05.10
                                   林 正幸

  電池について

 「亜鉛よりアルミを負極にした方が電流が大きくなるはずだが」という、中学の先生からの質問に対する返事です。

こんにちは、林まさです。
 教科書などの電池教材は理論的にはずっと混乱状態にあると思います。最近やっと、高校化学でダニエル電池を基礎にする展開が出てきました。
 化学の基礎的視点のひとつに、平衡論と速度論があります。平衡論は「十分時間が経てばどうなるか」であり、イオン化傾向(より正確には酸化還元電位あるいは標準電極電位)もこれに含まれます。速度論は「その変化がどれくらい速く起こるか」です。電池の電流はこれに当たります。もっとも電流は内部抵抗(たとえば溶液の電導度)や外部の負荷の影響も受けます。そして平衡論的に否定されることは現実にも起こらないのですが、平衡論的に肯定されても現実にはほとんど起こらないこともあります。あるいは触媒を加えると急に反応したりします。
 ダニエル電池は
    (−)Zn|ZnSO4aq‖CuSO4aq|Cu(+)
電流を抑えればほぼ平衡状態が維持されます。つまりどちらの金属もイオン化したり元の単体に戻ったりする速度が速いのです。したがってその電圧は、亜鉛と銅の酸化還元電位
    Zn ←→ Zn^2+ + 2e^-    0.763V
    Cu ←→ Cu^2+ + 2e^-   −0.337V
の差である1.1Vになります。ちなみにこのような電圧(起電力)は平衡論に含まれるわけです。
 ボルタの電池は
    (−)Zn|H2SO4aq|Cu(+)
平衡状態から外れています。ダニエル電池と比べると、亜鉛イオンも銅イオンもなく、実際に電子を奪うのは水素イオンです。
    2e^- + 2H^+ ―→ H2
電圧が1.1Vになるのはまったくの偶然であるのですが(かつて私が電池に関する講演会で質問して確認したことがあります)、このことが誤解を生み出しています。
 ボルタの電池のひとつの問題は、水素イオンが亜鉛と隔離されていないことです(ダニエル電池では銅イオンは亜鉛と隔離されています)。当然、亜鉛に生じた電子をその場で水素イオンが奪うことができます。しかしここには水素過電圧という速度論があります。亜鉛の表面は亜鉛イオンで覆われ、内部には電子があります。この2重層を突き破らないと水素は電子を奪えません。この速度は金属の種類によって異なり、亜鉛はこの過電圧が高く電池素材として優れているのです。ちなみにもっと高いのは水銀で、かつてそれを利用した水銀法という水酸化ナトリウムなどを製造する工業がありましたし、かつてマンガン乾電池は亜鉛の純度が低く、銅などが含まれて局部電池ができて放電するのを防ぐために、亜鉛の表面に水銀を着けていました(亜鉛アマルガム)。
 アルミニウムは表面が酸化被膜で覆われ、これが取り除かれないとなかなか電池としてはたらきません。水酸化ナトリウム水溶液を使うとうまくいくのですが
    (−)Al|NaOHaq|C(+)
その電子を与える反応は次のように変わってきます。
    Al + 4OH^- ―→ [Al(OH)4]^- + 3e^-
              テトラヒドロキソアルミン酸イオン
酸化被膜の問題は鉄(とくに製品はさびにくくしてある)などにもあり、安易に酸化還元電位を計ろうとすると失敗します。
 電池の電流を大きくするには、電子のやり取りの速度が大きい反応を利用すべきです。その点でもダニエル電池は正解ですが、多くの実用電池ではいわゆる「減極剤」を使っています。ボルタの電池もしかりですが、マンガン乾電池では電子を奪うのに次の反応を利用しています。
    MnO2 + H+ + e- ―→ MnO(OH)
                水酸化酸化マンガン(V)
ちなみに減極剤という用語は、汎用性がなく死語になりつつあると思います。なお乾電池では電子を与える反応も次のようになっています。
    4Zn ―→ 4Zn^2+ + 8e^-
    4Zn^2+ + 8H2O ―→ 4Zn(OH)2 + 8H^+
    4Zn(OH)2 + ZnCl2 ―→ ZnCl2・4Zn(OH)2
積み算して
    4Zn + 8H2O + ZnCl2 ―→ ZnCl2・4Zn(OH)2 + 8H^+ + 8e^-
 かつて電池は「電解質水溶液に2種の金属を浸けるとできる」とよく言われましたが(東書の教科書の影響)、私は「電子を与える反応と奪う反応を組み合わせてできる」と教えるように主張しています。詳しくは私のホームページ
    http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/
の「講座プラン」の中の「電子やり取り反応の世界」を参考にしてください。
ではまた。

林 正幸と主万子の始めの ホームページ(to our initial Home Page) にもどる。