溶液がしだいに混合していく条件の場合には、実質的には水の電気分解になるわけです。


q98−012

現像ってなんですか?

質 問
こんなサイトがあるとはうれしいです。
僕は写真を撮るのが好きです。いつかは自分で現像できるようにもなってみたいです。
それで、質問したいことがあります。
現像するときにいる化学薬品ってなんですか。教科書に少し書いてあったような気がしますが、もっともっと詳しく知りたいです。


説 明
 写真は興味深く、不思議さえ感じますよね。私も高校時代にはプリントなどをしたことがあるし、大人になってからも風景写真や、花や鳥の撮影に夢中になったこともあります。そして最近ではフィルムを使わないデジタルカメラも登場してきました。しかしここでは正しくは「銀塩写真」、それも白黒写真について説明します。
 まずフィルムというのは酢酸セルロースなどの透明シートに、臭化銀(AgBr)などを混ぜたゼラチンを塗り付けたものである。臭化銀は、高校生がよく知っている塩化銀と同様に水にほとんど溶けない物質で、小さな結晶粒子として分散されている。(酢酸セルロースやゼラチンは「高分子化合物」で出てくる。)  撮影すると、光の当たった結晶粒子ではわずかに次のような反応が起こり、
    Ag+ + e- ―→ Ag  (1)
数個の銀原子が集合した「潜像核」と呼ばれる部分ができる。ここでe-は電子を表すが、くわしい仕組みは現在でも分っていない。このように光でひき起こされる化学変化は光化学反応と言う。ちなみに塩化銀の白色沈でんが、太陽光にさらされると紫色を帯びてくることは知っているだろうか。
 さてこのままでは画像は潜んでいて見えないので、「現像」という操作をする。撮影したフィルムをハイドロキノンなどの還元剤の水溶液に浸けると、潜像核をもつ臭化銀の結晶粒子の中では(1)の反応が進行して、銀の粒子となって目に黒色に見えるようになる。これに対して潜像核をもたない結晶粒子では反応が起こりにくい(そのように還元剤を選んでいる!)。同じ反応式で表されていても、還元剤を使う化学変化の仕組みの方はよく分っている。まだ「酸化と還元」について学習していないかもしれないが、還元剤とは相手物質に電子を与えるものである。そして銀イオンが還元されて銀になると言える。この反応はアルカリ性で起こりやすく、現像液には促進剤として炭酸ナトリウム(Na2CO3)などが加えられている。(もし、かがみ(銀鏡)をつくる実験をする機会があれば、そのときもアルカリ性の条件になっていることに気付くであろう。)また温度も影響するので20℃弱に指定されている。ハイドロキノンは「有機化学」を勉強すれば、C6H4(OH)2と表される「フェノール類」である。それから銀粒子は銀白色と思うかも知れないが、金属の微粒子は黒色になるのである。そして適切に現像ができたら、(氷)酢酸(CH3COOH)の水溶液に浸けて酸性にして反応を停止させる。
 続いて「定着」という操作をする。このままでは潜像核ができなかった結晶粒子が光化学反応を起こすので、未反応の臭化銀を取り除く必要がある。現像停止させたフィルムをチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3 写真ではハイポと呼んでいる)の水溶液に浸けると、次のようないくつかの反応が起こって
    AgBr + 2Na2S2O3 ―→ Na3[Ag(S2O3)2] + NaBr
ビスチオスルファト銀酸ナトリウムなどに変化する。この物質は「錯イオン」の学習で出てくるが、水に溶けやすく、フィルムから離れていく。このときゼラチンが軟化溶出しないように、定着液には硬膜剤としてミョウバンなどを加えることがある。そしてその後の変色を防ぐために,続けて水洗いをする。
 こうしてできるフィルムはネガ(ネガティブ)と言い、光の当たった部分が黒くなっている。そこで「プリント」という操作をする。この原理は以上の操作をもう一度くり返すのである。つまり集光したライトをネガを透過して印画紙に当てる。ネガと印画紙を離すほど画像は引き伸ばしされる。そして印画紙を現像、定着する。こうしてもとのフィルムで光のあたった部分が透明に、つまり印画紙の白色に、光の当たらなかった部分が黒色になったポジ(ポジティブ)の画像が得られる。
 これが写真の原理だが、「ポラロイド」のような変形型もある。


q98−013

沸点上昇度が質量モル濃度に比例するとはどういうことですか

質 問
 モル沸点上昇度についての質問です。質量モル濃度に比例するとは、どういうことですか。

説 明
 沸点上昇と凝固点降下を合わせて説明しましよう。
 純粋な物質の多くは、ある決まった凝固点(融点)や沸点(1atmの下で)を持っている。たとえば水は凝固点が0℃で、沸点が100℃である。とりあえず、注目している物質、言い換えると溶媒は、水であるとして話を進める。ところがそれに不純物が溶解すると、凝固点は低くなり沸点は高くなる。ただし沸点上昇に関しては、その不純物が不揮発性であるという条件が付く。そして純粋な物質との差を、凝固点降下度および沸点上昇度と呼び、△Tで表す。これらの数値はもちろん不純物の種類や濃度によるのだが、希薄溶液の範囲では、近似的に不純物の種類にはよらずその質量モル濃度(mで表す)に比例することが見出されている。
    △T = Km
この関係式の比例定数Kがモル凝固点降下および「モル沸点上昇」と呼ばれる数値で、水の場合は
      モル凝固点降下  1.858
      モル沸点上昇   0.521
である。したがって、モル沸点上昇は水に不純物が質量モル濃度でちょうど1[mol/kg]だけ溶解したときの沸点上昇度であると言える。ただし実際にはそれほど濃厚な溶液では上の関係式が成立しなくなるので、あくまで考え方として理解する必要がある。ちなみに質量モル濃度とは、溶媒(ここでは水)1kg当たりに溶解してる溶質(ここでは不純物)の物質量、つまりモル数で表されるものである。そして凝固点降下や沸点上昇では、実際に存在する粒子数を使うと上の関係式が成立することが分っている。だからたとえば塩化ナトリウム(式量=58.5)では、その5.85gを水1kgに溶解した場合は、電離したイオンの物質量を使うので
    NaCl ―→ Na+ + Cl-
その質量モル濃度は0.2[mol/kg]とすることに注意しよう。
 とくに凝固点降下という現象は、物質の確認や分子量の測定に利用できる。たとえば自分の手で合成した白色鱗片結晶が本当にアセトアニリドかどうかは、その一部を試薬として購入したアセトアニリドと混合して、その凝固点(融点)が本来の115℃を示すか調べればよい。もし違う物質なら凝固点降下が起こるはずである。分子量の測定に関してはいくつも問題例があるので省略するが、有機化合物の分子量の測定にはよく樟脳(カンファー)が利用されることを付け加えておく。樟脳は凝固点が179.5℃で、そのモル凝固点降下が40[K・kg/mol]という大きい数値であるから、普通の水銀温度計でかんたんに測定ができるためである。また凝固点降下は解離度や会合度を測定するのにも使うことがある。
 そのほかに凝固点降下を利用する例としては次のものがある。
(1)氷に食塩を加えてかき混ぜると、食塩水の凝固点降下になって−10℃以下の温度がかんたんにつくれる。
(2)凍りついた道路に塩化カルシウムなどの凍結防止剤をまくと、凝固点が低くなって氷が融解する。
(3)自動車のラジエーターに使う水は、冬期に0℃以下になっても凝固しないように、エチレングリコールなどの不凍液を加える。
(4)スズは鉄や銅と合金を作りやすい、つまり接着しやすいが、高価である。スズのの融点は232℃であるが、これに鉛を混ぜるとスズの接着性を損なわずに融点を、それと価格を、低くすることができる。これがハンダで、スズ60%のものはその融点が183℃になる。
 凝固点降下や沸点上昇の原理は「化学平衡」の理論を学習すると理解しやすい。なお質量モル濃度の背景には、高校では教えないが「モル分率」という濃度がある。


q98−014

キサントプロテイン反応とビウレット反応

質 問
こんにちは!はじめまして。
キサントプロテイン反応とビウレット反応についてわかりません。
教えて下さい。


説 明
 質問の反応はどちらも、タンパク質に特徴的なものである。タンパク質は多数のα−アミノ酸が脱水縮合してできる高分子化合物である。アミノ酸はアミノ基(−NH2)とカルボキシル基(−COOH)を合わせ持つ化合物で、酸としても塩基としてもはたらくおもしろい物質である。天然のたんぱく質は、アミノ基とカルボキシル基が同一の炭素原子に結合しているα−アミノ酸からできており、かつその炭素原子にはひとつは水素原子が結合しているという特徴がある。だからそれらは次のように表現できる。
        H
        |
     H2N−C−COOH
        |
        R
いくつかのアミノ酸についてRの部分を紹介しよう。
    グリシン    R=H
    アラニン     =CH3
    グルタミン酸   =CH2CH2COOH (このアミノ酸は2つのカルボキシル基を持つ)
    システイン    =CH2SH (このアミノ酸は硫黄原子を含む)
    フェニルアラニン =CH2C6H5 (C6H5はベンゼン環である)
 さてα−アミノ酸が脱水縮合するとペプチド結合と呼ばれる次の部分がたくさんできる。
    −CONH−
つまりタンパク質はペプチド結合をたくさん持ち、この間にできる「水素結合」によって分子はらせん状になる。ビウレット反応は、たんぱく質の水溶液を水酸化ナトリウムでアルカリ性にして、硫酸銅水溶液を加えると紫色になる変化である。これは銅イオンがペプチド結合と「錯イオン」を形成して発色するのであり、一般的にはペプチド結合が3つ以上接近して存在すると起こる。だからたんぱく質に特徴的な反応と言える。しかし名前の由来のビウレットという化合物は、H2NCONHCONH2という化学式を持ち、まさしくビウレット反応を示す。だからビウレット反応を示せばそれだけでたんぱく質であると判断するのは早計である。
 キサントプロテイン反応は、タンパク質の水溶液に濃硝酸を加えて加熱すると黄色になる変化である。さらに水酸化ナトリウムなどを加えてアルカリ性にすると橙黄色になることを含めることもある。これは指や爪にに硝酸が着いたことを気付かずに放置すると黄色くなるので、化学の実験をしている人にはお馴染みの反応である。どのタンパク質も多種のアミノ酸からできており、この反応は、フェニルアラニンのようなアミノ酸のベンゼン環が硝酸によってニトロ化されることによって発色する。高校でよく出てくるニトロ化は、ベンゼンと濃硝酸、それに触媒としてはたらく濃硫酸を振り混ぜて、次のようにニトロベンゼンを合成するものである。
    C6H6 + HONO2 ―→ C6H5NO2 + H2O
ニトロベンゼンそのものは無色の化合物だが、より多くニトロ化されたものも副製して、黄色になる。こんなわけでタンパク質がキサントプロテイン反応を示すことは正しいが、その逆は成り立たない。ちなみに、プロテインの部分はタンパク質のことである。
 最後に、タンパク質を勉強するなら、この種の反応に留まらず、難しくはあるが分子の様々な構造やそれにもとづく生理的性質の一端にでも触れるように期待します。


q98−015

どうして水の沸点はフッ化水素より高いですか

質 問
 どうして,フッ化水素と水の沸点では水の方が高いのでしょうか。
分子量も,水素結合の結合エネルギーもフッ化水素の方が高いと,参考書に書いてありましたが・・・


説 明
 水素結合は、分りやすく言うと、水素・フッ素結合、水素・酸素結合、水素・窒素結合をもつ分子の間にはたらく特別に強い分子間力で、そしてこの順に弱くなる。水素・フッ素結合をもつ分子はフッ化水素しかないが、水素・酸素結合は水の他にアルコール類などが、そして水素・窒素結合はアンモニアの他にアミン類などがある。そして分子間力の方は、水を例にすると次のようである。
  (1)ロンドンの分散力(引力)        2 kJ/mol(分子1molあたり)
  (2)双極子による引力           10
  (3)デバイの誘起された双極子による引力   1
  (4)水素結合(引力)           20
ロンドンとデバイはその力を発見した科学者である。(1)はどんな分子にも備わっている引力で、分子量が大きくなると強くなる。(2)と(3)は極性がある分子に伴う。(1)〜(3)を合わせてファン・デル・ワールス引力ないしファン・デル・ヴァールス引力と言う。
 さて水素結合だが、多くの教科書が分子の極性から説明をしているが、それは正確ではなく、水素結合には配位結合も含まれている。力の源に深入りするのは避けて、ここではフッ化水素、水、アンモニアについて質問に答える立場から説明する。共有結合を思い出すと、フッ化水素には1つの水素・フッ素単結合とそのフッ素原子に3つの非共有電子対がある。水には2つの水素・酸素単結合とその酸素原子に2つに非共有電子対がある。アンモニアには3つの水素・窒素単結合とその窒素原子に1つの非共有電子対がある。水素結合は水素原子と他の分子の非共有電子対の間にはたらいて、しかも非共有電子対の向き(分子の形が共有結合つまり共有電子対の向きないし角度から説明されるが、これと同じように非共有電子対にも向きがあるのだ)と水素がつくる共有結合が一直線になるように形成される傾向がある。
    H―O・・H―O  の  O・・H―O
      |    |
      H    H
だからフッ化水素分子はジグザグの鎖状に連結し、水分子は立体的に正四面体の中心からその各頂点に向かう方向に連結する。このことからすると3種の分子がすべての水素結合を形成するなら、1分子あたりでは、アンモニアは1つ、水は2つ、フッ化水素は1つになる。これで3種の物質の沸点の大小関係が一応説明できる。
    フッ化水素の沸点     20 ℃
    水の  〃       100
    アンモニアの 〃    −33
 しかし事態はそれほど簡単ではない。たとえば気体のフッ化水素分子はHFだけでなく、かなりのH2F2などが含まれれている。つまり沸とうするときに切れた水素結合はHF分子1つあたりでは0.5こになり、沸点は低くなる。ところが沸とうする分子H2F2の分子量は2倍になり、その意味では沸点は高くなる。それに温度が高くなるにつれて、液体の分子どうしの水素結合は部分的に切れていく。
 これ以上の補足は止めるが、物質のもつ性質は複雑なものであり、最後に、あなた自身がより深く勉強していく姿勢を修得することを期待する。


q98−016

どうして分子量が大きいと分子間力も大きいのですか

質 問
 参考書などを見る限り、一般的に分子量が大きいと、分子間力も大きい(水素結合などは別)。すると、沸点・融点も高くなる。
 分子間力は分子同士が接近したときだけ作用し、分子間の距離が大きいときはほとんど作用しない
->固体・液体・気体についてはこのように書いてありました。しかし、これは融点・沸点でも同じ事が言えるのでしょうか?
 分子間力が大きい->沸点・融点が高い はなんとなく分かるのですが、
分子量が大きい->分子間力が大きい 理由が「データより」以外にないのでしょうか?


説 明
 日常的な世界で見られる物体と物体の間に作用する力では、重力(万有引力)はその大きさが2つの物体の距離が離れると次第に小さくなり、正確には距離の2乗に反比例することを知っている。これに対して手で机を押したときなどの「抗力」は、手が離れた途端に作用しなくなる。
 分子間にはたらく引力には主に
  (1)ロンドンの分散力(引力)
  (2)極性による電気的引力
  (3)水素結合(引力)
があり、この順に強くなる。そしてこれらの作用の仕方は抗力の方に似ている。分子間力は分子どうしが離れると急激に弱くなり、無視して構わなくなる。ちなみに、分子どうしは接近し過ぎると大きな斥力がはたらく。
 さて本題に移って、「分子量が大きいと分子間力も大きい」ことについて説明する。実はこれは(1)に限った話である。極性を持ったり、水素結合をつくる分子では、それが支配的になる。そしてロンドンの分散力(ロンドンとはこの力を研究した科学者の名)はすべての分子にはたらく引力である。この力は本来は「量子力学」と呼ばれる理論で理解すべきものだが、高校生に分るように翻訳すると次のようである。
 分子はいくつかの原子が結合してできており、各原子は原子核とそのまわりを運動する電子からなり、瞬間々々は分子の極性の場合と似た、正電気と負電気が離れて存在する状態にある(時間をならして見れば、電子の負電気の位置は原子核の正電気に一致する)。これが近くの分子中の原子にも影響を及ぼして、互いに正電気の近くには負電気(電子)が負電気の近くには正電気(原子核)が存在できるように作用する結果、分子間に引力がはたらくことになる。分子間にはたらく引力が万有引力と誤解する向きもあるが、これは分散力と比べれば無視できる。
 こうして分散力は、たくさんの原子からできている分子の方が、より多くの部分でその作用が生じるので大きくなる。またひとつの原子で見ても、大きくて原子核と電子が離れているほどその作用が届きやすい(小さい原子ほど、すこし離れると原子核と電子は一体化して見える)。こんなわけでおよそのこととして、「ロンドンの分散力は分子量に比例して大きくなる」と言える。分子間力が大きいほど、それを振り切った気体状態になるのに、大きな熱運動を必要とする。つまり高い温度で沸とうする。融解についても同じようなことが言える。




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