11.12.28〜29
安房科学塾
林 正幸(アルケミストの会)
ホームページ http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/
講座プラン「化学反応の速度」をつくって
13こめの講座プラン「化学反応の速度」をつくりました。
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/w13.htm
高校化学の反応論は化学平衡がメインになっていますが、反応速度と連結してこそ理解
が深まります。しかし速度論は、平衡論に比べて難しいです。化学学習の終わりの段階で、
その難しさに挑戦しようというのです。
プランのあらまし
次の7つの節で構成した。
1.反応速度の表し方
2.1次反応
3.2次反応
4.化学反応のしくみなど
5.活性化エネルギー
6.不均一反応の速度
7.触 媒
実験は次のようで、右に扱う節を示す。
実験1 時計反応(演示実験)
(a)濃度の影響 (2節)
(b)温度の影響 (5節)
実験2 2−ブロモ−2−メチルプロパンの加水分解速度 (2節)
実験3 酢酸エチルのケン化速度 (3節)
実験4 ホース水素爆鳴気 (5節)
実験5 粉じん燃焼ロケット (6節)
実験6 触 媒
(a)白 金 (7節)
(b)ゼオライト (7節)
各節の思いと狙い
1 節
化学反応の速度、つまり反応速度とは何か。この概念を正確に捉えないと前進ができな
- 1 -
い。
反応速度は時々刻々と変化していくのが普通でる。だからある時点における反応速度と
は、短い時間に変化した物質のモル数を、単位時間あたりに換算する・・・。しかしこれ
では反応溶液の量によって数値が変わってしまうので、反応溶液の単位体積あたりという
ことで、短い時間(Δt)に変化した反応物質のモル濃度の減少量(−ΔC)を単位時間
あたりに換算する。記号で書くと次のようである。
v = −ΔC/Δt <1>
生成物質の増加量に注目すればマイナス符号は無くなる。そして反応式の係数を考えれば
分かるように、どの物質に注目するかで反応速度が変わってくることにも注意を払う必要
がある、
このように反応速度は慣れないと難しい概念であり、まずは仮想的な1次反応
A ―→ 2B
の反応時間とそのときのモル濃度のデータを元に訓練するようにした。
そして反応物質 A に注目する反応速度が、そのモル濃度に正比例する場合を例にして、
次のように速度定数(k)を定義した。
−Δ[A]/Δt = k[A] <2>
2 節
[1]1次反応におけるモル濃度と反応速度の関係を実感するために、まず時計反応を取
り上げた。時計反応は直感的には分かりやすいが、正確に理解するにはきちんとした説明
が求められる。
A液 KI 、Na2S2O3 およびデンプンなどの水溶液
B液 H2O2 の水溶液
実験ではA液60mLに、B液ないしその1/2,1/3のモル濃度の液を60mL混ぜて、
生成するヨウ素による発色までの時間を計測する。反応溶液120mL中の物質量の関係
は、B液が原液の場合に次のようである。
Na2S2O3 が b molとすると
KI は 10bmol
H2O2 は 33bmolとなる。
そしてメインの反応(反応式はポイントのみを示す)は
2I- + H2O2 ―→ I2 (1)
である。これだけなら反応がスタートするとすぐに発色するはずである。ところがチオ硫
酸ナトリウムが次の反応でヨウ素を元のヨウ化物イオンにもどしてしまう。
I2 + 2Na2S2O3 ―→ 2I- (2)
この反応は(1)に比べて非常に速いので、チオ硫酸ナトリウムがすべて反応するまで発色
は起こらない。つまり発色するまでの時間とは、係数を比べて、過酸化水素が 0.5b
mol反応する時間のことである。これは 33b molあるので、この間のモル濃度は
ほぼ一定である。またヨウ化物イオンのモル濃度は一定である。だからこの間の反応速度
はほぼ一定と見なせ、発色までの時間の逆数は反応速度に正比例する。これはB液を3倍
- 2 -
に希釈しても、過酸化水素は 11b molあるので、この間の反応速度は一定と見なせ
る。
以上を踏まえてはじめてこの反応速度が過酸化水素のモル濃度に正比例していることが
納得できるのである。
[2]しかしこのように反応速度を追跡できることは珍しい。関係式<1>では誤差が入り
やすい。1次反応では反応速度は、反応物質のモル濃度を C mol/Lとすると、微分形
で次のように書ける。
−dC/dt = kC
この積分形は
−log(C/C0) = (k/2.3)×t <3>
log:常用対数
C0:初濃度
となるが、残念なことに高校数学ではこの積分は無理である。関係式<3>を使うと、長い
時間におけるモル濃度変化を計測すればよいので、誤差が入りにくい。対数も苦手な生徒
が多いが、ここはあえて天下り式に受け入れさせるしか、前進する道はないと考えた。
[3]関係式<3>を使う1次反応の計測実験にはどんな反応が良いか。反応速度の計測の
目的のひとつは、反応のメカニズムを解明することである。とするとやはりSN1反応にし
たい。そこで2−クロロ−2−メチルプロパン、つまりt−ブチルクロリドの加水分解を
選んだ。
(CH3)3CCl + H2O ―→ (CH3)3COH + HCl
アセトン・水混合溶媒で、導電率の変化を追跡できるという情報がインターネット上にあ
ったからである。くわしい情報は見当たらなかったが、たしかに生成物質の塩酸のみが導
電率を持ち、これから反応物質のモル濃度が分かる。つまり反応が終了したと見なせる時
の導電率 κ∞ がt−ブチルクロリドの初濃度に対応するので、次の関係式で C/C0 が
求められる。
C/C0 = (κ∞−κ)/κ∞
市販の安価な導電率計の感度からは、t−ブチルクロリドは0.05mol/Lにしたい。
それに溶媒を50mLとすると、これ以上薄くては計り取るクロリドの質量が小さくなり
すぎる。かたや20℃では、アセトンを60%にしないと溶け切らない。アセトンの割合
を高くすると、導電率が小さくなりすぎる・・・。
こうして計測していくと、らしいデータが得られるようになった。しかし2つの問題が
出てきた。1つは、プラスチック製の導電率計が溶媒に溶けていくのである。これは自分
でセルをつくり、それに合わせて導電率計を自作するしかない! 導電率計は以前に製作
したことがあったが、買った方が良いのではないかという結果であった。それを乗り越え
て、以前より感度のよい導電率計を製作することができた。2つは、反応速度がやや小さ
くて時間がかかる。これは反応物質を2−ブロモ−2−メチルプロパン、つまりt−ブチ
ルブロミドに変えることで解決した。
(CH3)3CCBr + H2O ―→ (CH3)3COH + HBr (3)
- 3 -
ところが本を調べる中で、この種の反応速度を最初に調べたインゴールドは80%エタ
ノール・水混合溶媒を使ったことが分かった。エタノールの方がアセトンより扱いやすく
てよいが、導電率の都合から濃度は60%エタノールにした。これできれいな計測が、比
較的簡単にできるようになった。
計測例:速度定数 k=0.293[1/分]
備考:実は溶媒効果などの問題が隠れているが、プランでは触れないことにした。
ところで1次反応では半減期に触れたい。幸い実験で得られる反応時間とモル濃度の計
測データは、その検証に耐えられる。
3 節
[1]2次反応では、次のような反応に限定し
A + B ―→ D + E
かつ両方の反応物質のモル濃度を同じにすると、微分形は次のようになる。
−dC/dt = kC2 <4>
この積分形は
1/C = kt + 1/C0 <5>
となり、関係式<5>を C=** の形に直して時間で微分すると、関係式<4>になること
が確認できる。こちらの積分形は分かりやすくもある。
[2]高校生が計測実験できそうなSN2反応を捜したところ、東海大工学部のホームペー
ジで酢酸エチルのケン化反応が見つかった。
CH3COOC2H5 + NaOH ―→ CH3COONa + C2H5OH (4)
こちらは実験操作も載っていたが、高校でそのまま利用することはできそうにない。
ある時間が経ったときに、加えた水酸化ナトリウムと同モルの酢酸を加えれば反応はス
トップし、過剰の酢酸を水酸化ナトリウムで逆滴定すれば、残存する水酸化ナトリウムの
モル濃度が求められる、これで行くことにした。すこし入り組んでいるが、受験問題では
しばしば出てくる計算である。
酢酸エチルと水酸化ナトリウムの水溶液の元のモル濃度は共に0.08mol/Lとし、
10mLずつ混合した反応溶液では0.04mol/Lになる。この濃度は20℃における
反応速度が適切で、計測のための反応時間は20分になる。酢酸水溶液のモル濃度も
0.08mol/Lにする。この場合に、滴定した水酸化ナトリウム水溶液の体積を V
mLとすると、その時点における残存する水酸化ナトリウムのモル濃度は次の式で求めら
れる。
C = 0.04×(10−V)/10 =0.004×(10−V)

- 4 -
実験がやりやすいように、滴定には10mLメスピペットを使うことにした。また操作
が入り組んでいるので、フローチャートを書いてから計測するようにした。
計測例:速度定数 k=4.25[L/mol・分]
なお酢酸エチルの方の濃度を10倍にして計測することもでき、その結果として水酸化
ナトリウムのモル濃度に関しては1次であることが分かり、したがって次の速度式が成り
立つことが確認できる。
−d[CH3COOC2H5]/dt =
−d[NaOH]/dt = k[CH3COOC2H5][NaOH] <8>
参考:酢酸エチルはある程度水に溶ける。
4 節
[1]講座プラン「変化はどちらに向かうか&化学平衡」において、平衡状態は正逆両方
の向きの反応の「勢い」がバランスしている。そして平衡状態では化学平衡の法則が成り
立つことを学習した。たとえば酢酸エチルのケン化反応では
[CH3COONa][C2H5OH]/[CH3COOC2H5][NaOH] = K
(K:平衡定数)
である。すると勢いとは、正逆両方の向きのそれぞれの反応速度ではないのかという考え
が浮かぶ。
確かにそのように捉えても矛盾しない事例もある。しかし2−ブロモ−2−メチルプロ
パンの加水分解では、化学平衡の法則は
[(CH3)3COH][HBr]/[(CH3)3CBr][H2O] = K’
であるが、分解速度は
v = k"[(CH3)3CBr]
であった。このように勢いと反応速度は「似て非なるもの」である。
このことをどう納得するか。次のように説明してみたが、正しいだろうか。
「おそらく化学平衡に近い領域では多くの場合に、正反応と逆反応の速度式はそれぞれ化
学平衡の法則から予測される形になるのだろう。そして正反応の向きに反応が進行するな
ら、その速度式は
正味の反応速度 = 正反応の速度式 − 逆反応の速度式
となり、複雑になる。これに対して逆反応が無視できる、つまり化学平衡から離れた領域
では、化学平衡の法則の制約から解き放たれるのではないだろうか。」
[2]反応物質どうしが出会って反応すると考えると、反応速度はそれぞれのモル濃度の
積に正比例すると言える。これ自身は大切な概念である。

しかし反応のしくみが、いつでもそれほど単純であろうか。酢酸エチルのケン化反応は
- 5 -
速度式からはそのように見えるが、第1段階は、酢酸エチルと水酸化物イオンの反応であ
る。
CH3COOC2H5 + OH- ―→ CH23COOH + C2H5O- (5)
これはSN2反応であり、律速段階なので、それが速度式に反映している。
そしてエトキシドイオンは水分子と次のように反応し
C2H5O- + H2O ―→ C2H5OH + OH- (6)
続いて酢酸は水酸化物イオンと次のように反応する。つまり3つの素反応から構成されて
いる。
CH3COOH + OH- ―→ CH3COO- + H2O (7)
t−ブチルブロミドの加水分解の速度式は、どのように理解できるだろうか。これは
SN1反応であり、第1段階はブロミドのイオン化である。
(CH3)3CBr ―→ (CH3)3C+ + Br- (8)
そしてカルボニウムイオンと水分子が次のように反応する。
(CH3)3C+ + H2O ―→ (CH3)3COH + H+ (9)
第1段階が律速なので、それが速度式に反映している。
このように速度式は、反応のしくみを解明する手がかりを与える。
5 節
[1]ここでは反応速度と温度の関係を取り上げる。ホース水素爆鳴気の実験から、常温
では事実上進行しない水素の燃焼が、火花による局所的な温度上昇で始まり、その影響が
瞬時に全体に拡がることが分かる。このことをどのように捉えたらよいだろうか。
化学反応は反応物質が出会うだけでなく、元の結合が切断したりあるいは緩んだりした、
よりエネルギーが高い活性化状態に至るために、活性化エネルギーを獲得する必要がある。
活性化エネルギーが大きい反応ほど、その速度定数は小さくなる。ただしこれは、素反応
ない律速段階の素反応に注目してのことである。
温度が同じでも、熱運動にはばらつきがあり、比較的運動エネルギーの大きい分子も存
在する。このことは、活性化エネルギーのグラフが平均のエネルギーを示しているという
説明を必要とする。
気体反応なら、分子どうしが衝突すれば運動エネルギーが位置エネルギーに転換して、
それが活性化エネルギーを超えることがある。このとき反応が起こる可能性が生まれるの
である。溶液反応でも似たことが言えるだろう。
ただしそれは100%とは言えない。たとえば水素分子とヨウ素分子の端どうしが衝突
すると活性化状態にはなれず、跳ね返ったりする。また首尾よく活性化状態に至っても、
その後で元にもどってしまう可能性もある。速度定数はこれらをすべて包み込んだ定数で
ある。
この節の元になってる衝突活性化説は次の式で表せる。
k=pZexp(−Ea/RT)
ここで Z は標準濃度における単位時間あたりの衝突回数、p は配位係数あるいは確率因
子と呼ばれるものである。
- 6 -
そして1次反応では、分子全体に散らばっていた熱運動のエネルギーが切れるべき結合
部分に集中すれば、反応する可能性が生まれる。
[2]温度が高くなると、分子の平均運動エネルギーが大きくなり、活性化状態に至る可
能性が大きくなり、速度定数は大きくなる。このことを確認するのにも、時計反応は便利
である。
常温付近では、温度が10℃高くなると、速度定数は2倍、3倍と大きくなる。(それ
はアレニウスの式 k=Aexp(−Ea/RT) から計算できる。)
発熱反応では、反応が進行すると反応熱が加わって温度が高くなり、反応は継続して起
こりやすい。そじて条件によって爆発的に進行する。これに対して吸熱反応では、加熱な
いしエネルギー供給を続けないと、反応が継続しない。
[3]そして化学平衡論と反応速度論の整理である。
化学反応が起こるためには活性化エネルギーが必要なので、化学平衡の理論から見て起
こるはずの反応が事実上進行しないことはある。逆から言うと、活性化エネルギーが無け
れば、反応物質はすぐに生成物質に変化してしまう。それを妨げているのが活性化エネル
ギーの壁である。化学平衡の理論は必要条件を提示するだけである。
他方で、化学平衡の理論から起こらないはずの反応あるいは変化は、実際にも起こらな
い。
6 節
反応速度の基本を学ぼうとすると、溶液のような均一反応から入る必要があるが、他方
で現実の化学反応には不均一系のものも多い。
固体−気体、固体−液体(溶液も)の反応では、固体の表面積が大きいほど反応速度が
大きくなる。また吹き込みやかき混ぜで混合されるほど大きい反応速度を維持できる。粉
じん燃焼ロケットの実験では、その効果が予想以上で、爆発につながることもあると分か
る。
固体−固体反応では、それぞれの固体を粉砕して表面積を大きくし、よく混合して接触
面積を大きくすると、反応速度が大きくなる。テルミット反応では、アルミニウムはかた
まりではなく粉末を使い(酸化鉄(V)はもともと粉末)、そして両者をよく混合してから、
マグネシウムリボンで点火した。
またろうそくの炎のように、気体どうしでも不均一反応は存在する。ホース水素爆鳴気
は、温度に関して不均一系である。
7 節
触媒は、よく活性化エネルギーを小さくすると説明されるが不正確である。触媒は活性
化エネルギーがより小さい別の反応経路を構成するものである。また負触媒という概念は、
反応を阻害する薬剤と捉えた方がよいようである。そして過酸化水素の分解を抑えるリン
酸は、反応に関わる水酸化物イオンの濃度を低くする物質と捉える。
また触媒は反応の前後で変化しないものと説明されるが、同時に反応の最中には変化し
て活躍することを、酢酸エチル合成における硫酸を例にして強調した。硫酸は水素イオン
となって@のように反応する。
- 7 -

そしてその反応中間体にエタノールがAのように反応し、最後にBのように水素イオンが
外れる。
触媒の例は化学学習の早くから登場するが、ここでは白金とゼオライトを選んだ。白金
では、
@メタノールの燃焼、
2CH3OH +3O2 ―→ 2CO2 + 4H2O (11)
参考:メタノールを酸化銅(U)で酸化させるとホルムアルデヒドが生成する。
Aアンモニアの燃焼
4NH3 + 5O2 ―→ 4NO + 6H2O (12)
続いて一酸化窒素は空気中の酸素と次のように反応する。
2NO + O2 ―→ 2NO2 (13)
参考:二酸化窒素をザルツマン試薬で検出する。
に加えて
B私が工夫した水素爆鳴気も加えた。
ゼオライトの方は、藤田さんに教わったエタノールが脱離してエチレンが生成するであ
る。
CH3CH2OH ―→ CH2=CH2 + H2O (14)
これは生成物質から分離しやすい固体酸触媒の典型であり、工業的にも多用されている。
白金では、表面の余剰原子価でその作用を説明した。ゼオライトでは、モレキュラーシ
ーブとしてのはたらきと、酸点に触れた。後者は本質的には酢酸エチル合成における濃硫
酸と同じである。
最後に、アンモニア合成での触媒、オゾン層破壊を引き起こす触媒、自動車排気ガス対
策の三元触媒、生命活動における触媒「酵素」に触れ、新たな触媒が人類の課題に応えて
くれることを期待して終わった。
- 8 -
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