(林 正幸)
q98−001
水素結合と沸点 & 濃度および温度と電離度
質 問
水素結合なんですけど、なんで、沸点・融点が高くなるのか、教えて下さい。また、沸騰するとは分子レベルでみたらどのようになっているのですか?
あと、電離度についてなんですけど、濃度が小さくなると電離度が大きくなり、高温であるほど電離度が大きくなるのはなぜですか。
説 明
沸とう(蒸発)という変化は分子レベルで見ると、ひしめくように寄り合っていた分子どうしが、1個々々バラバラの分子になることです。これには、熱運動によって水素結合のような分子間力を振り払うことと、それぞれの分子が広い空間にバラバラに配置することが含まれています。後者は難しい言葉で言うと「エントロピー」という量に関係しますが、これあまり深入りしません。
分子どうしにはお互いに引き合う分子間力がはたらいており、これは温度の影響をほとんど受けません。と同時に、分子は熱運動をしていてバラバラになっていく可能性をもっています。こちらは温度が高くなるにつれて激しくなります。もっと正確に言うと、温度の方が熱運動の激しさを表す数値なのです。なお「激しさ」は便利な言葉ですが、厳密には「1自由度あたりの運動エネルギー」などと言います。
さて液体は、分子間力が熱運動を上回っている状態です。そして温度が高くなると熱運動が激しくなって行きます。そしてついに熱運動が分子間力を越えようとします。この温度が沸点なのです。このように沸点は何より分子間力に左右されます。沸点が高いことは分子間力が大きいことを意味します。
分子間力には数種ありますが、水の場合は次のようです。
(1)ロンドンの分散力(引力) 2 kJ/mol(分子1molあたり)
(2)双極子による引力 10
(3)デバイの誘起された双極子による引力 1
(4)水素結合 20
ロンドンとデバイはその力を発見した科学者です。(1)はどんな分子にも備わっている引力で、分子量が大きくなると強くなります。(2)と(3)は極性がある分子に伴います。(1)〜(3)を合わせてファン・デル・ワールス引力ないしファン・デル・ヴァールス引力と言います。(4)が質問の水素結合で、主にO−H、N−H、F−Hという結合を含む分子に固有の引力です。これは他の3つの引力より強いもので、共有結合のような化学結合に近い性質を持っています。なお力の大きさをエネルギーの単位で表している点については、「結合エネルギー」のことが分れば参考になります。
以上のように、水素結合は分子どうしを大きい引力で引き合わせます。水の場合はそれが1分子あたり2つずつはたらきます。次の3つの沸点を見てください。
分子量 沸点(℃)
水(H2O) 18 100
メタノール(CH3OH) 30 65
メタン(CH4) 16 −164
メタノールは分子量がやや大きくて沸点が水に近づいています。そして水は極性が大きいことも沸点を押し上げています。
これには、化学平衡(化学Uの内容)を学習しているという前提で回答します。
ルシャトリエの平行移動の原理は次のようです。
「化学的変化が平衡状態にあるとき、その濃度、圧力、温度などの条件を変化させると、その変化を和らげるように平衡が移動する。」
そして平衡状態における各濃度の間には質量作用の法則が成り立ちます。酢酸の電離を例に取ると
CH3COOH ←→ CH3COO- + H+ (1)
[CH3COO-]×[H+]/[CH3COOH] = K(温度が変わらない限り一定の数値)
です。ここで[CH3COO-]は酢酸イオンのモル濃度を意味します。
さて電離度は次の次のように計算できます。
[H+]/([CH3COOH]+[H+])
ただし電離度の変化が問題になるのは弱電解質であって(強電解質の場合は測定法の上で電離度が1でなくても、もともと100%電離している)、[CH3COOH]に対して[H+]を無視できることが多いのです。そのとき電離度は
[H+]/[CH3COOH]
になります。これは質量作用の法則から
K/[CH3COO-]
に等しくなります。酢酸の濃度が小さくなるほど[CH3COO-]も小さくなるので、反対に電離度は大きくなります。
数式が苦手なら、直観的に次のように理解しても構いません。つまり、酢酸が水に溶けて(1)で表される電離平衡が成立しているとします。そこに水を加えると、酢酸分子も水素イオンも酢酸イオンも同じように薄められます。すると右辺の濃度の減少は2重ですからその影響が大きく、ルシャトリエの原理によって平衡は右に、つまり電離度が高くなる向きに移動するのです。
次に温度の影響です。電離は化学結合を切る変化です。これはエネルギーを必要とします。つまり電離反応は吸熱変化のはずです。ルシャトリエの原理は温度を高くすると、吸熱の向きにつまり電離度が大きくなる向きに平衡が移動することを教えてくれています。しかしこの説明も弱電解質に限定したもので、背景にイオンの水和の問題などがあります。
q98−002
たんぱく質と酢酸鉛の反応
質 問
僕は高校三年生です。先生の書いたページを見ていて疑問に思ったところがあります。
それは、「タンパク質を調べる」のところで、卵白水溶液に酢酸鉛水溶液を入れると、白く凝固もしますが、溶液は黄色になりませんか? 僕が実験した時に溶液が黄色になりました。酢酸鉛水溶液を加えただけで加熱はしていません。PbSは黒ですよね。では、なぜ酢酸鉛水溶液で溶液が黄色になるのでしょうか?
ぜひ教えてください。お願いします。
説 明
たんぱく質にはメルカプト基(−S−H)やジスルフィド基(−S−S−)という形で硫黄元素が含まれています。これは酢酸鉛と反応して黒色沈殿の硫化鉛(PbS)を生成します。そしてこの反応は水酸化ナトリウムなどを加えたアルカリ性で、さらに温度を高くすると、起こりやすくなります。実際の検出でもそのように実験します。
それから、たんぱく質は重金属イオンに出会うと「変性」を起こして白色に凝固したりします。酢酸鉛の中の鉛イオンもそうなります。
だから、卵白水溶液に酢酸鉛水溶液を加えた段階で「変性」を確認し、続いて水酸化ナトリウム水溶液を追加して加熱した段階で硫黄元素の存在を確認できます。
あなたの場合は第2段階の始めのあたりまで反応が進行しているのではないでしょうか。というのは、黒い物質もその粒子が小さいときには黄色や赤色になるからです。
色という現象は複雑なものです。物質の色はふつうは次のように生じます。太陽のような白色光が当たると、それぞれの物質はある色の光を吸収し、残りの色を反射します。私たちはその「残りの色」を物質の色として見ているのです。紙はすべての色を反射するので白色に見え、炭はすべての色を吸収するので、暗くつまり黒く見えます。葉緑素は赤系統の光を吸収してそれを光合成のエネルギーに利用するので、葉は残りの緑系統に見えるのです。
しかし物質が微粒子として空気中や水中に存在する場合は別の色の世界になります。分子やイオンのような小さい粒子は、光を透過、つまり素通りさせやすいのです。ところが粒子が大きくなるにつれて波長の短い、つまり紫や青色の光から透過しにくくなります。そのときでも波長の長い、つまり黄や赤色の光は透過できます。だから黒色の粒子が沈殿として成長していく過程では、紫や青色は吸収し、黄や赤色は透過させる段階があります。そして粒子が十分に大きくなってしまえば、黒色になるわけです。これは自動車のホッグランプに黄色を、ほこりっぽいトンネル内の照明にナトリウムランプのオレンジ色を、使用する理由になっています。
以上ですが、もしあなたが酢酸鉛を加えただけで、水酸化ナトリウムを追加したり、加熱することをしていなければ、黄色になった反応液を、続けて処理してみてください。それで疑問が残ればまたメールをください。
q98−003
二酸化炭素の海水への溶解
質 問
海水はなぜに酸化炭素を溶かしやすいのかという問題を化学平衡の理論を用いて答えなさいと言う問題に悪戦苦闘しています。もしよろしければ、ヒント、またはどのような文献を参考にすればいいかなど教えていただけたら幸いです。
説 明
まず、大気中の二酸化炭素が水に溶解する「溶解平衡」があります。
CO2 + aq ←→ CO2aq
ここでaqは大量の水、CO2aqは溶解した二酸化炭素を表します。そして質量作用の法則は次のようになります。
[CO2aq]/[CO2]=K
ここで[CO2aq]は水溶液中の二酸化炭素のモル濃度を、[CO2]は空気中の二酸化炭素のモル濃度を表し、そしてKは平衡定数です。ちなみに二酸化炭素の溶解度が小さいため、水のモル濃度はほぼ一定となり、その数値は平衡定数に組み込めるのです。これは溶解が終わったときの水溶液中の二酸化炭素濃度と、そのとき空気中に残留する二酸化炭素濃度の比が一定であることを示しています(これはヘンリーの法則を言いかえたものです)。海水の量が少なければ、海水中の二酸化炭素濃度はすぐに高くなって、大気中の二酸化炭素濃度も高いままに維持されます。しかし海水の量は膨大であるため、人類が大量の二酸化炭素を放出しても、大気中の二酸化炭素濃度は低く抑えられるのです。もし二酸化炭素が海水に溶解することがなければ、大気中の二酸化炭素濃度は毎年2ppm以上増加するが、それが1.3ppmに抑えられているそうです。
さらに海水中では次の平衡があります(炭酸水素イオンを介在させた複雑な表現もあります)。
CO2aq + H2O ←→ 2H+ + (CO3)2-
ここでH+と(CO3)2-はaqを付けていませんが、イオンですからもちろん海水に溶解した状態です。これは二酸化炭素が炭酸としてはたらくことを表しています。この平衡が右に移動しても海水中の二酸化炭素濃度が低く抑えられます。
海水はわずかにアルカリ性になっています。海水の塩分は地表の鉱物が水に溶け出して流れ込んだもので、それが全体としてアルカリ性なのです。だから次の反応で水素イオン濃度を低くします。
H+ + OH- ―→ H2O
また海にはサンゴ虫などが住んでいて、次の反応でできる炭酸カルシウムを海水中から体内に取り込み珊瑚などを形成しています。この一部は石灰岩になっていきます。
Ca2+ + (CO3)2- ―→ CaCO3
だたしこちらの方は短期には効果が現れにくいことです。
以上、適当な本が見つかりませんでしたので、私の考えを書きました。
q98−004
pHが1.45の温泉に入れるか?
質 問
今回、お手紙を差し上げますのは、大学の研究室で話題となっている高校化学の疑問を解決していただきたいのです。その疑問とは
「なんで、温泉には入れるの?」
です。
先日、蔵王の温泉にいきましたところ、その温泉はpHが1.45だそうです。私の感覚では、pHが1.45だと体が溶けてしまう気がします。
高校の教科書などを読み直しましたが、疑問は解決されないばかりか深まるばかり。
「pHはマイナスの値もとれる?」
ような気もしてきました。だって、水素イオンの濃度が1[mol/l]を超えれば、pHはマイナス・・・?
説 明
私の2人の仲間の協力によって、返事ができることになりました。「pHが1.45の温泉に入れるか」私は半信半疑でした。このpHは胃酸と同じ酸性度です。胃の調子が悪くて胃酸がこみ上げて来るときの、あの喉が焼けるような感覚からすると、そんな温泉には入れないのではないだろうか。たしかに皮膚は酸にはかなり強いと言われるが、そんな水が目に入ったりしたらたいへんではないだろうか。女性が顔にレモンパックをすることがあるようだが、レモンのpHはお尋ねの温泉より1ほど大きい、つまり10分の1の酸性度である。こうして、あなたのメールをアルケミストの会のメンバーに転送したのです。
<山本さんの返事>
pHがかなり低い温泉になぜ入れるかということですが、私
の感覚では、pHが1くらいなら、タンパク質はそんなに簡単に分解されないの
ではないかと思うのです。「酸と塩基」の授業で毎年行うのですが、1モル濃度
くらい(学校に行かないとはっきりした濃度は分からない)の塩酸と水酸化ナト
リウム水溶液を、200mlビーカーに半分くらいずつとって、その中に豚肉や
ゆで卵(しろみ)、髪の毛などを入れてグツグツ煮る実験をします。そして、水
酸化ナトリウムに入れた方はほとんど分解されて、固形物が全く残らないのです
が、塩酸の方はほとんど溶けないという結果を見せ、「アルカリはタンパク質を
溶かす」ということを印象づけます。
こんな実験の経験から考えて、pHが1.45くらいで、35〜36℃くらい
の温泉では、タンパク質は溶けないと思うのです。ただ、酸によるタンパク質
(特に皮膚や髪の毛)の加水分解が温泉の温度で、どの程度起こるのか、文献に
あたったわけではありませんので、私の感覚が間違っているのかも知れません
が。
<以上>
<四ケ浦さんの返事>
林さんの温泉の件ですが,私が昨年7月にフィ-ルド調査にいった薩摩硫黄島も強酸性
泉(硫酸酸性)が多量に湧出しているところの1つです.私が入浴したのはpH1.2でし
た.かなりしみましたが,何とか入浴できました.顔を洗っても目も大丈夫でした.
表面の粘液が守ってくれるのだろうと思いますが,詳しいことはわかりません.ここ
で湧出する温泉が酸性になるのは火山性ガスが天水と混合するためで,この酸性泉が
周囲の岩石から陽イオンを溶脱するため,温泉水は岩石の組成に等しい陽イオンを含
有しています.この薩摩硫黄島には鬼界カルデラのカルデラ壁が横切っていて,同じ
硫黄島でもカルデラ壁の内側は酸性,外側はほぼ中性の温泉が湧出しています.
<以上>
そして残っている次の質問に答えておきます。
「pHはマイナスの値もとれる?」
pHはふつう0から14までの数値を扱います。それはこのpHつまり水素イオン指数が、水のイオン積が一定であることに根ざしているからです。これはさらに次の化学平衡に関する
>
H2O ←→ H+ + OH-
質量作用の法則である次に関係式
([H+]×[OH-])/[H2O]= K
において、希薄溶液では[H2O]つまり水のモル濃度はほぼ一定で55.6mol/lであることから導かれています。つまり1mol/lを越えるような高い濃度ではpHを扱う意味がぼやけてくるのです。
q98−005
水銀が常温で液体なのはどうしてですか
質 問
水銀が、常温で液体なのはどうしてですか。
(何故、他の金属元素と違い融点が低いのですか。)
詳しく教えて下さい。
説 明
質問を受けて、私自身がよく分らなかったので、あれこれ勉強していて、返事が遅れました。
物質の融点や沸点は、その物資を構成している原子、分子、イオンといった粒子がどれくらい強く結び付いているか、を反映しています。つまり、粒子の結びつきが弱いと、融点や沸点は低くなります。周期表の第6周期の元素について、その単体の融点と沸点を順に並べてみます。
族 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
Cs Ba La Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi
融点 29 725 920 2150 2996 3387 3180 2700 2447 1772 1064 -39 303 328 271
沸点 690 1637 3469 5400 5425 5927 5627 5500 4527 3827 2966 357 1457 1744 1560
(単位:℃)
これで水銀の融点の低さが他の元素との関係でつかめます。
さて金属元素は、その価電子が自由電子となってすべての原子に共有されることによって金属結合を形成します。そのことをもうすこし深く見てみます。原子核のまわりの電子殻はK、L、M、N、O・・・殻と呼ばれて層状になっています。そしてそれらはさらに細かいs、p、d、f・・・軌道と呼ばれる副殻からできています。s軌道は1つで2個の電子が入れます。そしてp軌道は3つで6個の電子が、d軌道は5つで10個の電子が、f軌道は7つで14個の電子が入れます。原子番号が増えるにつれて電子はエネルギー準位の低い軌道から入っていきます。その様子は、たとえばポーリングの「一般化学」の第5章を参照してください。あるいはすこし分かりにくいのですが、あちこちの本に載っている「原子の電子配置表」を見てください。金属結合は価電子が「ほぼ同じエネルギー準位の空いた軌道」に次々に移動して共有結合をつくっていくのです。
第6周期では6s、4f、5d、そして6pの順に電子が入っていきます。このうち前の3つはエネルギー準位が似ているのです。だからセシウムからしばらくの元素は容易に金属結合を形成します。そして価電子が増えるにつれてその結合も強くなります。そして水銀までくると前の3つの軌道はすべて完成します。完成した軌道は安定化します。つまり水銀が電子を送り込んで利用すべき6p軌道はかなりエネルギー準位が高く、金属結合はつくりにくいのです。言い換えると、水銀は希ガスに似た安定性を持っているのです。だからその右のタリウムは1族元素に似て、やはり融点や沸点が低くなります。類似のことは第5周期のカドミウム、第4周期の亜鉛にも見られます。
以上ですが、あなたが言うような「詳しく」十分な説明にはなっていないと思います。より踏み込んだ理解は、これを手がかりに専門書で調べてください。
q98−006
地球環境をどのように把握していけばよいか
質 問
私は都内の高校の1年生です。
学校のレポートで
「地球環境の成り立ちを元素や物質の観点から記述し、人間を含めた地球環境の今後について論じなさい」
というのがあるのですが、どのようなものを書けばよいのかと悩んでいます。
良い参考文献もしくは参考になるホームページなど教えてください。
説 明
なかなか難しそうな課題ですね。まず私たちが住んでいる地球がどのような元素や物質からできているかは、先生に頼んで「地学」の教科書を調べてみてはどうでしょう。「環境」というのですから、地球の表面が問題で、それは「地殻」、川・海・地下水などの「水圏」、「大気」に分けて考えます。
地球環境を考えるキーワードは、「循環」と人間を含めた「生物」です。つまり地球環境が維持継続しているのは、生物が元素ないし物質を循環させる形で利用しているからです。このあたりは「生物」の教科書を調べてください。
ところが、地球上に人間が登場して、とりわけ産業革命以来のこの200年の間に、それを無視した活動をしました。その結果どんな問題が起きているのでしょうか。
大気ではオゾン層の破壊や地球の温暖化が話題になっていますが、そのほかにも大気は窒素酸化物などさまざまな物質で汚染しています。水圏と地殻では、ダイオキシン汚染が話題になっています。これは「生物濃縮」(生物の教科書を参照)によって人体にホルモン撹乱などの被害を及ぼします。しかしこの種の問題は枚挙にいとまがなく、水銀汚染による水俣病、カドミウム汚染によるイタイイタイ病、DDTなどの農薬による生物の絶滅、洗剤など生活廃水による湖や内海の富栄養化などがあります。また家庭のごみや産業廃棄物が水圏や地殻の環境を破壊しています。それに原子力発電所から出る放射性廃棄物の問題もあります。
さらに地殻を中心に資源の乱掘があります。石油・石炭・各種の鉱物・森林などを使い捨てにしています。これは上記の環境汚染や破壊の根源でもあります。
私たちはたいへんな課題を抱えて21世紀を迎えようとしています。最近「持続可能性」ということが叫ばれています。言うまでもなくこれは「循環型」でなければなりません。
調べること、考えることは山ほどあります。この文章を参考にして図書館や書店などに立ち寄り、ひとつでもふたつでも勉強していこうではありませんか。
q98−007
ヨウ素酸カリウムと亜硫酸水素ナトリウムの反応
質 問
解らないのは、0.05mol/lのヨウ素酸カリウムと、0.002mol/lの亜硫酸水素ナトリウム(でんぷんをふくむ)を反応させたとき、何対何で反応するのか、またその時の化学反応式です。
説 明
この反応はかなり複雑です。というのはヨウ素酸カリウム KIO3 と亜硫酸水素ナトリウム NaHSO3 が反応すると、まず次のようにヨウ化物イオンができるのですが、
IO3 - + 3HSO3 - ―→ I- + 3HSO4 - (1)
それに続いて、ヨウ素酸カリウムは次のようにヨウ化物イオンをヨウ素に酸化しようとし、
IO3 - + 3H2O + 5I- ―→ 3I2 + 6OH- (2)
これに対して亜硫酸水素ナトリウムは次のようにできたヨウ素を再びヨウ化物イオンに還元して戻そうとするからです。
I2 + H2O + HSO3 - ―→ 2I- + 2H+ + HSO4 - (3)
そして競争では(3)が(2)より優っています。
だから亜硫酸水素ナトリウム水溶液にヨウ素酸カリウム水溶液を滴下していく場合は
全体として(1)の反応が起こります。ちなみに(2)と(3)の反応が続けて起こるとして、それを積み算すると結局は(1)の反応になることにも注意してください。そして亜硫酸水素ナトリウムが全部反応してしまうと(2)の反応がひのめを見て、ヨウ素ができてデンプンと反応して青紫色を呈して反応の完了を示します。あなたの質問の場合はこちらだと思います。
逆にヨウ素酸カリウムに亜硫酸水素ナトリウムを加えていく場合は(1)と(2)の反応が起きて、積み算した反応式は次のようになります。
2IO3 - + 5HSO3 - + H2O ―→ I2 + 2OH- + 5HSO4 -
ここで注意ですが、以上は分かりやすいように硫酸水素イオンは電離させずに HSO4 - と表現していますが、最後の反応式ではこれが水酸化物イオンと反応するので、正確な反応式は次のようになります。
2IO3 - + 5HSO3 - ―→ I2 + H2O + 3H+ + 5SO4 2- (4)
量的関係については反応式(1)から自分で考えてください。なおヨウ化物イオンが酸化されやすく、それからできるヨウ素が還元されやすいことは、時計反応とか、振動反応にも利用されています。
q98−008
一酸化炭素やナフタレンの電子式と構造式
質 問
一酸化炭素やナフタレンの電子式と構造式を教えてください。
説 明
電子式は、20世紀始めのルイスの「化学結合理論」に基づいています。つまり電子の共有によって希ガスと同じ電子配置になることで原子どうしの結合ができる、とする考えです。それまでにイオン結合の方は、電子の移動で陽イオンと陰イオンができて電気的に結合が生じることが分っていたのですが、彼はそれに加えて「電子の共有」という考え方で多くの化学結合を見事に説明することに成功しました。共有された電子対は、電子式では両原子間に書かれたペアの黒丸で表されます。そして残りの電子も書き添えて希ガスの電子配置になっていることを示します。構造式の起源はもっと古いのですが、結合を表す価標は共有された電子対を意味していることになります。
ところで化学結合の理論はその後さらに発展して「量子化学」と呼ばれる学問になっています。そしてあなたが質問している一酸化炭素やナフタレンの結合もうまく説明しています。しかし高校ではこれにはあまり踏み込めません。そしてその内容を電子式や構造式で紹介するには困難を伴います。
でもあえて書いてみました。同封のファイルを開いてください。どちらの分子も複数の電子式やそれに対応する構造式が書かれています。一酸化炭素を見てみると、始めの2つは炭素原子が希ガスの電子配置になっていませんが、それは絶対的ではないのです。しかも実際にはこれら3つが重なったような結合をしています。両矢印はそのことを表します。
ナフタレンの方はそれぞれの電子式と構造式はルイスの理論を満足しています。そしてやはり実際にはその3つが重なったような結合をしています。分かりやすく言うと、どの炭素・炭素結合も単結合と二重結合の中間の状態にあるのです。
物質の結合状態をこのようにとらえるのは「共鳴理論」と呼ばれ、ポーリングが提唱しました。高校でもベンゼンの構造式ですこし紹介されます。しかしその本当の意味は量子化学からしか理解できません。
高校化学が完成した理論を教えるとは思わないでください。いやいや、現在の化学者にだってそれはできるはずがありません。私たちはより進んだ理論を目指して勉強し、研究もしているのです。高校ではその階段を何歩か確実に上るのです。
備考:一酸化炭素に関して誤りを指摘され、修正しました(03年)。
電子式と構造式
q98−009
いったいなぜ南極は凍るのに、北極は凍らないのですか
質 問
南極では海は凍っているけれど、北極ではほとんど凍っていない、と先日ある本で読みました。いったいなぜ南極は凍るのに、北極は凍らないのですか。
説 明
あなたの質問は地学あるいは気象学の先生が答えるべきかもしれませんが、素人っぽい返事を書いてみます。なお北極も冬期には氷原で覆われるので、南極と北極の氷の量の違いに焦点を当てて考えてみます。
北極と南極の最大の違いは海洋と大陸です。一般的に海洋性気候は気温の変動が小さく、大陸性気候はそれが大きくて冬期の気象はそれだけ厳しくなります。その理由は熱容量で説明されます。「理科年表」によると、海水1kgの温度を1度変動させるには4.0kJの熱量が必要ですが、砂(岩石も似ている)の場合は0.8kJで十分です。つまり気温の変動を緩和する能力が、海水は砂より5倍も大きいのです。しかし考えてみると南極大陸の表面は氷で覆われているので、その熱容量の2.1kJと比べるべきで、その能力差は2倍となります。
そこで別の角度からも見直してみると、液体である海水は、海流のような「対流」によって熱量を地球規模で分散させ平均化させることができます。それに対して、固体の氷は極めて効率が悪い「熱伝導」によってのみ熱量を分散させ、熱量の移動は起こりにくいことに気付きます。
ところで南極の氷の大部分は冬期に雪が降り積もり、それが重力で押し固められたものです。先に触れたように、それは融けることがほとんどなく、年々厚くなって1000m以上になっています。だから南極では10000年以上も前の氷を掘り出すことができます。そして堆積した氷は、重力によって長い長い時間をかけて海岸に移動していきます。「氷河」です。
これに対して北極では、降った雪は熱帯の熱量を運んできた海水に融解されやすく、また氷山・流氷として分散して行きやすいと考えられます。なお海水が凍ることについては、表面が凍るとその下の海水の温度が下がることは困難になります。
q98−010
気体に圧力について教えてください
質 問
はじめまして、高校1年生です。中間考査が始まるというのに、実は化学がまったくわかりません。ききたいことは山ほどあるし、最初からすべて教えてもらいたいのですが、とりあえず昨日の授業でわからなかったことを質問します。
・気体の圧力とは? 先生は器壁におよぼす単位面積あたりの力と説明しましたが、もっとわかりやすく教えて欲しいです。
・気体の圧力は粒子数に比例する とは? まず粒子数から教えて欲しいです。
・圧力の測定方法の意味が分かりません。Hgを入れて、試験管?をさかさにして、76センチ上がるやつです。
(後略)
説 明
授業を聞いて次々に分らないことが生まれてくるのは、本人には困ったことに思えるかもしれませんけど、私から見るとうまく勉強に取り組めている証です。それを先生に質問したり、自分でくり返し考えたりして、一歩々々進んでいくのです。そうするなかで広い視野が開けてくることもあります。たくさんの質問ですが、「気体の圧力」にしぼって返事を書きます。
気体の圧力というのは、風船を押えたり空気入れを使うときのあの手ごたえのことです。もっとも私たちの住んでいる地表では大気が1000hPa(ヘクトパスカル)(厳密には気象状態によってすこし変動する)ほどの圧力を及ぼしているので、実際に感じるのはそれを差し引いた圧力です(ゲージ圧という)。
気体やそして液体(まとめて流体という)の圧力にはいくつかの特徴があります。そのひとつは圧力は力そのものではないということです。風船の中の空気が及ぼす圧力は同じはずですが、指でへこますのと手のひらでへこますのでは必要な力が違います。面積が大きくなるとそれに比例して必要な力も大きくなります。つまり私たちが相手にしている圧力は単位面積当たりに及ぼす、あるいは及ぼされる力として表すべきものなのです。基本単位である1Pa(パスカル)は、1m2(平方メートル)当たりに1N(ニュートン:この単位はまだ習ってないかもしれません。大まかにいうと0.1kgの物体が地球上で受ける重力の大きさに当たります。)の力を及ぼす場合を言います。ここでも紹介し気象でよく使われるhPa(ヘクトパスカル)はその100倍の単位です。
さて、風船や空気入れの中の空気と違って、大気とか海水の水圧のように重力で拘束されている流体の圧力は、結局はその単位面積の上に載っている空気や海水の重力と同じになります。だから圧力を1kg/cm2などと表したりもするのです。また大気の平均の圧力を1atm(気圧)ということもあります。よく使う3の単位の関係は次のようになります。
1atm = 1013hPa = 1034g/cm2
続いて、重力を受けている流体の圧力は、流体がつながっているなら、高さあるいは深さが等ければ圧力も等しいという特徴があります(どうしてかな?! 厳密には流体が静止している必要があります。さらに風船や空気入れでは、高さの差は無視できるのでどこでも同じ圧力と言いました)。そこで水銀柱の高さで圧力を測定できるのです。たとえば水銀柱が76cmであれば、その圧力は、底面積が1cm2で高さが76cmの四角柱の水銀の重力を計算すればよいわけで、水銀の密度13.6g/cm3を使うと
76×13.6 = 1034[g/cm2]になります。つまりこれは1atmです。
1atm = 76cmHg = 760mmHg(ミリメートル水銀)
もちろん水柱の高さで表すこともできて
1atm = 1034[cmH2O] = 10.34[mH2O]
になります。
それでは気体の圧力を違った視点からとらえ直してみましょう。風船や空気入れの方がイメージしやすいと思いますが、大気でも同じことです。気体はある大きさの容器に閉じ込めると圧力を及ぼすようになります。それは気体分子(圧力では粒子とはふつうは分子のことです)がさかんに容器の壁に衝突して衝撃力を及ぼし続けるからです。これからすると気体の圧力は
(1)1s(秒)当たりで、器壁1m2当たりに分子が何回衝突するか
(2)1回の衝突でどれくらいに衝撃力を及ぼすか
に依存することが考えられます。(1)からすると気体の圧力(p)は分子数、したがって分子のモル数(n)に比例し、容器の体積(V)に反比例することになります。(2)は温度に関係しておりやや複雑ですが、結局は絶対温度(T)(摂氏温度に273を加えたもの:もう習ったよね)に比例します。つまり比例定数をR(気体定数という)として次の関係が成り立ちます。
p = RnT/V
これは変形すると気体の状態方程式であることに気付きます。
pV = nRT
ふつうはこの関係式は、ボイルの法則、シャルルの法則、およびアボガドロの法則に基づく0℃、1atmという条件下ではすべての気体は1molが22.4l(リットル)の体積を占めること、から導き出します。つまり自然の法則と理論的考察が矛盾していないことを示しています。
とりあえす以上ですが、理解できましたか。
ひとつ先の質問(q98−011)に進む。
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