(林 正幸)
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q02−031
融雪剤で熱を奪えば、一層凍りやすいのでは?
質 問
初めまして。来週の土曜日に薬学部の推薦を控えている高校三年の者です。
融雪剤のことでお聞きしたいのですが、融雪剤が水にイオンとして溶ける際に溶解熱として熱を奪い、一方氷はとける際に融解熱が必要なことはわかるのですが、溶解熱で冷やされるので、より一層水は凍りそうな気がするのです・・・。よく意味がわからないので、教えてください。
説 明
水の凝固点が0℃というのは、純粋な水の場合です。塩化カルシウムのような融雪剤が水に溶解すると凝固点降下するのです。融雪剤が十分なら−5℃でも−10℃でも、この水溶液の凝固点より高いのです。だから温度が0℃以下になっても、まだまだ融解が続くわけです。
q02−032
どうしてオルト・パラ配向が起こるか知りたい
質 問
高校三年生のものですが。
過去の質問にあった「フェノールフタレインなどの合成の反応機構と発色のしくみは?」の答のところで、「反応機構は難しいので少しだけ」ということですが、フェノールの反応性について、たとえばニトロフェノールの置換基の配向性について、もうちょっと詳しくご説明願いたいのですが。
説 明
「オルト・パラ配向」についての質問ですが、これはポーリングが1933年に提唱した「共鳴理論」で説明されます。
高校では化学結合はルイスの八隅説(オクテット説)、つまり「希ガスの電子配置になるように電子を共有して結合する」をベースに説明されていますが、そのより深い理解は量子力学に基づきます。これは電子のような微小な粒子に成り立つ自然の法則であり、日常サイズの物体に成り立つニュートン力学とは本質的に異なり、波動方程式と呼ばれる数式で示されます。ところがこの方程式は数学的にすっきりとは解けません。
さて波動方程式の解は波動関数と呼ばれるのですが、2つの解を足した関数もやはり方程式の解になることは証明できます。分かりやすく言うとそれぞれの波動関数はひとつの構造式に対応します。そしていくつかの構造式が書ける場合は、それらを複合したものが本当の構造であると言えます。かなり乱暴ですが、これが共鳴理論です。
高校ではベンゼンの構造が2つの構造式が複合したものであると説明されます。この考えは1965年に天才ケクレが提唱した仮説ですが、その正しさが共鳴理論によって確認されるのです。
さてフェノールの構造は次の左の5つの構造式の複合したものと考えられます。

ここで価標は共有結合を表し、関係する2つの原子は電子をやり取りはしていません。これに対して水素の+は電子をひとつ失っていることを、炭素の−は電子をひとつ得ていることを表します。このような構造式は他にも書けそうですが、共鳴理論はどのような構造式が意味があるかを限定しています。こうしてフェノールはオルト位とパラ位の炭素が電気的にマイナスになっています(電子密度が高いと表現します)。これはまたフェノールのヒドロキシル基の水素が弱酸性を示す理由も示しています。ちなみにカルボニル基も上の右の2つの構造式が複合したものです。カルボニル基の炭素が電気的にプラスであるのはこのためで、極性から説明するのは無理があります。
以上でオルト・パラ配向の理由を納得できるでしょうか。
現在ではコンピュータの助けも借りて波動方程式のかなり精密な近似解が得られるようになり、反応機構を解明する武器になっています。そのひとつが、福井謙一らがノーベル賞を獲得した「フロンティア電子理論」です。
q02−033
中性付近のpHの計算法を教えてください
質 問
工学部(金属工学科)を卒業した社会人です。
pHの計算方法について困っています。
1mol/l塩酸 0.03ml
特級 NaHCO3 1.08g
超純水 60kg
上記溶液のpHを計算しなければならないのですが、色々調べてみてもいまいち良く分りません。もしお時間がございましたら計算方法をお教え頂けますでしょうか?
説 明
純水に炭酸水素ナトリウムを溶かすと次のように加水分解します。
HCO3 ^- + H2O ―→ H2CO3 + OH^- (1)
また水のイオン積
[H^+][OH^-]= 1.00×10^-14(常温、厳密には25℃) (2)
から、純水中にはそれが電離して生じていた水素イオンがあり、そのモル濃度は10^-7[mol/l]です。そしてこれと生成した水酸化物イオンの一部が次のように反応します。
H^+ + OH^- ―→ H2O (3)
これに塩酸を加えるわけですが、そのために増加する水素イオンのモル濃度は
(0.03/1000)/60 = 5×10^-7[mol/l]
です。
平衡状態における水素イオン濃度をa[mol/l]、水酸化物イオン濃度をb[mol/l]とすると、反応(3)で消費した水酸化物イオンのモル濃度は、
10^-7 +5×10^-7 −a =(6×10^-7 −a)[mol/l]
そして反応(1)で生成した水酸化物イオンのモル濃度は、純水中に電離して生じていた水酸化物イオンのモル濃度が10^-7[mol/l]であることを考えて
(6×10^-7 − a)+b−10^-7 =(5×10^-7 −a+b)[mol/l]
であり、これは平衡状態における炭酸のモル濃度です。
平衡状態のおける炭酸水素イオンのモル濃度は、反応(1)がわずかしか進行しないと仮定すると
(1.08/84)/60 = 2.14×10^-4[mol/l]
です。
ここで反応(1)の平衡定数は
[H2CO3][OH^-]/[HCO3 ^-][H2O]= K
しかし希薄溶液の水のモル濃度は55.6mol/lと一定であるので
[H2CO3][OH^-]/[HCO3 ^-]= K[H2O]= K’ (4)
数値を代入すると
K’=(5×10^-7 −a+b)×b/2.14×10^-4
他方で炭酸の第1電離定数は
[H^+][HCO3 ^-]/[H2CO3]= 1.26×10^-4 (5)
そして式(2)を式(5)で割ると
[H2CO3][OH^-]/[HCO3 ^-]= 10^-14 /1.26×10^-4
したがってひとつの方程式ができ上がる。
(5×10^-7 −a+b)×b/2.14×10^-4 = 10^-14 /1.26×10^-4
計算して
(5×10^-7 −a+b)×b = 1.70×10^-14 (6)
もうひとつは水のイオン積から
a×b = 10^-14 (7)
式(7)から
b = 10^-14 /a
これを式(6)に代入して整理すると
2.7×a^2 −5×10^-7×a−10^-14 = 0
計算して正の数値をとると
a=2.03×10^-7[mol/l]
そして反応(1)がわずかしか進行しないという仮定が正しかったことも確認できます。
したがって
pH = −log[H^+]= −0.31+7 = 6.69
となります。
q02−034
植物ホルモンジベレリンの抽出の原理が分からない
質 問
大学の実験でイネ馬鹿苗病菌の培養ろ液からジベレリンの抽出を行いました。分液漏斗を用いて実験しました。
pH2〜3に調整した培養ろ液を酢酸エチルで分画して、ろ液から酢酸エチルろ液にジベレリンを転溶させました。そのジベレリン(以下GA)を含む酢酸エチル層を炭酸水素ナトリウム溶液でさらに分画して今度はその炭酸水素ナトリウム層を(GA含む)塩酸でpH2〜3にし、再度酢酸エチルで分画しました(後は無水硫酸ナトリウムで脱水・・・)。
この実験手順で、どうしてジベレリンは、培養ろ液→酢酸エチル→炭酸水素ナトリウム→酢酸エチルと移動するのでしょうか?? GAはpHの高いほうに移動するからでしょうか? だとしたらなぜ移動するのでしょうか?
私は化学がとても苦手で、図書館にこもってもどうしてもわからなくて困っていたので、こうして林先生にSOSを頼んでいる始末です。
説 明
理化学辞典を調べると、ジベレリンは植物ホルモンのひとつで、その代表である A3 の立体的な構造式が載っています。これを見ると、酢酸のようにカルボキシル基(−COOH)を1つ持つという特徴があります。他にも親水基であるヒドロキシル基2つを持ちますが、全体は炭化水素基の部分が占める割合が大きくて水には溶
けにくくて親油性になります。なお辞典によると、酢酸エチルなどに溶けやすく、ベンゼン、クロロホルムなどには溶けにくいとあります。
ところでカルボキシル基は弱酸で、水溶液を酸性にすると分子になり、塩基性にすると塩を形成して親水性になるという特徴があります。これについてもうすこし説明すると
「弱酸からなる塩は、強酸に出会うと弱酸自身になり、強酸の方が塩を形成する」
ということがあります。
これで酸性では分子として存在して酢酸エチルに溶解しやすいことが分かります。また炭酸水素ナトリウムですが、これは炭酸からなる塩であり、炭酸はカルボキシル基より一段と弱い酸です。したがってこの水溶液を加えると炭酸が遊離してさらに二酸化炭素となり、ジベレリンのカルボキシル基がナトリウム塩になり、このよう
なイオン性物質は水に溶けやすいのです。
最後にカルボキシル基より強い強酸である塩酸を加えると、再び弱酸であるジベレリンが遊離して酢酸エチルに溶けやすくなります。逆から言うと、このようにして不純物に関所を設けてふるい落としていくわけです。
なお私のホームページの「高校生の質問」の次の解説も参考にしてください。
q00−003
「溶解性において、四塩化炭素は水とどこが違うのか」
q02−019
「親水性、疎水性の根拠はどんなものか」
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林 正幸と主万子の始めの
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