07.8.3〜5
                           科教協愛知大会化学分科会
                         林 正幸(アルケミストの会)

講座プラン「有機化合物の世界」をつくって

はじめに

 退職して5年目、自由な立場(教科書、受験、時間数を気にしない)から高校の化学教
育づくりとして「講座プラン」を作成している。これまでにこのプランを含めて8つが完
成し、すべてホームページに掲載している。
    http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/
そしてその一部は名古屋市科学館の先進科学塾という講座で実践している。
    http://www.ncsm.city.nagoya.jp/asw/
 有機化学というと内容が膨大であり、まず次の3つの講座プランに分けることにした。
    「有機化合物の世界」
    「化学工業」
    「生命の化学」
高分子の基礎は「化学工業」で解説することにした。また当然これはには無機化学工業も
含めるつもりである。
 今回レポートする「有機化合物の世界」は有機化学の基礎編に相当する。この内容がこ
れからの化学教育に相応しいかどうか、検討をお願いしたい。なお先進科学塾での実践に
もすこし触れる。

A プランのあらまし

[1]講座プランそのものは資料として添付する。
節と項および関係する実験は次のようである。
1.有機化合物とその構造
  [a]有機化合物とは          実験1 リモネンの水蒸気蒸留
  [b]立体的構造と異性体        実習1 分子構造と異性体
  [c]示性式と名称
2.炭素と水素の有機化合物
  [a]アルカン
  [b]アルカンの沸点
  [c]シクロアルカン
  [d]アルケン
  [e]アルキン
3.炭化水素の反応
  [a]付加反応(不飽和炭化水素の検出) 実験2 不飽和結合の検出
  [b]置換反応             演示実験1 メタンと塩素の反応
  [c]脱離反応             実験2の中のエチレンの発生

                  - 1 -

  [d]芳香族炭化水素
  [e]芳香族炭化水素の検出       実験3 芳香族炭化水素の検出
  [f]燃焼反応             実験4 燃焼反応
                      演示実験2 燃焼反応
4.酸素、窒素を含む有機化合物
  [a]アルコール、フェノール類
    [1]アルコール
    [2]アルコールの沸点
    [3]アルコールの溶解性      実験5 アルコールの溶解性
    [4]フェノール類
    [5]フェノール類の沸点と溶解性
  [b]アルデヒド、ケトン
    [1]アルデヒド
    [2]ケトン
    [3]二酸化炭素との類似性
    [4]沸点と溶解性
  [c]カルボン酸、アミン
    [1]カルボン酸
    [2]光学異性体          実習1の中の光学異性体
    [3]旋光性            実験6 光学異性体(簡単旋光計)
    [4]沸点と溶解性
    [5]アミン
5.酸素、窒素を含む有機化合物の反応
  [a]検出反応
    [1]アルコールの検出       実験7 アルコールの検出
    [2]フェノール類の検出      実験8 フェノール類の検出
    [3]アルデヒドの検出(銀鏡反応) 実験9 アルデヒドの検出(銀鏡反応)
    [4]アルデヒド・ケトンのカルボニル基の検出
                実験10 アルデヒド・ケトンのカルボニル基の検出
                      (「しょうがエキスの抽出」を含む)
  [b]酸化反応             実験11 メタノールの酸化
                      実験12 2−プロパノールの酸化
  [c]酸性・塩基性と塩の溶解性     実験13 酸性・塩基性と塩の溶解性
                      実験14 石けんの合成
6.縮合型の有機化合物
  [a]エーテル             実験15 ジエチルエーテルの合成
  [b]エステル             実験16 酢酸エチルの合成
  [c]アミド              実験17 アセトアニリドの合成
    発展実験              発展実験1 カフェインの抽出
                      発展実験2 バイルシュタインテスト
                      発展実験3 ヨードホルム反応

                  - 2 -

                      発展実験4 サロメチールの合成
                      発展実験5 ニトロベンゼンの合成
[2]「実験を基礎に展開する」のは私が基本にしていることのひとつである。このプラ
ンでは25の実験・実習を組み込んだ。
[3]現在の教科書は芳香族を別にし、2重に展開しているがあまり合理的とは考えられ
ない。このプランでは早めに、3節の途中で芳香族を取り入れている。
[4]対象とする有機化合物の種類は、上記のように3つのプランに分けることもあり、
次のように制限し、整理した。
@炭素と水素の有機化合物
  脂肪族炭化水素 飽和炭化水素  アルカン、シクロアルカン(脂環式炭化水素)
                  (備考:ハロゲン化炭化水素を含む)
          不飽和炭化水素 アルケン、アルキン
  芳香族炭化水素
A酸素、窒素を含む有機化合物
  アルコール、フェノール類
  アルデヒド、ケトン
  カルボン酸、アミン
B縮合型の有機化合物
  エーテル、(カルボン酸)エステル、アミド
最後の3種は他から誘導できるので、縮合型としてまとめるのが分かりやすいと考える。
[5]有機化合物の記述は、大きく性質と反応に分け、性質は
    ・沸点
    ・溶解性
を重点にする。反応は次の「反応形式」
    ・付加
    ・置換
    ・脱離
    ・アルコールの酸化形式
    ・縮合
と、それとは別に
    ・燃焼反応
    ・検出反応
    ・酸化反応
    ・酸塩基反応
を重点にする。

B 思いと狙い

(a)天然物から分離する
 有機化合物は身のまわりにあふれているが、そのままでは化学の学習の対象として捉え
にくい面がある。無機化学でもそうであるが、有機化合物を分離して取り出す体験が必要
である。このプランでは

                  - 3 -

   ・かんきつ類の香り成分のリモネン
   ・しょうがの辛み成分のジンゲロン
   ・カフェイン(発展実験)
を取り上げる。リモネンは水蒸気蒸留、ジンゲロンとカフェインは抽出という分離法の体
験ができる。またリモネンは溶解性に関して「似たものどうしは溶け合う」の例、不飽和
炭化水素の検出(二重結合を2つ持つ)にも使う。ジンゲロンはアルデヒド・ケトンのカ
ルボニル基の検出(ケトンである)に使う。

(b)分子模型から入る
 私はそれぞれの種類の有機化合物の学習に入る前に、次のように分子模型で遊んでおく
ことが有効であると考え、現役のときからそのようにしてきた。
 化学結合でも分子模型は利用するが、ここでは始めに
    CH4   C26   C38   C24   C22
    メタン   エタン  プロパン  エチレン  アセチレン
を作って馴染み、紙の上の構造式との関係を実感する。続いて次の4つの分子式の異性体
探しをする。
    @C410(2種)
    AC48(6種)
    BC38O(3種)
    CC242(12種)
グループで競争して探し、同じものは外していく。Bにはシス・トランス異性体が、Cに
は光学異性体が含まれ、その違いを分子模型で確認する。
 これで分子構造を自分で捉える基礎ができる。またその背景にあるケクレの原子価理論
とファント・ホッフの正四面体理論を説明し、それで数1000万種の有機化合物が理解
できることを確認する(後でベンゼン環の説明が加わる)。
 結果を整理したプリントを作り、示性式の書き方の基礎も学習する。基や官能基のまと
めもしておく。「即記憶せよ」と言うのではなく、これからの学習の出発点にする。

(c)沸点について
備考:(g)まで、「  」の中は講座プランの引用
 沸点については水素結合との関係などで無機化学でも取り上げられる。そして有機化学
では直鎖状アルカンの沸点と分子量との関係のグラフがしばしば取り上げられる。
 私はそれに留めず、沸点と分子構造との関係に踏み込むのが、物性論の基礎を養うのに
有効であると考える。
@水素から直鎖状デカンまでの沸点と分子量のグラフを描かせて
「同じ系列の物質ではグラフは滑らかな曲線になる。そして「沸点は分子量が大きくなる
と高くなる」ことがうかがえる。これは分子間力が分子量にだいたい比例することを意味
している。」
ことを確認する。
A「次ページの枝分かれ状アルカンの沸点について、同じ用紙にデータを目盛れ。分子量は問2
は問2を参考にせよ。どんなことが言えるか。

                  - 4 -


  
                                      」
 分子がコンパクト化すると沸点が下がる。
B「シクロアルカン、アルケン、アルキンについて、分子量と沸点のデータを問2の用紙
に目盛り、同じ系列はグラフにせよ。分子量は H=1,C=12 として計算する。そし
てシクロペンタンと1−ブテンの沸点を予測せよ。」
 アルケンはアルカンと重なるが、シクロアルカンとアルキンのグラフは少しだけ上に来
る。
C「芳香族炭化水素の沸点は、分子量が同じくらいのアルカンより少し高い。これはベン
ゼン環どうしの引力によるのだろうか。」
D「上の7種のアルコール(グリセリンを除く)と水の、沸点と分子量のデータを2節の
用紙に目盛れ。」
「したがってアルコール分子でも水素結合がはたらき、同じくらいの分子量のアルカンと
比べるとかなり沸点が高い。
 メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノールという同じ系列の物質の
グラフを見ると、分子量が大きくなると直鎖状アルカンのグラフに近づく。これは水素結
合の元になるヒドロキシ基が分子に占める割合が小さくなるからである。エチレングリコ
ールは分子が2つのヒドロキシ基を持つので、その沸点が際だって高い。水もそれに近く
沸点が高い。ちなみにグリセリンは1atmの下では沸点に達する前に290℃で分解し
てしまう。」
E「フェノール類の沸点は、分子量が同じくらいのアルコールより少し高い。これもベン
ゼン環のどうしの引力のためであろう。」
F「カルボニル基を1つ持つアルデヒドやケトンの沸点は、分子量が同じくらいのヒドロ
キシ基を1つ持つアルコールとアルカンとの中間くらいである。これはカルボニル基の極
性がかなり大きいことを示す。」
G「カルボキシ基を1つを持つカルボン酸の沸点は、分子量が同じくらいのヒドロキシ基
を1つアルコールよりさらに高い。ヒドロキシ基とカルボニル基の2つのはたらきが重な
るためであろう。」
H「アミノ基を1つ持つアミンの沸点は、アルデヒド、ケトンと同じように、分子量が同
じくらいのヒドロキシ基を1つ持つアルコールとアルカンとの中間くらいである。アミノ
基はヒドロキシ基ほどの引力ではないが、水素結合を形成する。これに対してトリエチル
アミンは、水素結合する水素がない。窒素が極性をいくらか大きくするが、その沸点は同
じような分子量のアルカンに近い。」
 次ページにデータを加えた沸点と分子量のグラフを掲げておく。

                  - 5 -




(d)検出反応
 無機化学における陽イオンの定性分析と同じように、有機化学でも種類をしたがって官
能基を特定する検出反応は、いくらスペクトル分析が主流であるからと言って、高校の化

                  - 6 -

学教育における価値が下がるものではなく、物質を捉えていく強力な武器である。
 ちなみに「官能基とは物質の性質にアルカンとは異なるある特徴を与えるような基のこ
とである。」したがって私はアルカンの説明から始める。
 このプランでは次の検出反応を取り上げる。
@不飽和結合の検出
 臭素水と中性過マンガン酸カリウム水溶液の脱色
  (ア)エチレン  (イ)シクロヘキセン  (ウ)アセチレン
  (エ)ヘキサン  (オ)リモネン(実験1のサンプル)  (カ)ベンゼン
A芳香族炭化水素の検出
 無水塩化アルミニウムを触媒にするジクロロメタンによるフリーデル・クラフツ反応に
よる着色(文献はクロロホルムを使っている)
  (ア)ベンゼン  (イ)ナフタレン  (ウ)トルエン
  (エ)ヘキサン  (オ)シクロヘキセン
Bアルコールの検出
 硝酸セリウム試薬による発色
  (ア)メタノール  (イ)2−プロパノール  (ウ)フェノール
  (エ)酢酸  (オ)焼酎  (カ)砂糖
Cフェノール類の検出
 塩化鉄(V)水溶液による発色
  (ア)フェノール  (イ)2−ナフトール  (ウ)サリチル酸
  (エ)エタノール  (オ)酢酸
Dアルデヒドの検出(銀鏡反応)
  (ア)アセトアルデヒド (イ)ベンズアルデヒド  (ウ)アセトン
  (エ)メタノール  (オ)酢酸  (カ)ブドウ糖(グルコース)
Eアルデヒド・ケトンのカルボニル基の検出
 2,4−ジニトロフェニルヒドラジン試薬による沈でん
  (ア)アセトアルデヒド  (イ)ベンズアルデヒド  (ウ)アセトン
  (エ)酢酸  (オ)2−プロパノール  (カ)しょうがエキ
Fカルボン酸とアミンは酸と塩基として確認できる
 指示薬BTBの変色
  (ア)酢酸  (イ)安息香酸  (ウ)エタノール
  (エ)食酢  (オ)レモン汁  (カ)フェノール
  (キ)トリエチルアミン  (ク)アニリン
 サンプルの選択には工夫したが、焼酎、砂糖、ブドウ糖、食酢、レモン汁など身近なも
のも加えるようにした。
 フリーデル・クラフツ反応は、ベンゼンの塩素置換が教科書に出てくるが、芳香族炭化
水素の検出に位置づける。またアルコールの検出の硝酸セリウム試薬と、アルデヒド・ケ
トンのカルボニル基の検出の2,4−ジニトロフェニルヒドラジン試薬は、通常は高校では
扱わないが、反応の内容にまで踏み込めなくても取り上げる。
 なお発展実験として
    ・バイルシュタインテスト

                  - 7 -

    ・ヨードホルム反応
を掲げる。

(e)反応形式
 有機化学反応の分類は、教科書では混乱している。置換、塩素化、脱水、エステル化な
どご都合主義とも言える。私は高校段階では、反応機構ではなく「反応形式」として、付
加、脱離、置換、縮合などの用語を使うことを基本にしたい。これは反応式を整理し記憶
するのに役に立つ。
@付加
「これはエチレンを例にすると、次のように臭素が反応するためである。
    CH2=CH2 + Br2 ―→ CH2BrCH2Br
     エチレン        1,2−ジブロモエタン
  (中略)
 この反応は次のように、炭素炭素二重結合の一方の結合と臭素の単結合が切れて、新た
に炭素臭素結合が生じて、エチレンに臭素が付け加わると捉えることができる。

  

このような反応形式は「付加」と呼ばれる。実際の反応のしくみはもっと複雑であるが、
高校の段階ではこのように化学反応を形式的に整理すると記憶しやくなるという利点があ
る。」
A置換
「メタンと塩素を混合して電気火花を飛ばすと爆発的に反応した。この反応のひとつは次
のようである。
    CH4 + Cl2 ―→ CH3Cl + HCl
    メタン      クロロメタン
なお生成物質の名称で、クロロは塩素を意味する。この反応は次のように、炭素水素結合
と塩素塩素結合が切れて水素と塩素の一方が置き換わり、炭素塩素結合と水素塩素結合が
生じると捉えることができる。

  

このような反応形式は「置換」と呼ばれる。なおこれは塩素分子から見ても置換になるこ
とに注意しよう。」
B脱離
「エチレンはエタノールと五酸化二リンが次のように反応して発生した。
    3CH3CH2OH + P25 ―→ 3CH2=CH2 + 2H3PO4
      エタノール           エチレン
エタノールについては4節でくわしく学ぶ。
 この反応式を次の2段階に分けて考えよう。

                  - 8 -

  1段目  CH3CH2OH ―→ CH2=CH2 + H2
  2段目  3H2O + P25 ―→ 2H3PO4
そして1段目の反応は、次ページのように隣り合った2つの炭素に結合する水素とヒドロ
キシ基が切れて、炭素炭素の結合が二重結合になり水素酸素結合が生じて、エタノールか
ら水が切り取られると捉えることができる。

  

このような反応形式は「脱離」と呼ばれる。脱離反応は、付加反応と逆向きの反応であ
る。」
Cカルボニル基への付加
「カルボニル基を持つ無機化合物は二酸化炭素 O=C=O である。アルデヒドやケトン
の性質は二酸化炭素に似ている。二酸化炭素は水とすこし反応して炭酸が生成する(炭酸
は不安定で水と分離することはできない)。
    CO2 + H2O ―→ H2CO3
これは次のように付加反応である。

  

つまり炭素酸素二重結合の一方の結合と水の水素酸素結合が切れて、新たに水素酸素結合
と炭素酸素結合ができる。できるのが水素炭素結合と酸素酸素結合でないのは、炭素酸素
二重結合は、炭素がいくらか正電気を、酸素がいくらか負電気を持ち、極性がある。そし
て水の水素酸素結合も極性があるためである。
参考:カルボニル基の極性は、炭素と酸素の電気陰性度の差から考えられる以上に強い。
 一般にアルデヒドやケトンの水溶液では、一部が次のように水が付加した構造に変化し
ている。ちなみに −R や −R’は炭化水素基を表す。

  

たとえばホルマリンでは、ホルムアルデヒドの多くが次のように変化した構造になってい
る。
    HCHO + H2O ―→ HOCH2OH   」
Dアルコールの酸化形式
 メタノールと2−プロパノールの酸化を踏まえて
「2つの反応形式は次のように共通点がある。

                  - 9 -


  

つまりヒドロキシ基の水素と、それが結合する炭素に結合する水素が、得た酸素と水にな
る。アルコールの方から見ると、メタノールのようにヒドロキシ基が結合した炭素に2つ
以上の水素が結合していればアルデヒドが生成する。そして2−プロパノールのように1
つしか水素が結合していなければケトンが生成する。それなら2−メチル2−プロパノー
ルのようにヒドロキシ基が結合した炭素に水素が結合していなければどうなるか。これは
酸化されにくいのである。」
E中和反応は
「ちなみに次に学ぶアミンを除いて、中和反応は置換という反応形式である。」
F縮合
「この反応式は次のようである。
  2C25OH ―→ C25OC25 + H2
   エタノール  ジエチルエーテル

  

この反応形式は置換であるが、上のように捉えても分かりやすい。つまり一方のエタノー
ル分子からヒドロキシ基の水素が、他方からヒドロキシ基が切り取られて水になり、残り
が結合する。このように2つの分子から簡単な分子が切り取られ残りが結合するという反
応形式は縮合と呼ばれる。また切り取られる分子に注目すると脱水と言うこともできる。
ちなみに5節[c]の中和反応の多くは、脱水縮合である。」

(f)溶解性について
 無機化学では「水に溶けやすいか」が出てくる。これを受けて有機化学では「水に溶け
やすいか、ヘキサンに溶けやすいか」を軸に系統的に展開し、最後は界面活性までつなげ
ると、高校生向きの物性論になる。
@「実験5では、水とヘキサン C614 それぞれに、メタノール、エタノール、1−プロ
パノール、1−ブタノールを溶かしてみた。水に対しては1−ブタノールが、ヘキサンに
対してはメタノールが溶け残った。
 溶解性については、溶ける方ではいくらでも溶けることはあるが、溶けない方は完全に
溶けないことはないので、溶けやすい・溶けにくいという表現を使うことにする。
 すでに「似たものどうしは溶け合う」という素朴な法則を元にして、水に対する溶解性
では、
・イオンは水に溶けやすい(水分子は極性が大きい)

                  - 10 -

・ヒドロキシ基を持つ分子は水に溶けやすい(水分子は水素結合をつくる)
ことを学んだ。
 実験1では、リモネン(構造式は3節[a])が次ページの構造式で示されるポリスチ
レンを溶解した。


  

両者の構造が似ていることが確認できる。また実験4では、パラフィンがヘキサンには溶
けやすかった。
 「水と油」のことわざのように、油は水と正反対の性質を持つと言えるが、油の中でも
石油の方がその資格があり、代表としてヘキサンを選んで実験した。ヘキサンは、水と反
対に、極性が小さい分子であり、酸素や窒素のような水素結合に係わる原子を含まない。
 そして実験5では、ヒドロキシ基1つに対して炭化水素基の炭素数が4つ以上になると
水に溶けにくくなることがうかがわれる。ちなみにエチレングリコールとグリセリンはメ
タノールと似ており、水に溶けやすくヘキサンに溶けにくい。ただし溶解性は単純には割
り切れない面があることを心得ておこう。
備考:上の溶解度の基準は、溶媒5mLに溶質が2mLまで溶けるかどうかというもので
   ある。たとえば1−ブタノールは水に常温では10%ほどの濃度までは溶ける。無
   機化合物において水に溶けにくいというイメージは、例えば5%以下というように
   もうすこし緩やかである。」
A「フェノールが水に溶けやすい・にくいの境界にある。ベンゼンから水素1つを除いた
基はフェニル基と呼ばれるが、これは溶解性に関してだいたい炭素数が4つの炭化水素基
に相当する。2−ナフトールは水に溶けにくい。サリチル酸は温度が高くなると水に溶け
やすくなる。」
Bカルボニル基を1つ持つアルデヒドやケトンの溶解性
「アルコールに似ている。それはカルボニル基の極性がかなり大きいこと、カルボニル基
の酸素が水の水素と水素結合を形成すること、さらに一部が上記((e)のC)のように
ヒドロキシ基になることで、ヒドロキシ基に似ているからである。」
Cカルボン酸の溶解性
「ヒドロキシ基を1つアルコールにだいたい似ている。ただしベンゼン環にカルボキシ基
が結合するものは単純でなく、テレフタル酸などは水には溶けにくい。」
D「アミノ基を1つ持つアミンはヒドロキシ基を1つ持つアルコールにだいたい似ている。
トリエチルアミンもその窒素が水分子の水素と水素結合を形成できることに注意しよう。
しかしそれにしてもトリエチルアミンは水にいくらでも溶け、異常である。」
E塩の溶解性
「水に溶けにくい、酸であるクレゾールや塩基であるアニリンが、塩になると水に溶けや
すくなる。これは4節[a]の[3]で確認したように、イオンは水に溶けやすいことを

                  - 11 -

改めて示す。またこのような酸や塩基の塩に、強塩基や強酸を加えるとと、元の酸や塩基
にもどり、溶けにくくなる。
 以上のことは有機化合物の酸や塩基を分離するのに応用できる。例えばクレゾールとア
ニリンの混合物は、始めに塩酸を加えるとクレゾールが水に溶けにくいので分離でき、次
に水酸化ナトリウムを加えるとアニリンが元にもどって水に溶けにくいので分離できる
(逆でもよい)。」
F界面活性
「ラウリン酸ナトリウムはカルボキシ基が塩に変化しイオンになっているが、同時にかな
り長い炭化水素基を持つ。このような分子は溶解性に関して矛盾がある。イオンの部分は
水に溶けやすく親水性であり、これに対して炭化水素基の部分は油に溶けやすく親油性で
ある(疎水性であるとも言う)。ラウリン酸ナトリウムは水に加えると、次の左のように
分子の集団(「ミセル」と呼ばれる)を形成して溶ける。ミセルの表面は親水性であり、
内部は互いに親油性の部分が溶け合っている。

  

 そして油汚れに対して右のように配列して全体を親水性にして、油汚れを水中に分散さ
せることができる。こうしてラウリン酸ナトリウムは洗浄作用を持つ。つまり油汚れの表
面の性質を変化させる。このように、物質の界面(境界面)に配列してその性質を変化さ
せる物質は界面活性剤と呼ばれる。そして高級脂肪酸のナトリウム塩は石けんと呼ばれ、
古来から利用されてきた。界面活性剤は洗剤に限らず、生物体内や食品でも有意義なはた
らきをしている。」
G有機溶剤
「生成したジエチルエーテルをBTBを加えた水に加えて振り混ぜると、2層に分かれて
BTBは主にエーテル層に移った。
 これはジエチルエーテルが水に溶けにくいことを示す。このエーテルは炭化水素基の炭
素数が4つでかつヒドロキシ基を持たないから納得できる。またBTBのような有機化合
物を溶かしやすいことを示す(ちなみにBTBは水でない溶媒では変色する)。ジエチル
エーテルはヘキサンに溶けやすいが、ヘキサンに比べて酸素を持つので極性がほどよく大
きく、幅広い有機化合物が溶けやすく、有機溶剤(有機化合物を溶かすための溶媒)とし
て利用される。」
「酢酸エチルは、ジエチルエーテルに似て、水には溶けにくく、カラーインクのような有
機化合物を溶かしやすく、やはり有機溶剤として利用される。」

(g)酸化反応
@「有機化合物の反応には、酸化剤(や還元剤)を使うことが多い。酸化還元反応の全体

                  - 12 -

像は別の講座プランにゆずるとして、具体例をもとにまとめをする。すでに炭化水素の燃
焼反応については学んだ。」
A上の(e)Dを踏まえて
「 ・第一アルコールは酸化されてアルデヒドになる
  ・ 二      〃    ケトン  〃
  ・ 三      酸化されにくい」
B(d)Dを踏まえて
「 ・アルデヒドは酸化されてカルボン酸になる
  ・ケトンは酸化されにくい」
C(d)Cを踏まえて
「 ・フェノール類は酸化されやすい」
D「・芳香族アミンは酸化されやすい」
E「以上学んできたように、多くの有機化合物は酸化されやすい。そして第一アルコール
は酸化されてアルデヒドになるが、このアルデヒドはさらに酸化されてカルボン酸になる。
だから使用する酸化剤によっては第一アルコールは一気にカルボン酸になる。それどころ
か燃焼反応では、多くの有機化合物が二酸化炭素と水にまで酸化される。」

(h)自分で合成する
 有機化合物を自分の手で合成することは、有機化学をマスターしたという実感を与える。
このプランでは、エチレンとアセチレンの発生、ホルムアルデヒドとアセトンの生成に加
えて、次の3つの縮合反応を取り上げる。
  @エタノールからジエチルエーテル
  A酢酸とエタノールから酢酸エチル
  B無水酢酸とアニリンからアセトアニリド
これは同時に、@蒸留、A酸からの分離、B再結晶という分離操作を体験する。
 なお発展実験として
    ・サロメチールの合成
    ・ニトロベンゼンの合成
を掲げる。

C 先進科学塾での取り組み

(a)テキスト
 テキスト「有機化合物とは何?実験して調べてみよう!」は次に掲載している。
    http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/nc1-6.htm
 呼びかけには次のように書いた。
「有機化合物は身のまわりにあふれています。命ある生物も食物も、水を除けば、主要な
ものは有機化合物です。
 みかんの皮からその香りの主成分であるリモネンを取り出します。分子模型で有機化合
物の構造を考えます。そして試薬を使って探りを入れます。仕上げは自分で酢酸エチルを
合成します。
 これであなたも有機化合物博士の仲間入り。」

                  - 13 -

 その節および関係する実験は次のようである。
    1.有機化合物とは   実験1 リモネンの水蒸気蒸留
                実験2 燃焼反応
    2.構造と分子模型   実習1 分子構造と異性体
    3.分類と検出反応   実験3 不飽和炭化水素の検出
                実験4 アルコールの検出
                実験5 アルデヒドの検出(銀鏡反応)
                実験6 アルデヒド・ケトンのカルボニル基の検出
    4.酢酸エチルの合成  実験7 酢酸エチルの合成
 講座プランをベースにしているが、芳香族としたがってフェノール類、そして窒素を含
む有機化合物のアミンを省いた。

(b)概要
 参加者26名(うち高校生13名)で2つに分け、、6月16日と17日に実施した。
時間は10から16時までの5時間(昼食1時間)、午前に1,2節、午後の3,4節を
組んだ。
 スタッフは私の他は、川田、冨田、林ひろ、藤田、山田の5名であった(ご協力ありが
とうございます)。1日日では私の不手際から実験の展開にやや不十分な面があった。2
日目では、高校生が多かったためか、実習1の「分子構造と異性体」が盛り上がった。

(c)参加者のアンケート
 参加者から次のような元気が出るアンケートを得た。
16日の分(12/12)
@リモネン:ちょっとしかリモネンがとり出せなかったことにびっくり。発泡スチロール
をとかす力にびっくり。
ろうそく:水の中に入れたのに火が出るのが不思議。そのしくみは・・・理解できません
でした。
酢酸エチル:もっとさわやかなにおいを予想していましたが・・・ひどいにおい。発泡ス
チロールがどんどん溶けて楽しかったです!!
ろうの実験は特別な薬品もいらないので、学校ですぐできて迫力ある実験ですネ!
Aみかんの皮の液(?)を沸騰させるのがむずかしかった。少量で発泡スチロールがとけ
たので驚いた。
分子模型で、いつも平面でみていた物質が立体的に見えて、少し視点がかわった。
ろうそくの実験で、水に入れて火がつくのが不思議・・・。自分でも調べてみようと思う。
酢酸エチルは、本当に広告のインクがきえておもしろかった。
B良かったこと:有機化合物の様々な実験が体験できたこと。この内容を授業に役立てる
ことができること。
分かりにくかったこと:(1)紙コップで発火した点。発火の条件として、点火剤が必要
と思うが、それが具体的に何なのかが、理解できなかった。検証実験を希望します。
(2)実験3〜6の比較実験で、検出の方法は理解できた。もう少し、つっこんで、反応
式を教えてもらえるとよかった。(自分で勉強しますが・・・)

                  - 14 -

希望すること:(1)検証実験
(2)銀鏡反応での酢酸で、白色沈殿ができる理由等。細かい事ですが、学習する時間が
ほしいです。
(3)ひきつづき、有機化合物に関する講座を希望します。
本日はありがとうございました。
C今回もとてもおもしろかったです。ありがとうございました。参考書や専門書で読んだ
ことしかなかった有機化合物の定性試験が、実際に実験できてよかったです。リモネンの
分析もおもしろかったです。
ただろうそくの燃焼反応は、紙コップに入れる際とけたロウがとびちって、少々危険だな
と思ったので、机のまん中で行うこと、もう少し大き目の紙コップの方がよいかもと思い
ました。(エキサイトしたので、いいのですが・・・。)
どうもありがとうございました。
D良かったこと:リモネンの抽出ができたこと。燃焼反応の実験。火の使い方と防災につ
いての経験を知ったこと。
希望すること:家庭でも実践できる実験。身近にあるものの使い方。これを他の人はどの
ようにしてきたのかを聞けると嬉しいです。
E分子模型が分かりやすくてよかったです。
もう少し換気できていると良いのではと・・・。(そんなに基にしないで下さい)ちょっ
と臭いが・・・。
F実験はおもしろかったが、臭かった。あと話ばかりで疲れた。話がみなさん難しかった
のでわけが分からなかった。これからはあまり臭い物の実験はしてほしくないと思う。
Gアセトアルデヒドがあんなに沸点の低いものとは思いませんでした。沸点を数字では見
たことがあったはずですが、今日実感できました。
午前中の実験1、2がどう関係あるかがわからなかったのですが、午後の説明を聞いてわ
かりました。
途中横道にそれた話の中で出た林先生の言葉「学ぶということは危険を伴うということ」
というのが印象に残っています。
今回も色々な実験ありがとうございました。
H有機化合物の分類の説明がとてもわかりやすかった。そこに各検出反応までできた事で、
いわゆる分類のイメージがしやすかった。
カルボン酸の−0−Hや−C−の特殊性(?)、アルコールの検出反応やカルボニル基の
            ‖
            O
検出反応で、どうして検出されないのかがわからなかった。
Iろうそくをとかして燃焼する実験は参考になった。いくつか参考になる実験があった。
J20年ぶりの化学実験が体験できた良かった。サポーターを含め、専門知識を持った方
々が参加されており、くわしい意見交換ができた事は良かった。
実社会に基づいた実験などを多く組み入れて欲しい。
Kどの実験もおもしろかったですが、実験2は火柱が上がり、とても印象に残りました。
燃焼反応というあたりまえの反応も、このような方法だととてもおもしろく感じられまし
た。でも、はね出たロウがもえるのはなぜ??

                  - 15 -

実験3〜6は少し急いでおこなったため消化不良の感じがあります。もう少し、実験の理
論的な説明がほしかったです。とりあえず一通りやってみたものの頭が混乱しました。
ありがとうごさいました。
17日の分(9/14)
@リモネンの水蒸気蒸留の際上手に冷やせなくて、あまり検出できなかった。
Aはっきりとした実験結果が出て良かった。横の人を見て、薬品の扱いには注意しないと
いけないと思った。
B分子構造と異性体について、ボールとスティックの模型で構造を考えるところは分かり
やすかった。3つ程度の原子だけで、こうも細かく分類されるとなると、この世の物質の
数はとてつもなく多いだろう。
Cホルミル基やカルボニル基などというのがどんなものか少しわかり、検出方法もよく分
かった。
D忙しかったが楽しかった。もっと実験実習に慣れたい。本当に楽しかった。
E林先生にも教えていただき、パートナーになった高校生にも教えてもらって、知らない
言葉を初めて聞き、少し化学の本を読んでも、わかる様になりたい。
ノーベル賞を取られた光学異性体の事も教えてもらえて、有意義でした。
F様々な実験でそれぞれのことを一つ一つ丁寧にやっていったので、良かったです。しか
し、見ることと、見えないことの間を行き来していたので、少し分からなかったところも
ありました。分子の仲間を分類したものがあればなぁ、と思いました。
G実験ができてよかった。少し化学の反応のイメージができた気がしました。
H分子構造のモデルのが一番おもしろかった。
CとHとOの原子の結びつきの多さにおどろき、異性体のように分子式が同じなのに構造
が何種類もありその性質まで変わってしまうのにはおどろいた。たとえば C242 ので
は、ヒドロキシ基やホルミル基、カルボキシ基なんて、いろいろちがう性質のものができ
てしまうのだから、有機化合物ってすごいなあ・・・とただただびっくり。でも、有機化
合物というものがすこしわかってきてよかったです。

おわりに

 2月にスタートして5ヶ月、構想はかなり変更された部分もある。始めはカフェインの
抽出に苦労していたが、これは発展実験にまわった。身近なケトンとして樟脳(カンファ
ー)を選んでいたが、これは2,4ージニトロフェニルヒドラジンで沈でんができない。そ
こでしょうがの辛み成分ジンゲロンを試し、うまく抽出でき沈でんも生じた。トルエンの
酸化は安息香酸が1,2%ほどしか得られず、止むなく対象から外すことにした。メタン
と塩素の反応は紫外線でと考えていたが、うまく行かずに火花点火で切り抜けた。
 終わってみると、自分として納得できるものになった。
参考にした主な文献
・ハート「基礎有機化学」(培風館)
・Shriner etc "The Systematic Identification of Organic Compounds
                      a laboratory Nanual" (Maruzen)
・フィーザー/ウィリアムソン「有機化学実験」(丸善)
・日本化学会「化学便覧」(丸善)

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