10.2
                                   林 正幸

  高精度温度計の製作と凝固点降下の計測

 「電源・デジタル表示装置(PWDD)」
    http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/ne69.htm
が完成した(08年7月)ので、それに載せる第4の「検出部」として、水の凝固点降下
を計測するため、そしてベンゼンの凝固点降下も計測できるように、精度が高い温度計を
製作した。

A 設計と回路

[1]水のモル凝固点降下は1.86℃(1.858℃)である。レンジは−2.00から
0.50℃とし、0.01℃の精度を求めることにした。石塚電子の高精度サーミスタ10
3AT−1(10kΩ)を購入したところ、部品に依らず温度と抵抗値が次のようにきち
んと決まっていることが分かり、製作の見通しが立った。
     20℃     12.09kΩ
     10      17.96
      0      27.28
    −10      42.47
    −20      67.77
    (サーミスタ自身の計測範囲は−50〜110℃)
このデータを最小2乗法で4次の関数に直して計算し、
  R = 7.583×10-64 − 5.550×10-43
        + 2.859×10-22 − 1.170t + 27.28
入手しやすい抵抗と温度の関係を求めると次のようになる。
    27.0kΩ     0.24℃
    28.0      −0.61
    29.0      −1.42
    29.5      −1.81   (27kΩ+2.5kΩ)
となる。つまり正確な温度の熱源を準備する必要はなく、サーミスタの代わりに精密抵抗
に置き換えて調節できる(と思った)。そして27.0kΩと29.5kΩ(ゼロ点)を基
準点に選ぶことにした。
[2]ちなみに4次の関数から

                  - 1 -

     0.50℃    26.70kΩ
     0.00     27.28
    −0.50     27.87
    −1.00     28.48
    −1.50     29.10
    −2.00     29.74
これを最小2乗法で1次式に直すと
  R = −1.215t + 27.28
となり、上の抵抗に対応すると温度を計算すると次のようになる。
    27.0kΩ     0.23℃
    28.0      −0.59
    29.0      −1.41
    29.5      −1.83
これから、−2.00〜0.50℃の範囲では、温度と抵抗の関係はほぼリニアであること
が分かる。
[3]回路を組み計測をくり返す中で、購入した1%精密抵抗(中国製)の値は1%以上
のばらつきがあり、あまり当てにならないことが分かってきた。そこで精密なデジタルL
CRメーター(AX−6040 アデックス)で抵抗を計測して選ぶことにした。ところ
がこのメーターにして1%の誤差がある。
 このレンジでは2.5kΩが2.05℃である。したがって27kΩの基準点ではその1
%である0.27kΩが0.22℃であるのでそれだけの誤差を伴う。ただし振れ幅の方は
2.5kΩが対応し、その誤差は±0.02℃に留まる。
 これを踏まえて回路は、基準点の温度が±0.22℃の範囲で調節ができるように製作す
る必要がある(減算回路の比較電圧を加減する)。
[4]校正には水の凝固点を計測する。
 始めに、製作した温度計の29.5kΩの基準点がゼロ点調節を回して−1.81℃を、
その上で27kΩの基準点が振れ幅調節を回して0.24℃を示すようにする(くり返し確
認する)。これで振れ幅の方は誤差1%以下で調整できた。
 次に水の凝固点を計測する。具体的にはD節における計測法の<準備など>のようにす
る。たとえば凝固点が0.11℃であったとする。それは、振れ幅の誤差を無視して、2つ
の基準点の表示が0.11℃だけ大きすぎることを意味する。そこでゼロ点調節を回して2
9.5kΩの基準点が−1.92℃を示すように校正する。その上で振れ幅調節を回して
(回さなくてもよい可能性がある)27kΩの基準点が0.13℃を示すように校正する。
そして基板に
  29.5kΩの基準点  −1.92℃

                  - 2 -

  27kΩの基準点    0.13℃
と記し、今後の調節に利用する。これで−2.00℃付近でも誤差は0.02℃に抑えられ
る。
[5]加えてベンゼンの凝固点降下も計測できるように考えた。
  ベンゼン  凝固点      5.46℃(5.455℃)
        モル凝固点降下  5.07℃(5.065℃)
つまりもうひとつ0.00〜6.00℃のレンジを加える。ただしPWDDの精度から
0.02℃刻みにする。
 上の4次式から計算すると
    0.00℃     27.28kΩ
    1.00      26.14
    2.00      25.05
    3.00      24.01
    4.00      23.02
    5.00      22.08
    6.00      21.18
そこでベンゼンのレンジでは
    27.0kΩ     0.24℃(調整後では上の例では0.13℃)
    22.0kΩ     5.08℃
を基準点にする。このレンジでは27.0kΩがゼロ点になる。すると5.0kΩが4.84
℃である。したがって22kΩの基準点ではその1%である0.22kΩが0.21℃(
0.02℃刻みなので実際は0.22℃)であるのでそれだけの誤差を伴う。
 上の7つのデータを最小2乗法で1次式に直すと
  R = −1.017t + 27.28
となり、4つの温度に対応する抵抗を計算すると次のようになる。
    0.00℃     27.28
    2.00      25.15
    4.00      23.12
    6.00      21.08
つまりこの温度範囲でも温度と抵抗は十分にリニアである。ただし傾きはすこし異なる。
[6]校正にはベンゼンの凝固点を計測する。
 始めに、製作した温度計の27kΩの基準点がゼロ点調節を回して、水で校正したたと
えば上の例では0.14℃(正確には0.13℃にすべきだが)を、その上で22kΩの基
準点が振れ幅調節を回して5.08℃を示すようにする(くり返し確認する)。後者の基準
点は1%の誤差を含む。

                  - 3 -

 次にベンゼンの凝固点を計測する。具体的にはD節における計測法と同じようにする。
たとえば凝固点が5.54℃であったとする。それは22kΩの基準点の表示が0.08℃
だけ大きすぎることを意味する。そこで振れ幅調節を回して、5.00℃を示すように校正
する。
そして基板に
  27kΩの基準点   0.13℃(前と同じ)
  22kΩの基準点   5.00℃
と記し、今後の調節に利用する。



                  - 4 -

[7]回路図は前ページのようである。サーミスタの抵抗変化は200kΩとの間の電圧
変化として検出する。大きな抵抗を相手にするのは、サーミスタの電流を減らして発熱を
抑えるためである。そして電源電圧が9Vで一定であるので、抵抗分割により常にサーミ
スタの抵抗に比例した電圧が検出できる。そしてサーミスタの代わりの基準点の抵抗の電
圧もDIPスイッチで選べるようにする。
 この電圧をOPアンプの(−)に、そして比較電圧を(+)に入力する。サーミスタの
抵抗は温度が高くなると小さくなるので、この減算回路によって温度が高くなるに連れて
大きくなる電圧が出力される。比較電圧は微妙であり、必要なら関係する抵抗28.5kΩ、
26kΩなどを加減する。
 あとはAD変換のための電圧増幅である。水のレンジ−2.00〜0.50℃では電圧変
動が約0.12Vであり、それを約4.8V(PWDDの設計から)にすべきであるので、
40倍に増幅すべきである。しかし理由はよく分からないが実際には60倍程度に増幅す
る必要がある。そしてベンゼンのレンジ0.00〜6.00℃では20倍に増幅すべきであ
るが、これも実際には30倍程度に増幅する。増幅率も微妙であり、必要なら関係する抵
抗4kを加減する。そしてレンジの切り替えには6pトグルスイッチを使う。

B 部品表

    品  名 単価(目安)
ユニバーサル基板(ICB−93)                  300円
φ2ビス(25mm)、ばねワッシャ、ナット  ×4
φ2平ワッシャ  ×8
高精度サーミスタ(石塚電子 103AT−1)            470円
電源ジャックとプラグ                        180円
オペアンプ 082                          84円
DIPスイッチ(4桁)                       190円
可変抵抗 2k                           380円
     10k                          380円
精密抵抗(メーターで計測して、誤差が1%以下のものを選ぶ)
   1k
   27k
   200k  ×2
   100k  ×4
   2.5k(2k+510Ω)
   22k(20k+2k)
   26k(20k+5.6k+270Ω)

                  - 5 -

   28.5k(27k+1k+510Ω)
抵抗 2k  ×2
   20k
   51k
6pトグルスイッチ                         160円
10pおすコネクター(みぞあり)                  120円
フラットケーブル(10本 8cm)

C 製作と点検

<製作>



                  - 6 -

@前ページの実態配線図のように、ユニバーサル基板に電源ジャック、2つの可変抵抗、
トグルスイッチの穴を開ける。DIPスイッチ、オペアンプをはんだづけし、可変抵抗、
トグルスイッチも取り付ける。
A抵抗などの残り線で5つの半円状端子をつくる。
B抵抗などをはんだづけする。
Cおすコネクターに、▽印に黒色が来るように8cmのフラットケーブル(ゆ着部分の
方)を裏から差し込んで、万力で締め、ケーブルを返してカバーを差し込む。
 部品面からケーブルの他端を、右に茶赤コードが来るようにして、半円状端子に2本ず
つはんだ付けする。そしてコードをめっき線で固定する。
 サーミスタを電源ジャックにはんだづけする。
D基板の足にするビス・ナットなどを取り付ける。
<点検>
E基板を「電源・デジタル表示装置」につないで電源を入れ、オペアンプが熱くなるなら
すぐに電源を切って点検する。
F「テンキー」で−2.00〜0.50℃のレンジを設定する。そしてトグルスイッチをこ
のレンジに倒す。
  °C = 13150403(アスキーコード)
GDIPスイッチの2をONにし、ゼロ点調節の2k可変抵抗をまわして
    −1.81±0.22℃
が表示できるか点検する。できない場合は、減算回路の28.5kあるいは増幅率に関する
4kを微調整する(以下同様)。
 続いて3をONにし、振れ幅調節の10k可変抵抗をまわして
    0.24±0.22℃
が表示できるか点検する(少々不足していてもOK。以下同じ)。
H別の領域に0.00〜6.00℃のレンジを設定する。そして刻みは0.02℃にする。そ
してトグルスイッチをこのレンジに倒す。
 DIPスイッチの3をONにし、ゼロ点調節を回して
    0.24±0.22℃
が表示できるか点検する。続いて4をONにし、振れ幅調節を回して
    5.08±0.22℃
が表示できるか点検する。
I校正についてはA節を参照する。
J校正が完了してDIPスイッチの2から4の基準値が確定したら、レンジを選んで基準
値に調節し、1をONにしてサーミスタを差し込めば、温度が計測できる。

                  - 7 -

D 凝固点降下の計測

<計測法>

<追記>
 より新しい実験法はここをクリックする。

(a)水溶液の場合
(1)水1kg=1000mLあたりに、次の物質が0.2mol溶解した溶液を調整する
(0.2mol/kg)。実際には水100mLに次の物質0.02molを溶解し、サンプ
ル溶液とする。
参考:1molはその物質の式量にg(グラム)を付けただけの質量である。
  @ブドウ糖 C6126(式量:180)
  Aエタノール C25OH(46.0)
  B塩化ナトリウム NaCl(58.5)
  C硝酸マグネシウム Mg(NO3)2(すでに調製してあるものを利用する)
(2)上のサンプル水溶液を「計測容器」に4/5ずつ採って準備する。
(3)「マグカップ」に「寒剤」を準備し、はしとアルコール温度計を差し入れておく。
計測は−15℃前後にして行うようにする。
(4)サンプルの計測容器を寒剤の中につり下げ(寒剤が容器に入らないように注意す
る)、「高精度温度計」の温度センサーを差し入れ、常にセンサーを上下に動かしてかき
混ぜ、そしてときどきビニタイを上下して計測容器のまわりの寒剤をかき混ぜる。

注意:温度計のレンジ切り換え、ゼロ点調節、振れ幅調節などには触れない。
参考:実験に使うレンジは−2.00〜0.50℃の範囲(0.01℃刻み)を表示する。
(5)多くの場合に過冷却が起こり、そのあと凝固が始まって温度が上昇し、やがてゆっ
くり降下する。この最高到達温度を凝固点とする。
注意:温度が下がり始めて約1分が経ってもまだ凝固が始まらない場合は、計測をやり直
   す。
 過冷却が起こらないで凝固が始まる場合は、凝固が始まったときの一定温度を凝固点と
する。
注意:一定温度がはっきりしない場合は、計測をやり直す。
(6)計測をくり返す場合は、寒剤を点検し、センサーは水洗いしてティッシュで拭く。
参考:寒剤は氷のみ捨て、食塩水は残す(飽和食塩水にして次の機会に利用する)。
(b)ベンゼン溶液の場合
(1)ベンゼン C66 1kgあたり、次の物質が0.2mol溶解した溶液を調整する。
実際にはベンゼン50gに次の物質0.01molを溶解し、サンプル水溶液とする。
  @ナフタレン C108(式量:128)
  A安息香酸 C65COOH(122)
注意:ベンゼン蒸気は毒性があるので、試薬びんのせんを忘れない。サンプル溶液の計測
容器は計測するとき以外はせんをしておく。

                  - 8 -

(2)マグカップに「寒剤」を準備して−5℃前後にし、(a)と同じように計測する。
参考:実験に使うレンジは−0.00〜6.00℃の範囲(0.02℃刻み)を表示する。
(3)サンプルの計測容器はせんをして教卓に返す。

参考:水のモル凝固点降下     1.86℃
   ベンゼンの凝固点      5.46℃
   ベンゼンのモル凝固点降下  5.07℃
<計測データなど>
    サンプルの質量モル濃度  0.2mol/kg
      サンプル        凝固点      凝固点降下
  (a)水溶液
     @ブドウ糖      (     )℃    (    )℃
     Aエタノール     (     )     (    )
     B塩化ナトリウム   (     )     (    )
     C硝酸マグネシウム  (     )     (    )
  (b)ベンゼン溶液
     @ナフタレン     (     )℃    (    )℃
     A安息香酸      (     )     (    )



<準備など>
 溶液の調製と計測は分業すると時間が節約できる。
・水の凝固点を計測したい場合は、ポリコップを3つ重ね、氷が多い氷水を入れて穴の開
いた発泡スチロールのふたを被せ、センサーを差し入れて振りながら表示が安定するのを
待つ。
・ベンゼンの凝固点を確認したい場合は、サンプルと同じように計測する。冷却は氷水で
よい。
・高精度温度計
 凝固点降下計測のための自作温度計であり、電源デジタル表示装置(PWDD)に搭載。
温度センサーは石塚電子の高精度サーミスタ103AT−1(10k)である(センサー
は検出部の回路とセットにして扱う)。
 2つのレンジは
  水    −2.00〜0.50℃(0.01℃刻み)
  ベンゼン  0.00〜6.00℃(0.02℃刻み)

                  - 9 -

 実験ではレンジを切り換え、調節をして提供する。
・計測容器
 20mLスクリュー管の首にビニタイを付け、その先を折り曲げてプラ容器の壁につり
下げられるようにする。
・マグカップ
 容量が適切である。プラスチック製であると断熱性が高い。
・寒剤
 水溶液の場合は、氷に飽和食塩水と食塩を加えてはしでよくかき混ぜる。くり返し使用
で温度が上がるようなら、食塩水の一部を別の容器に移し、氷と食塩を補うなどする。
 氷は冷蔵庫の製氷器のものでもよい。食塩は安いものを使う。
 ベンゼン溶液の場合は、飽和食塩水の代わりに水を使う。
参考:凝固点に比べて寒剤の温度をかなり低くするのは、早く過冷却を破るためである。

<データなど>
(a)水溶液
ブドウ糖     Δ0.37℃
エタノール     0.36
塩化ナトリウム   0.71
硝酸マグネシウム  1.13
硫酸ナトリウム   0.82
(最後のデータは興味深いが、講座プランでは取り上げないことにした。)
(b)ベンゼン溶液
ナフタレン    Δ1.04℃
安息香酸      0.50
エタノール     0.76
 冷却条件が計測に影響する。冷却曲線を描くのは、手間の割りによい結果が得られない。
早く過冷却を破って、最高到達温度を凝固点とする方が簡単である。
 小数2桁目に、ある程度の誤差が入るのは避けがたいように思われる。

E あとがき

 最初に温度計を試作してからこのレポートが完成するまで、丸半年を要することになっ
た。数回の回路変更があり、冷却法も改良し、計測は100回を越えている。温度0.01
℃の世界はかなり厳しかったと言える。
 しかし高精度温度計は7台が完成し(校正を含む)、皆さんに比較的簡単に凝固点降下
の実験を体験してもらえるようになった。

                  - 10 -


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