06.3
                                   林 正幸

 種類と温度を変えた気体の音速

 「気体の音速は分子の熱運動を表している。」 そんな会話の中から、気体の種類や温
度を変えて音速を計測すれば、分子運動のイメージをつくる実験になるのではないかと考
えた。アクリルパイプとコンデンサーマイク、そしてすでに開発済みのデジタルストップ
ウオッチとそれに差し込む「音速カード」を使って実験を始めた。新たに購入したデジタ
ルオッシロも強力な助っ人になった。なおこの実験は多くの人たちのアイデアを活用して
でき上がった。

T音速と分子運動

[1]単純に考えると、気体の音速は気体分子の飛行速度に比例すると推測できる。そし
て厳密には次の関係式が成り立つ。
    V = √(γ/3)×v    (1)
      V:音速
      γ:定圧比熱と定積比熱の比
      v:分子の平均飛行速度
[2]2原子分子の γ は常温常圧ではどれもほぼ1.40だから、その場合で計算すると
    V = 0.68v    (2)
である。ちなみに1原子分子のヘリウムの γ は1.66(−180℃、1atm 化学便
覧にこのデータしか見あたらない)で、
    V = 0.74v    (3)
である。この関係式は1原子分子全体に通用しそうである。そして二酸化炭素の γ は
1.29(300K、1atm)で、
    V = 0.66v    (4)
である。これも3原子分子全体に通用しそうである。
[3]次に分子運動論から
    v = √(3000RT/M)    (5)
      R=8.31[J/mol・K]:気体定数
      T:絶対温度
      M:分子量
0℃では

                  - 1 -

    v = 2609/√(M)
[4]気体の種類を変えると
水素なら
    v = 2609/√(2) = 1845
    V = 0.68×1845 = 1255[m/s]
空気なら
    v = 2609/√(29) = 484
    V = 0.68×484 = 329[m/s]
二酸化炭素なら
    v = 2609/√(44) = 394
    V = 0.66×394 = 260[m/s]
となり、次の文献値(理科年表)とほぼ一致する。
    水素     1270[m/s]
    空気      331.5
    二酸化炭素   258(低周波)
[5]0℃を基準にした温度の影響は、まず式(5)を変形して
    v = √(3000RT/M)
      = √{3000×8.31×(273+t)/M}
      = √{3000×8.31×273/M}×√(1 +t/273)
      ≒{2609/√(M)}×(1+t/546)
ただし t は摂氏温度である。したがって1℃あたりの増加率 Δv は
    Δv ={2609/√(M)}×(t/546)
    ∴  Δv = 4.78t/√(M)    (6)
である。
 式(2)、(4)と組み合わせると、1℃あたりの音速の増加率 ΔV は
水素なら
    ΔV = 2.3t
空気なら
    ΔV = 0.60t
二酸化炭素なら
    ΔV = 0.48t
となる。
[6]したがって空気では0℃の実測値と結びつけると
    V = 331.5+0.60t    (7)
となる。ただし温度が高くなると近似が悪くなり、たとえば80℃では、式(7)で計算

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すると
    V = 331.5+0.6×80 = 380[m/s]
になるが、式(5)から計算すると
    V = 0.68×√(3000×8.31×353/29) = 375[m/s]
である。つまり式(7)は大き過ぎる数値を与える。
 同じように水素では
    V = 1270+2.3t    (8)
二酸化炭素では
    V = 258+0.48t    (9)
になる。
[7]定性的なまとめをしておこう。
 2原子分子と3原子分子の範囲では
  「音速は分子量の平方根に反比例する」
あるいは
  「気体分子の平均飛行速度は分子量が大きいほど小さい」  (10)
となる。
 また
  「音速は絶対温度の平方根に正比例する」
あるいは
  「気体分子の平均飛行速度は温度が高いほど大きい」    (11)
となる。
 この実験のねらいは(10)、(11)を、音速の計測からすこし実感できないかと言う
ことである。

U 装置と操作

[a]デジタルストップウオッチと「音速カード」、そしてセンサー
[1]短い時間を計測できるデジタルストップウオッチはたいへん有用な道具である。E
HCで改良してきたものは、4桁表示であり、大型LEDを使った演示タイプもある。時
間は設定すれば0.01msまで計測できる。ちなみに15℃の空気中では、音は1msで
34cm走るだけである。
 最大の特徴は回路の必要部分がまとめてコネクターに引き出してあることで、これに補
助回路を組んだ基板(「カード」と呼んでいる)を差し込めば様々な機能が実現できるこ
とである。したがってユニバーサルカウンターという呼び方もできる。「音速カード」は
そのひとつで、スピーカーで拾った音波信号を数100倍に増幅してスタート、ストップ
信号としている。

                  - 3 -

 ちなみに現在はマイコンチップが普及しているので、EHCではこれを利用した計測機
器の開発も行っている。
[2]今回は小型にするためにセンサーをコンデンサーマイクに切り換えた。そして新し
いカードにするのは無駄が多いので、次の回路の外部カードを付け加えた。なお音波信号
を送るのには同軸ケーブルを使った。

    

[b]計測パイプと操作
[1]気体の種類と温度を変えるということで、計測はパイプの中で行う必要がある。幸
い外形30mmのアクリルパイプにセンサーを組み込み、入口をラップフィルムで包み、
出口にゴムせんをするだけで、常温で空気の音速がトラブルなく計測できた。実際の装置
は左図のようであり、50cmのパイプをビニールテープでつなぎ、前のパイプでは同軸
ケーブルを接着剤で封じて外に出した。後のセンサーのケーブルはワセリンを塗り、ゴム
せんを通した。これで距離を変えて計測できる。なお音源は以前のピストルから、2枚の
30cmの板をガムテープでつないだ「拍子木」に変えた。

    

[2]別の気体、たとえば水素を充填するには、右図のように後のパイプを上にして垂直
に固定する。上から簡易ボンベ(ないしテドラーバッグ)でゆっくりと注入し、下にしぼ
ませたポリ袋を付けてその量をチェックした。パイプに内容積は530mlであり、その
2,3倍の気体を流し、手早くポリ袋のついたゴムせんをラップフィルムに取り替える
(できれば気体を流しながら)。空気より重い二酸化炭素なら、パイプの向きを逆にして
下から注入する。

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 そして水平にして時間を数回計測し、室温を確認する。
[3]空気の温度を変えるのに、始めはヘアドライヤーの熱風を吹き込んだが、温度が不
均一でかつ冷めるスピードが速く、まったく良い結果が得られなかった(おまけにコンデ
ンサーマイクが熱で壊れた)。
 思案する中でリボンヒーターを知り、4×100cmのものを購入した。直径48mm
の塩ビパイプを縦割りにし、一方にヒーターを敷きアクリルパイプを乗せてビニタイで固
定する。アルコール温度計を図のように挿入してからパイプをつなぐ。なおラップフィル
ムもビニタイで固定する。

    

 他方をふたにして70Vで加熱する(電圧を高くすれば昇温は速いがトラブルにつなが
る)。60℃を越えたらふたを外して加熱を続け、83℃あたりを越えたら50Vに落と
して温度がわずかに下がり始めるのを待つ(85℃を大きく越えないようにする)。そし
て電気を切り、自然に冷めるのに応じて5℃刻みに計測する(80℃ではまだ良い結果が
得られないこともある)。
 ちなみに、どちらのパイプも熱によりかなり歪むことが分かった。

V 計測と結果

[a]気体の種類による変化
<水素>
 室温が15℃のとき、81cmの距離で、平均0.75msだった。
    0.81/0.00075 = 1080[m/s]
簡易ボンベの純度が95%であるので、これはかなり良い結果と言える。
 ちなみに式(8)の計算値は1305[m/s]である。
<空気>
 下の[b]の20℃の数値は343[m/s]である。
 ちなみに式(7)の計算値は344[m/s]である。
<二酸化炭素>
 室温が8℃のとき、83.0cmの距離で、平均3.13msだった。
    0.83/0.00313 = 265[m/s]
 気体は炭酸ナトリウムに希硫酸を加えて発生させ、塩化カルシウム管を通してテドラー
バッグに捕集したものを使った。

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 ちなみに式(9)の計算値は262[m/s]である。
備考:炭酸ナトリウムは数gずつを薬包紙で包むと、ゆっくり希硫酸と反応させることが
   できる。
<ブタン>
 室温が9℃のとき、84.0cmの距離で、平均4.03msだった。
    0.84/0.00403 = 208[m/s]
これは卓上コンロ用のブタンボンベを利用した。
 ブタンの比熱比をイソブタンの1.11で代用すると、次の関係式を得る。
    V = 209+0.38t    (12)
この式の計算値は212[m/s]である。
[b]空気の温度による変化
 83.0cmの距離で、温度が下がるに応じて、空気中の音速を計測した。
    80℃    2.20ms    377m/s
    73     2.23      372
    65     2.26      367
    60     2.28      364
    55     2.30      361
    50     2.32      358
    45     2.33      356
    40     2.35      353
    35     2.37      350
    30     2.38      349
    25     2.40      346
    20     2.42      343
 最小自乗法で数式を求めると
    V = 331.5+0.55t
となり、式(7)とよく一致している。他の計測では
    V = 332+0.55t
    V = 328+0.62t
などの結果が出た。



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