キーワード
高校、化学、教材、自主編成、教科書、(高校化学、化学教材)

                                   03.1
                                   林 正幸

  15.芳香族化合物

授業計画

時間      項 目                    備考
 1 
1.芳香族炭化水素
 2 実験1 ニトロベンゼンとフェノール類
 3 2.芳香族炭化水素の反応 [a]ニトロベンゼンの合成
                [b]ベンゼン環の置換反応
 4              [c]アルケンへの付加反応
   3.フェノール類     [a]フェノール類
                [b]クレゾール
 5              [c]フェノールの合成
   4.芳香族カルボン酸                 サロメチール
 6 実験2 アセトアニリドとアゾ染料
 7 5.アミンとアミド
 8 6.染料、医薬と農薬  [a]アゾ染料の合成と染色  ザルツマン試薬
               [b]染料の色        補色の実験
 9             [c]医薬
               [d]農薬
10 7.石油化学工業
11 8.スペクトル分析                  赤外線放射温度計
12 宿題(演習)




                  - 1 -

 せめて二酸化窒素の道路汚染調査は本格的に取り組みたい。





























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1.芳香族炭化水素

[a]ベンゼンの謎
[1]18世紀の産業革命以来、大量の鉄が必要になり(コークス)を使う現在の製鉄技
術が確立した。コークスは石炭を(乾留)して(空気を絶って加熱する)生産されるが、
このとき同時に石炭ガスやコールタールが生成する。そして(コールタール)を蒸留して、
ナフタレン)、(アントラセン)、ベンゼンなどが発見された。
[2]このなかで(ベンゼン)に注目しよう。この分子式は C66 である。アルカンで
あるヘキサン C614 に比べて(8つ)も水素が少ないので、いくつもの炭素・炭素の
不飽和)結合を持つと推測される。しかしベンゼンは(臭素水)を脱色することも、ア
ルカリ性過マンガン酸カリウム水溶液を脱色することもない。
[3]これに対して原子価の理論を生み出したケクレは、大胆に左のような構造式を提案
した。

    


彼は二重結合は(動いて)おり、実際のベンゼンは(A)と(B)の中間の構造をしてお
り、すべての炭素・炭素結合は(同じ)ものであり、炭素環は(正六角形)になっている
と考えた(ベンゼンの12個の原子はすべて同一平面上にあり、炭素・水素単結合は中心
から外に向かうように伸びている)。それはベンゼンの水素1つを塩素で置き換えたクロ
ロベンゼン C65Cl に異性体が存在しないことを踏まえた上であった。
 しかしこれはある意味では自らの原子価理論の逸脱である。ベンゼンの構造の真の解明
は、20世紀になって登場した量子力学を使って化学結合を研究した(ポーリング)の共
鳴理論を待つ必要があった。それをケクレは天才のひらめきで突破したのである。
[4]このような六角形構造は(ベンゼン環)と呼ばれる。そしてベンゼン環を含む有機
化合物は(芳香族)化合物と呼ばれる。これに対してこれまで学習してきたものは(脂肪
)化合物と呼ばれる。

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[5]ベンゼン環の構造式は(A)か(B)の一方を書く約束になっている。なおそれは
面倒であるので、右のような簡略構造式を使用することが多い。これは次のようなルール
に基づいている。
  (1)線の角や端には炭素原子があるとする。
  (2)炭素・炭素の二重結合は = で、三重結合は ≡ で示す。
  (3)炭素が4価になるように水素原子があるとする。
  (4)炭素、水素以外は通常どおりに書く。
ただし高校ではベンゼン環以外に使用することは避けている。

[b]芳香族炭化水素
 主な芳香族炭化水素の示性式は次のようである。

    


 (キシレン)のように、ベンゼンの水素2つを原子または基で置き換えた芳香族化合物
には、上のように(3種)の異性体が存在する。そしてそれらは(o− オルト)、m−
メタ、(p− パラ)で区別される。また(ナフタレン)やアントラセンはベンゼン環が
融合した形をしているが、ともにすべての原子が(同一平面上)にある。
 芳香族化合物では上記のように、簡略構造式を含む示性式を使うことにする。
 工業原料として重要な(ベンゼン)、(トルエン)、キシレンは、現在では原油から得
られる重質ナフサに接触改質という反応(7節)を行って生産される。



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2.芳香族炭化水素の反応

[a]ニトロベンゼンの合成 (実験のまとめ)
 濃硫酸に(濃硝酸)を加え、(ベンゼン)を加えて温度調節をしながら振り混ぜる。そ
して反応混合物を大量の水に注いでかき混ぜると、生成した(ニトロベンゼン)が黄色の
油滴)になって(底に沈む)。
 このときの反応は次のようである。

    


 ニトロベンゼンは水より密度が(大きい)。またニトロベンゼン自身は無色の液体であ
るが、さらに硝酸が反応した副生成物質のために(黄色)になる。
 ここで(     −NO2 )はニトロ基と呼ばれる官能基であり、このような反応を
ニトロ化)と言うことがある。(ニトロ基)を持つものは(ニトロ化合物)と呼ばれる。
問 トルエンを濃硝酸と濃硫酸の混合物と反応させて、2,4,6−トリニトロトルエン
(TNTと呼ばれる火薬)が合成される。その反応式を書け。

    


[b]ベンゼン環の置換反応
[1]上の反応は縮合による(脱水反応)である。つまりベンゼン環の水素と硝酸のヒド
ロキシル基が水として切り取られる。したがってこれは置換の一種である。
 このように(ベンゼン環)に対しては、付加反応ではなく(置換)反応が起きやすい。
[2]クロロベンゼン
 ベンゼンに(塩化鉄(V))を触媒にして塩素を吹き込んで、次のようにクロロベンゼ
ンが合成される。

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[3]ベンゼンスルホン酸
 ベンゼンに濃硫酸を加えて加熱して、ベンゼンスルホン酸が合成される。

    


 この反応ではベンゼン環の水素と硫酸のヒドロキシル基が水として切り取られる。
       −SO2OH )はスルホ基と呼ばれる官能基である。スルホ基も硫酸と
同じような(強酸)であるが、14章に出てきた硫酸エステルとは構造が異なるので注意
しよう。(スルホ基)を持つ化合物は(スルホン酸)と呼ばれる。そしてこのような反応を(スルホン化)と言うことがある。
 また前章では合成洗剤の、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムにも触れた。
参考:スルホ基を −SO3H と表すことが多いが、あまり勧められない。

[c]アルケンへの付加反応
 芳香族炭化水素はベンゼン環の部分が、水素と残部に切れてアルケンの二重結合に付加
反応する。これはベンゼン環への付加ではないので注意しよう。
 (エチレン)に塩化アルミニウムを触媒としてベンゼンを付加して、エチルベンゼンが
合成される。

    


 そしてエチルベンゼンのエチル基から水素を(脱離)して(スチレン)が合成される。

    


スチレンはポリスチレンの原料である。

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3.フェノール類

[a]フェノール類(実験のまとめ)
[1](ベンゼン環)に結合した(ヒドロキシル基)を持つ化合物はフェノール類と呼ば
れ、その主なものの示性式は次のようである。

    


フェノールはフェノール樹脂の原料である。サリチル酸はその構造から分かるように(
ルボン酸)でもある。
[2]水に小量の(フェノール)、クレゾール、(サリチル酸)を入れ、それに(塩化鉄
(V))水溶液を加えると青〜(紫色)に発色する。これに対してベンゼンは変化を示さ
ない。
 12章で確認したように3価の鉄イオン Fe3+ は酸化剤である。つまりフェノール類
は(酸化)されやすく、有色の物質を生成するのである。これはフェノール類の検出法の
ひとつである。

[b]クレゾール(実験のまとめ)
[1](BTB)を入れた水に(クレゾール)を加えても、ほとんど溶解しないで油滴に
なって浮く。これに(水酸化ナトリウム)水溶液を加えると、BTBは(青色)になって
クレゾールは(溶解する)。続いて十分に(塩酸)を加えると、BTBは(黄色)になっ
て再びクレゾールが(油滴)になって浮く。
[2]一般に(フェノール類)はアルコールと違ってわずかに(酸性)である。クレゾー
ルは水酸化ナトリウムのような塩基と次のように(中和)反応し(o−クレゾールの場
合)、塩を形成して溶解する。

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 そして塩酸を加えると次のように反応して、再びクレゾールにもどり水に溶解しにくく
なる。

    


これは8章で学習した、弱酸の塩に(強酸)を加えると(弱酸)が生成する反応である。
[3]クレゾールは(炭化水素基)が占める割合が大きいので、このままでは水に溶けに
くい。しかし中和して塩になると水に溶けやすくなる。せっけんや合成洗剤もそうであっ
たが、(イオン結合)は有機化合物を(親水性)に変えるはたらきをする。
 なお実験に使ったクレゾールはオルト、(メタ)、パラの3種の異性体の混合物である。
これはクレゾールせっけんという消毒殺菌剤などとして使用される。

[c]フェノールの合成
 プロピレンにベンゼンを付加して得られるクメンを、次のように酸素で酸化し、硫酸を
触媒にして分解すると、(アセトン)と共に(フェノール)が合成される。

    







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4.芳香族カルボン酸

[a]芳香族カルボン酸
 ベンゼン環に結合したカルボキシル基を持つ化合物は芳香族カルボン酸と呼ばれ、その
主なものの示性式は次のようである。

    



サリチル酸)はここには示してないが、すでに前節で紹介した。(テレフタル酸)はP
ETボトルの原料である。

[b]芳香族カルボン酸の合成
 ベンゼン環に結合した(炭化水素基)を空気で酸化すると(カルボキシル基)になり、
芳香族カルボン酸が合成される。

    


[c]カルボン酸無水物
 1分子のフタル酸の2つのカルボキシル基が脱水反応して環状になった化合物は(無水
フタル酸)と呼ばれる。同様に2分子の酢酸が脱水反応した(無水酢酸)は酢酸そのもの
より反応しやすく、酢酸エステルなどを合成するのによく利用される。



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[d]サロメチールとアスピリン
[1]芳香族カルボン酸もエステルを生成する。すでに確認したように(サリチル酸)は
カルボン酸でもある。メタノールに濃硫酸を加え、サリチル酸を溶かして加熱を続けると、
次のように油状物質の(サリチル酸メチル)が生成する。これは(サロメチール)と呼ば
れる鎮痛塗布薬である。
[2]またサリチル酸はアルコールに似てヒドロキシル基を持つ。これに無水酢酸を反応
させると、次のようなカルボン酸エステルに似た(アセチルサリチル酸)が生成する。こ
れはアスピリンと呼ばれる(解熱剤)である。

    









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5.アミンとアミド

[a]アミン
[1]アンモニア NH3 の水素を炭化水素基で置き換えたような化合物は(アミン)と呼
ばれる。その主なものの示性式は次のようである。

    


上の構造式の中で(     −NH2 )はアミノ基と呼ばれる官能基である。
 このように(アンモニア)に関連づけられるアミンには悪臭を持つものが多く、(トリ
メチルアミン)は鮮度が落ちた魚が持つ生臭いにおいのもとになる物質である。
 そしてアミンはアンモニアに似て(弱塩基)である。
問 アニリンと塩酸の中和反応を書け。

    


    参考 NH3 + HCl ―→ NH4Cl
 また(アニリン)のような芳香族アミンは、フェノール類と同様に(酸化)されやすい。
さらし粉)水溶液にアニリンを加えると、酸化されて赤紫色になる。
[2]アニリンは工業的には、(ニトロベンゼン)を鉄粉と塩酸で(還元)して合成され
る。ここで還元するとはニトロ基から、酸素原子を奪いかつ水素原子を与えるという意味
である。

    


ヘキサメチレンジアミン)はナイロンの原料である。

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[b]アミド(実験のまとめ)
[1]水に(アニリン)と(無水酢酸)を加えて振り混ぜると、次のように(アセトアニ
リド)が生成して(ペースト状)になる。

    


反応混合物に水を追加して加熱溶解する。これを冷水に注いでかき混ぜると、溶解度が
小さい)アセトアニリドが(再結晶)して析出する。さらに水道水で冷却してからろ過
すると(うろこ状)の白色結晶が得られる。アセトアニリドは解熱剤として利用される。
[2]下に示すようにアセトアニリドは、(カルボキシル基)のヒドロキシル基の部分と
アミノ基)の水素の部分が切り取られてできる(      −CONH− )という構
造を持つ。実際にこの物質は酢酸とアニリンからも脱水反応で合成できる。これは(アミ
ド結合)と呼ばれる官能基である。そしてアミド結合を持つ化合物は(アミド)と呼ばれ
る。
 また(尿素)は、炭酸 HOCOOH とアンモニア HNH2 が脱水反応したような構造
をしており、アミドの一種である。これは人間が最初に合成した有機化合物であることは
13章で触れた。尿素は皮膚の(保湿)成分であり、また尿素(ユリア)樹脂の原料であ
る。

    


[3]タンパク質は生命活動を営む能力を持つ分子であるが、これもアミドの一種である。
タンパク質については18章でくわしく学習する。





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6.染料、医薬と農薬

[a]アゾ染料の合成と染色(実験のまとめ)
 水酸化ナトリウム水溶液に(2−ナフトール)を加えて塩にして溶解させ、これをさら
し布に染み込ませておく。塩酸に(アニリン)と亜硝酸ナトリウムを加えると次の反応が
起こり、(塩化ベンゼンジアゾニウム)が生成する。この反応は(ジアゾ化)と言うこと
がある。

    


 さらし布をこれに浸けると、2−ナフトールと次のように反応して赤橙色染料が生成し、
染着するので余分な染料を洗い落とす。

    


この種の反応は(カップリング)と言うことがある。
 1−フェニルアゾ−2−ナフトールは( −N=N− −N2 )という構造を持つ。こ
れは(アゾ基)と呼ばれる官能基である。このようなものは(アゾ染料)と呼ばれ、現在
もっとも多量に合成されているタイプの染料である。
問 ザルツマン試薬で二酸化窒素を検出する実験のイラストを描け。

    


 (ザルツマン試薬)は汚染物質の二酸化窒素と反応して赤紫色になる。このとき二酸窒
素が(亜硝酸)になってジアゾ化が起こり、続いてカップリング起こる。この反応は実際

                  - 13 -

の汚染調査にも利用されている。
[b]染料の色
[1]現代のファッションは色抜きには考えられないが、そもそも色とは何であろうか。
光がない暗闇はすべてのものは(黒色)である。そして光が当たるとノートは白色であり、
タンポポの花は黄色である。つまり色は光と物質の両方で生み出される。
 2章では光の色がその波長によっていることを学習した。それは色が色覚とも関係して
いることを意味している。私たちの目は()、()、青紫の3つのセンサーを持って
いる。そして脳は赤と緑と青紫の3つの光を受けると(白色)と感じ、まったく光を受けないと黒色と感じる。また赤と緑を受けると黄色と緑と(青紫)では青色と、青紫と赤では赤紫色と感じます。それは次のようになっている。

    


これでは6種の色しか無いことになるが、それぞれの色の強度の差によってさらに色々な
色を感じるようになっている。
[2]太陽光はすべての波長の光を含んでおり、通常の照明もそのように作られている。
これを受けると、染料のような着色性物質はある(波長)の光を吸収し、残りを反射する。
したがって赤を吸収すれば、緑と青紫のセンサーが刺激されて青色に見える。黄を吸収す
れば青紫色に見える。ちなみに植物の葉に含まれる葉緑素(クロロフィル)は緑色である
が、それは(赤紫 つまり赤と青紫)を吸収しているためである。したがって植物に赤紫の光を当てれば黒色に見える。
[3]それでは物質はどうして特定の波長の光を吸収するのだろうか。これはかなり単純
化して言うと、原子スペクトルと逆の現象である。2章では原子をつくる電子は原子核のまわりを運動しており、それはとびとびの軌道になっており、外側ほど大きいエネルギーを持つことを学習した。分子をつくる共有結合の電子も2つの原子核のまわりを運動しており、これも原子と同じようにとびとびの軌道(分子軌道と呼ばれる)になっている。
                         (続く)

                  - 14 -

                                   No


    


[4]常温では共有結合の電子はもっとも内側のエネルギーの小さい(分子軌道)にある。
それがより上の軌道に移動するには、両方の軌道のエネルギー差だけのエネルギーを必要
とする。2章では光はその波長に対応したエネルギーをもつ光子であることも学習した。
だからぴったりの(エネルギー)を持つ光子が来ると、それを受け取って電子がより上の
軌道に移動する。こうしてそれそれの物質はそれに固有の波長の光を吸収するのである。

[5]多くの分子の分子軌道のエネルギー差は(紫外線)の領域の電磁波になる。そして
染料などでは二重結合と単結合がひとつ置きに連なっている。このような結合は(π−共
役系)と呼ばれ、エネルギー差が小さくて(可視光線)を吸収して色が現れるわけである。
[c]医薬
[1]病気を薬剤によって治療することは、人類の長年の夢だった。1899年にサリチ
ル酸と無水酢酸を反応させて得られる(アスピリン)が、優れた解熱作用を持つが発見さ
れた。1924年にフレミングは青カビから、病原菌の発育を阻害する(ペニシリン)と
いう抗生物質を発見した。また1935年に人工的に合成したp−アミノベンゼンスルホ
ンアミド(スルファミン)が感染症に強い効能を示すことが分かった。

    


[2]現在では体内の(生化学反応)が解明され、それに対応した医薬が合成されるよう
になった。さらに2000年には人間の遺伝子情報(ゲノム)がすべて解読され、それを

                  - 15 -

踏まえた研究も始まっている。遺伝子については18章でくわしく学習する。
「3」しかしペニシリンやスルファミンといった化学療法剤の多用は、それが効かない
耐性菌)の出現を招き、新薬の開発といたちごっこになっている。また医薬には(サリ
ドマイド)のような(副作用)が隠れている可能性があることも忘れてはいけない。
[d]農薬
[1]古くから農業は雑草や害虫などとの戦いでもあった。1939年にミューラーが、
ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)が優れた殺虫作用を持つことを発見し、
大量に生産されるようになった。当初は人間に対する毒性は低いという試験結果を踏まえ
て、農薬としてだけでなく、伝染病を媒介する昆虫を駆除するのにも利用された。

    


[2]しかし6章で紹介したようにカーソンがその(残留毒性)を告発し、現在では使用
禁止になっている。現在でも分解されにくいDDTは脂肪組織に蓄積し、食物連鎖で生物
の体を渡り歩いて残留している。そして1996年にシーア・コルボーンがその著書「奪
われし未来」で、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)というDDTの真の毒性をあばき出
した。
[3]DDTと同時期にベンゼンヘキサクロリド(γ−BHC)や有機リン系のパラチオ
ンが開発されたが、いずれも現在は使用禁止になっている。ちなみに有機リン系農薬は
サリン)などの毒ガスの開発にもつながった。
[4]現在でも農薬の開発は続けられている。そして問題は農薬に限らない。いったい私
たちは、合成化学物質とどのように付き合っていくべきだろうか。それを考える手がかり
に、少し長いが「奪われし未来」の第14章「無視界飛行」の全文を資料として紹介して
おく。
[5]教師としての私の願いは、企業に奉仕するだけでなく、人類全体のため地球環境の
ために研究し発言する科学者を目指す生徒が育つことである。

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7.石油化学工業

 石油化学は1930年代に石炭化学に取って代わり、現代ではもっとも主要な化学工業
になっている。
[a]石油
 石油の起源はいまなお確定していないが、地中の背斜構造と呼ばれる部分にガスや塩水
とともに埋蔵され、原油と呼ばれる。
 原油の主成分は炭素数が3〜40程度の(アルカン)や(シクロアルカン)を中心とし
た炭化水素の混合物である。不純物としては硫黄化合物などの他にバナジウムなどの金属
化合物を含む。
 世界の石油採掘量は38億kl(キロリットル)であり、日本はほぼ全量の2.6億kl
を輸入している(98年)。
[b]石油の分留
 原油はまず蒸留によっていくつかの製品に分けられる。このとき数℃の沸点差でも連続
的に(分留)できる精留塔という装置が使われる。はじめに常圧(1atm)における蒸
留で沸点が低いものから、石油ガス、(軽質ナフサ)、重質ナフサ、(灯油)、軽油が取
り出される。そして沸点が高い残油は脱硫して(重油)として工場燃料になる他に、減圧
蒸留して潤滑油や(アスファルト)などを得る。
参考:上の製品はすべて依然として混合物である。
[c]クラッキングとリフォーミング
[1](ガソリン)は自動車の燃料としてその需要を伸ばしてきた。ガソリンエンジンは
揮発性)の炭化水素を必要とするが、それに相当するナフサ(炭素数が5〜10程度)
という製品は限られている。そこで現在ではより炭素数が大きい炭化水素である(軽油
や残油を、シリカ・アルミナという触媒を使って分解してガソリン原料を増やしている。
この工程は接触分解(クラッキング)と呼ばれる。ちなみに「接触」とは(触媒)を利用
するという意味である。
[2]品質が悪いガソリンは、圧縮過程の途中で自然発火してエンジンの馬力を著しく低
下させる(ノッキングと呼ばれる)。これを改善するために(重質ナフサ)を白金を触媒
にして反応させ、枝分かれアルカンや(芳香族炭化水素)が富むようにする。この工程は

                  - 17 -

接触改質(リフォーミング)と呼ばれる。
 リフォーミングで得られるベンゼン、トルエン、キシレンが石油化学工業の基本原料で
あることは1節で学習した。
参考:現在は自動車の動力源が燃料電池に切り替えられようとしている。
[d]ナフサ熱分解
 軽質ナフサを短時間高温にすると(エチレン)、(プロピレン)、そしてブタジエンな
どに分解する。これが(ナフサ熱分解)であり、次のような反応が含まれる。
    CH3(CH2)3CH3 −→ CH2=CH2 + CH3CH2CH3
      ペンタン       エチレン     プロパン
    CH3CH2CH3 −→ CH2=CHCH3 + H2
                プロピレン   水素
エチレン、プロピレンが石油化学工業の基本原料であることは13章で学習した。そして
                (ブタジエン)は左のような構造を持ち、合成ゴムの
CH2=CHCH=CH2     原料である。
   ブタジエン

    


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8.スペクトル分析

 13章では臭素水とアルカリ性過マンガン酸カリウム水溶液を脱色するかどうかによっ
て、そのサンプル物質に炭素・炭素二重結合が含まれるかを検出した。また14章ではヨ
ードホルム反応でアセチル基を検出した。それでは現在でも物質の構造を研究するのにこ
のような手段を使っているのだろうか。
[a]赤外吸収スペクトル
[1]5節では染料が可視光線を吸収するしくみを説明した。多くの物質はそれより小さ
いエネルギー領域の(赤外線)を吸収する。ただし赤外線を吸収するのは共有結合してい
る電子ではない。
 4章では分子が熱運動していることを学習した。そして13章では分子内で単結合を軸
に回転していることに触れた。つまり分子内のそれぞれの(原子)も熱運動をしているの
であり、それはひとつの化学結合の両側の原子どうしの距離が増減する、つまりは結合が
伸縮するような振動であったり、板ばねの両端におもりを固定して中央を持ってゆするよ
うな3つの原子のなす角度が変化する、つまり2つの化学結合が変角するような振動であ
ったりする。もちろん回転の熱運動もあるが、赤外線を吸収するのは化学結合の(振動
である。

    


[2]さて量子力学が教えるところでは、この化学結合の振動においても、その激しさが
とびとびになっている、言い換えるとその振動のエネルギーも(とびとびに)なっている。
そしてそのエネルギー差は化学結合によって異なる。したがって物質が吸収する赤外線の
波長はその物質に含まれる化学結合に固有なものとなるわけである。
 具体的な例を上げてみよう。(赤外吸収スペクトル)では横軸が波長に対応する波数で
あり、縦軸はその波数の赤外線の透過率(これが小さいほど吸収が大きい)が記録される。
次は酢酸のスペクトルである。

                  - 19 -

参考:波数は波長の逆数(1/波長)として計算される数値である。



     (町田著「赤外・ラマンスペクトルの解釈」(共立出版)より)
  波数3000cm-1  O−H の伸縮(水素結合のため幅が広がっている)
    1717     >C=O の変角

[b]スペクトル分析
 くわしい説明はさておき、物質と相互作用した光はその物質についての(情報)を持っ
ているということが根本である。天文学においてはるか彼方の星について、まるでそばで
調べてきたように研究できるのはこのためである。ちなみに現代天文学では電波やX線の
スペクトルも観察している。
 医療で使われるようになった核磁気共鳴画像診断(MRI)は、(核磁気共鳴スペクト
)の応用である。核磁気共鳴スペクトルは、強い磁場の中におかれた物質(の原子核)
が吸収する電磁波のスペクトルを解析するものである。
 現代では多種多様なスペクトル分析が物質の構造や(状態)の解析に利用されている。









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宿題(15章)

1.「ニトロベンゼンの合成」実験に関する次の文を完成し、下の問に答えよ。
 濃硫酸に(濃硝酸)を混ぜ、(ベンゼン)を加えて温度調節しながら振り混ぜる。そし
て反応混合物を大量の()に注ぐと、生成したニトロベンゼンが黄色の(油滴)になっ
て沈む。
 このとき次の反応が起きる。なお濃硫酸は(触媒)としてはたらく。
    (                        )

これは縮合による(脱水反応)であり、一般に芳香族炭化水素は(付加)反応より(
)反応が起こりやすい。
(1)ベンゼンを塩素化する反応式を書け。


(2)ベンゼンと濃硫酸を加熱するときの反応式と生成物質の名称を書け。



2.次の化合物の示性式を書け。
  トルエン    ナフタレン    フェノール    安息香酸



  テレフタル酸    アニリン    トリメチルアミン    尿素




3.次の文の(  )に適当な語句を入れよ。
(1)ベンゼン分子の炭素環は(正六角形)であり、12個の原子はすべて(同一平面
)にある。
(2)ベンゼンの水素1つをメチル基で置き換えた化合物は(1種)であり、水素2つを
メチル基で置き換えた化合物は(3種)である。
(3)官能基 −NO2 は(ニトロ基)と、−SO2OH は(スルホ基)と、−NH2
アミノ基)と、−CONH− は(アミド結合)と呼ばれる。
(4)フェノールは、工業的にはクメン法で(アセトン)と共に合成され、わずかに(
)であり、(塩化鉄(V))水溶液に加えると紫色になる。
(5)(ヘキサメチレンジアミン)はアンモニアのように(弱塩基)であり、ナイロンの
原料になる。
(6)ニトロベンゼンを鉄粉と塩酸で(還元)して(アニリン)が合成される。

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4.次の場合を反応式で書け。
(1)エチレンに塩化アルミニウムを触媒にしてベンゼンを付加する。


(2)o−クレゾールが水酸化ナトリウム水溶液に溶ける。


(3)サリチル酸とメタノールからサロメチールが合成される。


(4)水にアニリンと無水酢酸を加えて振り混ぜるとアセトアニリドが生成してペースト
状になる。



5.「アゾ染料」実験に関する次の文を完成し、下の問に答えよ。
 水酸化ナトリウム水溶液に(2−ナフトール)を溶かし、さらし布に染み込ませる。
塩酸)にアニリンと(亜硝酸ナトリウム)を加えると塩化ベンゼンジアゾニウム)が
生成する(a)これにさらし布を浸けると、(赤橙色)に染色できる(b)
(1)下線部(a)の反応は何と呼ばれるか。  (ジアゾ化
(2)下線部(b)で生成する官能基の構造式と名称を書け。
    −N=N−    アゾ基
(3)これと同じ原理で赤紫色に発色させて、大気中の二酸化窒素を検出する試薬は何と
呼ばれるか。  (ザルツマン試薬

6.石油化学工業に関する次の文を完成せよ。
 原油の主成分は(アルカン)やシクロアルカンなどの(炭化水素)の混合物である。原
油は精留塔で(分留)して、沸点が低い順に石油ガス、(軽質ナフサ)、重質ナフサ、
灯油)、軽油が取り出される。
 ガソリンは(揮発性)のナフサを原料とする。現在では(軽油)などを、触媒を使う
クラッキング)と呼ばれる工程にかけて分解して補充している。
 またガソリンの品質向上のため(重質ナフサ)を、(リフォーミング)という工程にか
けて、枝分かれ状アルカンや(芳香族炭化水素)が富むようにして加える。またこれから
ベンゼン)、トルエン、(キシレン)を分離して原料にする。
 軽質ナフサの一部は(ナフサ熱分解)という工程にかけて(エチレン)、(プロピレ
)、ブタジエンなどを生産して原料にする。
 分留した残油は、脱硫して(重油)として工業用燃料にしたり、(減圧蒸留)して潤滑
油や(アスファルト)などを得る。



               ( )組 (  )番 氏名(       )

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