07.10
(「科学の祭典」名古屋大会)
林 正幸
時計反応
1.解 説
[1]時計反応についてはすでに生徒実験や演示実験をしてきており、後者についてはホ
ームページにも紹介していた。しかし今年「科学の祭典」で取り上げることになり、いく
つか知見も得たので改めてまとめ直すことにした。
時計反応にはいろいろなものがあるが、私が現在実験しているのは、サマーリンら著
「続・実験による化学への招待」(丸善)に掲載されているものである。
[2]この時計反応の試薬の1Lあたりの成分は次のようである。
A液
ヨウ化カリウム KI 50[g]=300[m mol]
チオ硫酸ナトリウム Na2S2O3 4.7[g]=30[m mol]
(五水和物では7.4g)
溶性デンプン 0.2〔g〕
(実際には1%溶液を20mL使う)
酢酸 CH3COOH 30[g]=500[m mol]
(実際には30mL使う)
酢酸ナトリウム CH3COONa 4.1[g]=50[m mol]
(三水和物では6.8g)
B液
過酸化水素 H2O2 34[g]=1000[m mol]
(実際は35%のものを100ml使う。)
[3]関係する反応式はつぎの2つである。
2I- + H2O2 + 2H+ ―→ I2 + 2H2O (1)
I2 + 2S2O32- ―→ 2I- + S4O62- (2)
備考:反応式(1)は酢酸が弱電解質であるから、CH3COOH を使うことも考えられ
るが、説明の都合から上のようにする(以下同じ)。
反応(1)では、ヨウ化物イオンは過酸化水素によって酸化されてヨウ素になる。反応
(2)では、ヨウ素がチオ硫酸イオンによって還元されてヨウ化物イオンにもどる。反応
(2)の速度が圧倒的に大きいので、チオ硫酸イオンが存在する間はヨウ素は生成せず、
デンプンと反応して青色になることもない。青色になる瞬間までの時間はB液を水で希釈
することで変化させる。
時計反応では発色するまで、反応(1)の速度が一定であると言えることが重要である。
もちろんヨウ化物イオンの濃度は一定である。水素イオンも酢酸と酢酸ナトリウムが緩衝
溶液のはたらきをしてほぼ一定に保たれる。過酸化水素は、B液をそのまま使う場合は、
- 1 -
反応溶液2Lあたりで1000m molから985m molまで1.5%だけ変化する
(チオ硫酸イオンと過酸化水素の反応式における係数を比較する)だけなので、その濃度
はほぼ一定と言える。B液を2倍に希釈すると500m molから585m molまで
3%だけ変化する。
[4]濃度が反応速度にどのように影響するかと共に、試薬の温度を調節して、温度が反
応速度にどのように影響するかも調べることができる。ただし数10℃以上にすると、ヨ
ウ素・デンプン反応が起きなくなるという制約がある。たとえば10、20、30℃など
で実験するとよい(反応速度が大きくなるので、B液は2倍に稀釈して使う)。
B液を稀釈しない場合に発色時間は、温度が10℃のときに16秒ほどであり、低温で
もかなり速い。「科学の祭典」では20℃をかなり上回る条件で実験することになるので、
どのように調節するべきか。それはA液のヨウ化カリウムの濃度を加減するのが合理的で
ある。しかしある程度はB液の過酸化水素の濃度を加減してもよい。「科学の祭典」では、
B液は2倍に希釈するまでということもあり、次のようにした(しかしこれ以上に速度を
小さくしたい場合はヨウ化カリウムを減らすべきである)。
ヨウ化カリウム 20[g]=120[m mol](元の40%)
過酸化水素 60[mL]=600[m mol](元の60%)
この結果は、B液を稀釈しない場合に、温度が25℃のときに22秒であった。ちなみに
時計反応は、事前の予備実験が欠かせない。
[5]試薬のつくり置きはどうだろうか。ヨウ化カリウムは分解してヨウ素を生成しやす
い。またチオ硫酸ナトリウムは水素イオンと次のように反応し、硫黄が生成して白濁して
くる。
S2O32- + 2H+ ―→ H2SO3 + S
過酸化水素は希釈すると(酸性にしない場合は)分解しやすくなる。
「科学の祭典」(2日間)の準備では、A液は前日にチオ硫酸ナトリウムを除いて準備
し、当日に加えて溶かした。B液は水だけ準備し、当日に小分けして過酸化水素水を加え
た。高校での演示実験では、10℃で実験をスタートすることもあり、前日に完全に準備
して冷蔵庫に保管していた。
[6]「科学の祭典」では、子どもたちが取り組みやすく、楽しめるように、次の工夫を
した。
・試薬の量を計る器具は、メスシリンダーではなく、試験管に白色ビニールテープを貼り、
同一の5mLピペットを使って、A液用は15mLに、B液用は15と7.5mL(そして
5と10mL)に目盛りを入れる。
・反応容器は、ビーカーでなくポリコップに、穴の開いたベニヤ板の足かせをはめて使う。
割れないし、個数が多くても安価である。
・発色時間はデジタルストップウオッチを使って計る。
[7]反応廃液の処理は、酢酸を中和できる量の水酸化ナトリウムを加えて反応を停止す
ると同時に、ヨウ化カリウムの量に対応するチオ硫酸ナトリウムを加え、大量の水と共に
廃棄する。生成したヨウ素は反応(2)でヨウ化物イオンになる。廃液1Lあたりでは、
A液が2倍に稀釈されることを考慮して
水酸化ナトリウム 10[g]=250[m mol]
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チオ硫酸ナトリウム五水和物 37gあまり
となる。「科学の祭典」のように、ヨウ化カリウムを40%の120m molに減らす場
合は
チオ硫酸ナトリウム五水和物 37×0.4=15gあまり
となる。
準 備
<高校での演示実験>
・A液 500mL
ヨウ化カリウム、チオ硫酸ナトリウム五水和物、酢酸、酢酸ナトリウム三水和物
1%デンプン溶液
1回に80および90mL使うとして、6回演示できる。
・B液 500mL
35%過酸化水素水
・水 250mL
参考:以上は前日に準備して、冷蔵庫に保管する。
・100mLメスシリンダー ×3
・300mLビーカー ×6、ガラス棒 ×6、白紙
・ストップウオッチ、温度計 ×3
・必要なら加熱器具
<「科学の祭典」(1日=8時間あたり)>
・A液 3L
2Lペットボトル2本に2Lと1L(箱に入れて光を遮断)。チオ硫酸ナトリウム五
水和物14.8gと7.4g
500mLビーカー、5mLピペット
1回に15mL使い、同時に2展開とするので、1展開1時間あたり
3000/(15×2×8)= 12.5[回]
つまり5分に1回程度である。
参考:A液、B液の全体の体積は、その枠内で2つの実験を済ませるなら、1Lビーカー
などの目安目盛りで計れば十分である。
・B液(と水)
2Lペットボトルに2本に水4L。
35%過酸化水素水(夜間は冷蔵庫保存)
500mLビーカーに目安目盛りで水470mLを入れ、50mLメスシリンダーで
過酸化水素を30mL加える。
備考:過酸化水素水を除いて、A液と水は同じ温度になるように保管する。
・水
300mLビーカー
・「目盛り」の付いた試験管
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3セット、試験管立て
・ポリコップ
215mL ×20、「足かせ」 ×4
・デジタルストップウオッチ
2セット
・ポリバケツ(10L) ×2
洗浄用など
・廃液処理
1セット:水酸化ナトリウム10g、チオ硫酸ナトリウム五水和物16g
6セット
1Lビーカー ×2、ガラス棒
実 験
<高校での演示実験>
(1)A液、B液、水が10℃になるように、冷蔵庫から出す。
(2)メスシリンダーで各液を次のように採り、ビーカーの中で混合する。
(ア)A液80mlとB液80ml
(イ) 〃 2倍にうすめたB液80ml
(ウ)A液90mlと3倍にうすめたB液90ml
それぞれ何秒で発色するだろうか。
(3)温度が20℃になったら、そして30℃にして、(イ)の場合の発色時間を調べる。
備考:別の方法で生徒実験として取り組ませることもできる。
<「科学の祭典」>
(1)デジタルストップウオッチのストップボタンを押して止める練習をさせる。
(2)A液をピペットで試験管の目盛り(15mL)までとり、「足かせ」をはめたポリ
コップに入れさせる。
(3)B液を別の試験管の目盛り(15mL)までとらせる。
(4)ストップウオッチを準備し、ポリコップをすり回しながら、B液を一気に注がせ、
スタートボタンを押す。
(5)反応溶液が青色になった瞬間にストップボタンを押させ、時間を確認する。
(6)(2)と同じように、A液を準備させる。
(7)B液を試験管の半分の目盛り(7.5mL)までとり、水を目盛り(15mL)まで
加えさせる。
(8)(4)、(5)と同じように反応させ、発色時間を計測させる。
(9)反応廃液を1Lビーカーに注ぎ、コップを水洗いする。
「科学の祭典」の実験解説書
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● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
とけい反応(はんのう)
● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
MOLの会:・・・・ ・・・・ ・・・・
・・・・
1.ねらい
ものとものが、化学反応(かがくはんのう)するとき、その速(はや)さは、ものの濃
(こ)さにひれいする。濃いほど速(はや)くなる。
2.やり方
(1)A液(えき)をしけん管(かん)のめもりまで入れ、ビーカーにうつす。
(2)B液をべつのしけん管の上のめもりまで入れ、A液にまぜてストップウオッチをスタ
ートする。
(3)あお色になったら、すぐにストップする。何秒(びょう)かかったかな?
(4)また、A液(えき)をしけん管(かん)のめもりまで入れ、ビーカーにうつす。
(5)B液をべつのしけん管のまん中のめもりまで入れ、水を上のめもりまで加えて2ばい
にうすめる。
(6)これをA液にまぜてストップウオッチを
スタートする。
(7)あお色になったら、すぐにストップする。 図
こんどは何秒(びょう)かかったか? よそう
通りのじかんになったかな!
3.わかること
B液(えき)を2ばいにうすめると、反応(はんのう)がおそくなって、あお色になるの
に2ばいのじかんがかかる。それならB液を3ばいにうすめたら、どうなるだろうか。
参 考
A液のヨウ化物イオンはB液の過酸化水素でヨウ素になる。しかしA液に加えられている
チオ硫酸イオンによって素早く元のヨウ化物イオンにもどされてしまう。
2I- + H2O2 + 2H+ ―→ I2 + 2H2O
I2 + 2S2O32- ―→ 2I- + S4O62-
そしてチオ硫酸イオンが無くなると、できるヨウ素がA液のデンプンと反応して青色になる
(過酸化水素の濃度はチオ硫酸イオンの10倍以上であり、青色になるまで事実上一定の濃
度である)。水素イオンの濃度は、酢酸と酢酸ナトリウムの緩衝作用でほぼ一定に保たれる
ようにしている(A液には5種の物質が溶けている)。
参考にした本:サマーリンら「続・実験による化学への招待」(丸善)
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林 正幸と主万子の始めの
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