キーワード
高校、化学、教材、自主編成、教科書、(高校化学、化学教材)

                                   02.4
                                   林 正幸

   17.化学平衡

授業計画

 1  
実験1 可逆反応と平衡移動
 2  1.可逆反応
 3  2.化学平衡
 4  3.濃度と平衡移動    [a]平衡移動
                 [b]フェノールフタレインの合成と変色
                 [c]食塩の雪
 5               [d]ルシャトリエの原理
    4.温度・圧力と平衡移動 [a]二酸化窒素のアンプル
                 [b]温度と平衡移動
 6               [c]圧力の意味
                 [d]アンモニア合成と圧力
                 [e]ブタンの沸とう
                 [f]触媒の影響
 7               [g]例題
    5.平衡理論の応用    [a]水のイオン積
                 [b]生成物質の物質量
 8               [c]電離度
                 [d]塩の加水分解   デモ実験
 9               [e]溶解度積
                 [f]緩衝溶液     緩衝溶液
10 宿題(演習)


                  - 1 -































                  - 2 -

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1.可逆反応

[a]塩化アンモニウムの分解と生成(実験のまとめ)
[1]試験管の底に(塩化アンモニウム)を入れ、pH試験紙を湿らせて内壁に貼り付け、
試験管を(水平)にして塩化アンモニウムを加熱する。やがて試験紙が(青〜紫色)に変
色してこれが遠ざかるように移動し、それを追いかけるように(黄〜赤色)の変色が生じ
てくる。と同時に試験管の中程の壁に白色の(固体)が生成する。
[2]試験管の底の(高温)の部分では次の反応が起きている。
    NH4Cl −→ NH3 + HCl
アンモニアも塩化水素も気体であるが、熱運動の飛行速度は(分子量)が小さいほど大き
いので、(アンモニア)が先に拡散していき、その塩基性のために青〜紫色の変色を引き起
こす。そして拡散が遅い(塩化水素)が、その酸性のために黄〜赤色の変色を引き起こす。
こうして生成物質はともに無色透明であるが、(pH試験紙)の変色から塩化アンモニウム
の(分解)を確認できる。
[3]これに対して試験管の中程は(常温)である。ここで(生成)するのはもとの塩化
アンモニウムである。つまり上と(逆向き)の次のような反応が起きている。
    NH3 + HCl −→ NH4Cl 
[b]可逆反応
 塩化アンモニウムは高温では分解し、常温では再生成する。
    NH4Cl ←→ NH3 + HCl
このように逆向きにも進行する反応は(可逆反応)と呼ばれる。
 振りかえてみると、温度によって氷が融解したり、水が(凝固)したりする。
    H2O(固) ←→ H2O(液)
水素と酸素を化合すれば水が生成し、水を(電気分解)すれば水素と酸素が発生する。
    2H2 + O2 ←→ 2H2
また9章では、金属が(電子を失う)反応と、その逆向きに陽イオンが電子を得る反応を
扱った。たとえば銅では次のようである。
    Cu ←→ Cu2+ + 2e-
注意:ワープロの制約から「←→」と表しているが、正しい書き方を確認しておこう。

                  - 3 -

[c]反応の進行
 実のところ、化学的変化はすべて(可逆的)なのである。しかし話はそれに留まらない。
右向きの変化と左向きの変化はいつでも(同時に)起こっているのである。
 塩化アンモニウムの実験では高温の部分でも、アンモニアと塩化水素から塩化アンモニ
ウムが生成する反応も起きている。ただし塩化アンモニウムが分解する反応が(優勢)で
あるから、右向きに反応が(進行)しているのである。同様に常温の部分でも、塩化アン
モニウムがアンモニアと塩化水素に分解する反応も起きている。この場合は塩化アンモニ
ウムが生成する反応が優勢なのである。
[d]男女対抗玉投げゲーム
 この仮想的ゲームのルールは至って簡単で、ひたすら玉を相手コートに投げ返すのであ
る。それではいくつかの事例について考えてみよう。

      

<事例1>玉をすべて女子コートに入れてスタートする。
 全体として玉はしだいに男子コートに移っていくが、やがてそれぞれのコートの玉数は
ほとんど変化しなくなる。そして仮に男子の能力が優っているとしても、男子コートの玉
が無くなることは(ない)。
<事例2>すべての玉を男子コートに入れてスタートする。
 しばらくは女子コートの玉数が増えていくが、やがて変化のないゲーム展開となる。そ
して男子コートの玉数と女子コートの玉数の()は事例1と同じになる。
<事例3>事例2に続いて、女子コートに玉を追加する。
 しばらくは男子コートの玉数が増えていくが、やがて退屈な状態になる。このとき両方
のコートの玉数は事例1とは異なるが、その比はまたも事例1と(同じ)になる。
<事例4>事例2に続いて、男子チームの人数を増やす。
 しばらくは全体として女子コートに玉が移っていくが、やはりバランスがとれた状態に
なって、観戦者は帰ってしまうだろう。ただしこの事例では両方のコートの玉数の比は事
例1と(異なる)。

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2.化学平衡

[a]化学平衡
[1]「玉投げゲーム」は化学的変化を考えるヒントになる。全体として玉が移動していく
ときは、一方の向きの反応が逆向きの反応より優勢であって反応が(進行)している。こ
れに対して玉数の比が一定になった状態は、両方の反応の勢いが(バランス)して、全体
として反応が(停止)していることを意味する。このような状態は(化学平衡)あるいは
単に平衡と呼ばれる。平衡状態ではそれぞれの反応が起きていないので(ない)。
 そして
  ( 条件が一定に保たれるなら、化学的変化はやがて平衡状態になる )
のである。
[2]ちなみに、常温で水素と酸素を混合しても何の変化も見られない。この場合は反応
速度があまりに小さいために、事実上反応が起きていないのである。
 この章では前者の化学平衡について学習する。
[b]質量作用の法則
[1]6章では物質が変化する(勢い)について学習した。それは(モル濃度)に比例す
る。ただしここで比例とは正比例ではなく、モル濃度が高くなると、物質が変化する勢い
も大きくなるという意味であった。その上で凝固点降下や浸透という現象が起きる理由を
考えた。
 なお物質が変化する勢いは(温度)によっても変化する。このことに関しては後で取り
上げる。
[2]温度を(一定)に保って、水に大量の砂糖を投入する例を考えよう。知ってのとお

      

りはじめは砂糖が溶解していくが、やがてそれ以上は溶解しない(飽和)状態になる。
 これは砂糖が水に(溶解)する変化と、その逆向きの水溶液中の砂糖が(析出)する変

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化が起きている。
    固体の砂糖 ←→ 水溶液中の砂糖
それぞれの変化の勢いは次のように表すことができる。
    溶解の勢い=Kd[固体の砂糖]
    析出の勢い=Kc[水溶液中の砂糖]
ここでKdとKcは比例定数であるが、6章でも注意したように比例定数を使うのは説明の
便宜上からである。
 そしてモル濃度は
  ( 注目する物質がどれくらい密に詰まっているかを示す数値 )
であった。(固体)の砂糖が詰まっている程度は一定なので(密度が一定だから)、固体の
砂糖のモル濃度は(一定)である。
 はじめは水溶液中の砂糖のモルの濃度は(小さい)ので溶解の勢いが優勢であり、全体
として溶解が進行する。しかしやがて析出の勢いが溶解の勢いに(バランス)するまで、
水溶液中の砂糖のモル濃度が高くなる。するともう全体として変化が停止する。こうして
飽和状態が生まれる。飽和状態は(平衡状態)なのである。
[3]平衡状態では両方の変化の勢いが等しいので次の関係式が成り立つ。
    Kd[固体の砂糖]=Kc[水溶液中の砂糖]
したがって
  ( [水溶液中の砂糖]/[固体の砂糖]= Kd/Kc = K(一定) )
この関係式は(質量作用の法則)と呼ばれる。またKは(平衡定数)と呼ばれ、温度が一
定なら一定の数値である。つまり(平衡状態)では[水溶液中の砂糖]/[固体の砂糖]
は一定である。これは「玉投げゲーム」からも納得できるであろう。
[4]それでは複数の物質が反応する場合では、反応の勢いはどうなるのであろうか。水
素と窒素からアンモニアを合成する反応を例にしよう。
      N2 + 3H2 ←→ 2NH3
    合成の勢い=K1[N2][H23
    分解の勢い=K2[NH32
そして質量作用の法則は次のようになる。
    [NH32/[N2][H23 = K
ここで(右辺)を分子にすることに注意しよう。

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3.濃度と平衡移動

[a]平衡移動
 化学的変化が平衡状態にあるとき、濃度や温度という条件(平衡条件)を変化させると、
一度バランスが崩れてある向きに反応が進行し、やがて新しい条件に見合ったところで再
び平衡状態になる。これは(平衡移動)と呼ばれる。このことも「玉投げゲーム」から考
えると分かりやすい。
 それでは平衡条件の(変化)と、平衡移動の(向き)にはどのような関係があるのだろ
うか。
[b]フェノールフタレインの合成と変色(実験のまとめ)
[1]試験管に少量のフェノール、無水フタル酸、濃硫酸を入れて、すこし加熱すると暗
赤色になり(フェノールフタレイン)が生成する。
 これに水を加えてビーカーに移す。そして(水酸化ナトリウム)水溶液を加えていくと、
あるところで(赤色)になる。そこで(塩酸)を加える(無色)にもどる。これはくり返
し実験でき、フェノールフタレインが(指示薬)としてはたらくことが分かる。
[2]フェノールフタレインは C20124 という化学式で示される複雑な構造の分子で
あるが、2価の(弱酸)であるので、水素イオンになる水素原子以外をAとすると H2
と表すことができる。そして合成して水に溶かした段階では、わずかに次のように(電離
して平衡状態にある。
    H2A ←→ 2H+ + A2-
つまりここで攻めぎ合っているのは、右向きの電離する反応と、左向きに分子になる反応
である。
[3]さて水酸化ナトリウムを加えることはどのような平衡条件の変化になるだろうか。
水酸化物イオンは次のように(水素イオン)と反応してそのモル濃度が小さくなる。
    H+ + OH- −→ H2
 水素イオンのモル濃度が(小さく)なると左向きの反応の勢いが小さくなり、平衡は(
向き)に移動して H2A のモル濃度が小さくなり H+ と A2- のモル濃度が大きくなる。
そして H2A は無色だが( 2- )は赤色なので、水素イオンのモル濃度が小さくて(
基性)になるとフェノールフタレインは赤色を示すわけである。

                  - 6 -

 次に塩酸を加えると、水素イオンのモル濃度が回復して左向きの反応の勢いが大きくな
り、平衡は左向きに移動してもとの無色にもどるのである。
[4]この反応に対する質量作用の法則は次のようである。
    ( [H+2[A2-]/[H2A]= K )
そして[3]の結論はこの関係式を使っても導き出せる。しかし簡単な事例ではいちいち
この式の世話になる必要はない。
[c]食塩の雪(実験のまとめ)
[1](飽和)食塩水に(濃塩酸)を滴下していくと、(固体)の塩化ナトリウムが生成し
て雪のように沈降する。
 6章で学習したように、塩化ナトリウムが溶解するときはナトリウムイオンと塩化物イ
オンに電離する。そして飽和食塩水であるので、固体の食塩を補って考えると次のような
平衡状態にある。
    ( NaCl(固) ←→ Na+ + Cl- )
[2]塩酸を加えるのは、この平衡にとっては(塩化物イオン)のモル濃度が大きくなる
ことである。すると左向きに変化の勢いが大きくなり、平衡は(左向き)に移動して固体
の塩化ナトリウムが生成する。
[3]以上は次のようにまとめられる。
 ( 濃度が変化すると、平衡はそれによって優勢になる方の反応の向きに移動する )
 そして複雑な事例では、平行移動の向きは質量作用の法則を使って導き出される。これ
については次節から具体的に取り上げる。
[d]ルシャトリエの原理
 平衡移動について研究したルシャトリエは次のように整理した。
  ( 濃度・温度・圧力などの条件が変化すると
               平衡はその影響を和らげる向きに移動する。 )
 上の実験に当てはめてみよう。フェノールフタレイン水溶液において水素イオンの濃度
が小さくなると、平衡は(右向き)に移動して水素イオンを(補って)その濃度減少を和
らげる。飽和食塩水において塩化物イオンの濃度が大きくなると、平衡は(左向き)に移
動して塩化物イオンを取り除いてその濃度増加を(和らげる)。
 (ルシャトリエの原理)は、化学平衡が一種の(慣性)を持っていることを言い表して
いる。

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4.温度・圧力と平衡移動

[a]二酸化窒素のアンプル(実験のまとめ)
 二酸化窒素と(四酸化二窒素)の2種の気体がアンプルに封入してある。これらは次の
ような平衡状態にある。
    ( 2NO2 ←→ N24 )
これを()に浸けると赤褐色が(濃く)なり、氷水に浸けると薄くなる。(二酸化窒素
が赤褐色で四酸化二窒素は無色なので、温度が高くなると平衡は(左向き)に移動し、温
度が(低く)なると平衡は右向きに移動している。

[b]温度と平衡移動(実験のまとめ)
[1]温度が変化すると、物質が反応する勢いはどのようになるのだろうか。しかしこれ
に踏み込むと複雑になるので別の視点で解決しよう。
[2]「ボックス」をゆるやかに振動させると、多くのBB弾が低い位置に留まっている。
そこで振動を(激しく)すると、BB弾が(高い)位置に移動する。これは
  ( 温度が高くなると、平衡はより大きいエネルギーを持つ物質が
                  増える向きに移動する )
ことを意味している。
 次に振動をゆるやかにすると、BB弾が低い位置に移動する。これは温度が低くなると、
平衡はより小さいエネルギーを持つ物質が増える向きに移動することを意味している。
参考:ボックスをどんなに激しく振動しても、高い位置のBB弾は半分以上にはならない。
   これはこのモデルの限界である。
[3](温度)が高くなるという平衡条件の変化は、平衡に関わる物質が(熱エネルギー
を得ることを意味する。すると当然より大きいエネルギーを持つ物質が(増える)向きに
平衡が移動するはずである。
 上の反応の熱化学方程式は次のようである。
    2NO2 = N24 + 48kJ
つまり(二酸化窒素)の方がより大きいエネルギーを持つから、実験結果は納得できる。
[4]ちなみに、平衡定数が温度によってどのように変化するが分かる場合は、温度の影

                  - 8 -

響を質量作用の法則を使って導き出すことができる。
[5]それではルシャトリエの原理からはどう考えられるだろう。温度が(高く)なると
平衡は(左向き)に移動して、(吸熱)することによって温度上昇を和らげる。

[c]圧力の意味
[1]始めに圧力の意味を考えてみよう。(圧力)が大きいほど物質はより密に詰まってい
るから、圧力は(濃度)の一種と考えられる。たとえば0℃、1atmではすべての気体
は1molが22.4[l]である。したがってそのときのモル濃度は
    1/22.4 = 0.0446[mol/l]
となる。こうして圧力の影響は、それを濃度の変化として平衡移動の向きを引き出せるこ
とが分かる。
「2」ここで注意をしておこう。二酸化窒素のアンプルを湯に浸けると温度が高くなって
圧力も大きくなる。しかしこれは体積は(変化せず)、平衡移動する前ではそれぞれの物質
の物質量も変化していないので、モル濃度が変化して平衡が移動する事例に(当たらない)。
[3]また圧縮して全体の圧力(全圧)が大きくなると、その平衡に関わるすべての(
)物質のモル濃度が大きくなる。ただし(液体)や固体の物質は圧力が高くなってもほ
とんど圧縮されず、したがって事実上そのモル濃度は(変化しない)ことに留意しよう。
 そしてこのような事例では、右向きの反応の勢いも左向きの反応の勢いも大きくなるの
で、質量作用の法則を使って考える必要がある。
[4]さらに反応容器に物質を圧し込むことによって圧力が大きくなる事例もある。これ
は実質的には圧し込まれた物質が示す圧力(分圧)が大きくなるのであり、他の物質が示
す圧力は変化しない。





                         (続く)


                  - 9 -

                                   No
[d]アンモニア合成と圧力
[1]アンモニアは窒素と水素を(高圧)にして直接に化合させて合成され、これは(
ーバー法)と呼ばれる(10章)。
 反応容器の中で窒素、水素、アンモニアが次のような平衡状態にあるとしよう。
    ( 2 + 3H2 ←→ 2NH3 )
2節でも触れたが質量作用の法則は次のようである。
    [NH32/[N2][H23 = K
[2]ここで体積を1/2にすることによって圧力を2倍にしてみよう。3種の気体とも
モル濃度が()倍になる。するとそのままでは上の式の分子は()倍になり、分母は
16)倍になる。平衡定数は一定だから、平衡は右向きに移動してアンモニアのモル濃
度が(大きく)なる。こうしてアンモニアを合成するには高圧がよいと判断できる。
参考:モル濃度の代わりに圧力そのものを質量作用の法則に使用することもある。

[3]以上のことは、気体の分子数が多い方の項がより大きくなるので、
  ( 全体の圧力が大きくなると、平衡は気体の分子数が減少する向きに移動する )
とまとめることもできる。
[4]ルシャトリエの原理からも見てみよう。全体の圧力を高くすると平衡は(右向き
に移動して、分子数が減少して圧力増加を(和らげる)。気体の圧力が(分子数)に比例す
ることは5章で学習した。

[e]ブタンの沸とう(実験のまとめ)
[1]試験管に液体のブタンを入れると沸とうする。ちなみに1atmの下ではその沸点
は(0℃)である。次に試験管の口を指で抑えると沸とうが(停止)する。続いて指を離
すと液体のブタンが無くなるまで沸とうが(進行)する。
[2]ブタンが試験管から抜けていくのを放置すると、平衡状態に到達せず、沸とうが最
後まで進行する。そして指で押さえてブタンを試験管の中に閉じこめると、平衡状態が実
現して沸とうが停止する。
 このように物質が失われ続けたり、逆に物質が増え続けるような変化(開放系)では、
化学平衡は成立しないのである。

                  - 10 -


[f]触媒の影響
 ハーバー法では四酸化三鉄 Fe34 という触媒が発見されて工業化が実現した。それ
では(触媒)は化学平衡にどのように影響するのだろうか。触媒は活性化エネルギーを低
くするはたらきをする。しかし物質が変化する勢いは、その物質が持つエネルギーに関係
していて、反応の途中の活性化エネルギーには関係ない。そして活性化エネルギーが低く
なることは、右向きの反応にとっても左向きの反応にとっても(同じように)促進効果を
持つのである。
 したがって触媒は平衡状態に到達するまでの(時間)を短くする。これも工業化には欠
かせない条件である。

[g]例題
 次のそれぞれの反応が平衡状態にある。それを反応式と質量作用の法則で示せ。そして
平衡条件が(  )内のように変化するときどのように平衡移動するか、「右向き」「左向
き」「変化しない」で答えよ。
(1)酢酸が水にすこし溶解して電離する(酢酸ナトリウムを加える)。
    CH3COOH ←→ CH3COO- + H+
    [CH3COO-][H+]/[CH3COOH]= K
    左向き
(2)炭酸カルシウムが酸化カルシウムと二酸化炭素に分解し、炭酸カルシウム1mol
あたりの反応熱は−178kJである(温度を高くする)。
    CaCO3 ←→ CaO+ CO2
    [CaO][CO2]/[CaCO3]= K
    右向き
(3)赤熱状態のコークス(C)と二酸化炭素から一酸化炭素が生成する。(圧縮して全体
の圧力を大きくする)。
    C + CO2 ←→ 2CO
    [CO]2/[C][CO2]= K
    左向き

                  - 11 -

                                   No
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5.平衡理論の応用

 化学平衡の理論は以下のようにたいへん強力である。
[a]水のイオン積
 8章では天下り的に次のように水のイオン積が一定であると学習した。
    ( [H+][OH-]= 10-14 )
 水はごく一部が次のように電離して平衡状態になる。
     H2O ←→ H+ + OH-
したがって質量作用の法則は次のようである。
    ( [H+][OH-]/[H2O]= K )
ところが(希薄な)水溶液では、水のモル濃度は事実上は純粋な水のモル濃度と同じであ
り(一定)と見なせる。具体的には1[l]が1000gだから
    ( 1000/18 = 55.6[mol/l] )
である。だから(水のイオン積)は一定と言える。
 このようにモル濃度が一定と見なせる物質は、平衡定数を示す式から省くことがある。
[b]生成物質の物質量
 14章では酢酸とエタノールから酢酸エチルを合成したが、このとき酢酸エチルが(
水分解)する反応も起きており、反応が停止したときは次のような平衡状態になっている。
    CH3COOH + C25OH ←→ CH3COOC25 + H2
そしてこの平衡定数は常温でおおむね4である。
 実験では酢酸とエタノールを8mlずつ反応させたが、それは物質量に換算するとほぼ
0.14molずつである。平衡状態で生成している酢酸エチルをx[mol]とすると、
水もx[mol]である。そして酢酸とエタノールは(0.14−x)[mol]ずつ残っ
ている。反応溶液の体積をV[l]とすると、質量作用の法則は次のようになる。
    ( (x/V)2/{(0.14−x)/V}2 = 4 )
変形して    x/(0.14−x)= 2
          x=0.093[mol]
0.093molの酢酸エチルは体積に換算すると9mlとなる。
 この計算は比較的簡単だが、同様にして平衡定数から生成物質の(物質量)を予想する

                  - 12 -

ことができる。
参考:関係する物質の密度[g/ml]は次のようである。
   酢酸:1.05   エタノール:0.79   酢酸エチル:0.90
[c]電離度
[1]8章では電離度が小さいのが(弱酸)であると説明した。たとえば酢酸の電離度は
0.01程度であるとした。
 酢酸を水に溶解するとすこし電離して次のような平衡状態になる。
    CH3COOH ←→ CH3COO- + H+
この平衡定数(酸の電離定数)は25℃で2.8×10-5[mol/l]である。
 それではモル濃度が0.1[mol/l]の酢酸の電離度を求めてみよう。それをαとす
ると平衡状態における水素イオンと酢酸イオンのモル濃度はともに0.1α[mol/l]
であり、酢酸のモル濃度は0.1(1−α)[mol/l]である。すると質量作用の法則は
次のようになる。
    ( (0.1α)2/0.1(1−α)= 2.8×10-5 )
ここでαは1に比べて十分に小さいと予想して(1−α)を1と近似すると
    0.01α2 = 2.8×10-5
      α=0.017
[2]ところでこの酢酸水溶液を水で2倍に(希釈)してみよう。すると質量作用の法則
において分子は(1/4)倍に分母は(1/2)倍になるので、平衡は(右向き)に移動
して CH3COO- と H+ のモル濃度が大きくなる。つまり0.05[mol/l]の酢酸
では電離度はもっと大きくなる。
 水溶液を希釈すると電離度がしだいに(大きく)なるのは一般的に言えることである。
[3]ちなみに(平衡定数)が大きいほど(生成物質)の割合が大きいわけであるから、
酸の強弱の正確な定義は酸の電離定数を使ってなされる。具体的には電離定数が10-3
上の酸を強酸、それ以下の酸を弱酸とする。
[d]塩の加水分解
[1]8章ではまた、弱酸と強塩基からできる塩や弱塩基と強酸からできる塩が厳密には
中性でないことも学習した。これはどういう理由からだろうか。

                         (続く)

                  - 13 -

                                   No

 このような塩を水に溶解すると、中和と逆向きの(塩の加水分解)という反応がすこし
起きて平衡状態になる。これは強酸と強塩基からできる塩では無視できる。
[2]炭酸水素ナトリウムを水に溶解する場合では次のような平衡状態になり、
  ( NaHCO3 + H2O ←→ H23 + NaOH )
炭酸と水酸化ナトリウムが(すこし)生成する。そして(炭酸)は弱酸だからその電離は
無視できるが、水酸化ナトリウムの方は(強塩基)で次のように電離している。
    NaOH −→ Na+ + OH-
このようにしてすこし存在する(水酸化物イオン)が弱塩基性を示すのである。
[3]全体としての反応式は積み算すればよいが、炭酸水素ナトリウムも電離しているこ
とを考慮すると次のようになる。
  ( HCO3 - + H2 −→ H2CO3 + OH- )
[e]溶解度積
[1]塩化ナトリウム水溶液に硝酸銀水溶液を加えると塩化銀の沈でんが生成する。この
とき次のような平衡状態になっている。
    ( AgCl(固) ←→ Ag+ + Cl- )
また質量作用の法則は次のようである。
    [Ag+][Cl-]/[AgCl(固)]= K
そして塩化銀は固体だからそのモル濃度は一定であり、(平衡状態)にあるなら
    ( [Ag+][Cl-]= K’(一定) )
と言える。[Ag+][Cl-]は(溶解度積)と呼ばれ、塩化銀では8.2×10-11
[mol2/l2]という数値である。要するに銀イオンと塩化物イオンのモル濃度の積がこ
の数値を(超える)とき塩化銀の沈でんが(生成)するのである。
[2]それでは塩化ナトリウム水溶液に同量の0.2[mol/l]の硝酸銀水溶液を加え
るとして、塩化銀の沈でんが生成するのはモル濃度がいくら以上のときだろうか。
 溶液は互いに1/2に薄まるので、まず
    [Ag+]=0.1=10-1
したがって
    [Cl-]>(8.2×10-10

                  - 14 -

塩化物イオンが1.6×10-9[mol/l]以上、つまり塩化ナトリウム水溶液のモル濃
度が1.6×10-9[mol/l]以上であれば、沈でんが生成して(検出)できることが
分かる。
[f]緩衝溶液
問 実験のイラストを描け。

      

[1]純水に比べて、実験に使った酢酸と酢酸ナトリウムを溶解した水溶液は、強酸や強
塩基を加えてもあまりpHが変動しない。このような水溶液は(緩衝溶液)と呼ばれる。
そのわけを考えてみよう。
[2]まず酢酸を水に溶解すると次のようにすこし電離して平衡状態になる。
    ( CH3COOH ←→ CH3COO- + H+ )
このとき酢酸(分子)は(多く)存在する。
次に酢酸ナトリウムを溶解すると、(酢酸イオン)のモル濃度が大きくなるので、平衡が左
向きに移動する。ただしもともと水素イオンが少ないので、新しい平衡状態では酢酸イオ
ンが多く(残って)いる。つまりこうして得られる水溶液は右向きにも左向きにも(十分
)平衡移動できる状態にある。
[3]この酢酸・酢酸ナトリウム緩衝溶液に、塩酸のような(強酸)を加えてみよう。こ
れは水素イオンのモル濃度を大きくすることであるが、そのとき平衡は(左向き)に移動
して、水素イオンのモル濃度はあまり大きくならない。
 また水酸化ナトリウムのような強塩基を加えてみよう。これは水素イオンのモル濃度を
小さくすることであるが、そのとき平衡は(右向き)に移動して、水素イオンのモル濃度
はあまり小さくならない。
 こんなわけで緩衝溶液は、強酸や強塩基を加えてもあまり(pH)が変動しない。
[4]私たちの(血液)はpHが7.5の緩衝溶液であり、pHの変動を抑えて(体内環境
を維持している

                  - 15 -

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   宿題(17章)

1.平衡移動に関する次のまとめを完成し、下の問に答えよ。
 ・濃度が変化すると、平衡は(それによって優勢になる方の反応)の向き移動する。
     (両辺の物質の濃度が変化する場合は質量作用の法則から判断する)
 ・温度が高くなると、平衡は(より大きいエネルギーを持つ物質が増加する)向きに
                   移動する。
 ・圧縮して圧力が大きくなると、平衡は(気体の分子数が減少する)向きに移動する。
            (質量作用の法則からも判定できる)
 ・(ルシャトリエ)の原理では、
  条件が変化すると、平衡は(その影響を和らげる)向きに移動する。
(1)硫化水素が次のように水にすこし溶解して電離している。
    H2S ←→ 2H+ + S2-
これにアンモニア水を加えるとどのように平衡移動するか。   (右向き
(2)塩化アンモニウムは高温にするとアンモニアと塩化水素に分解し、低温にすると塩
化アンモニウムが生成する。この分解反応は発熱か、吸熱か。  (吸熱

2.気液平衡に関する次の文を完成せよ。
 4章で体験した、注射器に水をすこし吸い取り、穴を指でふさいでピストンを引っ張っ
て水蒸気をつくる実験について検討する。このとき水が(蒸発)する変化と、水蒸気が
凝縮)する変化が攻めぎ合う。(温度)は室温に保たれている。
 物質が変化する勢いはその(モル濃度)に比例する。ここではそれを正比例とし、比例
定数が蒸発はKv、凝縮はKcとする。すると両方の変化の(勢い)は次のように書ける。
    蒸発の勢い=(v[水]
    凝縮の勢い=(c[水蒸気]
 ピストンを引っ張って水蒸気の(圧力)つまり水蒸気のモル濃度を小さく留めると、両
方の変化の勢いはバランスして水と水蒸気が(共存)する。その温度において水と共存す
る水蒸気が示す圧力は水の(飽和蒸気圧)と呼ばれる。
 ここで手を離すと水蒸気は圧縮されて1atmになり、水蒸気のモル濃度が大きくなっ
て凝縮の勢いが(優る)ようになる。そして水蒸気は減少してもピストンが動いて1
atmに保たれ、また水のモル濃度も(一定)であるので、この条件ではすべての水蒸気
が水になる。
3.次の事項を質量作用の法則から説明せよ(まず反応式と質量作用の法則を書け)。
(1)ギ酸 HCOOH の電離度は希釈すると大きくなる。
    HCOOH ←→ HCOO- + H+
    [HCOO-][H+]/[HCOOH]= K
    2倍に希釈すると3種の物質のモル濃度が 1/2 になるため
    分子が 1/4 倍に分母が 1/2 倍になるので、
    平衡は右向きに移動して電離度が大きくなる。
(2)気体の溶解に関しては、温度が一定なら溶解する物質量は圧力に正比例するという
ヘンリーの法則が成り立つ(酸素が1[l]の水に溶解する場合で説明せよ)。

                  - 1 -

    気体の酸素 ←→ 水溶液中の酸素
    [水溶液中の酸素]/[気体の酸素]=K
    圧力を2倍にすると気体の酸素のモル濃度が2倍になるため
    水溶液中の酸素のモル濃度も2倍になる。
    つまり1[l]の水に溶解する物質量は2倍になる。

4.10[l]の容器にエチレン1molと水素1.6molを入れ、高温で温度を一定に
保って反応させたところ、平衡状態ではエタンが0.8mol生成していた。この温度にお
ける平衡定数はいくらか[単位:l/mol]。
    24+ H2 ←→ C26
    平衡状態での物質量は C24 0.2、H2 0.8、C26 0.8[mol]
    〃 モル濃度は C24 0.02、H2 0.08、C26 0.08[mol/l]
    [C26]/[C24][H2]= 0.08/(0.02×0.08)= 50
                    答 50[l/mol]
5.酢酸を水に溶解すると一部が電離して弱酸性を示す。これに関して次の問に答えよ。
(1)酢酸のモル濃度をc[mol/l]電離定数をKa[mol/l]とする。電離度αが
1に比べて無視できるほど小さいとき、αをcとKaで表せ。
    1[l]の水溶液を考えて
    CH3COOH ←→ CH3COO- + H+
     c(1−α)   cα    cα
    [CH3COO-][H+]/[CH3COOH]=
        cα×cα/c(1−α)= cα2 = Ka
                    答 √(Ka/c)
(2)Ka=2.8×10-5[mol/l]、c=0.1[mol/l]のときのpHを計算せ
よ(log1.7=0.2)。
    電離度α = √(2.8×10-5/10-1)= 1.7×10-2
    [H+]= cα = 1.7×10-2×10-1 = 1.7×10-3
    pH = −log[H+]= −log(1.7×10-3
                = −log1.7+3=2.8
                    答 pH2.8
6.塩の水溶液についての次の文を完成し、下の問に答えよ。
 酢酸ナトリウムを水に溶解すると、すこし塩の(加水分解)が起こって次の平衡状態に
なる。
    ( CH3COONa + H2O ←→ CH3COOH + NaOH )
そして酢酸は(弱酸)であるからあまり(電離)しないが、水酸化ナトリウムは(強塩
)であり次のように(電離)して
    ( NaOH −→ Na+ + OH- )
水酸化物イオン)を生じる。こうして酢酸ナトリウム水溶液は(弱塩基性)を示す。
問 全体としての変化をイオン反応式で書け。
    CH3COO- + H2O −→ CH3COOH + OH-

               ( )組 (  )番 氏名(       )   

                  - 2 -


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