(林 正幸)
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q00−031
なぜ電導度滴定のグラフが曲線になるのか
質 問
硫酸と水酸化バリウムの中和滴定を利用して、溶液中のイオンの増減と電流の変化を電流計を用いて調べるという実験をしました。そこで硫酸の濃度を調べる問題があるのですがよく分かりません。水酸化バリウムの濃度は0.005mol/lで水酸化バリウムの滴下量が22.51mlの時に中和、硫酸は20mlでした。
あとなぜ横軸を滴下量、縦軸を電流値にしたグラフが曲線になるのですか?
説 明
硫酸と水酸化バリウムの中和反応は次のようです。
H2SO4 + Ba(OH)2―→ BaSO4 + 2H2O
硫酸のモル濃度は、中和の関係式 ncV = n'c'V' を使えば
2×c×20 = 2×0.005×22.51
c = 0.0056275
答 0.005628mol/l
となります。
この電導度滴定では、電導性の水素イオンと硫酸イオンが、加える水酸化バリウムによっていずれも非電解質に変化するのを利用しています。一見電導度の低下は水酸化バリウムを加えると直線的に減少するように思えます。しかし電導度はイオンのモル濃度に比例しています。そして水酸化バリウムを加えると溶液全体の体積も変化します。
たとえば水素イオンの濃度を見てみましょう。水酸化バリウムを中和量の半分つまり11.26ml加えたときを考えます。もし体積増加がなければ、その濃度は0.005628mol/lになるはずです(硫酸は2価の酸であり、完全に電離しているとして)。しかし全体の体積が31.26mlになる(溶液が薄いときその体積は加算できます)ため、実際の濃度は
0.005628×20/31.26 = 00032025・・・[mol/l]
となります。つまり中和量の半分を加えたとき、電導度は半分より小さい数値になります。こうして電流値と滴下量のグラフは下に凸な曲線になります。
参考:水素イオンのモル濃度と滴下量の間には一般的に次の関係式が成り立ちます。
硫酸のモル濃度をc[mol/l]、その体積をV[l]そして水酸化バリウムのモル濃度をc'[mol/l]とすると、中和に必要な体積は(c/c')V[l]になります。
ここで滴下率xを考えます。これは0から1までの数値で、滴下率xのときの滴下量は(c/c')xV[l]になります。そしてそのとき残存する水素イオンの物質量は次のようになります。
2(cV−c'(c/c')xV)= 2cV(1−x)[mol]
溶液全体の体積は
(V+(c/c')xV)= V(1+(c/c')x)[l]
になるので、水素イオンのモル濃度は次の関係式で表せます。
[H+]= 2c(1−x)/(1+(c/c')x)
c=c'=0.5の場合のグラフを描いてみるとイメージが湧きます。
追記(05.2)
関連した質問があったので、次のことを付け加えておきます。
硫酸の「電離度」もグラフの形を曲げる原因になります。硫酸は次のように2段階で電離します。
H2SO4 ―→ H^+ + HSO4^-
HSO4^- ―→ H^+ + SO4^2-
第1段の電離度は強酸のレベルで1と見なしてよいのですが、第2段は弱酸に近いレベルです。そして弱酸ではモル濃度が低くなるほど電離度が高くなります。硫酸の第2段の電離度(25℃)は次のように変化します。(これは化学Uで質量作用の法則(化学平衡の法則)を学べば、自分で電離定数 1.2×10^-2 から計算することもできます。)
硫酸のモル濃度 電離度 全体の水素イオンのモル濃度
0.1[mol/l] 0.11
0.01 0.45
0.0056 0.58 0.0056×1.58=0.0088[mol/l]
0.0028 0.71 0.0028×1.71=0.0048
0.001 0.87
つまり中和点の半分のところでは水素イオンの濃度が半分よりはいくらか大きく、電導度もそれに応じて大きめになります。これはグラフを上に凸にしますが、質問の実験に関してはこの影響は「希釈」の効果より小さいでしょう。
備考:話を複雑にしないため、硫酸イオンや硫酸水素イオンのことに触れていない。
一般的には、イオンのモル濃度が小さくなるにつれて、それに正比例して電導度(導電率)が小さくならず、モル濃度が小さいほど大きい方にずれます(モル濃度が小さくなると「当量導電率」が大きくなる)。言い換えると、イオンのモル濃度が高くなると電導度は直線的に伸びず、下の方に曲がっていきます。これもグラフの形を曲げる原因になります。これはイオンが、陽イオンのまわりは陰イオンが囲み、陰イオンのまわりは陽イオンが囲むように分散しています。そこに電場が掛かると両方のイオンは互いに反対向きに進もうとします。このとき陽イオンは陰イオンによって引き戻され、陰イオンは陽イオンによって引き戻されようとします。また陽イオンと陰イオンがぶつかりあって進行を妨げようとします。これらの効果はモル濃度が高くイオンどうしが接近しているほど大きくなるからです。
硫酸は電離の影響もありますので、25℃の塩酸で見てみます。
塩酸のモル濃度 電導度(導電率)
1[mol/l] 332.8[mS]
0.1 39.0
0.01 4.11
0.001 0.421
これもグラフを上に凸にします。
まとめると、電導度滴定(1段階滴定)のグラフを直線から曲げる原因は、「希釈」、「電離度」、「当量導電率」の3つになります。したがってサンプルや滴定溶液のモル濃度が高く、またサンプルを十分に希釈してから滴定するような場合には、上に凸のグラフになることもあります。そして電極など実験のやり方の影響もあり、具体的な事例でないと検討しにくいことになります。
q00−032
中和滴定で指示薬を多く入れるとデータが狂うのはどうしてか
質 問
中和摘定実験でフェノールフタレイン溶液やメチルオレンジ溶液などを使用する時、あまり多く入れるとデータが狂ってしまうということを聞いたのですが、それがなぜだか教えてもらえないでしょうか。
説 明
それは指示薬自身が酸であったり、塩基であったりするからです。フェノールフタレインを例に説明します。その構造式は複雑ですから省きますが、簡単に言うと電離して水素イオンになる水素が2つあり、その化学式はまとめて
H2〔C20H12O4〕
と示すことができます。この物質自身は無色です。これに水酸化ナトリウムが加わると次のように中和反応します。
H2〔C20H12O4〕+ 2NaOH ―→ Na2〔C20H12O4〕+ 2H2O (1)
そしてできる陰イオン〔C20H12O4〕2- が赤色をしています。こうしてこの指示薬は塩基性で赤色に変色します。なおフェノールフタレインはごく弱い酸ですので、一緒になにか酸が存在すれば水酸化ナトリウムは始めにその酸と中和反応をします。
水酸化ナトリウムのような塩基が存在してフェノールフタレインが赤色になっているとき、塩酸を加えると次のような反応が起こります。
Na2〔C20H12O4〕+ 2HCl ―→ 2NaCl + H2〔C20H12O4〕
これは「弱酸の塩に強酸を加わると強酸の塩と弱酸ができる」タイプの反応です。このときも一緒になにか塩基が存在すれば、塩酸は始めに塩基の方と反応します。
さてある酸を中和するときに大量のフェノールフタレインを加えるとどうなるのでしょうか。それは簡単に言うと、ごく弱い酸であるからといっても、その酸が中和し終わる前にフェノールフタレインの一部が塩基と反応して着色してしまうのです。
これは正確には化学平衡の理論から理解できることです。ある酸を塩基で中和するとは、水溶液の水素イオン濃度[H+]をある数値にすることです。強酸と強塩基の組合せなら、中性つまり10^(−7)[mol/l]にすることです。弱酸を強塩基で中和するときは、すこし塩基性つまりたとえば10^(−9)[mol/l]にすることです。指示薬にフェノールフタレインを選ぶ場合は後者です。
さて(1)の反応式の〔C20H12O4〕を簡単に A で表し、イオン反応式に直すと次のようになります。
H2A+ 2OH- ―→ A2- + 2H2O
これに質量作用の法則を適用し
[A2-]/[H2A]・[OH-]^2 = K(一定)
他方で水のイオン積を二乗すると
[H+]^2・[OH-]^2 = 10^(−28)
両式を掛け合わせて変形すると
[H+]^2 = 10^(−28)・K・[H2A]/[A2-]= L・[H2A]/[A2-]
ここで L は一定の数値であることが大切です。
いま[A2-]が c[mol/l]になると肉眼で着色したことが判別できるとします。始めにフェノールフタレインを[H2A]が 2c[mol/l]になるだけ加えたとすると、そのとき着色するのは水素イオン濃度の二乗が
[H+]^2 = L・c/c = L
になったときです。次に[H2A]が 11c[mol/l]になるだけ加えたとすると、水素イオン濃度の二乗が
[H+]^2 = L・10c/c = 10L
になったときに着色します。さらに[H2A]が 101c[mol/l]のときは
[H+]^2 = L・100c/c = 100L
になったときに着色します。このように加えるフェノールフタレインの量を大きくするほど、より酸性の側で変色してしまうわけです。
最後の部分は化学平衡の学習が済んでいてもすこし難しいかもしれません。
q00−033
3種のアミノ酸からなるトリペプチドの構造異性体はいくつか
質 問
問題集に次の問題がありました。
「グルタミン酸、アラニン、リジンの各1分子からなるトリペプチドAがある。Aとして何種類の構造異性体が考えられるか。」
私はアミノ酸が3つだから3の階乗で6種類と考えました。しかし解答にはこう記載されていました。
「17種類。グルタミン酸には−COOH基が2つ、リジンには−NH2基が2つあり、それぞれのぺプチド結合を考える。」
私はこの解説に疑問を抱きました。一般にα−アミノ酸がペプチド結合を繰り返し鎖状になったものがペプチド、ポリペプチドと呼ばれます。解答が示す、下記のような構造の Ala-Lys-Glu という物質もペプチドと分類するのでしょうか。
CH3 COOH NH2
| | |
NH2-CH−CO−NH−(CH2)4−CH−NH−CO−CH2−CH2−CH−COOH
↑ ↑ ↑
アラニン リジン グルタミン酸
説 明
ペプチドはα−アミノ酸が脱水縮合してできるものですから、あなたの考えが正しいと思います。一般に、沢山のアミド結合でできるナイロンのようなものはポリアミドと呼ばれます。
ペプチド結合を他のアミド結合から区別するのは、タンパク質のようにそれが連続する場合に、α−らせんと呼ばれる特別の構造を持つようになるからです。この構造において、ペプチド結合のすべての窒素・水素単結合はN末端側に、そしてペプチド結合のすべての炭素・酸素二重結合は反対のC末端側を向いており、それぞれ4つ目のペプチド結合との間で、水素部分と酸素部分が水素結合をしていると考えられています。そしてα−アミノ酸の側鎖(R−)はらせんの外に向いています(図が示せると分かりやすいのですが・・・)。
q00−034
過冷却現象はなぜ起こるか
質 問
私は高校2年です。
1.過冷却現象はなぜ起こるか?
2.氷水に食塩を加えると温度が下がるのはなぜか?
教えて下さい。
(質問2の返事は00−35にあります。)
説 明
1.過冷却現象はなぜ起こるか?
水を中心に話を進めます。物質の状態を支配しているのは、分子の熱運動と分子間力です。熱運動は温度が高いほど激しいと言えます。分子間力は温度の影響を受けません。したがって温度が高くなるにつれて、熱運動が分子間力を振り払っていきます。言い換えると、分子間力は分子どうしが近づくと急激に大きくなるので、温度が高くなるにつれて分子どうしは離れた状態になっていきます。気体では分子間力は衝突のときのみはたらきます。反対に固体では分子間力が優っています。そして液体では分子間力の一部が振り払われていると言えます。
水分子どうしでは水素結合というかなり強い分子間力がはたらきます。そしてこの水素結合は、ひとつの水分子のヒドロキシル基(H−O−)ともうひとつの水分子の水素原子が酸素原子を中心に直線に並んだ状態で接近すると強くなります。だから固体の氷では、その立体的制約を満たすためにある程度の空間を包み込んでいます。これに対して液体の水では水素結合の一部は振り払われているので、分子どうしはより接近した状態にあります。こうして水については、液体の方が密度が大きいという異常が起きます。
さて液体の水の温度が下がって0℃になったとします。水分子は水素結合の方向性を確保しようとしますが、一度はより水素結合を弱めた状態を通る必要があります。それにはより大きい熱運動が必要です。しかし温度が下がっています。熱運動にはばらつきがあるので、少々のことなら何とかなります。しかし水の場合は手間取ります。そして凝固しないままに温度が下がると、ますます困難さが増していきます。こうして過冷却が実現します。
さて過冷却の水に固体の氷を入れると直ちにすべてが凝固します。これはどうしてでしょうか。それは氷のそばの水分子は、まわりが液体の分子ばかりの場合に比べて、容易に結晶の配列に加わることができます。そしてそのとき凝固熱が発生して温度が上昇し熱運動も回復し、ますます容易に凝固できるようになるのです。このようなはたきをするものはほかにもあり、一般に凝結核と呼ばれます。
q00−035
氷水に食塩を加えると温度が下がるのはなぜか
質 問
私は高校2年です。
1.過冷却現象はなぜ起こるか?
2.氷水に食塩を加えると温度が下がるのはなぜか?
教えて下さい。お願いします。
(質問1の返事は00−34にあります。)
説 明
2.氷水に食塩を加えると温度が下がるのはなぜか?
水は0℃で凝固すると言いますが、これはその温度では氷と水が共存できるという意味なのです。0℃より高ければやがて水ばかりになり、それより低ければ氷ばかりになります。さらに踏み込むと、0℃においては、水が凝固する「勢い」と、氷が融解する「勢い」がバランスするのです。化学ではこれを平衡状態と呼びます(平衡については化学Uで学習します)。ここで「勢い」とは理論的には「自由エネルギー」と言うものですが、高校生に分かりやすいだろうと考えて私が使う用語です。
さてこの勢いは何によって変化するのでしょうか。ひとつはモル濃度です。勢いはモル濃度が高くなると大きくなるのです(正比例ではありませんが・・・)。たとえば半透膜をはさんで、真水とショ糖水溶液を対峙させると、真水の方の水が半透膜を通り抜けてショ糖水溶液に移動します(浸透と呼ばれる現象です)。これは真水の水のモル濃度の方が高いので、真水の水分子が半透膜を通り抜ける勢いの方が優るためです。
それでは0℃で氷と水が共存しているところへ、大量の食塩を加えてみましょう。食塩はもっぱら液体の水の方に溶け、固体の氷には溶け込めません。すると液体の水のモル濃度が低くなり、したがって凝固の勢いが劣るようになります。こうして氷が融解し、0℃は凝固点ではなくなります。
融解するためには融解熱が必要ですが、それがまわりから供給されにくいときは、やむなく自らのの熱運動のエネルギーを利用するため、温度が下がっていきます。そして勢いを変化させるもうひとつが温度なのです。飽和食塩水の場合は−21℃で再び水の融解と凝固のバランスが実現します。
q00−036
硫酸銅(U)は銅と熱濃硫酸だけでできないか
質 問
硫酸銅を生成する方法はいくつかあると思うのですが、その中のひとつに以下のようなものがあります。
銅片に濃硫酸を加え、加熱する
Cu + 2H2SO4 ―→ CuSO4 + 2H2O + SO2↑
このような反応で硫酸銅は生成するはずなのですが、私共の実験では濃硫酸を加えるだけでなく、銅片に濃硫酸と濃硝酸を加えると実験書に記載されていました。この実験書のとおりに行なった結果、確かに硫酸銅は生成したのですが、この濃硝酸というのはいったいどのような働きをしているのでしょうか? 上のような反応はせずに、ほかの反応経路をたどるのでしょうか?
説 明
銅片を熱濃硫酸に加えると、高校教科書の記述とは裏腹に次のように硫酸銅(T)が生成します(丸善「新実験科学講座8」)。
2Cu + 2H2SO4 ―→ Cu2SO4 + 2H2O + SO2
酸化数が+2の硫酸銅をつくるには濃硝酸のような酸化剤が必要になります。
これは鉄と希硫酸で硫酸鉄(U)が生成するのに似ています。3価の鉄イオンの硫酸塩にするには過酸化水素などを加えます。
ひとつ先の質問(q01−001)に進む。
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