03.8
                                   林 正幸

 先進科学塾の取り組み

〜「電子やり取り反応の世界」コースを中心に〜

        目 次
      
T 経 過
      U 思 い
      V 実践の概要
      W 実践の記録
        A 基礎実験
        B「知識と理論」の学習
        C 課題研究
      X まとめ

        資 料
      テキスト「電子やり取り反応の世界」(先生用)


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T 経 過

[1]昨年秋に物理教師の林(ひろ)さんから、科学館で新しい企画を始めないかという声
が掛かった。名古屋市科学館の山田さんとの間で「高校生向け講座を企画してはどうか」
という話が出たというのである。「さまざまな科学イベントがあり、協力もしているが、
参加者のほとんどが小学生、高校教師としては何かもの足りない。そしてどうせなら日数
を掛けたしっかりした内容にしたい。」
[2]退職直前の私には渡りに船、自分の居場所ができると快諾した。それに私は、学校
現場のいろいろな制約から離れて、自由に本来の化学教育を追求したいという願いを持っ
ていた。
[3]打ち合わせを重ねる中で仲間も増え
名称:先進科学塾(Advancing Science Workshop)
日程:学期中は土曜6回、夏休みは2週間ほどで6回
それに運営や募集などが煮詰まった。
[4]第1回は講師が川田さん、テーマは「Myモーターに挑戦」であった。期間は期末
試験をはさんで5/24から7/12まで、12名の高校生が集まり、多くの仲間がスタ
ッフとして協力して、充実した内容になった。
[5]第2、3回は8/5からの同時展開、私が「電子やり取り反応の世界」コースを、
林(ひろ) さんが「音と光の速度測定に挑戦」コースを担当した。
 以下は私のコースに関するレポートである。

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U 思 い

[1]現役中に私は科学的な思考を育てたいと願いつつ、実際の授業はそれからほど遠い
ものであった。実験をして関心と疑問を湧かせようとしても、ただ「面白かった」で終わ
っていく。自分が非力なのだろうか・・・。
[2]今回は次のように構成した。
 第1段:基礎実験を体験して、学習対象を実態的に捉えると同時に、それを考察して疑
     問を湧かせる。
 第2段:それに対して現代の化学はどう回答するのか、その知識と理論を学習する。
 第3段:その上で自分で研究課題を見つけ、それを確かめるための実験に取り組む。
この3段階を経れば、科学的な思考とは何か、またその本当の面白さが分かるだろうと考
えた。
[3]テーマには、これまでよく検討してきた「電子やり取り反応」を選んだ。この分野

                  - 1 -

に対して、私は「電子得失表」を軸に展開したら分かりやすいという主張がある。

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V 実践の概要

[1]日 程
 8月5、7、9、12、14、16日の1〜4時を予定したが、台風、生徒の都合、そ
して生徒の熱意から次のようになった。
  8/5(火) 1〜6時
  8/7(木) 1〜6時
  8/10(日)1〜6時
  8/14(木)9〜6時
  8/16(土)9〜6時
[2]参加生徒
 3名。夏休み中は却って募集が困難であることが分かった。3名とも化学TBを半分ほ
ど学習している。
[3]スタッフ
 澤田さん、鈴木(とし)さん、船橋さん、水野さん、佐藤さん(大学院生)などの協力が
得られた。
[4]テキスト
 これは資料として添付する(数点小さな手直しをしたもの)。(先生用)とあるが、生
徒用は実験の<準備>と「他の実験素材」を除いたものである。講座の展開上、後半の
「知識と理論」の部分は3日目に配布した。
 「知識と理論」の部分は、高校で化学を学習していなくても取り組めるように配慮した。
また(  )は生徒の思考を促すために設けた。
[5]コース展開
<テキストからの引用>
 「科学(理科)をわくわくしながら勉強する」にはどうしたらよいだろうか。以下はそ
れに答えようとする高校生向けの企画である。
 初日と2日目で、次の7種の基礎実験すべてを交代しながら体験する。
    金属と水溶液の反応
    非金属が関わる反応
    ダニエル電池
    キッチン電池
    塩化鉛の電気分解
    硫酸ナトリウム水溶液の電気分解
    ニッケルめっき
実験はよく観察し、その意味を考察し、できるだけ疑問を見つけて、レポートとしてまと
めて提出する。
 3日目と4日目の半分で、「現代の化学は、体験した実験が持つ意味をどう説明し、そ
れから湧いた疑問にどう回答しようとするのか」という視点で、「電子やり取り反応の世
界」の知識と理論(プリント6枚)を、自習と質問・討論を中心にして学習する。なお3

                  - 2 -

日目の途中で燃料電池の、4日目の途中に「イオン交換膜を使う電気分解」の演示実験を
行う。
 以上の実験や学習の中で、「こんなこと試してみたい」「こう考えるのは正しいか」と
いう自分の研究課題を見つけていく。そして4日目の残り半分と5日目で、その研究課題
を検証実験で確かめてみる。
 6日目は、課題研究に取り組んだ経験をみんなのものにするために、研究発表・交流を
する。そして最後に「何を科学塾で学んだか」「科学はどうあるべきか」についても話し
合う。
 ぜひ「研究者になったつもり」で頑張ってほしい。
<以上>

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W 実践の記録

A 基礎実験

[1]実験の取り組みは次のように指示した。
<テキストからの引用>
(1)危険防止のため安全めがねをかける。
(2)実験はできれば各自で取り組む。
(3)予め操作を頭に描き、分からないときは先生に確かめる。
(4)薬品を採るときはその名称を確認し、付属の計量器具や薬さじを使う。
    カラーテープに注目! ピペットなどは容器に差し入れた状態に!
(5)よく観察して記録を取る。時間があれば途中でもレポートを書く。
(6)「D」記号がある操作はドラフトで行う(反応中はスクラバーをかける)。
(7)実験中に気分が悪くなったらすぐに申し出る。
(8)器具を洗浄し、廃棄物を処理し、机上を雑巾で拭いて、次の人たちが実験できるよ
うにする。
<以上>
[2]7種の実験を同時展開するので、操作の説明をするのが無理であり、自分で読んで
取り組むため相当の時間が掛かった。しかしこれは生徒に自主的に実験させるのには意義
がある。
[3]実験操作には廃棄物処理の指示を明確にし、あとで私が行う処理法も付け加えた
(時間があれば生徒に取り組ませたい)。
[4]実験の準備、管理、かたづけには、課題研究も含めてかなりの時間と注意が要求さ
れた。また2ヶ月前から準備したので、薬品の一部が変質していた。
[5]実験レポートは実験毎に7枚を提出させた。

[6]実験中の生徒の動きは次のようであった。
(a)ヨウ化カリウム水溶液と塩素の反応
S「先生、青色にならないよ。」(ヨウ素を検出していることに気付いている)
T「えっ、まだ塩素のはたらきが強すぎて、ヨウ素酸まで行っちゃうのかなあ・・・」

                  - 3 -

(しばらくして)
S「赤褐色の溶液を紙に染み込ませると、ちゃんと紫色になるよ。」
T「どうしてそんなことしてみたの?」
S「プリントに垂れてしまったのを見たら、そうなっていた。」
T「そうか、普通の紙にはデンプンが加えてあるから、それでヨウ素デンプン反応が起こ
ったのだ。」
T「ということは、片栗粉でつくったデンプン液は古くなるとだめなのだ。白色のもやも
やが気になっていたんだ。」
T「すごいなあ、君のおかげで実験がうまく行かない理由が分かってしまった!」
(b)亜鉛とヨウ素の反応
S「水をかけると紫色のけむりが出てきて、すごい。これ塩素?」
T「塩素は黄緑色って、習わなかったかい?」
S(別)「これ、ヨウ素だよ。」
T「そう、ヨウ素は固体は黒っぽい色をしているが、気体になると紫色なんだ。」
S「発熱反応だ。」
T「そう、蒸発皿の下を触ってみよう。」
S「と言うことは、亜鉛と水が反応した?」
T「簡単に調べられるね。」
S「亜鉛に水をかけてみよう。反応しないなあ。」
S「じゃ、ヨウ素と水かも。やはり反応しない。」
T「ということは、やはり亜鉛とヨウ素が反応しているね。その反応熱で、まだ反応して
いないヨウ素が昇華した。」
S「じゃ、水は何のため?」
T「触媒って、知らないかい。亜鉛とヨウ素の反応を速く進ませるはたらきをするの
だ。」
(c)ニッケルめっき
S「先生、この実験、目がうるうるして変だ! ニッケルめっき液って、何が入っている
の?」
T「硫酸ニッケルだけど・・・。」
S「硫酸のせい?」
T「硫酸そのものが入っているのではなく、硫酸イオンなんだがこれは反応しないよ。」
T「そうそう、助剤として塩化アンモニウムも加えてあったよ。だから塩化物イオンが反
応して塩素が発生しているのだ。発生している泡は主には酸素のはずだけどね。」
S「塩素かあ。」
T「私が試しに実験したときは気付かなかった。気分が悪いなら止めていいよ。」(科学
館の換気機能は十分でない)
(別の実験で、塩素が空気より重いという記述を見て)
S「そうか、だからしゃがんだときに余計うるうるしたんだ。」(考えている!)
 これを受けて塩素が発生しないように、塩化アンモニウムを硫酸アンモニウムに代えて
試してみたが、同じようにきれいにプレートができ上がった。つまり実験の改良ができた

                  - 4 -

のである。
(d)ダニエル電池
 おもちゃが止まるまで放電してから、銅板を観察した。
S「銅板の表面に黒いものが着いている。これって、鉛かな。」(「金属と水溶液の反
応」で亜鉛の表面にできた鉛を連想している)
T「でも使っている薬品に鉛は入っていないよ。金属は細かいときはどれも黒色なんだ。
ニッケルめっきでも、銅板の表面に着いたニッケルは始めは黒色で、積み重ねていくと銀
色になってきただろう。」
S「削ってみよう。わあ、銅の箔が取れる。もとの銅板が削れているのかな。」
T「それはもとの銅板の質量を計っておけば確認できるね。それは銅板の表面にできた銅
なんだ。」
S「あれ、亜鉛板の表面にも黒いものが着いている。亜鉛かな。」
T「そうかな。」
S「亜鉛板の方のろ紙が青色になっている。銅かな。」
T「試してみよう。集めてビーカーに移すよ。」
T「そして濃硝酸を加えると、ほら青色になった。実験に使った飽和硫酸銅水溶液も、薄
めると同じ色だ。」
T「硫酸銅や、反応でできた硝酸銅には銅イオンが含まれてる。銅そのものと銅イオンは
色が違うことを覚えておこう。そして銅イオンは銅がなければ決してできない。元素は不
滅なのだから。」
T「銅イオンの検出にはアンモニア水を使う。どちらの水溶液にもアンモニア水を加える
と、ほらコバルト色になる。」
S「どうして亜鉛版に銅ができたんだろう。」
T「セロハンを透過して銅イオンが拡散して来るからなのだ。」
T「亜鉛板に着いて残っていた黒いものが、すこし小豆色になってきた。銅の色が見えて
きている。」
S「ビーカーの中が赤茶色になっているのは何?」
T「これは銅と濃硝酸が反応するとき、同時に発生する二酸化窒素という気体だよ。これ
は毒性があるから注意しよう。」
 授業では結果が出れば即かたづけさせるわけで、時間的ゆとりの重要性を再認識させら
れた。
(e)液体窒素
 基礎実験が終わってから「液体窒素があるから、凍らせたいもの探していらっしゃ
い。」というと、100均でたくあん、高菜、ハッシュドビーフ、プラスチックボールを
購入し、道中で草を取ってきた。
 たくあんは凍らせて、金づちで割った。プラスチックボールは軟球と違って、床に落と
しても弾んでしまった。そこで板で押しつぶすと、ガラスのように割れた。草は簡単に砕
けた。
 こちらで乾電池に豆電球をつないで、乾電池を液体窒素に浸けて豆電球を消してみせた。
これは「水が凍ってイオンが動けなくなったのさ。」とだけ言っておく。やがてまた豆電

                  - 5 -

球が光り始める。
 液体酸素を見せたかったので、空気をポリ袋にとって冷やした。液体は得られたが青色
にはならず、磁石にも引かれるかどうか分からなかった。ぶっつけ本番だから、酸素ボン
ベなど準備していない。アルミ製のプリン容器が見つかったので、スタンドに固定して液
体窒素を注ぎ入れた。底から滴が落ちる。磁石を近づける。「先生、引き寄せられている
みたい。」しかしはっきりとは分からない。生徒の方が何とかしたいと思っている。マッ
チの燃えさしを使うがうまくいかない。そのうち線香が見つかる。生徒が夢中で底を探る。
するとパン!と音がして燃え上がる。「酸素だ。」生徒はくり返し、くり返し火を着けよ
うとする・・・。
 「先生、液体窒素に湯を入れてみようよ。」やかんに湯を沸かす。ビーカーでは危険か
もしれないから、箱にポリ袋を敷いて液体窒素を入れる。「みんな、安全めがねを掛けよ
う。それから窒息するかのしれないな」生徒が飛んでいってドアを開ける。そして恐る恐
る湯を注ぐ。白色の煙が盛り上がり床を流れて広がる。「映画のワンシーンを見ているよ
うだ。」「よし、大丈夫。もっと行け。」煙が晴れると、箱の中に液体が残っている。
「何だろう?」触ってみて「なんだ、湯だ、湯だ。」
 「先生、今度は床に流そうよ。」

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B「知識と理論」の学習

[1]すでに触れたように、実験で湧いた疑問を解決し、現代化学からの説明を聞いて、
それに基づいて自分の研究課題(新しい疑問)を見つけることを目標にする。
 学習形式は講義ではなく、自習と質問・討論を中心にして、ある程度の補足的解説を加
えた。

[2]学習中における質問のやり取りや、演示実験に関わった生徒の動きは次のようであ
った。
(a)「空気中での電子を失う勢いは分かっているのか」
 空気中の窒素分子や酸素分子は金属イオンとほとんど関わりを持たないから、真空中で
の勢いと同じである。これはイオン化エネルギーという数値で示される。つまり金属原子
から電子を奪って陽イオンにするのに必要とされるエネルギーである。この数値が小さい
ほど電子を失う勢いが大きいことになる。なお正確には、固体の金属をバラバラの原子に
するためのエネルギーも考慮するべきである。
(b)「水はどうして触媒としてはたらくか」
 金属も水中で変化しやすいこと、亜鉛とヨウ素の反応でも水が関係することなどから湧
いた疑問であろう。
 これに十分に答えることは困難であるが、「水和」という現象に限って説明した。水分
子には極性があって陽イオンや陰イオンを取り巻いて安定化させる。このためイオンが容
易にできるようになる。イオン性物質は水に溶かすだけで、陽イオンと陰イオンに電離す
るほどである。
(c)「鉄くぎはどうしてきれいになるのか」
 略

                  - 6 -

(d)「アルミホイルと塩酸の反応で、しばらくすると溶液が黄色になるのはなぜか」
 アルミホイルには鉄が含まれている。これが塩酸の水素イオンと反応して鉄(U)イオン
になり、それがさらに水および空気中の酸素と反応して鉄(V)イオンになる。どちらも電
子得失表を見れば納得できる。鉄(V)イオンは黄色であり、ヘキサシアノ鉄(U)酸カリウ
ムを加えると青色になった。
(e)「吸熱反応の方はイメージが湧かない」
 亜鉛とヨウ素の反応で未反応のヨウ素が昇華することに関連して生まれた。これは別の
テーマであるが、関心が高いのですこし説明することにした。
 始めに硝酸アンモニウムが水に溶解して吸熱する実験をした。
 発熱や吸熱は、熱くなったり冷たくなったりすることに注目するが、本来の意味はまわ
りにエネルギーを与えたり、まわりからエネルギーを奪ったりすることである。発熱で熱
くなるのはエネルギーをとりあえず自分の運動エネルギーに変えて温度が高くなるためで

あり、最終的にはまわりと同じ温度になってまわりにエネルギーを与えるわけである。熱
いと分かるのもまわりにエネルギーを与える過程である。吸熱も同じことである。冷凍庫
で水が凍るのをよく吸熱と誤解するが、それは冷たくて凍るという実感から来ている。冷
凍庫が水からエネルギーを奪っていることに注目すれば、凝固が発熱であることはすぐに
理解できる。
(f)「塩素や硫化水素が発生する反応式はどうなるか」
 どんな反応で発生したかに関心がある。
  CaCl(ClO)・H2O + 2HCl ―→ CaCl2 + 2H2O + Cl2
  Na2S + 2HCl ―→ 2NaCl + H2
生徒は硫化水素が硫化鉄以外からもつくれることに驚いた。
(g)「ダニエル電池の銅板と亜鉛板を入れ替えたらどうなるか」
 このような疑問の持ち方自身が、教師には新鮮である。私が答えるのでなく生徒に考え
させようと黒板に図を書くと、3人が出てきて教師そっちのけで意見交換が始まった。す
こし前に、1時間半ほど勉強して「眠くなる」ことが話題になったばかりだっが、それが
嘘のようである。今から思うと克明に記録を取るべきだったが、後の祭り、話は次々に展
開してとても記憶できる量ではなかった。
 何故か硫酸イオンに注目したが、負極は亜鉛が電子を与えることになった。そして正極
では
    2e- + SO4 2- ―→ SO4 4-
    SO4 4- + 2H+ ―→ SO4 2- + H2
と考えた。水素イオンは水の電離で生じる。そこで正極は結局
    2e- + 2H+ ―→ H2
となることを指摘して、実験してみることを提案した。
 豆電球は光らない。ソーラーモーターもまわらない。しかしデジタルテスターで電圧が
0.88Vと確認できた。確かに亜鉛板が負極であった。そして亜鉛板を裏返すと、表面に
黒いものが付着していた。生徒はろ紙にこすり付けて金属であるか確かめようとする。
「亜鉛かな?」しかしよく観察すると赤みがある。「銅だ。」今回はそれ以上確認せずと
も納得した。

                  - 7 -

 もう一度考えると、次の反応が起こることが分かった。
    Zn + Cu2+ ―→ Zn2+ +Cu
それでは負極で電子を与えたのは何か。そして次の反応式を書いた。
    4OH- ―→ H2O + O2 +4e-
係数こそ違うがよく覚えていた。水酸化物イオンはやはり水の電離で生じる。この生徒は
酸化還元まで学習が済んでいるが、やはり電解を水の電離を使って教える先生が多いよう
だ。そこで水だけで電池ができそうだねと、再び実験してみることを提案した。
 テスターは0.67Vを示す。亜鉛板が負極である。
参考:デジタルテスターは電流がほとんど得られない電池でも電圧を検出する。
 続いて電圧の数値の説明が付かないことに関心が移る。前の電池の電圧0.88Vが亜鉛
の酸化還元電位0.763Vより高い理由である。これは途中で「電池の電圧は酸化還元電
位で決まるとは限らない」と止めた。
 最後に前の電池に関して、亜鉛の方が水酸化物イオンより電子を与えやすいこと、しか
も水酸化物イオンは濃度が極めて小さいためにさら電子を与える勢いが小さいこと、亜鉛
板が負極になる根拠がないことを提起して、さらに検討が必要であるとまとめた。
 このあいだ約1時間、残念ながら話のあらすじにおいてさえ大穴が空いているだろう。
(h)「乾電池に水銀を使わなくなった意味を知りたい」
 たぶん私たちの会話がきっかけで持った疑問であろう。キッチン電池で水素過電圧につ
いてすこし触れている。
 乾電池において正極で電子を奪う反応は複雑であるが、水素イオンが関係している。こ
れが水素になる反応は速度が小さい。しかもそれは反応が起きる表面にもよる。亜鉛や水
銀の表面ではより小さいが、それに比べると銅の表面では大きい。亜鉛の純度が悪く銅な
どが含まれると、電池を使わないときにも局部電池になって消耗する。それを防ぐために
亜鉛の表面に水銀を塗った。しかし亜鉛の純度が上がり、環境問題を起こす水銀は必要で
なくなった。
(i)イオン交換膜を使う電気分解
S「手まわし発電機を2つ使おう。」
S「さぼってまわさなくても発電機がまわるよ。」
S「ショートするとハンドルが重くなる」
T「たくさんの電気エネルギーを発生させるには、人間がたくさんの仕事をする必要があ
るのだ。」
S「じゃ、純水を電気分解すると軽いかな?」
T「やってみよう。炭素棒を電極にするよ。」
S「本当だ。」
S「ろ紙の上に炭素棒を置いて実験しよう。」
S「やはり黄色と青色になる。それが反対の電極に移動していく。」
T「確かにイオンが移動していくけど、本当の速度は見たよりは遅いよ。この実験では溶
液が流動することで移動する効果も加わっているのだ。」

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C 課題研究

                  - 8 -

[1] 課題研究の取り組みは次のように指示した。
<テキストからの引用>
(1)研究ノートをつくろう。
(2)「こんなこと試してみたい」「こう考えるのは正しいか」という研究課題を探す。
   「知識と理論」のプリント中にある「課題」も参考になる。アイデアが浮かんだら
   先生に相談しよう。
(3)検証実験の材料を準備する。先生もできるかぎり協力する。
(4)相談はメールや電話(0586−78−    )でもよい。
   希望があれば別の日に科学館に来てもよい。
(5)4日目の後半から検証実験を始められるように取り組もう。
(6)失敗を恐れない。そこから科学研究が始まる。
   時間があれば実験を追加してもよい。
(7)研究発表(1人  分)の準備をする。
<以上>
[2]生徒が途中で検討して方向付けできるように助言した。
[3]今回は生徒1人にスタッフ1人が付けて良かったが、スタッフ1人が担当できるの
は、生徒の対応能力にもよるが3、4テーマが限界である。
[4]基礎実験の材料はそのまま残しておくことが大切であり、さらに私が材料集めに奔
走することになった。

[5]研究発表記録はまとめて生徒に郵送した。同じものを資料として添付する。
備考:ホームページではこの資料は割愛する。
 内容を解説すると次のようである。
(a)「飲みもので電池を作ろう」
 基礎実験のキッチン電池に対して、「ジュースでもできるのでは・・・」という考えが
研究課題になった。
   名前    電圧(V) オキシドール投入後   モーター  電流(mA)
 ポカリスウェット 0.53    0.85      まわる    35.5
 コーヒー     0.79    0.91      まわらない   4.5
 アクエリアス   0.67    0.73      まわらない   0.5
 コカコーラ    0.54    0.73      まわらない   2.2
 フルーツのすすめ 0.64    0.78      まわらない   1.0
 イオン交換水   0.70    0.84      まわらない   1.4
ポカリスウェットが断トツで、アクエリアスやコカコーラの小さいことがおもしろい。な
おポカリスウェットはpH4である。
 続いてポカリスエット電池でおもちゃを動かすことにした。しかし2つ直列にし、食塩
を加えたりオキシドールを多くしてもだめであった。おもちゃは3V、0.37A以上が必
要であると計測された。
 そこで大きいステンレス板(30×20cm)とアルミホイルの間にクッキングペーパ
ーをはさむ形にした。4つを直列にし、食塩濃度を高くし、さらに2つを追加すると、や
っと一瞬動いた。そこでオキシドールを追加すると、とうとうおもちゃが楽しげに動いた。

                  - 9 -

その食塩濃度は5%、オキシドールはポカリスウェットの1/3を加えた状態であった。
なお食塩は少なくてよいかもしれない。
(b)「正極で非金属の単体が電子を奪うような電池を作ろう」
 「知識と理論」にあるこの課題に関心が向いた。
 始めに硫黄を使うことにした。負極はナトリウムを考えたが、実物を前にしてどう使っ
たらよいか分からない。そこでアルミホイルに変えた。
 ステンレス板に硫黄粉末をまき、クッキングペーパーを被せて食塩水を染み込ませ、ア
ルミホイルを載せて電圧と電流を計ると、0.8V、0.01mAであった。一応電池には
なっている。そこで電解質を変えていくと、水酸化ナトリウムで0.25V、30.4mA
という結果が得られた。正極には銅板や炭素板も試した。そして硫黄の代わりに六一〇ハ
ップも試した。
 負極を亜鉛板に変えると、たとえば電解質が硫酸ナトリウムで0.6V、22.1mAと
いう結果が得られた。
 非金属をヨウ素に変えると劇的な成果が得られた。いくつも試す中で、炭素板の表面に
粉末にしたヨウ素をまき、被せたクッキングペーパーに2%硫酸ナトリウム水溶液を染み
込ませ、亜鉛板を載せるのがベストと分かり、1.4V、2.1Aというパワーが得られた。
2つ直列にしておもちゃをつなぐと、いつまでも動き続けた。
備考:始めはテスターのヒューズが切れていたりして、結果が出ないという苦労があった。
(c)「逆ダニエル電池の研究」
 学習の中で出てきた質問が、研究課題に発展した。
 始めに「逆ダニエル電池(銅板に硫酸亜鉛水溶液を染み込ませたクッキングペーパー、
セロハン、硫酸銅水溶液を染み込ませたクッキングペーパーを重ね、亜鉛板を被せる)」
で、亜鉛イオンがどこに行ったかに関心が向いた。十分に放電した後、亜鉛側のペーパー
を洗い出してろ過し、ろ液を蒸発乾固すると白色固体が得られた。これを再び水に溶かし
て2分し、一方に水酸化ナトリウム水溶液を加えていくと、白色沈でんを生じ、再び溶解
して無色の溶液になった。他方には硫化水素を吹き込むと白色沈でんを生じ、亜鉛イオン
の確認ができた。
 次に正極の反応の解明に進んだ。もう一度逆ダニエル電池をつくり電圧と電流を計ると、
0.88V、76.0〜91.5mAであった。
参考:76.0〜91.5mAという表現はデジタルテスターの不安定性による。
 銅板の表面の汚れから、セロハンを透過して拡散した銅イオンが電子を奪っている可能
性が予想された。代わりに陰イオン交換膜を使うと、銅の表面が汚れなくなり、0.66V、
25.0〜39.6mAになった。電池のパワーダウンは予想を一部裏付けたが、それがす
べてではないことも示す。
 空気中の酸素の影響が予想された、つまり水と酸素が共同で電子を奪っている可能性が
ある。銅板と硫酸亜鉛水溶液を染み込ませたクッキングペーパーを真空ポンプで引いて酸
素を除き、陰イオン交換膜と亜鉛側を被せると、電圧、電流とも桁違いに減少した。水溶
液に溶解した酸素がかなり影響している。これは私にとって予想を越える結果であった。
参考:始め電圧のみを計測していたが、電流も重要であるということでやり直した。
 他方で硫酸亜鉛水溶液の酸性(pH5)から、水素イオンが電子を奪っている可能性も

                  - 10 -

ある。それを硫酸ナトリウムに代えると、0.57V、13.5〜35.0mAであった。水
素イオンのはたらきが支配的とは言えない。
 ここで硫酸銅を使わず、水溶液を硫酸亜鉛のみ、硫酸ナトリウムのみにして実験した。
そして電流が時間と共に減少していくことに気付き、これも溶残酸素が水と共同で電子を
奪っていることをうかがわせた。逆に真空ポンプで引いた場合も、1時間ほど空気中に放
置すると、0.12V、21.1mA(max)と回復した。
備考:このテーマはかなり難しい。スタッフや私の助言も十分には整理できていず、レポ
   ートも混乱している部分がある。しかし重要なことを示唆しており、追試する価値
   がある。生徒は亜鉛イオンの検出に関心があったようである。なおレポートの電圧
   は1桁違っている。

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X まとめ

[1]これだけいきいきした展開になったのは久し振りであり、私にとって感動、納得、
満足である。参加生徒は平均的学力の高校生であった。
[2]基礎実験では、生徒のいくつもの自主的な動きが出てきた。私が生徒から学ぶこと
もいくつかあった。
 ただし実験レポートが不十分であった。現役のとき私のレポート指導は定着していたが、
新しい生徒には書き方の具体的な指導と、お手本が必要であった。
 それに考察が期待通りにいかなかったが、これは仕方がない面もある。
[3]「知識と理論」の内容はある程度高いレベルを意識して作成した。生徒は内容の理
解はできたと考えるが、これを「わくわくして学ぶ」までには至らず、ときに眠くなる生
徒もいた。しかし私としてはこのレベルを維持して教材づくりをしていきたい。なお協力
してくれた先生からは高い評価を得た。
備考:当面「化学平衡」「物質とエネルギー」に関しても似た実践がしたい。
 その中でも生徒はたくさんの疑問、質問を投げかけた。とくに(g)「ダニエル電池の
銅板と亜鉛板を入れ替えたらどうなるか」は、教師の方が舌をまく内容であった。
[4]課題研究では、生徒は研究課題を簡単に見つけた。そのこと自身がこの実践に対す
る評価であると受け止められる。そして課題は3人3様であった。
 どの課題研究も生徒は精力的に取り組んだ。内容も充実している。
[5]発表準備に1時間半を掛けたが、レポートにまとめるのがやっとだった。幸い3人
なので発表には困らなかった。本来は5日目が終わった時点での宿題とすべきであり、そ
うすれば発表会もより整ったものになるだろう。
[6]「何を科学塾で学んだか」の話し合いは時間が取れず、生徒のアンケートも簡単な
ものになってしまった。
 生徒の母親からお礼のメールが届いた。
[7]「科学はどうあるべきか」の話し合いは、全くの時間不足で何もできなかった。準
備も不十分で、反省点の第1である。「知識と理論」に1節を設けて、そこでも話し合い
をするのが解決策であろう。
[8]時間の制約があったら、半分の成果も上がらなかったと考える。時間的ゆとりは極
めて大切で、生徒の熱意と科学館の配慮に感謝する。

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