10.12.3
嶺南物化研修会(福井県)
林 正幸
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/
e-mail:masasuma@water.sannet.ne.jp
理科教育を担って〜過去と現在
私の経験や思いの中に、皆さんの参考になることがあればとまとめました。
A 理科教師の道を選ぶ
高校時代には、物理に比べて化学の教科書はどうして知識先行で理論が貫徹しないだろ
うかという疑問を持ち、それは化学の研究が進んでいないからだろうと考えました。そこ
で化学の理論研究をするために大学に行きたいと思うようになりました。
しかし実際は化学の理論はより難しいものが多く、高校では扱いづらいことが分かりま
した(もうひとつ教科書の記述のまずさもあると考えます)。そして大学・大学院では有
機反応機構に関する研究に取り組みました。
しかし、研究者として生きていくことに疑問が生まれてきました。その世知辛さが気に
なったのです。化学も好きだが、もっと人間どうし深く関わって生きていきたい。それな
ら教師しかない。ということで最後の1年で教職に必要な単位を履修し免許を取得して高
校教師になりました(1967年)。
B 仲間と共に
新任では授業に苦労しました。そのころ組合が賃上げ闘争に向かっており、その活動に
時間を取られた面もありました。
もっと授業の工夫がしたい、もっと勉強したい。それには教師が集って研究交流してい
くのが一番だと考え、2年目には化学サークルを呼びかけ、MOLの会を結成しました。
もちろん授業の工夫や勉強は個人で取り組むことも欠かせませんが、仲間と交流するサー
クルは、知恵が盗め、刺激を受け、視野が広がり、両者は車の両輪です。
現在は
MOLの会
(http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/shwmenu.htm#MTS)
アルケミストの会(定員が30名の全国的な理科教育の通信サークル)
(http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/alchemst/alchindx.htm)
EHC( Electronics Hobby Circle 電子工作など、ものづくり)
環境問題を勉強する会
(http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/shwmenu.htm#ETS)
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愛知物理サークル
愛知理科サークル(小中学校)
などに参加していますが、今は休業中の懐かしいサークルもあります。
ブス研(物理数学研 岩波の物理入門コース全10巻を読む)
尾理サ(おりさ 尾張理科サークル 生物地学巡見が中心)
インテク研(現代の情報と技術を勉強し、教育に取り入れていく)
現代と文学を考える会(社会の新しい未来像を模索する)
また科教協(科学教育研究協議会)の全国大会にはほぼ毎年参加し、ほぼ毎回レポート
をしています。もうひとつ、年末に千葉県の館山で開かれる「安房科学塾」も大切な研究
交流の場です。
そして愛知科教協事務局のひとりとして、次の3つにも取り組んでいます。
実験お楽しみ広場
合同県教研理科分科会(実行委員会として組合に協力)
愛知科教協研究会
私のモットーのひとつは「教育研究のため仲間と共に前進する」です。
C 理科教育の視点
新任になって教えられた理科教育の視点がありました。
「何をどのように、何のため誰のために」
これは大切なことを分かりやすく表現していて、奥が深い言葉であると思います。
「何を」教えるのか。教科書通りでよいのか。受験問題が解ける内容でなければならな
いか。科学史を踏まえた内容にするのか、最新の科学をどこまで取り入れるか。身近な実
生活と科学体系のどちらに重きをおくか。生徒の実態に合わせるのがよいのか、教えるべ
きミニマムエッセンシャルがあるのか。あるいは全分野をまんべんなく教えるのか、個性
的重点的に教えて良いのか・・・。このように考えると、これらは「どのように」教える
のか「何のため誰のために」教えるのかに関連してくることが分かります。
「どのように」教えるのか。ノートをとらせるか、プリントを使うか。視聴覚の教材と
機器をどこまで取り入れるか。個別学習を基本にするのか、討論やグループ学習を取り入
れるのか。知識の習得が大切なのか、科学の方法が身に付けばよいのか。ペーパーテスト
の結果が良くなれば、それでよいのか。
そしてとりわけ実験をどのように位置づけるか。科学は実験や観察を通して、知識や理
論を蓄積・発展させてきました。実験に基づかない理科教育は、あらぬ誤解を産み出しま
す。ただし知識や理論が導き出せるすべての実験を取り上げろというのではありません。
学習する内容が実感でき、納得できる実験であることが基本です。
実験は、科学に興味・関心を呼び起こす道具でもあります。また「どうしてそうなるの
か」という疑問を引き起こし、「こうなっているのではないか」という仮説を生み出しま
す。つまり生徒の思考を引き出す大切な道具でもあります。
そして実験は、演習以上に、生徒自らが課題研究として取り組んで、学習した内容を補
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足し確認する強力な武器でもあります。
ちなみに実験は、教師が認識を拡げる機会もつくります。「分からないときはものに訊
け」は、Bで紹介したアルケミストの会の合い言葉です。
「何のため誰のため」に教えるのか。実生活に役立つために教えるのか、心の糧や世界
観につながるように教えるのか。それぞれの生徒が上級学校に合格し、有名企業に入社し、
豊かな生活を築くために教えるのか。学習したことは自分のためだけでなく、広く社会や
人類のためにも役立てようとする思想が伴うように教えるのか。このように考えると、教
師の生き様そのものが問われることに気付きます。なお公害問題に関しては次の項で触れ
ます。
D 公害問題に取り組んで
生徒が「どうして化学なんか勉強するのか?」とよく言いました。「何のため誰のため
に」学ぶのかという疑問です。この問いかけに応えるのは容易なことではありません。
折しも公害問題が顕在化し始めた時期でした。私は仲間と共にこの問題を勉強して生徒
に応えようとしました。勉強すると言っても本などろくにありませんでした。「公害調査
の会」を結成し(69年)、現地調査をしたり、公害に立ち向かっている人から直接に話
を聞いたりしました。
名古屋市北区に2つのセロハン工場があり、悪臭を放っていました。これに対して公害
反対運動を呼びかけようとしている大学人がいました。私たちはこの運動に参加して勉強
することにし、ビラまきから始めました。悪臭の原因は硫化水素であり、これは金属も腐
食します。二硫化炭素も発生させており、これはあまり臭わないのですが、大きな健康被
害(神経毒)を引き起こします。工場は廃液を都市下水に流していて、汚染物質は台所や
風呂から高濃度で侵入してきます。私たちは住民と共に汚染調査をし、セロハン工場のし
くみと発生する汚染物質について学習会をくり返し開きました。また名古屋市が急きょ発
表した「公害指導概要」のごまかしを暴露しました。住民運動には盛衰がありましたが、
ついに2つの工場とも立ち退くという成果を上げました。
そんな中で学んだ1つは、無知は生命をも脅かします。必ず流布されるデマ宣伝に対し
て「科学で武装する」という言葉が産み出されました。公害によって科学不信が広がりま
したが、公害を防止するためにも科学は欠かせないのです。
2つは住民による調査活動の重要性です。自分たちが調査を行うことで確信が生まれま
す。これは生徒自身による公害調査につながります。
3つは住民の側に立つ科学者を育成することです。いくら私が化学の教師であるから
とセロハン工場に乗り込んでも、その全体を理解することは困難でした。やはり専門家の
助けが必要です。生徒には「社会に貢献するためにこそ学ぶ」のであること伝えたいです。
つまり科学を国民のものに取り戻そうということです。
4つは教師の社会的責任です。教師は現代社会が抱える問題に目を向け、その中から教
育で実践すべき目標を見つけ出す責任があるのです。
5つは私の理論偏重の授業に改革をもたらしました。「おじいさんやおばあさんまでが
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硫化水素、二硫化炭素と言うようになって地域が変わった。」これはそこに住む高校生の
実感でした。個別的知識も大きな力を持ちます。
以上を踏まえて授業に「公害の科学」という章を組み込みました。
続いて住民運動の協議会「愛知公害調査の会」を結成し、県下1000地点以上に及ぶ
硫黄酸化物調査などに取り組みました・・・。
参考:「公害・環境問題とその教育に取り組んで」
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/c21-15.HTM
E 苦手な生徒たちを相手に
教師10年を区切りに、職業高校に希望を出して転勤しました(77年)。勉強が苦手
な生徒たちを教える経験を持つことも大切だと指摘されたからです。
それまでは受験しか眼中にない生徒たちに悩まされましたが、それとは異なる20年あ
まりにわたる長い困難の道程が始まりました。
いろいろなことを取り組みました。1つは、そういう生徒たちが興味の持てる実験やテ
キストの開発です。教科書や指導要領よりも、生徒の実態に合った自主編成こそが有効で
した。これは「化学の基礎」として自費出版しました。幸いにも同じ職場の同じ思いの3
人に依るものです。
2つは、到達目標を明確にして、仲間で励まし合うグループ学習をし、全員に定期試験
で60点以上を採らせる。これは上の3人の共同があったから実現できたことでした。
(ここで転勤がありました。)
3つは、実験と解説の2時間読み切り型のテキストの開発です。各テーマは独立してお
り、積み上げを求めないのです。これは「楽しい化学」として自費出版しました。
一般に理科教師は理論体系が好きですが、多くの生徒たちは(そして多くの社会人も)
個別的知識や個別的説明の「もの知り」が好きであるという現実を受け入れたのです。こ
のことは生徒に書かせた「理科授業感想」(生徒からのラブレター)から学びました。
4つは、おみやげ作戦(授業で毎回おもしろいものを見せる)、スマイル作戦(常に笑
顔でいる)です。私は思いました。生徒たちが何も受け留めてくれなくても、授業の中で
人間不信が生まれることだけは避けたい。そうなったらお終いである。
参考:「楽しい授業(化学)」
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/c22-5.htm
5つは、毎回の実験レポートや宿題の提出、プリントファイルの点検を徹底し、点数化
する。本来は高校生ならこんなことをしなくてよいはずですが・・・。
6つは、「隠す実験」という手法を試みたりしました。物質名も言わずに説明なしで不
思議な実験を見せます。そして何がどうなったのか問いかけます。なんとか生徒の思考を
引き出せないかという苦肉の策です。そしてこれなら生徒の多様な疑問にも対応できます。
翻って教師は生徒が頼んでもいないのに、すぐに自分流の説明を始めます・・・。しかし
この試みも成功したとは言えませんでした。
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/c22-3.htm
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参考:「『隠す実験』の提案」
こんな努力を積み重ねた結果、多くの生徒たちが「先生の化学の授業は好き」「来年も
林先生に教えてもらいたい」と言うようになりました。これは教師として喜ばしいことで
す。しかし他方で、論理的思考力を一向に高めようとしない現実に、いらだたしさが募っ
ていきました。
F ホームページづくりなど
私はマイコンキットの時代からコンピュータに興味があり、プログラムづくりも好きで
した。そしてはインターネットの重要性に注目していて、96年には自分のホームページ
をつくりました。
以来、私は授業プリントをはじめ、実験・ものづくり、レポートなど、手掛けたことは
ほとんどすべてホームページに掲載してきました。この習慣は、やりっ放しにせず、その
時点における最良のものをつくろうとすることになります。
ホームページは出版社に認めてもらう必要がありません。自由に情報を発信でき、これ
は「情報の民主化」です。またホームページは「等身大」です。気軽に訂正できます。そ
して何より自分自身の便利なデータベースになります。またこれを使って容易に交流がで
きます。
しばらくして高校生などから質問が来るようになりました。その数は400通あまりに
なります。そのうち350通は質問と返事をホームページに掲載しています。これは生徒
がどんな疑問を持つかを知る大切な機会になり、自分の視野の狭さを自覚し、改めて勉強
し直すよい機会にもなりました。そして生徒の質問に対しても、即答するばかりでなく、
疑問の中身をよく吟味してじっくりと答えるべきであることを認識しました。
参考:「メールによる質問の意味」
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/nc2-7.htm
もうひとつ、メールの活用があります。私の提案で愛知科学教育ネット(akkn)と
いうメーリングリストができました(99年)。この規約は「顔が見える」です。つまり
愛知県下の自主的な教育サークルのどれかに顔を出せば、参加資格ができるというもので
す。現在では100名を越える仲間で、研究交流やサークルの案内をしています。
アルケミストの会でもメーリングリストをつくっています。そしてメールの内容は私の
ホームページで公開しています。
G 「講座プラン」づくり
8年前(03年)に退職し、そのとき次のように考えました。
現役の時には3つの制約がありました。教科書、受験体制、学習に消極的な生徒です。
退職したならこれらから自由になって「次世代のために望ましいと考えられる化学教育プ
ラン(「講座プランと名付けた」)づくり」をしたい。ですから再任用も非常勤講師も断
りました。そして「面白かった」で終わってしまわない、「化学に興味・関心を持つ高校
生」を対象にして進めることにしました。ちなみにこうように教科書に代わるテキストを
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つくるのは、教えたいことを整理・検討するよい機会になります。
こうしてこの間に11の講座プランができました。
1.電子やり取り反応の世界
2n.変化はどちらに向かうか & 化学平衡
3n.物質とエネルギー
4.元素と原子の発見
5.原子はどのように結合するか
6.モル単位(物質量)の世界
7.酸と塩基
8.有機化合物の世界
9.物質の状態
10.気体状態
11.溶解と溶液の性質
12.酸化剤と還元剤(現在進行中)
参考:化学の講座プラン
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/ncompmenu.htm#GNC1w
なおこのプランは具体的な展開までは想定していません。
ここで2つの問題がありました。ひとつは、どこで実験開発するかです。幸い母が所有
する貸店舗が退職直前に空き、私が自由に使うことを認めてくれました。改装して器材を
整え、実験とものづくりそして交流ができる場(「林ラボ」と名付けました)をつくるこ
とができました。
もうひとつは、どこで講座プランを実践するかです。タイミングよく、名古屋市科学館
で「先進科学塾」という講座を開く話が持ち上がり、私も参加して検討を重ね、03年5
月からスタートさせることができました。当初の思いからはすこしずれてきましたが、現
在では、高校生以上を対象とし、大学生・教師を含む社会人も参加します。丸1日ないし
2日間のコースで、年8回企画しています。講師の順が回ってくると、私の場合はすでに
作成した講座プランをアレンジしてテキストを作ります。これまでに48の講座を開き、
そのうち私は12の講座を担当しました。
参考:「私はこんな授業がしたい〜講座プラン「元素と原子の発見」に絡めて〜」
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/nc2-6.htm
H いくつかの実験
・ミニ熱気球
(中略)
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(中略)
参考:http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/e7-1.htm
・圧力計(電源デジタル表示装置 PWDD に搭載)
実験1 気体の圧力と体積の関係
(中略)
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参考:http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/ne69.htm
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/w10.htm#ES1
・非金属だけの電池
(中略)
参考:http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/nc1-9.htm#E7
・pHと化学反応
(中略)
参考:http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/w7.htm#ES7
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