(林 正幸)
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q02−001
乾電池に質量保存則は成り立つか
質 問
理科教育法のレポート課題の中に、「新旧の乾電池で、質量保存則は成り立つか?」という問があり、これについて調べていて、貴方のホームページにたどりつきました。この問に対する自分自身の考えが、どうもまとまらないのです。
(1) 直感的には
調べる前に、直感的には、「電池は使うと質量は減る」という考えを持ちました。それというのも、電池を使ったら、エネルギーが発しているわけで、そのエネルギーは電池内の化学反応で起きた物である。何もないところからエネルギーは生成しないから、電池の質量は減る、という考えです。
(2) マンガン電池について考える
問は、単に「乾電池」となっているのですが、一般的なマンガン乾電池についてであると考えてよいと判断しました。そこで、マンガン乾電池について仕組みや化学反応について調べていきました。このマンガン乾電池のおおよその仕組みは高校の教科書にものっていたのですが、電池内の化学反応は載っていませんでした。反応式を自分で考えてみてもよく分からず、ネットで調べていて貴方のホームページにたどりつきました。(ちょっと自分では考え及ばない反応式でした)
反応式をながめてみたところで、その反応がよく分かるということもなかったのですが・・・当然のことかもしれないですが、電池の中での反応であることは明らかで、電池外部との物質のやりとりはどこにもないことになります。そう考えると、電池を使う前と後の電池の質量を比べても、それは変わらないという結論になりました。
(3) エネルギーはどこに?重さはないのか?
基本的なことかもしれないのですが、ここまで考えてみて、(1)と(2)の結論が異なり、どうしてそうなるのかが分からないのです。
エネルギーはどこにあって、それには重さはないのか?という疑問が出てきました。もし、質量そのものがエネルギーとなるという考え方になると、E=mc^2 という式があるように、ばく大なエネルギーを生み出すことになります。(もし、0.001gの質量欠損があったとしても、900億J)ですから、電池の中の物質の質量そのものがエネルギーになるとは思わないのですが、エネルギーを発しているのに何も減らないということには納得できないのです。
マンガン乾電池の場合は不可逆反応ですが、蓄電池の場合を考えると、電池を使った 後(放電した後)、放電とは逆向きに電流を流すことで、放電とは逆の反応が起こり、充電される、ということでした。蓄電池の場合についても、充電した時、放電した時共に、電池外部と物質の出入りはありません。電気エネルギーとは、どこにあって、それの重さはないのでしょうか?
(4) 関係ないかもしれないけど、次に思い浮かんだこと
エネルギーに関連して、思い出すことは、原子の電子配置のことです。外部からエネ ルギーを受けると、励起状態となり、これを放出すると基底状態になる。この時、電子配置が変わるが、電子が増えたり減ったりするわけではない。そう考えると、質量に変化があるとは考えられない。原子の内部にエネルギーを持ち、安定状態に戻ろうとした時に、エネルギーを放出するが、その時に質量に変化はない、ということでよいのでしょうか?
乾電池の中の化学反応と、エネルギー準位とは全然関係ないだろうとは思うのですが、エネルギーが加えられたり放出されたりしても、その時に質量の変化はないと言えるのかどうかを考えた時、浮かんだ考えです。
(5) 結論は・・・
ここまで、あまり確信がもてない考えばかりで、結論がまとまらないのです。現段階としては、「新旧乾電池の質量は変わらない」という結論ですが、確信が持て ません。そこで、自分としてはここまで考えた、というのをまとめてみました。林先生に、何らかご指導いただけると嬉しいです。
説 明
化学反応に関してはラボアジェが発見した「質量保存の法則」が成り立ちます。すなわち電池の反応に限らず、すべての化学反応では反応物質の質量の合計と生成物質の質量の合計は等しいのです。だから「新旧の乾電池で、質量保存則は成り立つか?」 という質問はやや奇異に感じます。この質問は「ボルタの電池のように気体(水素)が発生してその分だけ質量が小さくなることがあるか」と尋ねているのではないですよね。と言うのは、乾電池も副次的反応では気体が発生する可能性があるし、完全に密閉できているわけではないので塩化亜鉛溶液の水だって失われるかもしれないからです。
他方であなたが指摘しているように、アインシュタインが発見した質量欠損の関係式も成り立ちます。つまり質量とエネルギーは相互変換できます。励起した水素原子は基底状態の水素原子より質量が大きいのです。そして乾電池が電気エネルギーを放出すればその分だけ質量が減少します。たとえば1.5Vで1Aの電流が10分流れたとすると、これは900Jのエネルギーに相当し、質量に換算すると10^(-14)kgになります。
しかしこれは電池のおよその質量である10^(-1)kgと比べてあまりに小さく、どんな精密な天びんでも検出はできないでしょう。それより前に、表面の塗料のほんのわずかが剥がれてももっと大きい質量減少が生じます。つまり電池やその他の化学反応では質量欠損を考える意味はないのです。
複数の自然の法則を並列的にとらえてはいけません。電池では質量保存の法則が重要で意味を持ちます。しかし原子核や素粒子の反応では質量欠損が重要になるのです。何が重要で意味があるかを見極めることは、どんな場合にも忘れてはいけない視点です。これは同時に、完璧な自然の法則は存在しないことを意味します。
q02−002
水上置換した気体の、水蒸気圧による補正は?
質 問
高校で行った実験について分からない所があります。「反応の速さと濃度」について、過酸化水素水(1〜3%)と硫酸鉄(V)を用いて、酸素を発生させ、メスシリンダーで捕集するという実験をしたのですが、その考察で「メスシリンダーで捕集した酸素の体積について、水の蒸気圧による補正を行うには、どのような計算をしたらよいか」というものがありました。この計算方法が分からないので、教えていただけると嬉しいです。
説 明
気体では状態方程式がよく知られていますが、混合気体に関しては「ドルトンの分圧の法則」があります。
(1)混合気体の中のひとつの気体の振る舞いは、他の気体が存在しない場合と同じになり、状態方程式も適用できる。
(2)ただしその気体の圧力は、その気体分子が壁などに衝突して生じるものであり、その気体の分圧と言う。混合気体の全体の圧力は全圧と言い、これはそれぞれの分圧の合計になる。なおその気体の体積は、容器の容積である。それはどの気体も容器全体に広がっているからである。
次に水の飽和蒸気圧(単に蒸気圧ということが多い)ですが、これは真空の容器に液体の水を入れたときに、水の一部が蒸発して水蒸気が飽和したときに、その水蒸気が示す圧力のことで、温度が決まれば一定の値になります。たとえば15℃では13mmHgになります。ちなみに温度が高くなると蒸気圧は高くなります。
これに分圧の法則を応用すると、15℃において空気が入ったペットボトルに水を入れたとき、それで生じる水蒸気の分圧は、蒸気圧そのもので13mmHgになることが分かります。
15℃において酸素を水上置換でメスシリンダーに捕集すると、水が蒸発して水蒸気が含まれてきます。飽和するまで水蒸気が含まれると仮定すると、その分圧はもちろん13mmHgのはずです。全体の圧力、つまりは大気圧が760mmHgとすると、酸素の分圧は747mmHgになります。この体積の方は気体全体の体積です。これで気体の状態方程式から酸素の物質量が計算できますね。なお捕集した酸素の温度は、水温に等しくなると仮定するのが普通です。あとはあなたが計算してください。
q02−003
どうして揮発性酸の塩から揮発性酸が発生するか
質 問
はじめまして。愛知県の高校生(3年)です。以前からどうしても分からないことがあるので、教えていただけないでしょうか。
よく参考書などでは、
「不揮発性の酸+揮発性の酸の塩 → 不揮発性の酸の塩+揮発性の酸」
というのが書いてあります。例えば
NaCl + H2SO4 → NaHSO4 + HCl
があります。どうしてこのような反応が起こるのでしょうか。
説 明
いくつかの反応に共通の特徴がある場合に、それに目を付けて同じタイプの反応としてまとめると、記憶も容易で確実になるし、さらに考えが発展する可能性もありますね。
どうして反応が進行するがについては、化学Uで化学平衡を学習すると分かるようになります。その予告編です(もし化学Uを取るなら)。
化学的変化には必ずその逆向きの変化が存在します。融解には凝固、溶解には析出、水素と酸素の化合には水の分解・・・というようにです。そして両方の変化がいつも同時に起こっているのです。個々の分子の動きは見えませんので、優勢な方の変化が進行するのを私たちは観察しているのです。
さて物質が出入りしない閉鎖系では、反応は途中で停止してしまいます。逆向きの反応が存在するから、完結することはないわけです。これが平衡の状態です。
さてあなたが質問した「不揮発性の酸+揮発性の酸の塩 → 不揮発性の酸の塩+揮発性の酸」は気体が発生する反応です。もし反応系から気体が失われることがなければ、やがて平衡状態になるはずです。そのとき気体の濃度も、そのときの条件にふさわしい値になるでしょう。ところが気体は反応系から失われていきます。反応が右に進行しても進行してもバランスが取れません。こうして物質が失われる開放系の反応では、失われる物質が生成する向きに完結するまで進行するのです。ちなみに沈でんが生成する向きに反応が進行するのも同じような理由に依っています。
このことは質量作用の法則を学習すると、より深く理解できるようになるし、さらに幅広い事例に応用もできます。楽しみにしてください。
q02−004
ダニエル電池ではどうして亜鉛がイオン化するのか
質 問
いま高一で化学IBをやっています。そこで質問があるのです。
教科書に「(ボルタ電池において)Zn は H2 よりイオン化傾向が大きいので、亜鉛は表面から Zn2+ となり、電子を亜鉛板に残して溶液の中に移る」と書いてあります。このことは理解できるのですが、ダニエル電池の場合、なんで硫酸亜鉛水溶液に亜鉛を浸すと亜鉛が溶け出すのでしょうか。亜鉛が硫酸イオンよりイオン化傾向が強いため亜鉛がイオンとなって溶液中に溶け出すのなら意味はわかるのですが、そんなことどの参考書にも書いてありません。どう理解したらよいでしょうか。
説 明
あなたがどこに疑問を感じているか、手探りで話を進めます。ボルタの電池では反応する亜鉛と水素イオンが一緒にあります。これに対してダニエル電池では、反応する亜鉛と銅イオンが隔てられています。隔てられているものの間で、どうして陽イオンになる競争をするのだろうか。ダニエル電池では亜鉛と一緒にあるのは硫酸イオンではないか、ということでしょうか。
ボルタの電池では水素が発生するのは亜鉛板ではなく銅板においてです。つまり亜鉛と、銅板に付着した水素がイオン化傾向を競い合うのです。実際に押し合いをするのは、亜鉛イオンができるときに亜鉛板に残される電子と、水素イオンができるときに銅板に残される電子です。つまりイオン化傾向は、電子を与える傾向の強さであると考えると分かりやすいと思います。
ダニエル電池では、硫酸亜鉛水溶液の中に亜鉛イオンができるときに亜鉛板に残される電子と、硫酸銅水溶液の中に銅イオンができるときに銅板に残される電子の戦いになります。どちらの電池でも劣勢の方が、逆向きの反応つまり電子を得る反応が起こることを余儀なくされます。こうして電子が流れて電池になります。
ここでさらに疑問が湧いてくるかもしれません。それならボルタの電池では、どうして亜鉛版で水素イオンが水素にならないか。
実はこれは生成するのが水素だから起こりにくいのです。もし亜鉛版と一緒に銅イオンがあれば、どんどん反応していきます。だからこそダニエル電池では、亜鉛板と硫酸銅水溶液を隔膜で隔てるのです。イオン化傾向は反応を理解する重要な視点ですが、それがすべてではありません。水素イオンが亜鉛板で反応しにくいのは水素過電圧と呼ばれますが、高校で深入りはできません。
まだ疑問が残るかも知れません。そのときはまたメールをください。
q02−005
熱濃硫酸でないと酸化剤としてはたらかないか
質 問
硫酸イオンは熱濃硫酸中において酸化剤として
2e^- + 4H^+ + SO4 ^2- ―→ 2H2O +SO2
と反応しますが、この硫酸イオンは熱濃硫酸中でないとこのように酸化剤として反応しないのですか? それとも熱濃硫酸でなくとも硫酸イオンさえあれば このように酸化剤としてはたらきますか?
つまり熱濃硫酸中でなく硫酸ナトリウム中で
2e^- + 4H^+ + SO4 ^2- ―→ 2H2O +SO2
と反応したり、ただの硫酸中で
2e^- + 4H^+ + SO4 ^2- ―→ 2H2O +SO2
と反応したりはしないのですか?
ほかにもニクロム酸イオンが硫酸酸性中で酸化剤としてはたらきますが、硫酸酸性中でなくてはこのように酸化剤としてはたらかないのですか?
説 明
確かに硫酸は、熱濃硫酸でないと酸化剤としてはたらかないような印象を与える記述がありますね。イオン化傾向の大きい金属には、酸水溶液の水素イオンが酸化剤としてはたらきます。たとえば亜鉛に希硫酸を加える反応は次のようです。
Zn + 2H^+ ―→ Zn^2+ + H2
これに対して水素よりイオン化傾向が小さい銅や銀などはどんな酸化剤で酸化することができるか。それには濃硝酸や希硝酸、そして硫酸なら熱濃硫酸があります。たとえば銅と熱濃硫酸の反応は次のようです。
Cu ―→ Cu^2+ +2e^-
2e^- + 4H^+ + SO4 ^2- ―→ 2H2O +SO2 (1)
それなら希硫酸が(1)のように電子を奪って酸化剤としてはたらくことはあるでしょうか。残念ながら私は、二酸化硫黄が発生したり亜硫酸 H2SO3 が生成する例を知りません。しかし希硫酸が酸化剤としてはたらく例ならあります。
たとえば硫化鉄(U)に塩酸でなく希硫酸を加えて硫化水素を発生させると、その一部が次のように反応して硫黄が生成して黄白色に濁ります。
3H2S + 2H^+ + SO4 ^2- ―→ 4H2O +4S
これは次のように電子やり取りをしています。
3H2S ―→ 6H^+ +3S + 6e^-
6e^- + 8H^+ + SO4 ^2- ―→ 4H2O + S (2)
ただし(2)は次の2段階の反応ととらえれば、(1)が起こっていることになります。
2e^- + 4H^+ + SO4 ^2- ―→ 2H2O +SO2 (1)
SO2 + 4e^- + 4H^+ ―→ 2H2O + S
このあたりはひとつの反応をどうとらえるかの問題なのです。
そして硫酸イオンは中性ないし塩基性の下ではかなり安定なのですが、次のような電子を奪う反応が酸化還元電位(標準電極電位)の表に載っていました。
2e^- + SO4 ^2- + H2O ―→ SO3 ^2- + 2OH^-
これに対応するわけではありませんが、クラフト法でパルプを生産する場合に、黒液を高温で処理するとき次の反応が起きます。
Na2SO4 + 2C ―→ Na2S + 2CO2
この例では中性の下で硫酸イオンが炭素を酸化しています。
要するに、硫酸が酸化剤としてはたらく在り様は色々なのです。高校段階ではその典型的な例を取り上げるわけで、学習することがすべてであるととらえるのはまずいですね。二クロム酸イオンについても同様です。
q02−006
炭酸カルシウムを水に溶かした時のpHは?
q02−006
私は会社員で環境リサイクルがらみの仕事をしている一応技術者です。
水酸化アルミニウムや炭酸カルシウムは無機充填剤としてよく用いられているのですが、難溶性物質だから水には溶けない、よって水の中にいれてもpHは7〜8程度と思っておりました。ところがpHセンサーで測定してみたところ10〜11??と言う数字が出てきて驚いおります。pHセンサーは緩衝液で校正しているので故障はしていないと思うのですが。
水酸化アルミニウムや炭酸カルシウムを水中にいれた場合のpHが理論上どれくらい になるのか、どうやって計算したらよいのか、知りたくてメールいたしました。
説 明
炭酸カルシウムの方は次のように計算ができます。これは溶解すると次のように電離します。
CaCO3 ―→ Ca^2+ + CO3^2- (A)
そして炭酸イオンの一部は次のように水と反応して水酸化物イオンを生じ、そのためにすこし塩基性になります。
CO3^2- + H2O ―→ HCO3^- + OH^- (B)
この全体としての反応は塩の加水分解と呼ばれます。
以下では1[l]の水溶液で考えることにします。こうすると物質量とモル濃度の数値が一致するから便利です。そして炭酸カルシウムx[mol]が溶解して電離し、さらに水酸化物イオンy[mol]が生成すると、各物質のモル濃度は次のようになります。
[Ca^2+] x [mol/l]
[CO3^2-] (x−y)
[HCO3^-] y
[OH^-] y
化学便覧を調べると
◎炭酸カルシウムの溶解度積 2.9×10^-9
これは次のように表されます。
[Ca^2+][CO3^2-]= 2.9×10^-9 = x・(x−y)
対数を取ると
log{x・(x−y)}=−8.54 (1)
また便覧に依ると
◎炭酸の解離指数(−pK)
第1 3.9 第2 10.33
後者を質量作用の法則に基づいて式に直すと次のようになります。
HCO3^- ―→ H^+ + CO3^2-
log([H^+][CO3^2-]/[HCO3^-])= −10.33
先を見越して両辺に−1を掛け算して
[HCO3^-]/[H^+][CO3^2-]=10.33 (2)
ここで反応式(B)に対して、水のモル濃度は事実上純水に等しく一定であることを踏まえて、質量作用の法則を書いてみます。
[HCO3^-][OH^-]/[CO3^2-]= K = y^2/(x−y)
この式を高校でも学習する水のイオン積
[H^+][OH^-]=10^-14
で辺々割り算します。
[HCO3^-]/[H^+][CO3^2-]= y^2/10^-14・(x−y)
さらに両辺の対数を取り
log([HCO3^-]/[H^+][CO3^2-])= 14+log{y^2/(x−y)}
これで(2)式が代入できます。
10.33 = 14+log{y^2/(x−y)}
log{y^2/(x−y)}= −3.67 (3)
これで(1)と(3)からyが求められるはずです。はじめに計算しやすいように両式を辺々足し算します。
logxy^2 = −12.21
対数を除き
xy^2 = 6.2×10^-13
x = 6.2×10^-13/y^2
(1)の対数を除いた元の式に代入すると
6.2×10^-13/y^2(6.2×10^-13/y^2 −y)= 2.9×10^-9
これを整理して
(6.2×10^-13)^2/y^4 − 6.2×10^-13/y = 2.9×10^-9
38×10^-26 = 2.9×10^-9・y^3(y + 6.2×10^-13/2.9×10^-9)
1.3×10^-16 = y^3(y + 2.1×10^-4)
この方程式は次のようにすれば解けます。はじめに
(y + 2.1×10^-4)= y
とすると
1.3×10^-16 = y^4
y= 1.07×10^-4
この数値を使って
(y + 2.1×10^-4)= 3.2×10^-4
したがって
1.3×10^-16/3.2×10^-4 = y^3 = 0.40×10^-12
y= 0.74×10^-4
もう一度くり返すと
(y + 2.1×10^-4)= 2.8×10^-4
y^3 = 0.46×10^-12
y= 0.77×10^-4
これを答としてよいでしょう。
最後に水のイオン積から水素イオン濃度を求め、pHを計算します。
[H^+]= 10^-14/0.77×10^-4 = 1.3×10^-10
pH = 9.9
水酸化アルミニウムの方ですが、化学便覧によると
◎水酸化アルミニウムの溶解度積 1.1×10^-33
水酸化物イオンのモル濃度をx[mol/l]とすると
[Al][OH^-]^3 = 1.1×10^-33 = (x/3)x^3 == x^4/3
x^4 = 3.3×10^-33 = 0.33×10^-32
x = 0.76×10^-8
これはかなり中性に近い数値で、水の電離を考慮した計算が求められます。しかしその前に水酸化アルミニウムに関してはそれを水に溶かしたときの電離がアクア錯イオンの係わる反応になるはずであり、溶解度積のみからの単純な計算は意味がないように思われます。そしてもうひとつ、これは前者にも言えることですが、現実には不純物の影響があるはずです。
q02−007
潮解は気液平衡でどのように説明できるか
質 問
埼玉に住む高校生で18歳です。
「授業プリント」に載ってなかったので、勝手ながら質問させていただきます。NaOH(s)の潮解性を蒸気圧効果と水の気液平衡の観点から考えられるそうなのですが、どういうシステムで潮解するんでしょうか?
説 明
これは水蒸気を含む空気中にある固体の水酸化ナトリウムの表面に水酸化ナトリウム水溶液を仮定して、この水溶液がさらに水が凝縮して成長するか、水が蒸発して消失するかを検討することで潮解するかどうか結論を出します。もちろん水溶液は水酸化ナトリウムの固体表面に水蒸気が凝縮して生成するので、飽和溶液です。
これは空気中の水蒸気が凝縮する変化と水溶液の水が蒸発する変化の攻めぎ合いです。物質が変化する勢いは温度が一定なら、あとは関係する物質のモル濃度に比例します(このあたりは授業プリントを呼んでいてくれることを前提に書いています。5章を参照)。それを正比例として表すと次のようになります。
凝縮の勢い=Ka[空気中の水蒸気]
蒸発の勢い=Kb[水溶液中の水]
始めに湿度100%の空気、つまり空気中の水蒸気が飽和蒸気圧を示す濃度であるとします。するとこれは液体の水と共存するので、固体の表面に付着した純粋な水と平衡状態にあります。つまりこの場合は凝縮と蒸発の勢いは等しいわけです。
これに対して通常の空気はそれより湿度が低く、その分水蒸気のモル濃度が小さくて凝縮の勢いは小さいわけです。また上の想定の水酸化ナトリウム水溶液の水のモル濃度も、純粋な水に比べて小さいので蒸発の勢いも小さくなっています。どちらがより小さいかが問題です。
水酸化ナトリウムのような溶解度の大きい物質の水溶液では、水のモル濃度はかなり小さくなります。したがって比較的湿度が小さい空気でも、凝縮の勢いは蒸発に勢いに優ります。つまり水溶液は水が凝縮して成長します。そして追加された水には固体の水酸化ナトリウムが溶け込みますので、飽和状態は維持され、これは固体の水酸化ナトリウムの無くなるまで続きます。つまり潮解します。
以上は質量作用の法則を使うと次のように書けます。関係する平衡は
水溶液中の水 ←→ 空気中の水蒸気
関係式は
[空気中の水蒸気]/[水溶液中の水]= K
=[飽和水蒸気圧(を示すモル濃度)]/[純粋な水のモル濃度]
水酸化ナトリウムのように物質の溶解度がかなり大きいと分母がかなり小さくなりかつ一定であり、これに比較して通常の空気の水蒸気圧(の示すモル濃度)は大きく、平衡状態に向かって水蒸気が凝縮して固体の水酸化ナトリウムをどんどん溶解していく。これが潮解という現象です。
なおここではあえて触れてないことがあります。それは水のモル濃度ではなく活動度という量を使うべきことです。しかしこれは高校段階では難し過ぎます。
ではまた。
q02−008
溶液の体積がもとの体積の和にならない理由は?
質 問
僕は、ただいま高校3年生です。
先日、実験で「試薬の調整」を行ったのですが、試薬を調整する時に、調整された溶液の体積が、原液と薄めるのに用いた水の体積の和と
必ずしも等しくない理由を教えていただきたい次第です。
具体的な実験データは次のとおりです。
原液の量(ml) 薄めるための水(ml)
調整した溶液の体積(ml) 予想される体積とのズレ(ml) 備考
硫酸2N 200mlの調整 11.1 150
157 −4.1 発熱
塩酸2N 200ml 35. 0 132
164 −3.0 発熱
アンモニア2N 200ml 27.0 137
164 −2.0 なし
NaOH水溶液2N 200ml 16.0g(固体) 120
119 −1 発熱
NaOH水溶液1N 200ml 8.0g(固体) 120
119 −1 発熱
また、1N塩酸500mlと1NNaOH500mlの中和反応では、体積が1020ml程度になりました。
これについて、自分なりに調べたら、電縮っていう現象が出てきました。溶質が水和される時に、溶質がイオンのため、強く引き付けるから
結果として、分子の大きさ・分子間の距離が、水がクラスター構造(=四面体構造)で存在するより、小さくなる、という事ですよね?
でも、これだけが体積減少の原因なのでしょうか?また、これが原因だとしたら、アンモニアは弱塩基だから、そんなに体積が減少しないと思うのですが、どうでしょうか?
また、学校の先生が熱を観点にして、説明しろと、おっしゃったので、様々な熱化学の本を見てみました。すると、部分モル体積という事柄を発見しました。これの意味は書いてあっても、溶解時の体積変化のメカニズムが書かれていない本ばかりで、理解できませんでした。自分としては、これのメカニズムを電縮だと考えたのですが、正しいのでしょうか? 本によれば、Cl^-イオンの部分モル体積は22.9立方センチメートル/molだったので、これでは、塩酸を調整した時に、体積が減少した事が不自然であると思います。このように考えると、部分モル体積は、調整時の体積変化と結び付けられないのでしょうか?
中和の時の、体積増加は、単に隙間の多い構造をした水を生成したから、と考えたのですが、これは、あまりに安易な考えでしょうか?
溶解時は、初めに粒子をバラバラの細かい状態にする吸熱反応をした後、水和し、結びつく事で体積が小さくなる発熱反応を起こす、と参考書に書いてありました。これによれば、実験の時には、全て発熱しているので、これにより、体積が小さくなったといえるのでしょうか?また、これも、電縮と似ている気がするのですが、どうなんでしょうか?
長くなって、すみません。以上です。なるべく早く返事頂けるとありがたいです。あまりに?マークが多いですが、全てに答えて頂けなくて結構ですので、よろしくお願いします。
説 明
2つの物質が溶け合うことによって体積が変化する問題ですが、これは分子やイオンがどれくらいよく詰まるかを比較して考えます。比較してというのは、溶解前のそれぞれの物質の詰まり具合と、溶解後の詰まり具合の両方を見るということです。
水は水素結合という分子間力がはたらきます。これはかなり強い引力ですが、方向性があります。具体的には一方の水分子のヒドロキシル基と他方の水分子の酸素原子が水素を中心にして一直線に並ぶときにもっとも強くなります。この結果分子が規則的に配列した氷の結晶ではかなり大きい空間を持つことになります。液体になるとその配列はかなり乱れ、体積も氷より10%近く減少するのですが、それでも空間は残ります。
他方で、酸は分子性物質で、水に溶けると水素イオンと残りの陰イオンの電離します。一般に分子が分解すれば体積は増えるわけですが、水素イオンは実際には水分子と結合したオキソニウムイオンになるのでそのようなことはありません。そしてこれらのイオンに対して水分子数個が水和します。これは水分子の極性によるもので、陽イオンには酸素原子部分が、陰イオンには水素原子部分が接近します。これはイオンと水分子がよく詰まることを意味するのですが、同時に水分子の水素結合による配列を破壊して空間を減少させる効果もあります。あなたのメールを引用すればクラスターが破壊されるのです。ただし濃塩酸(35%)はすでに水溶液ですので、体積減少は小さいように思われます。
塩類や強塩基はイオン性物質です。もともと陽イオンと陰イオンの集合体ですので、電離するととによる体積増加はないわけです。そしてイオンどうしが集まるより、小さい水分子が水和した方がより詰まることになります。水酸化ナトリウムはもうすこし体積減少しませんかね。
エタノールのようにヒドロキシル基をもち分子どうしが水素結合する物質では、溶け合うとその分子と水分子の水素結合が形成されることになります。これは別々に存在するより入り乱れた状態になって体積減少します。アンモニアも水素結合を形成しますが、濃アンモニア水(28%)はすでに水溶液です。
中和による体積変化に関しては、あなたの考えでよいと思います。
より詰まることは分子やイオンの結び付きが強まることです。化学結合や分子間力が強まることは発熱に結び付きます(位置エネルギーと関係があります。私のホームページ、「授業プリント」の7章「物質とエネルギー」参照)。こうして発熱と体積減少は関係があることになります。
なお分子間力が弱い物質どうしでは溶け合うことで体積が増加する例があるはずです。残念ながら手元にデータがありません。
q02−009
ビーカーはどうして王水で溶けてしまわないか
質 問
私は高校2年の女子高生です。早速ですが質問をさせて頂きます。
この間化学の授業で「王水」について触れたのですが、一つ疑問に思ったことがあるんです。「王水はイオン化傾向の極めて小さい金(Au)をも溶かしてしまう!」と習ったのですが、王水を保存しておく容器や、実験につかうビーカーなんかは溶けてしまわないんでしょうか?
説 明
そのような例はいくらでもあります。考えてみてください。もしすべての物質と反応する物質が存在したら、それを保管する方法はなく、必ずまわりの物質と反応して別の物質に変化し、その物質自身が存在できないことになります。
q02−010
塩酸はイオン性物質ではないのか
質 問
説 明
イオン性物質は水に溶けると、陽イオンと陰イオンに電離します。たしかに塩酸(塩化水素)も次のように水素イオンと塩化物イオンに電離するように表します。
HCl ―→ H^+ + Cl^-
しかし塩酸 HCl は水素と塩素が共有結合した分子性物質であり、その意味では電離するのは変ですが、本当は次のように水と反応してオキソニウムイオンになって電離するのです。
HCl + H2O ―→ H3O^+ + Cl^-
この H3O^+ を H^+ と表現しているのです。
考えてみると水素イオンは陽子そのもので、希ガスの電子配置にはなっていず、水溶液中で安定に存在できるものではありません。水素がイオンになることはあるのですが、それは電子を1つ得てヘリウムの電子配置の陰イオンになる場合です。これには高校ではあまり扱いませんが NaH などがあります。
そうでなければ、水素は共有結合して希ガスの電子配置になるしかないのです。そのような例は、塩酸の他に水 H2O 、メタン CH4 などたくさんあります。
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林 正幸と主万子の始めの
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