04.9
                                   林 正幸

 「力と運動」実験システムの開発

はじめに

 昨年から今年にかけてEHC(電子工作を始めとするものづくりサークル)においてリ
ニアモーターを製作する中で、これが定力装置として使えるのではという話が出てきた。
既成の商品はひも付きであるのに対して、これは遠隔力であり、力を抜いたあとの運動に
影響を与えない。そして私はコイルの配置を換えればエアトラック上で実験できるのでは
と思い付いた。

概要と目標

 エアトラックにはアルミのLアングルを乗せる。中央部でリニアモーターで力を掛ける。
そしてその前後で速度計により運動の変化を計測する。
 リニアモーターはリレーでオン・オフするが、その制御は2通りにする。一方は力を掛
ける時間であり、たとえば0.5、1.0、1.5、2.0・・・sなどとする。他方は力を
掛ける距離であり、たとえば0.1、0.2、0.3・・・mなどとする。なおそれに要する
時間も計測する。
 制御はLアングルに固定した遮へい板を、リニアーモータの前わきに付けた光センサー
で検出して行う。
 また力はスライダックで電圧を調節して変え、その大きさを計測できるようにする。

    

 以上によって、次のことを実験できるようにする。
(a)速度の変化が力を掛ける時間に正比例する。
    V−V0 = ΔV = at        (1)
  ∴ ΔV = k1t  (k1:比例定数)  (2)
(b)速度の2乗の変化が力を掛ける距離に正比例する。

                  - 1 -

    V2 −V0 2 = ΔV2 = 2aS      (3)
  ∴ ΔV2 = k2S            (4)
(c)力を掛けた距離はそれに要する時間の2乗に正比例する。
    S = (1/2)at2           (5)
  ∴ S = k32             (6)
(d)加速度は掛ける力に正比例し、Lアングルの質量に反比例する。
    a = F/m             (7)
  ∴ a = k4F              (8)
  ∴ a = k5/m             (9)
もちろん加速度は力を掛ける時間とその前後の速度変化から、つまり(1)の関係式から
求まる。
(e)(7)の関係式から加速度を計算すれば、(1)の関係式から速度の変化が、ある
いは(3)の関係式から速度の2乗の変化が、さらには(5)の関係式から所要時間を予
測した上で計測できる。

システムの開発

[a]エアトラック
 商品は定価が17万円もするので、まずエアトラックを自作することから始めた。ホー
ムセンターで30mm幅、2mm厚のアルミのLアングルを見つけ、それに直径2mmの
穴を1列に空け、組み合わせて2mの角柱にし、木製の角材の上に横たえ、業務用のブロ
ワーで空気を吹き込んだ。なお角材にはボルトとナットを付けて水平調節ができるように
した。
 しかし愛知物理サークルで、アルミの角柱があること、穴が大きすぎること、穴は2列
にすべきことを教えられて、1からつくり直した。30mm幅、2mm厚の中空のアルミ
の角柱を2400mmに切ってもらい、穴の直径は1.2mmにし、2列にした。このエア
トラックは商品に近い性能である。
 滑走体は30mm幅、1mm厚のアルミのLアングルを、質量が0.075、0.100、
0.125、0.150kgになるように切断した。0.150kgの長さが866mmであ
り、これ以上は長が過ぎる。遮へい板は0.5mm厚の黒色の塩ビ板を5mm幅に切り、こ
れを3角形にして固定する。
[b]リニアモーター
 EHCで製作したコイルのケイ素鋼板はヨの字型をしているが、中心が30mm四角で
あり、残念ながら外の部分はLアングルからはみ出して利用できない。ちなみに導線は
0.7mmのポリエステル線を10層に巻いてある。このコイル4つを45°に傾けて1列
に並べ、Lアングルに接近させる。その固定台の形と寸法には苦労した。結局1作目を参

                  - 2 -

考に2作目を製作した。
 ちなみにモーターが動作して力を掛けるときは、Lアングルが4つのコイル全体に渡っ
ていないと定力にならない。光センサーから最後のコイルまでは25cm近くあり、Lア
ングルが残り25cmを切ると定力にならない。
[c]制御回路
 久し振りの回路設計とあって、苦労が多かった。プロトボードは接触が不良になってい
た。ハンダやリード線は古すぎてのりが悪く、買い換えた。オッシロは完全にダウンして
おり、テスターのみで回路の動作をチェックする必要があった。幸いパーツだけはしっか
りと揃っており、すぐに利用できた。そしてEHCの古い資料が役に立った。
 始めに555でクロックの発生を試みたが、思いの他不安定であったので、高価だが
8651というタイマーを使うことにした。結果的には、このICはプログラマブルであ
るので、単位時間を0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6の各秒に選択して実験で
きるように改良できた。
 「力を掛ける時間を制御する回路」では、Lアングルの先端の遮へい板を検出してスタ
ートするのだが、それと同時にクロックをスタートさせることができない。つまりそのと
きクロックは1周期の途中にある。これは555でも同じである。そこで思い付いたのが
10進デコーダー(カウンター)の4017である。これを2つ組み合わせて元のクロッ
クを100倍に分周する。遮へい板を検出すると同時にこのICのリセットを解除すれば、
クロックのずれは実験する単位時間の1/100以下になる。
 そして時間の刻みも4017で制御する。ただしこのICはタイミングチャートの通り
動かないことが分かった。つまリセットを解除して1つ目のクロックが入ると、"0"では
なく"1"端子からH信号が出る。だからたとえば単位時間が0.5sの場合に0.5sだけ
力を掛けたいなら、"2"端子からのH信号をストップに利用する必要がある。
 リレーをオン・オフする信号は、力を掛ける距離を制御する場合も、フリップ・フロッ
プで発生させる。光センサーからはL信号が入るが、ストップはH信号なのでノットによ
ってL信号に変える。ちなみにリレー動作や表示はすべて、そのスイッチングをトランジ
スターC1815で行う。
 力を掛ける時間を制御する場合にひとつ注意がある。つまり力を掛けている最中にLア
ングルが残り25cmを切ってしまう場合である。そこで残り25cmの位置に遮へい板
をもう1枚固定する。そしてまたもやもうひとつの4017を使い、リレーがオンの最中
に(リセット解除中に)光センサーから2つ目の信号(4017にとってはクロック:次
項を参照)が入ったらLEDを光らせて警告する。
 「力を掛ける距離を制御する回路」に移ろう。たとえばLアングルに0.1mおきに遮へ
い板を固定しておく。すると光センサーは板が通過するたびに信号を発生させる。それを
ノットによってH信号に変えればクロックと同じである。こうして距離の制御は時間制御

                  - 3 -

のための4017がそのまま利用できる。つまりたとえば0.3mの間だけ力を掛けたけれ
ば、4つ目のクロックが入り、"5"端子から出るH信号を利用してストップすればよい。
 ただしこれには2つ注意がある。このままでは光センサーからその後も遮へい板による
信号が入ってきて、再びスタートしてしまう。したがってフリップ・フロップとの間にオ
アによるゲートを設ける。そしてストップ信号を利用してゲートを閉じ、余剰の信号をカ
ットする。
 ところで同じストップ信号を利用してフリップ・フロップの出力を反転させている。し
たがってこちらの信号をわずかに遅延させないと、ゲートが閉じる前にフリップフロップ
が反転して、その間も関係する遮へい板によってL信号を発生し続けているので、再びス
タートしてしまうことがある。このような微妙なタイミングの調節は他にもいくつかある
が、触れないでおく。
 どちらの制御の場合にも使用できるが、リレーがオンしている時間を計測するために、
ストップウオッチをスタート・ストップする出力端子を設ける。
参考:回路図を添付する。
[d]速度計
 始めはビースピで切りぬけようとしたが、実験する速度が遅いので誤差が大きい。そこ
でやむなく、すでに自作していたデジタルストップウオッチで通過時間を計測することに
した。0.100m離して赤外ホトトラのTPS601を固定し、それぞれに赤外LEDの
TLN101を向かわせた(回路は制御回路の光センサーと同じ)。
[e]リニアモーターの回路
 リニアモーターは4つのコイルを用いる。これらは順に電流の位相が90°ずつ遅れて
いる必要がある。1つ目と3つ目は直列にし(Aコイルとする)、3つ目は逆に電流が流
れるようにすると180°遅れる。2つ目と4つ目も同様である(Bコイルとする)。あ
とは1つ目に対して2つ目が90°遅れればよい。
 コイルはその配置や付近の金属などでインダクタンスが変化する。条件を整えて計測す
るとAコイルのインダクタンスは79mHであり、60Hzであることから計算するとイ
ンピーダンスが30Ωになる。Bコイルは76mHであり、29Ωになる。そして直流抵
抗はいずれも6Ωである。EHCでは200Wで100μFのコンデンサーを2つ直列に
して50μFにした。これを利用するのでそのインピーダンスはコイルと逆向きに53Ω
である。
 Aコイルにコンデンサーを直列に入れると、直流抵抗を除くインピーダンスは23Ωに
なる。したがって図から分かるように、Aコイルに23Ω、Bコイルに17Ωの直流抵抗
を直列に追加すればよい。こうするとAコイルもBコイルも全体のインピーダンスは37
Ωであり、37Vで1Aの電流になる。なお直流抵抗は発熱による抵抗変化を避けるため
φ0.55mmのステンレス線(7.2mが24Ω)を巻いた。

                  - 4 -


    

 こうしてEHCのままの回路に比べて、2倍の力が得られるようになった。なおコンデ
ンサーが熱くなるので、電圧は70Vまでとする。
[f]力計測器
 なにせ0.01とか0.02Nという弱い力である。秤量が10gの携帯電子天びんの皿
とアルミのLアングルを、極細の釣り糸でつなぎ、クリップ2つで糸の向きを変える。そ
してクリップに機械油を付けて摩擦を減らす。
 1gが0.01Nであると見なす。

計測例

[a]実質的な水平確保
 考えてみれは当然なのだが、エアトラックにも摩擦がある。乗っているLアングルが動
かないようにエアトラックを水平調節し、0.15kgのLアングルを使い、力は掛けない
でいろいろな速度で、中央部と終点で通過時間を計測すると次のようになる。
      中央部[s]    終点[s]    増加率
      0.286     0.306     7%
      0.406     0.448    10
      0.464     0.513    11
      0.694     0.810    17
      0.784     0.952    21
通過時間が長い(速度が小さい)ほど影響が大きい。
 そこで通過時間が0.75sあたりで、中央部と終点で時間差がないように、エアトラッ
クをわざと傾けてデータを採ってみた。
      中央部[s]    終点[s]    増加率
      0.254     0.262     3%
      0.317     0.328     3
      0.502     0.519     3

                  - 5 -

      0.611     0.625     2
      0.683     0.691     1
      0.739     0.738     0
      0.876     0.853    −3
      0.919     0.876    −5
これによると、通過時間がより短い(より大きい速度)の領域では、水平にするよりかな
り事態は改善され、まるで潤滑剤を使ったようである。また通過時間がより長い領域では、
増加率がマイナスになり、斜面を下って加速される効果が現れている。それはグラフで検
討すると0.880sあたりで−5%を越え、事態は急激に悪くなる。
 同様に0.5sあたりで時間差がないように、エアトラックをより傾けると次のようにな
る。
      中央部[s]    終点[s]    増加率
      0.250     0.256     2%
      0.384     0.390     2
      0.458     0.462     1
      0.611     0.625     2
      0.511     0.513     0
      0.571     0.564    −1
      0.603     0.591    −2
      0.735     0.690    −6
      0.921     0.806   −12
状況は似ているが、より通過時間が短いところで時間差が無くなるようにしたため、より
短い領域の事態は更に改善されている。これに対してより長い領域では0720s当たり
で−5%を越える。
 以上から言えることは、予定速度の範囲を考慮して、上のデータを参考にして実質的な
水平を確保してから、計測を始めるのが合理的である。これはエアトラックであるが故に
可能な対策である。ただし速度がモーターで反転するような計測は、誤差を受け入れるし
かない。
 この傾向はLアングルの質量には関係がなさそうである。速度が大きい計測が有利であ
り、速度が小さい計測はできるだけ避けるようにする。そしてその前に床が丈夫な部屋で
実験を始めるべきである。
備考:以下のデータの一部は、上のことが明確になる前に計測している(水平確保が書い
   てあっても)。
[b]力と電圧
 これはアルミのLアングルとリニアモーターの位置関係にもよるが、ある測定では次の

                  - 6 -

ようなった(4回の平均)。
    電圧[V]    力[N]
    10     0.0019±0.0003
    20     0.0045±0.0005
    30     0.0079±0.0007
    40     0.0114±0.0006
    50     0.0153±0.0005
    60     0.0197±0.0023
    70     0.0257±0.0017
    最小2乗法による関係式
  F = (1.96×10-6 )V2 +(0.02×10-6 )V+(0.05×10-6 )
力が大きくなると摩擦の関係で誤差が広がる。
 計測には3回の平均を使うことにする。
[c]速度変化と時間
    電圧 40V    Lアングル 0.150kg
    水平確保  0.602 ―→ 0.601s
    時間[s]  終速度[m/s]  初速度[m/s]  速度変化[m/s]
    0.2    0.172    0.142    0.030
    0.4    0.233    0.191    0.042
    0.6    0.255    0.182    0.073
    0.8    0.291    0.205    0.087
    1.0    0.303    0.191    0.112
    1.2    0.339    0.217    0.122
    1.4    0.340    0.193    0.147
    1.6    0.360    0.193    0.167
    グラフ 1(添付)
    最小2乗法による関係式
      ΔV = 0.0985t +0.0088
[d]速度2乗の変化と距離
    電圧 60V    Lアングル 0.150kg
    水平確保  0.595 ―→ 0.599s
    距離[m]  終速度[m/s]  初速度[m/s]  速度2乗の変化[m2/s2 ]
    0.1    0.220    0.164    0.0215
    0.2    0.272    0.171    0.0447
    0.3    0.309    0.156    0.0711

                  - 7 -

    0.4    0.362    0.198    0.0918
    0.5    0.395    0.226    0.1049
    0.6    0.407    0.179    0.1336
    グラフ 2(添付)
    最小2乗法による関係式
      ΔV2 = 0.2177S +0.0018
参考:実験システムでは、このタイプの計測がもっともきれいにできる。
[e]距離と時間(速度2乗の変化と距離を含む)
    電圧 70V    Lアングル 0.150kg
    初速度 ほぼ0m/s
    水平確保  0.496 ―→ 0.499s
 距離[m] 時間[s] 時間2乗[s2 ] 終速度[m/s]  速度2乗の変化[m2/s2 ]
 0.1  0.905   0.82     0.190     0.036
 0.2  1.323   1.75     0.267     0.071
 0.3  1.659   2.75     0.323     0.104
 0.4  1.906   3.63     0.364     0.132
 0.5  2.219   4.92     0.398     0.158
 0.6  2.420   5.86     0.427     0.182
 備考:初速度がないので誤差を小さくするために、力を大きくして終速度を大きくする。
   力の計測
      0.0314N
      0.0318
      0.0306
   平均 0.032N
<距離と時間>
    グラフ 3(添付)
    最小2乗法による関係式
      S = 0.0981t2 +0.027
    力の計算
      F/2m = 0.0981   F=0029[N]
<速度2乗の変化と距離>
    グラフ 4(添付)
    最小2乗法による関係式
      ΔV2 = 0.291S +0.012
[f]加速度と質量

                  - 8 -

    電圧 50V
    水平確保  0.588 ―→ 0.584s(0.075kgのLアングル)
    力を掛ける時間 0.7s
           (短い0.075kgが力過大にならない時間)
 質量[kg] 1/質量[1/kg] 終速度[m/s]  初速度[m/s]  加速度[m/s2 ]
 0.075   13.33    0.298    0.180    0.169
 0.100   10.00    0.281    0.195    0.123
 0.125    8.00    0.225    0.143    0.117
 0.150    6.67    0.238    0.177    0.087
    グラフ 5(添付)
    最小2乗法による関係式
      a = 0.0114(1/m)+0.0157
[g]加速度と力
    Lアングル 0.100kg
    水平確保  0.537 ―→ 0.534s
    力を掛ける時間 1s
           (電圧70Vでも力過大にならない時間)
  電圧[V]  力[N]   終速度[m/s]  初速度[m/s]  加速度[m/s2 ]
   10  0.0018   0.194    0.181    0.013
   20  0.0046   0.218    0.190    0.028
   30  0.0083   0.213    0.148    0.065
   40  0.0123   0.246    0.142    0.104
   50  0.0189   0.333    0.212    0.121
   60  0.0258   0.347    0.170    0.177
   70  0.0346   0.394    0.164    0.230
  備考:先に加速度を計測し、後で力を計測した。
    グラフ 6(添付)
    最小2乗法による関係式
      a = 6.557F+0.006
備考:[f][g]のグラフの係数を吟味すると、目標のうち(e)はあまり達成できて
   いないと言うべきである。

おわりに

 まずまずの計測ができる実験システムが開発できて、3ヶ月を越える閑会えをした開発
の苦労は報われた。製作費用は、予め4つのコイル、スライダック、ブロワー、2台のス

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トップウオッチ、それに携帯電子天びんがあるとすれば、3万円ほどである。しかしコイ
ルとストップウオッチがあるとしても、製作時間が1週間は掛かると思われる。私自身が
授業などに活用することはなさそうだが、この実験システムは少なくとも私を3ケ月間夢
中にさせたという価値があった。
 最後に私はもう厭だが誰か、制御回路と速度計、そして表示をコンピュータ制御にして
くれるなら歓迎する。





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