08.1.12
愛知科教協研究会
林 正幸
「生命活動を担うタンパク質の化学」の思いと狙い
退職して5年、この間どのような思いで「講座プラン」をつくっているかは、05年の
この研究会(当時は討論合宿)でのレポート「私はこんな授業がしたい」
http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/nc2-6.htm
で報告した。
昨年末には講座プラン「生命の化学」の途中で、先進科学塾(ASW)においてそれと
関係するテキスト「生命活動を担うタンパク質の化学」をつくって実践したので、今回は
テキストの方に対する思いと狙いなどを報告する。こちらは1日(5時間あまり)の実践
なので、講座プランに対するすべての思いを注入することはできない。
ちなみにASWの参加者は高校生から大学生、社会人そして教師と幅広くなっている。
幸い参加者どうしの交流とスタッフの支援が助けになっている。なお最後に「参加者アン
ケートの結果を添付した。
[a]アミノ酸の両性
アミノ酸が両性であることを示す実験が無かったので、工夫してみた。始めグリシンに
塩酸を加えたり水酸化ナトリウム水溶液を加えたりしたが、すぐに酸性や塩基性になって
だめだった。これは後でpH曲線を考えると当然であった。発想を逆にして、薄い塩酸や
水酸化ナトリウム水溶液をグリシンで中和することにした。しかしユニバーサル指示薬で
は変化がほとんど検出できない。そこですこし面倒になるがpHメーターを使うとうまく
行った。
これはグリシンを代表とするアミノ酸が酸性の官能基と塩基性の官能基の両方を持つこ
とを示す。もっと言えば、「弱酸の塩に強酸を加えると弱酸と強酸の塩が生成する」に照
らせば、酸の官能基が弱酸であり、同様な理由で塩基の官能基が弱塩基であることを示す。
つまりカルボキシル基とアミノ基の存在を窺わせる。これを踏まえてアミノ酸を導入すれ
ば、納得しやすい。
それならグリシンそのものが自身で中和して塩になる。
H2N−CH2−COOH ―→ H3N+−CH2−COO-
そして実験の反応式は
H3N+−CH2−COO- + H+ ―→ H3N+−CH2−COOH
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H3N+−CH2−COO- + OH- ―→ H2N−CH2−COO- + H2O
となり、グリシンの4つの姿、そして両性イオン(双性イオン)などが実験に基づいて導
入できる。
ちなみにアミノ酸の側鎖について、親水性・疎水性に分類し、システインのようにメル
カプト基 −SH を持つものがあること、プロリンがアミノ基が側鎖と連結していてペプ
チド結合すると水素結合(2次構造における)がつくれなくなることにも触れると、タン
パク質の高次構造につながる。
[b]タンパク質の2次構造モデル
らせんや波形シートは図を見るだけではイメージが湧きにくい。そこで手づくりモデル
を利用しようと思った。
ペプチド結合は4つの原子が、α−炭素と結合する2つの原子価も含めて同一平面上に
制約される。α−炭素の4つの原子価は正四面体の中心から頂点に向かう。自由になるの
は、α−炭素とペプチド結合の間の回転である。そして水素結合は関係する窒素、水素、
酸素の3原子が同一直線上になる。
α−炭素にダブルクリップを使うアイデアが出発点であった。2つのレバーが2つの原
子価に相当する。そしてペプチド結合の残りの原子価はつまようじを利用し、クリップに
挟む。しかし角度が曖昧であると批判されて、外径4mmでつまようじがちょうど差し込
めるビニールチューブを見つけ、工作用紙に貼り付けて完成した。水素結合は大きい目玉
クリップを使う。
自分でモデルを手づくりすれば親しみも増すが、モデルにさわってみるだけでも実感を
もって捉えられるようになる。
タンパク質分子の特徴のひとつは、多様性である。これはモノマーであるアミノ酸が
20種も存在するためであり、1次構造であるアミノ酸配列に基づき、生物の多様性を化
学的に保障している。ちなみにアミノ酸配列の情報はDNAが保持している。
ふたつは複雑な立体的構造(形状)である。これは2〜4次構造に基づく。2次構造は
ペプチド結合による水素結合に依拠する。3次構造と4次構造は、上に書いたようにアミ
ノ酸残基の側鎖の個性が決定する。これは生命活動を営むに相応しい機能を保有すること
を保障している。
みっつは繊細で壊れやすいことである。これは2〜4次構造がほとんど、化学結合でな
く分子間力によって組み立てられることに基づく。タンパク質は細胞内のリボソーム上と
いうゆりかごのような環境で合成される。そしてこの繊細さはタンパク質の変性となって
具現する。これは生物が環境の変化によって簡単に、生命活動を営む能力を損なったり失
ったりすることに結び付いている。
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[c]ホタルの酵素ルシフェラーゼ
生命活動を中心的に担うタンパク質と言えば、それは酵素である。そこで酵素を中心に
展開した。
これまで酵素の特性と言えばカタラーゼの実験であったが、商品「ホタライト」(ナカ
ムラで入手)として酵素ルシフェラーゼと基質ルシフェリン(とATP)が市販されてい
ることを知った。
そこでpH特性と温度特性について変性領域も含めて試してみると、実に明解な結果が
得られた(あまり苦労しなかった)。5セット、液量にしてA液B液とも250mLほど
が8000円とやや高価であるが、使用する価値はある。なお発光やその程度を観察する
のに、工作用紙で目に押し当てる箱を作った。
なお基質特異性については、糖類の中のグルコースが糖尿病試験紙であるテス・テープ
Aで検出できる実験で確認するつもりである。これは酵素グルコオキシダーゼが選択的に
グルコースを酸化することを利用している。
[d]ジアスターゼによるデンプンの消化
これは酵素であるジアスターゼ(アミラーゼ)と化学的触媒である塩酸の、能力競争の
実験である。アミラーゼは体温付近でも直ぐにデンプンを消化する。これに対して塩酸は
この温度ではもたつくが、100℃にすると直ぐにデンプンを加水分解する。もちろんア
ミラーゼの方は100℃にしたら変性してしまう。デンプンの検出にはヨウ素・ヨウ化カ
リウム溶液を、グルコースなど(還元糖)の検出にはベネディクト試薬(フェーリング試
薬を改良したもの)を使った。
[e]酵素反応の速度
酵素反応は一般に、酵素 E が基質 S と複合体 ES を形成してから、基質が変化し
て生成物質 P になり、酵素は元にもどる。
E + S ―→ ES (1)
ES ―→ E + P (2)
反応(1)の速度定数は(2)に比べてはるかに大きい。したがって酵素と基質はすぐに
反応し、できた複合体はゆっくりと生成物質に変化していく。こうして酵素反応の速度は、
複合体のモル濃度に比例すると言える。
酵素濃度が一定の下においては、酵素というかぎ穴の個数に対して基質というかぎの個
数が少ない領域では、基質濃度が高くなるとそれに比例して反応速度は大きくなる。しか
し基質濃度が酵素濃度より大きい領域では、未反応のかぎはかぎ穴が空くのを待たねばな
らず、反応速度は酵素濃度によって決まってしまい、一定になる。
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このことが実験できれば、それから逆に酵素反応のしくみを窺うことができる! すこ
しレベルは高いが、そんな狙いを持って挑戦してみた。カタラーゼによる過酸化水素の分
解は、酸素が発生するので反応速度を計測するのに好都合である。
向陽高校科学部の研究(テーマは別)も参考にしながら、1ケ月あまりの悪戦苦闘が始
まった。データが乱れる、安定しない。反応速度の計測法に見落としはないか。カタラー
ゼが過酸化水素によって分解されていないか。ニンジンをすってつくったカタラーゼ液は
変質しないか・・・。
ようやくグラフが描けるようになった。9割方は完成だ。しかしASWでは期待する結
果が得られないグループもあった。今でも気になるのはカタラーゼ液がけん濁状態にある
ことだ。科学館の遠心分離器を使っても透明な液は得られない。大根に換えても駄目だ・
・・。教師の参加者のひとりが、部活のテーマにすると言ってくれた。
講座プランの方では、さらに醸造にも触れたいと考えている。
以上のすべては実験からスタートしている。実験・観察が理科教育の基礎であることは
自明の理である。
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<資料>
・先進科学塾テキスト「生命活動を担うタンパク質の化学」
・参加者アンケート 省略
林 正幸と主万子の始めの
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