先進科学塾1日コース

    Advancing Science Workshop

  「科学(理科)をわくわくしながら勉強する」にはどうしたらよいだろうか。
  先進科学塾はそれに答えようとする企画です。

  電池のしくみを徹底解明!

 現在ではさまざまな電池が利用されています。電池はどのようなしくみになっており、
どのように電気が起こるのでしょうか。
 この講座ではダニエル型電池、33円電池、濃淡電池、非金属だけの電池、燃料電池、
鉛蓄電池などを実際につくってみます。そして発電に関係する化学反応を、実験を踏まえ
て理論化していきます。また実用化されている電池のしくみも紹介します。

        

  日 時   3月28/29日(日/土) 10時〜4時

  場 所   名古屋市科学館の8階科学実験室


   氏名:

                  - 1 -

                             09.3.28/29
                                講師:林 正幸

電池のしくみを徹底解明!

          自己紹介
 36年間、高校の化学の教師を勤め、03年3月に退職しました。そして自由になって
ますます「理想の化学教育」を追求できると燃えています。
 ホームページは96年から開設しています。
    http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/
そして高校生などからメールで質問を受けています。
    masasuma@water.sannet.ne.jp

実験の取り組み方
(1)危険防止のため安全めがねをかける。
(2)積極的に取り組み、協力し合う。
(3)文章を読んで予め操作を頭に描き、分からないときは先生に確かめる。
(4)よく観察し、その意味を考察し、できるだけ疑問を見つける。
(5)「」記号がある操作はドラフトで行う。
(6)実験中に気分が悪くなったらすぐに申し出る。
(7)廃棄物に配慮し、器具を洗浄し、机上を雑巾で拭く。

        目 次
    実 験
      実験1 電池をつくる(その1)
        
(a)ダニエル型電池
        (b)33円電池
      実験2 電子を与える反応
        (a)金属の反応
        (b)非金属イオンなどの反応
          ヨウ化カリウムと塩素
          亜鉛とヨウ素
          塩化鉄(V)と硫化水素
          銅と塩酸および過酸化水素
      実験3 電池になるか
        (a)変形ダニエル型電池
        (b)濃淡電池
      実験4 電池をつくる(その2)
        (a)非金属だけの電池
        (b)組み立て式燃料電池
        (c)鉛蓄電池
    知識と理論
      1.電池をつくる(その1)
      2.電子を与える傾向
      3.電導性と濃度
      4.電池をつくる(その2)
      5.実用電池
      参考:電子与奪表
    発展実験
      発展実験1 鉄電池
      発展実験2 電極がナトリウムの電池

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実 験

実験1 電池をつくる(その1)
(a)ダニエル型電池
(1)木板に銅板を置いてクッキングペーパー2枚を載せ、1mol/L硫酸銅水溶液12
mLを浸み込ませ、セロハンを被せる。
(2)さらにクッキングペーパー2枚を載せ、2%塩化ナトリウム水溶液12mLを浸み
込ませ、亜鉛板を被せる。
(3)豆電球やモーターをつないでみる。「電圧計」で正極・負極を確認する。さらに直
列にしておもちゃを動かしてみる。
注意:リード線の先が「クリップ・クリップ方式」になっている。先のクリップを無くさ
   ないようにし、水洗いして返す。

                  - 2 -

注意:電圧計は調整済みなのでつまみなどには手を触れない。
(4)ペーパー類は可燃物に捨てる。金属板はナイロンたわしでこすってきれいにする
(以後、同じように洗浄する)。
<記録>




<準備>
・銅板、亜鉛板  4.5×15cm
  端1cmをサンドペーパーで磨く。
・1mol/L硫酸銅水溶液
・クッキングペーパー  4.5×12cm
・セロハン  10×19cm
・電圧計
  PWDD搭載高入力抵抗電圧計
    http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/ne69-3.htmを参照
  ±2Vに設定しておく。 デジタルテスターも可

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(b)33円電池
(1)ろ紙を2回折り、はさみで10円玉の形に12枚切り取り、10円、ろ紙4枚、1
円、さらに10円、ろ紙4枚、1円・・・、と三重にし、大きい洗濯ばさみで挟む。
(2)50mLビーカーに食酢約10mL(ビーカーの目盛りで)をとり、すこし食塩を
加えて振り混ぜる。
(3)これに(1)のセットを浸ける。
(4)取り出してメロディテスターにつないでみる。正極負極が正しければ音楽を楽しむ
ことができる。また電卓が使えるか試してみる。
<記録>





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実験2 電子を与える反応
(a)金属の反応

                  - 3 -

(1)4枚のチャック付きポリ袋にそれぞれ次の@〜Bの水溶液約30mL(試験管で9
分目)を入れ、指定した金属を差し入れて、500mLビーカーに立て掛けて様子を観察
する(時間をかけて変化していく)。
  @銅板  を 1%硝酸銀水溶液
  A亜鉛板 を 2%酢酸鉛水溶液
  B鉄くぎ を 2%硫酸銅水溶液
C銅板  を 2%硫酸鉄(U)水溶液
参考:鉄くぎは3本を頭から差し入れる。
(2)100mLビーカーに6mol/L塩酸10mLを入れ、アルミホイルを10cm四
角に破って、かるく丸めて投入する(しばらくしてから反応が起こる)。
(3)ビーカーの反応混合物は廃棄用ビーカーAに移し、ビーカーは水洗いする。
(4)10分経ったら@で銅板に付着したものを薬さじでろ紙の上に移し、薬さじでこす
り付けてみる。またBで鉄くぎに付着したものをろ紙で拭って、薬さじでこすり付けてみ
る。
(5)ポリ袋の反応混合物のうち、酢酸鉛を入れたものは廃棄用ビーカーBに移し、残り
は水を流しながら流しに捨てる。ろ紙、ポリ袋は「不燃物」に捨てる。
<記録>
@銅と硝酸銀

A亜鉛と酢酸鉛

B鉄と硫酸銅

C銅と硫酸鉄(U)

アルミ箔


<準備>
・鉄くぎ  125mm

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(b)非金属イオンなどの反応
[ヨウ化カリウムと塩素]
(1)試験管に2%ヨウ化カリウム水溶液5mLを入れる。
参考:塩素は毒性がある。塩素は空気より重い。

                  - 4 -

(2)ドラフトにある試験管中の塩素を乾いたピペットで塩素を吸い取り、(1)の試
験管の水面に近くに吹き込み、ゴムせんをして振り混ぜて様子を観察する。
注意:塩素は毒性がある。塩素は緑黄色であるが見えにくい。
   塩素は空気より重い。まるで液体を扱うように操作するとよい。
(3)別の試験管に1%デンプン水溶液5mlを採り、(2)の反応溶液をガラス棒の先
に付けて加え、その変色を調べる。
<記録>



<準備>
・塩素
  ドラフトで試験管にさらし粉数粒と6mol/L塩酸1mLを加えて塩素を発生させ、
  ゴムせんをしておく。

[亜鉛とヨウ素](演示実験)
(1)乾いた蒸発皿に、亜鉛粉末薬さじ1杯と粉末にしたヨウ素1杯(やや少なめ)を採
って、ガラス棒で混ぜる。
(2)ピペットで少しずつ水をかけていき、様子を観察する。
注意:煙は毒性がある。煙が出なくなるまで水をかける。
<記録>



[塩化鉄(V)と硫化水素]
(1)50mL三角フラスコに2%塩化鉄(V)水溶液約15mL(試験管で半分弱)を
採る。
(2)ドラフトで、硫化ナトリウムに塩酸を少しずつ混合し、発生する硫化水素を
(1)の水溶液中に吹き込み、様子を観察する。
注意:硫化水素は毒性がある。
<記録>



<準備>

                  - 5 -

・硫化水素
ドラフトにおいて、Y字試験管に硫化ナトリウム2gそして6mol/L塩酸5mLを
入れ、道管を付けておく(グループ数)。

[銅と塩酸および過酸化水素]
(1)試験管に3mol/L塩酸5mLを入れ、丸めた銅線を投入してしばらく様子を観察
する。
(2)続いて35%過酸化水素水3mLを加え、様子を観察する。
注意:過酸化水素水が手についたら、すぐに水で洗う。
参考:銅線に過酸化水素のみを加えても変化しない。
<記録>




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実験3 電池になるか
(a)変形ダニエル型電池
 実験1(a)の、塩化ナトリウム水溶液の部分を「ペーパー4枚を載せ、純水20mL
を」と読み替えて実験してみよ。
注意:操作(3)(4)は、セロハンの下の硫酸銅水溶液が浸み上がらないように、静か
に行う。
<記録>




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(b)濃淡電池
(1)2つの木板にそれぞれ銅板を間隔が約2cmになるように置き、右の銅板にクッキ
ングペーパー5枚を載せ、こちらの銅板を「電圧計」のプラスに、左の銅板をマイナスに
つなぐ。
(2)バットの中にクッキングペーパー5枚を2セット準備し、A,Bとする。別にティ
ッシュペーパー1枚を準備する。
(3)1mol/L硫酸銅水溶液15mL(試験管の目盛りを利用する)をピペットで試験
管に採る。新しいピペットでその3mL(ピペットの目盛りを利用する)を新しい試験管
に移し、水を加えて15mLとし、ピペットで混ぜる。別のピペットでこの3mLを別の

                  - 6 -

試験管に移し、水を加えて15mLとし、ピペットで混ぜる。
注意:それぞれのピペットは対応する試験管に差し込んでおく。
(4)1mol/L硫酸銅水溶液11mLを右のクッキングペーパーに浸み込ます。そして
5倍に薄めたもの11mLをAに、さらに5倍に薄めたもの11mLをBに浸み込ます。
(5)ラテックス・グローブをはめ、バットの余地に半分に切ったペーパー入り寒天「塩
橋」2枚を離して準備し、A'、B'とする。
(6)左の銅板にペーパーAを載せ、塩橋A'をまたぐように被せ、電圧を計測する。どち
らの銅板が正極かも確認する。
(7)AとA'を取り除き、Aが載っていた銅板をティッシュペーパーで拭く。そしてBを
載せ、B'を被せて再び電圧を計測する。
(8)ペーパー類は可燃物に捨てる。
<記録>




<準備>
・目盛り付き試験管と5mLピペット ×3
・クッキングペーパー  4×8cm
・電圧計
  実験1(a)を参照
  ±0.4Vに設定しておく。 デジタルテスターも可
・ペーパー入り寒天塩橋
 230×320×50mmのバットに、6×24cmのクッキングペーパーを2つの洗
濯ばさみ(これは針金を通して支える)で挟み、18cmくらいがバットの底に触れるよ
うに、4枚セットする。1mol/L塩化カリウム水溶液100mLを加熱し、沸とうした
ら火を弱めて寒天1gを加えて溶かす。これをバットに流し、冷えたらペーパーを1枚ず
つ引き上げて、トレイに積み重ねる(下面は平滑で上面は凸凹になる)。
 この実験では、はさみで半分に切って長さを12cmにする。

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実験4 電池をつくる(その2)
(a)非金属だけの電池
(1)木板に炭素板を置いてクッキングペーパー2枚を載せ、10%硫化ナトリウム水溶
液12mLを浸み込ませ、セロハンを被せる。
(2)さらにクッキングペーパー2枚を載せ、2%ヨウ化カリウム水溶液12mLを浸み

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込ます。
(3)粉末のヨウ素を振りかけてもう1枚の炭素板を被せる。
(4)豆電球につないでみる。またモーターにつないでみる。「電圧計」で正極・負極を
確認する。
(5)上の炭素板を取って残ったヨウ素に10%チオ硫酸ナトリウム水溶液数mLをかけ、
脱色したらペーパー類は廃棄用ビーカーCに捨てる。
<記録>




<準備>
・炭素板(170×40×5mm ターミナル付き)
・クッキングペーパー  4.5×12cm
・10%硫化ナトリウム水溶液
  九水和物10gを水90mLに溶解する。
・セロハン  10×19cm
・粉末のヨウ素
  試験管に入れ、ステンレス網(20メッシュ)を被せてビニールテープで固定する。
・電圧計
  実験1(a)を参照
  ±2Vに設定しておく。 デジタルテスターも可
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(b)組み立て式燃料電池
注意:金網自身に手で触れないようにする。
(1)ラテックス・グローブをして、塩ビ板の「支え」を入れたプラスチック容器に「パ
ラジウムめっきしたステンレス金網」をセットしたふたをはめ、クッキングペーパー2枚
に1mol/L水酸化カリウム9mLを浸み込ませて被せる。
注意:電極は容器の穴と反対に出るようにする(次も同じ)。
(2)さらに「塩ビ枠」にセットした同じ「金網」(金網面が下側)、発泡スチロールの
「固定枠」を順に載せ、輪ゴム2つを掛ける。
(3)残りの1人がモーターをつなぎ、容器の穴から簡易ボンベを使って水素を注入して
ビニールテープでふさぎ、様子を観察する。
注意:水溶液が吹き上がるようになるので、目に入らないようにする。
   水素は節約して使う。

                  - 8 -

(4)そしてどちらの金網が正極か、「電圧計」で調べる。
(5)終わったら、クリップコードを外して、そのまま返却する。
<記録>




<準備>
・プラスチック容器
  小出し容器、100円均一
・「パラジウムめっきしたステンレス金網」
  ビタミンCを加えた塩酸で処理したステンレス金網に、塩酸を加えた塩化パラジウム
  (U)水溶液で電気めっきする。
・クッキングペーパー 7×8cm
・「塩ビ枠」
  厚み0.5mm 6.4×7.4cm
 以上の詳細はホームページの「組み立て式燃料電池」を参照する。
    http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/masa/ne88.htm

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(c)鉛蓄電池
(1)木板に鉛板を置いてクッキングペーパー4枚を載せ、1mol/L硫酸20mLをし
み込ませ、もう1枚の鉛板を被せる。。
(2)手回し発電機をつないで2,3分ハンドルを回す。上の鉛板を発電機の正極につな
ぐことにする。
注意:2つのクリップは反対側にかませる。
(3)そしてハンドルを放す。発電機がまわっているとき、鉛板のクリップを外したり、
かませたりしてみる。
(4)発電機が止まったら、再びしばらく回し、クリップを外して上の鉛板の裏側を観察
する。そしてクリップをかませる。ハンドルが止まったら、もう一度鉛板を観察する。
(5)終わったら、ピンセットでペーパーを廃棄用ビーカーDに捨て、鉛板を水洗いする。
<記録>




                  - 9 -

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知識と理論

 1796年にイタリアのボルタは、異種の金属たとえば亜鉛と銅の板で塩水を浸み込ま
せた紙を挟むと電流が生じることを発見した。これは「ボルタの電堆(でんたい)」とよ
ばれ、積み重ねて電気分解などが研究された。

1.電池をつくる(その1)

[1]実験1(a)ダニエル型電池では、亜鉛板にクッキングペーパーを載せて2%塩化
ナトリウム水溶液を浸み込ませ、セロハンを被せ、さらにクッキングペーパーを載せて1
mol/L硫酸銅水溶液を浸み込ませて銅板を被せた。これに豆電球をつなぐとよく光り、
モーターがまわり、直列にしておもちゃを動かすこともできた。電圧計で調べると銅板が
プラス極(正極)、亜鉛板がマイナス極(負極)であった。また銅板の表面が赤褐色にな
った。
[2]電池では、正極から正電気が流れ出し、負極に流れ込むはずである(電流は正電気
の流れと定義されており、正極は電流が流れ出るところとなっている)。しかし導線を流
れる電気の正体は負電気を持つ電子であることが分かっているので、実際には負極から電
子が流れ出し正極に流れ込んでいる。
 であれば、化学反応で電気が起こる電池は
  負極では「電子を与える反応」が起き、正極では「電子を奪う反応」が起きる
はずである。
[3]ダニエル型電池では、負極は亜鉛であり、それに接して塩化ナトリウム水溶液があ
る。一般に金属は陽イオンになりやすく
  負極  Zn ―→ Zn2+ + 2e-
          亜鉛イオン
という反応が起こる。e- は電子を表す記号である。亜鉛が亜鉛イオンになって電子を与
えている。電子は金属内に貯まり、亜鉛イオンは水に溶ける。
 正極は銅板であり、それに接して硫酸銅水溶液がある。そして硫酸銅 CuSO4 は水中
では次のように電離している。
  CuSO4 ―→ Cu2+ + SO42-
         銅イオン 硫酸イオン
陽イオンは元の金属にもどることができるので
  正極  2e- + Cu2+ ―→ Cu
という反応が起こる。電子を奪って銅イオンが銅になっている。銅板の表面の赤褐色は新
たにできた銅である。ちなみにセロハンは2つの水溶液がすぐには混合しないようにする
ためのものであり、小さい穴が無数に開いている。

                  - 10 -

 以上を図示すると次のようである。

    

 ここで疑問が生まれる。銅は銅イオンにならないのだろうか。
[4]実験1(b)では、10円と1円の間にろ紙を挟んで3つ直列にし、食塩を溶かし
た食酢に浸けた。これにメロディテスターをつなぐと音楽が流れ、電卓で計算もできた。
そしてそのつなぎ方から、10円が正極、1円が負極であることが分かった。なお11円
電池では力不足であった。
 アルミニウムである1円では
  負極  Al ―→ Al3+ + 3e-
        アルミニウムイオン
という反応が起こる。食酢に含まれる酢酸は(その一部が)次のように電離している。
  CH3COOH ―→ CH3COO- + H+
    酢酸      酢酸イオン 水素イオン
そして銅である10円では
  正極  2e- + 2H+ ―→ H2
という反応が起こる。水素イオンという陽イオンも電子を奪って中性の水素になることが
できる。
参考:この講座では、負極と正極の電子数をあわせることはしないようにする。
 ここで疑問が生まれる。酢酸水溶液は1円にも接している。それなら1円に貯まった電
子は、どうしてその場で水素イオンと反応しないのだろうか。食塩つまり塩化ナトリウム
は何のために加えたのだろうか。10円がきれいになるのはどうしてか。中には黒くなる
ものもある・・・。
備考:水素過電圧についてはこれ以上は触れない。
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2.電子を与える傾向

[a]金属が電子を与える傾向
[1]実験2(a)は次のようであった。硝酸銀 AgNO3 水溶液に銅板を浸けると、表
面に白色のコケのような、そしてろ紙にこすり付けると金属光沢がある銀が付着した。ま

                  - 11 -

た水溶液がすこし緑色になった。
 これは銅が銅イオンになって電子を与える。緑色は銅イオンである。
    Cu ―→ Cu2+ + 2e-   (1)
そして銅板に貯まる電子を奪って銀イオンが銀になるのである。
    e- + Ag+ ―→ Ag   (2)
       銀イオン
この場合は実験1(a)(前節の[3])と違って、銅は銅イオンになり電子を与えてい
る。この実験は銅が銀より電子を与える「傾向」が大きいことを示す。銀が生成しても銅
が電子を与え続けるからである。
    Cu > Ag (電子を与える傾向)
教科書では陽イオンになることに目を向けて、銅のイオン化傾向が銀より大きいと表現す
るが、私たちは電子に注目していく。
備考:「傾向」とは自由エネルギーないし化学ポテンシャルのことである。
 そして一般に化学反応は逆向きに進行することもできるので、銀イオンは銅イオンより
電子を奪う傾向が大きいとも捉えることができる。銅イオンが生成しても銀イオンが電子
を奪い続けるからである。
[2]酢酸鉛 (CH3COO)2Pb 水溶液に亜鉛板を浸けると、表面に黒色の、ところど
ころに金属光沢のある鉛が付着した。
 亜鉛が亜鉛イオンになって電子を与え
    Zn ―→ Zn2+ + 2e-   (3)
その電子を奪って鉛(U)イオンが鉛になるのである。
    2e- + Pb2+ ―→ Pb   (4)
       鉛(U)イオン
 これは亜鉛は鉛より電子を与える傾向が大きいことを示す。
      Zn > Pb (電子を与える傾向)
そして鉛(U)イオンは亜鉛イオンより電子を奪う傾向が大きい。
[3]硫酸銅 CuSO4 水溶液に鉄くぎを浸けると、表面に褐色のヘドロのような、そし
てろ紙にこすり付けると金属光沢がある銅が付着した。
 鉄が鉄(U)イオンになって電子を与え
    Fe ―→ Fe2+ + 2e-   (5)
       鉄(U)イオン
その電子を奪って銅イオンが銅になるのである。
    2e- + Cu2+ ―→ Cu
 鉄は銅より電子を与える傾向が大きい。
    Fe > Cu (電子を与える傾向)

                  - 12 -

そして銅イオンは鉄(U)イオンより電子を奪う傾向が大きい。
 これに対して、硫酸鉄(U) FeSO4 水溶液に銅板を浸けても、何の変化も見られなか
った。鉄より電子を与えにくい銅と、銅イオンより電子を奪いにくい鉄(U)イオンのセッ
トであるから、納得がいくだろう。
[4]塩酸 HCl にアルミホイルを投入すると、しばらくして気体の水素が発生した。
 アルミニウムがアルミニウムイオンになって電子を与え
    Al ―→ Al3+ + 3e-   (6)
その電子を奪って水素イオンが水素になるのである。
    2e- + 2H+ ―→ H2   (7)
 水素は金属ではないが、電子を与えれば陽イオンになるので仲間に入れて考えよう。ア
ルミニウムは水素より電子を与える傾向が大きい。
    Al > H2 (電子を与える傾向)
そして水素イオンはアルミニウムイオンより電子を奪う傾向が大きい。
[5]上のような実験を積み上げれば、水素を含めて金属が電子を与える傾向の大きい順
に、その反応式を上から並べることができる。反応(1)、(2)の逆反応、(3)、
(4)の逆反応、(5)、(6)、(7)の逆反応では
    Al ←→ Al3+ + 3e-
    Zn ←→ Zn2+ + 2e-
    Fe ←→ Fe2+ + 2e-
    Pb ←→ Pb2+ + 2e-
    H2 ←→ 2H+ + 2e-
    Cu ←→ Cu2+ + 2e-
    Ag ←→ Ag+ + e-
となる。ここで両辺を両矢で結んだのは、条件によって化学反応がどちら向きにも進行で
きることを示す(なおこの記号は本来は2本の矢印で示すべきである)。例えば実験2
(a)では銅が銅イオンになり、実験1(a)では銅イオンが銅になっている。
 この表を改めて見ると左辺は水素を含めて金属が、電子を与える傾向が大きい順に上か
ら並んでいる。そして右辺(電子でない部分)は陽イオンが電子を奪う傾向が大きい順に
下から並んでいる。
 さらに左辺のひとつと右辺のひとつのセットは電子をやり取りして反応する可能性があ
るが、実験に基づいて調べると、そのセットが「右下がりの斜線」で結ばれると実際に反
応することが分かる。
 ここでひとつ注意をしておく。実験からも納得できるように、電子を与える傾向の順番
は正確には水中でのことである。
問1 「右下がりのセット」が反応する理由を、実験2(a)Aの亜鉛板と酢酸鉛水溶液

                  - 13 -

を例にして説明してみよ。また「右上がりのセット」になる、Cの銅板と硫酸鉄(U)水溶
液では反応が起こらない理由を説明してみよ。

(亜鉛と鉛イオンから亜鉛イオンと鉛ができる。そこで亜鉛と鉛を比べると亜鉛の方が電
子を与える傾向が大きい。また鉛イオンと亜鉛イオンを比べると鉛イオンの方が電子を奪
う傾向が大きい。だから反応はどんどん進行する。
反応が起これば、銅と鉄(U)イオンから銅イオンと鉄ができるはずである。そこで銅と鉄
を比べると鉄の方が電子を与える傾向が大きい。また鉄(U)イオンと銅イオンを比べると
銅イオンの方が電子を奪う傾向が大きい。したがって逆向きの反応が起こりやすく、この
反応は進行しない。)

備考:厳密には「右上がりのセット」は、反応が「起こりにくい」と表現すべきである。

[b]陰イオンなどが電子を与える傾向
[1]電子を与える傾向を持つのは金属だけではない。
 実験2(b)は次のようであった。ヨウ化カリウム KI 水溶液に塩素を吹き込むと、
水溶液が赤褐色に変化した。これをデンプン水溶液に加えると青色に変化した。
 これはヨウ化物イオンがヨウ素になって電子を与え
    2I- ―→ I2 + 2e-
  ヨウ化物イオン
その電子を奪って塩素が塩化物イオンになるのである。
    2e- + Cl2 ―→ 2Cl-
             塩化物イオン
 ヨウ化物イオンは塩化物イオンより電子を与える傾向が大きい。
    I- > Cl- (電子を与える傾向)
そして塩素はヨウ素より電子を奪う傾向が大きい。
 ちなみにこの反応は、ヨウ化物イオンを含む「かん水」から工業的にヨウ素を生産する
のに応用されている。
[2]亜鉛とヨウ素を混ぜて水をかけると、赤紫色の気体が発生した。これは気体のヨウ
素である。つまり反応熱によって、まだ反応していないヨウ素が昇華するのである。
 これは、既に学習したように、亜鉛が亜鉛イオンになって電子を与え、
    Zn ―→ Zn2+ + 2e-
その電子を奪ってヨウ素がヨウ化物イオンになるのである。
    2e- + I2 ―→ 2I-
 亜鉛はヨウ化物イオンより電子を与える傾向が大きい。

                  - 14 -

    Zn > I- (電子を与える傾向)
そしてヨウ素は亜鉛イオンより電子を奪う傾向が大きい。
 なおこの反応では水が反応を促進している。水中ではイオンは生成しやすい。
問2 ヨウ化物イオン、塩化物イオン、亜鉛について、電子を与える傾向の大きい順に、
その反応式を上から並べよ。



[3]塩化鉄(V) FeCl3 水溶液に硫化水素 H2S を吹き込むと水溶液が脱色され、
かつ黄白色に濁る。鉄イオンは2種あり、塩化鉄(V)に含まれる鉄(V)イオン Fe3+
黄褐色であるが、変化して鉄(U)イオン Fe2+ になるとほぼ無色(薄い緑色)である。
また黄白色の濁りは生成する硫黄の微粒子がけん濁するためである。
 これは硫化物イオンが硫黄になって電子を与え
    S2- ―→ S + 2e-
   硫化物イオン
その電子を奪って鉄(V)イオンが鉄(U)イオンになるのである。
    e- + Fe3+ ―→ Fe2+
      鉄(V)イオン 鉄(U)イオン
 硫化物イオンは鉄(U)イオンより電子を与える傾向が大きい。
    S2- > Fe2+ (電子を与える傾向)
そして鉄(V)イオンは硫黄より電子を奪う傾向が大きい。
[4]塩酸 HCl に銅片を加えても反応は起こらなかったが、それに過酸化水素水を追
加すると、反応して水溶液が青緑色になった。銅と水素イオンのセットは上の表(この節
の[a][5])で右上がりの斜線で結ばれるので、反応しないことは納得できる。
 しかし過酸化水素を加えると銅は電子を与える。
    Cu ←→ Cu2+ + 2e-
青緑色は銅イオンのためである。この反応が起こるのは水素イオンと過酸化水素が共同で
電子を奪うからである。その反応式は
    2e- + 2H+ + H22 ―→ 2H2
            過酸化水素
となる。つまり電子を奪う傾向が水素イオン単独より大きくなる。上の表で言うと右辺の
中で、水素イオンと過酸化水素の組は銅イオンより下に来るのである。
 ちなみに反応が起こったときに気体が発生した。これは上の反応と共に、生成する銅イ
オンが触媒としてはたらいて、過酸化水素が分解して酸素が発生するためである。
[5]上の表をこれらの実験の結果も踏まえてより充実させると次ページのようになる。

                  - 15 -


                電子与奪表
  @  Na      ←→ Na+      + e-     2.714[V]
  A  Al      ←→ Al3+     + 3e-    1.662
  B  H2 + 2OH- ←→ 2H2O     + 2e-    0.828
  C  Zn      ←→ Zn2+     + 2e-    0.763
  D  S2-      ←→ S       + 2e-    0.447
  E  Fe      ←→ Fe2+     + 2e-    0.440
  F  Ni      ←→ Ni2+     + 2e-    0.250
  G  Pb      ←→ Pb2+     + 2e-    0.126
  H  H2      ←→ 2H+      + 2e-    0.000
  I  Cu      ←→ Cu2+     + 2e-   −0.337
  J  4OH-    ←→ 2H2O + O2 + 4e-   −0.401
  K  2I-     ←→ I2       + 2e-   −0.536
  L  Fe2+     ←→ Fe3+     + e-    −0.771
  M  Ag      ←→ Ag+      + e-    −0.799
  N  2Br-    ←→ Br2      + 2e-   −1.087
  O  2H2O    ←→ 4H+ + O2  + 4e-   −1.229
  P  2Cl-    ←→ Cl2      + 2e-   −1.360
  Q  2H2O    ←→ 2H+ + H22 + 2e-   −1.776
                              酸化還元電位

この表は電子を与える反応と電子を奪う反応が整理されているので、私たちはこれを「電
子与奪表」と呼ぶことにする。この表をすぐに記憶する必要はないが、活用できるように
なろう。そして
 電子を与えるもの(左辺で上ほど傾向が大きい):金属、陰イオン、水素、水など
 電子を奪うもの(右辺で下ほど傾向が大きい) :陽イオン、非金属、水など
となる。水はどちらにも登場するが、その反応の仕方が異なっている。
問3 実験2(b)のそれぞれは、電子与奪表のどのセットになるか、またその斜線の傾
きを確認せよ。

目次へ

3.電導性と濃度

[1]電子与奪表を見るとさまざまな電池がつくれそうである。しかしその前に2つのこ
とを学習しておこう。

                  - 16 -

 実験1(a)のダニエル型電池では、塩化ナトリウムは電子をやり取りする反応に関係
していない。しかし実験3(a)では、塩化ナトリウム水溶液を純水に代えると、豆電球
は光らず、モーターもまわらなかった。
 次の図を見ながら考えよう。

    

負極の亜鉛板では電子が貯まって負電気を帯び、そのそばの水中では亜鉛イオンが生成し
て正電気を帯びる。そして両者は電気的引力で引き合う。同じように正極の銅板ではその
自由電子が銅イオンに奪われて正電気を帯び、そのそばの水中では銅イオンという相手を
失った硫酸イオンのために負電気を帯びる。こちらも両者が引き合う。このままでは亜鉛
板の電子は外の導線を流れて銅板まで行くことができない。
[2]ダニエル型電池自身では次のようになっている。

    

塩化ナトリウム水溶液ではナトリウムイオンがあるので、生成する亜鉛イオンはそのナト
リウムイオンを玉突き式に次々と押して正電気をすぐに遠くへ送り出せる(個々のイオン
は少しずつ移動すればよい)。さらにセロハンの穴を抜けて硫酸銅水溶液では、銅イオン
があるので玉突きがくり返すことができる。したがって亜鉛板のそばの水中の正電気はす
ぐに銅板のそばの水中まで送られて負電気と中和できる。相手を失った硫酸イオンも玉突
き式に次々に硫酸イオンを押し、セロハンの穴を抜けてからは塩化物イオンを押すことが
できる。したがって銅板のそばの水中の負電気はすぐに亜鉛板のそばの水中まで送られて
正電気と中和できる。このようにイオンが溶解している水溶液が電導性を持つと、水中の
正電気と負電気は中和されるので、亜鉛板の電子は流れ出て銅板の不足した自由電子の穴
を埋めることができるのである。
 それでは亜鉛イオンはどうして一気に銅板まで移動できないのか。そばの亜鉛板の電子

                  - 17 -

に引き付けられていることに加えて、それは液体という状態のためである。液体では水分
子やイオンなどの粒子がほぼ接触して乱雑に集合している。そして分子は互いに押し合い、
すき間をすり抜けるように移動している。だから一気に遠くまで移動できない。
 このように電池では
  内部の電極間を電導性にする
ことが必要である。水そのものにはほとんどイオンは存在しない。つまり電導性がほとん
どないことに注意しよう。
[3]実験3(b)では、一方の銅板に1mol/L硫酸銅水溶液が浸み込んだクッキング
ペーパーを載せ、他方の銅板には元の水溶液を5倍に希釈したものが浸み込んだクッキン
グペーパーを載せ、電圧計をつないで準備した。そしてペーパー入り寒天塩橋(すぐ後で
説明)を両者がつながるように被せると、0.017Vを示した。そして濃度が高い方の銅
板が正極であった。また元の水溶液とそれを25倍に希釈したもので計測すると、
0.031Vであった。
 一般に濃度が高いほど物質は変化する傾向が大きい。これは化学平衡の学習をしておれ
ば平衡移動の法則(ルシャトリエの原理)から理解できるが、直感的にも納得できること
である。
 銅イオンは電子を奪うが、その傾向は濃度が高い方が大きい。したがって濃度の低い方
の水溶液のそばの銅板が負極となって電子を与え
    Cu ―→ Cu2+ + 2e-
濃度が高い方の水溶液のそばの銅板が正極となって、その銅イオンが電子を奪う。
    2e- + Cu2+ ―→ Cu
 このように濃度差を利用する電池は濃淡電池と呼ばれる。
参考:2価のイオンで濃度差が5倍の場合は、常温では電圧は0.020Vになることが理
   論的に導かれる。
 ここで「塩橋」について触れておく。2つの水溶液を分離しておきたいが電導性は確保
したい。セロハンもその役割を果たすが、塩橋には塩化カリウム水溶液を使う。実験では
扱いやすいようにクッキングペーパーを芯にして寒天で固めた。カリウムイオンと塩化物
イオンは電場の中での移動速度がほぼ等しく、異なる場合に生じる拡散電位をほぼ無視で
きるメリットがある。
[4]電子与奪表の右には酸化還元電位という数値がある。これは水素と水素イオンがつ
くる電極を相手にして、たとえば亜鉛と亜鉛イオンがつくる電極がどれくらいの電圧にな
るかを表している。酸化還元電位は、たとえば亜鉛が電子を与える傾向が水素に比べてど
れくらい大きいかを数値で示す。
 ただしこの電圧は反応に関係するすべての物質を「標準状態」にしたときの数値である。
標準状態とは大雑把に言えば、水溶液はすべて1mol/Lというモル濃度であり、固体は

                  - 18 -

不純物を含まない状態である。
備考:標準状態については温度や圧力にも触れるべきである。
 たとえば実験1(a)のダニエル型電池において、塩化ナトリウム水溶液を1mol/L
硫酸亜鉛水溶液に代える(これはダニエル電池そのもの)と、その電圧(起電力)はほぼ
1.100Vになる。これは亜鉛と銅の酸化還元電位の差に一致する。
備考:厳密にはセロハンを塩橋に代えた方がよい。
 さて濃度によっても酸化還元電位が変化するということは、濃度によって電子与奪表の
順番が変化してくる可能性を示している。
目次へ

4.電池をつくる(その2)

 これで自分で電池をつくってみる準備はできた。時間が許せば挑戦するとよいが、伏兵
がいて苦労するかもしれない。
[1]実験4(a)では、炭素板にクッキングペーパーを載せて硫化ナトリウム Na2
水溶液を浸み込ませ、セロハンを被せた。そしてクッキングペーパーを載せてヨウ化カリ
ウム KI 水溶液を浸み込ませ、表面に粉末のヨウ素を振りかけて炭素板を被せた。これ
に豆電球をつなぐと光り、モーターがまわった。電圧計で調べるとヨウ素側の炭素板が正
極であった。
 この反応式は次のようである。
  負極  S2- ―→ S + 2e-   (電子与奪表のDの反応)
     硫化物イオン
  正極  2e- + I2 ―→ 2I-   (Kの逆反応)
             ヨウ化物イオン
この電池の特徴は金属を使っていないことである。これはかつてボルタが発見した電池の
概念(テキストの文頭)を乗り越えている。
 実際には硫黄は多硫化ナトリウム Na2x になる。またヨウ素は一部がヨウ化物イオ
ンと反応し、一時的に三ヨウ化物イオンになって広がる。
[2]実験4(b)では、パラジウムめっきしたステンレス金網をセットしたふたをプラ
箱にはめ、クッキングペーパー、同じ金網をセットした枠、固定の枠を順に載せた。2つ
の金網にモーターをつなぎ、クッキングペーパーに水酸化カリウム KOH 水溶液を浸み
込ませた。そしてプラ箱の穴から水素を吹き込むと、モーターがまわった。電圧計で調べ
ると空気側のステンレス金網が正極だった。
 この反応式は次のようである。
  負極  H2 + 2OH- ―→ 2H2O + 2e-   (Bの反応)
        水酸化物イオン
  正極  4e- + 2H2O + O2 ―→ 4OH-   (Jの逆反応)

                  - 19 -

電子与奪表からこの反応式を選ぶとき、水溶液が塩基性であることと、空気中の酸素が利
用されることに注意しよう。
 この反応式については、やり取りする電子数をそろえて全体としての反応式も書いてみ
よう。つまり負極の反応式を2倍して正極の反応式と積み算すると
    2H2 + O2 ―→ 2H2
となり、水素の燃焼の場合と同じになる。電気エネルギーは熱エネルギーに比べて利用効
率が高く、そのまま高温燃焼する場合に伴う汚染物質の発生もないため、環境にやさしい
燃料の利用になる。このように燃料の燃焼と同じ反応式で電気を起こす電池は燃料電池と
呼ばれる。しかし燃料電池の大きな課題は、電子をやり取りする反応を起こす触媒として
希少な白金やパラジウムを必要とすることである。
[3]実験4(c)では、鉛板にクッキングペーパーを載せ、希硫酸を浸み込ませてもう
1枚の鉛板を被せた。始めに手回し発電機をつないでしばらく回し、そのまま手を放すと
発電機が同じ向きに回り続けた。途中でクリップを外すと回転は止まるが、クリップをか
ませると再び回った。発電機が止まったら再び回してから、手を放すとまた回り続けた。
これはくり返すことができた。
 始めに手回し発電機を回すときには、水の電気分解が起こり、陽極(発電機の正極につ
ないだ方の電極)からは酸素、陰極からは水素が発生する。そして酸素は電極の鉛と反応
して褐色の酸化鉛(W) PbO2 になる(陽極の鉛板の内側が褐色になっていた)。図のよ
うに酸化鉛(W)が生成した鉛板と鉛板そのものが希硫酸 H2SO4 を挟んでいるのが鉛蓄
電池である。

    

[4]放電の反応式は次のようである。
  負極  Pb ―→ Pb2+ + 2e-   (Gの反応)
         鉛(U)イオン
  正極  2e- + 2H+ + PbO2 ―→ H2O + PbO
              酸化鉛(W)      酸化鉛(U)
正極の反応式は電子与奪表のQ番の逆反応に似ている。
 電子の流れを確認すると、始めの電気分解では、酸化鉛(W)ができる電極からは電子が
流れ出る。そして鉛蓄電池ができて放電するときは、この電極に電子が流れ込む。つまり
鉛蓄電池では酸化鉛(W)が生成した鉛板が正極である。ここで電気分解の陽極と電池の正

                  - 20 -

極を区別しよう。これは用語が異なるだけでなく、電子の流れが逆になるので注意が必要
である。
    電池の正極:  電子が流れ込む
    電気分解の陽極:電子が流れ出る
[5](この項の記述はすこし煩雑になるので読み飛ばしてもよい。)鉛蓄電池の反応は
実際には上で終わらず、負極では鉛(U)イオンが硫酸イオンと反応して白色の硫酸鉛
PbSO4 が生成し、鉛板に付着する。
    Pb2+ + SO42- ―→ PbSO4
        硫酸イオン   硫酸鉛
したがって負極の全体としての反応式は
  Pb + SO42- ―→ PbSO4 + 2e-  (8)
になる。また正極では酸化鉛(U)が硫酸(水素イオンと硫酸イオン)と反応して同じく硫
酸鉛が生成して付着する。
    PbO + 2H+ + SO42- ―→ H2O + PbSO4
したがって正極の全体としての反応式は
  2e- + 4H+ + SO42- + PbO2 ―→ 2H2O + PbSO4  (9)
になる。これらの全体としての反応式も電子与奪表に組み入れることができるが、煩雑に
しないために省いている。
 さて実験では発電機を再び回す(充電する。これも電気分解のひとつ)と、鉛蓄電池が
復活してまた放電することができた。電池を復活させるには外部の電源を使って強引に電
子を逆向きに流す、つまり(8)および(9)の逆反応を起こす。鉛蓄電池では逆反応に
必要な硫酸鉛および水が電極のそばに存在している。
 しかしどの電池でもうまく逆反応が起こるとは限らない。ダニエル型電池を振り返って
みよう。負極(亜鉛板)では亜鉛イオンが散逸しているし、銅イオンも入り込んで来てい
る。実際に電子を逆向きに流すと、その銅イオンが亜鉛板の表面で銅になったりする。
 鉛蓄電池(バッテリー)は通常の自動車の電源として広く利用されている。電圧は2.0
Vである。
 環境問題を解決するのに、電気を蓄える装置の開発改良が切に求められている。くり返
し充電できる電池(二次電池と呼ばれる)はその重要候補である。
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5.実用電池

[1]実用化されている電池をいくつか紹介する。鉛蓄電池についてはすでに前節で説明
した。なおこの節の記述は応用面なので複雑であり、高校生などは最後のリサイクルを別
にして、参考程度にしてもよい。
 現在もっとも利用されているのはアルカリ乾電池であり、その構造は次ページのようで

                  - 21 -

ある。

    

負極につながる銅線のまわりを、粉末亜鉛と高濃度の水酸化カリウム水溶液を混ぜたもの
で固め、セパレータ(多孔性の膜)を隔てて、さらに酸化マンガン(W) MnO2 、粉末黒
鉛および水酸化カリウム水溶液を混ぜたもので固め、正極であるニッケルめっきした鉄容
器で包んでいる。
 亜鉛が亜鉛イオンになって電子を与えるが
 負極 Zn ―→ Zn2+ + 2e-   (Cの反応)
亜鉛イオンはさらに水酸化カリウムの水酸化物イオンと次のように反応する。
    Zn2+ + 2OH- ―→ ZnO + H2
備考:実用電池の化学反応は解明されていない部分もある。この講座では「電池工業会」
   のホームページに沿うようにした。
電子は銅線を経て負極から流れ出る。正極に流れ込んだ電子は鉄容器を経て粉末黒鉛に移
動する。そこでは電子を奪って水と酸化マンガン(W)の組が反応する。
  正極  2e- + 2H2O + MnO2 ―→ Mn(OH)2 + 2OH-
 アルカリ乾電池はこれまでの乾電池よりパワーがあり(大電流が採れる)、長持ちする
(反応効率が高い)。電圧は1.5Vである。
[2]ボタン電池として利用される酸化銀電池(銀電池)は、負極側が粉末亜鉛、セパレ
ータを挟んで正極側が酸化銀 Ag2O と粉末黒鉛を混ぜたものであり、全体に水酸化カリ
ウム水溶液が浸み込んでいる。
 負極では亜鉛が亜鉛イオンになって電子を与える点はアルカリ乾電池と同じであるが、
正極では水と酸化銀の組が次のように電子を奪う。
  正極 2e- + H2O + Ag2O ―→ 2Ag + 2OH-
 酸化銀電池は高価であるが、電圧は1.55Vであり、放電によってほとんど変化しない。
 同じくボタン電池として利用されるリチウム電池は、亜鉛の代わりにリチウム Li が、
酸化銀の代わりに酸化マンガン(W)が使われる。
 ただしリチウムは水と反応してしまうので、内部の電極間を電導性にするのに水溶液が
使えない。そこで水でなくてイオン性物質を溶解できる非水極性溶媒が求められる。実際

                  - 22 -

にはたとえばテトラヒドロフラン C48O とエチレンカルボナート C343 の混合溶
媒などを使用する。
 この電池の負極ではリチウムは次のように電子を与える。
  負極 Li ―→ Li+ + e-      (酸化還元電位 3.045V)
        リチウムイオン
正極では電子を奪ってリチウムイオンと酸化マンガン(W)の組が反応する。
  正極 e- + Li+ + MnO2 ―→ LiMnO2
 もっともコンパクト(単位質量あたりの発電量が大きい)であり、電圧も3.0Vと高い。
[3]充電できる2次電池として注目されているのがリチウムイオン電池である。その化
学構造は次のようであるが、簡単ではない。

    

     (西著「リチウムイオン2次電池の話」(裳華房)より)
 充電が完了すると、負極は黒鉛がその層間にリチウムイオンをドープした(取り込ん
だ)状態になり、同時に陽イオンであるリチウムイオンを電気的に中和するために電子を
詰め込んでいる。この状態は不安定である。そして正極は酸化コバルト(W) CoO2 の状
態である。
 放電するときは、負極では黒鉛がリチウムイオンを脱ドープ(放出)して電子を与え
  負極  C(Li+ ,e- )―→ C + Li+ + e-
      黒鉛(ドープ状態)   黒鉛
リチウムイオンは正極に移動する。正極では電子を奪って酸化コバルト(W)がリチウムイ
オンをドープする。
  正極  e- + Li+ + CoO2 ―→ CoO2(Li+ ,e- )
            酸化コバルト(W) 酸化コバルト(W)(ドープ状態)
酸化コバルトは電子を奪って酸化コバルト(V)になるが、酸化コバルト(W)がドープした
リチウムイオンを電気的に中和するために電子を詰め込んでいると考えてもよい(反応式
はそのように表している)。充電するときは、逆向きの反応が起こる。

                  - 23 -

 長らくリチウムそのものを使う2次電池の開発が試みられた。しかし充電においてリチ
ウムイオンがリチウムに戻るとき、それが針状結晶(デンドライト)になって伸び、セパ
レータを突き抜けて電極間がショートしてしまう。そこで単位質量あたり同じだけたくさ
んの電子数を担うことができるリチウムイオンが注目されたのである。
 電圧は3.7Vと高く、溶媒に水を使うと電気分解が起こる。したがってリチウム電池と
同じように非水極性溶媒を使用する。
[4]工場などで大電力を貯蔵するのにNAS電池が開発された。融解したナトリウムと
硫黄(300℃)が、β−アルミナからなる特殊なセラミックスを挟んでいる。
 放電するときは、負極ではナトリウムがナトリウムイオンになって電子を与え
  負極  Na ―→ Na+ + e-   (@の反応)
ナトリウムイオンはセラミックスの穴の表面を通って正極の方に移動する。正極では硫黄
が電子を奪って硫化物イオンになる。
  正極  2e- + S ―→ S2-   (Dの逆反応)
硫化物イオンはさらにナトリウムイオンおよび硫黄と次のように反応する。
    S2- + 4S + 2Na+ ―→ Na25
 充電するときは、実際には多硫化ナトリウムが少し残って電導性がある状態で止める。
 夜間の電力で充電しておき、昼のピーク時に消費すれば、コストダウン、電力需要の平
準化ができたりする。
[5]以上の他に太陽電池がある。これはp型半導体とn型半導体を接合したもので一種
のダイオードである。接合部に光が当たると電子が飛び出して正孔(せいこう)ができ、
正孔はp型半導体に電子はn型半導体に拡散することで電圧が生じる(これ以上の説明は
省く)。
 太陽電池は再生可能なエネルギーを利用するが、効率の飛躍、コストダウンが期待され
る。
 最後に電池のリサイクルに触れておく。乾電池は日本では水銀の使用がゼロであり、現
在では一般廃棄物として埋め立てられている。しかし手軽で大量に利用される乾電池がリ
サイクルの対象になっていないことはひとつの課題であると考える。
 ボタン電池や2次電池(リサイクルマークが付いている)は販売店などで回収され、リ
サイクルされている。特に鉛蓄電池(バッテリー)のリサイクル率は高い。消費者も回収
に協力する必要がある。
 また太陽電池もリサイクルが課題になってくる。




                  - 24 -




参考文献など
・吉澤著「新しい電池」(東京電機大出版)
・西著「リチウムイオン2次電池の話」(裳華房)
・財団法人電池工業会のホームページ(http://www.baj.or.jp/index.html)





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発展実験

発展実験1 鉄電池
 鉄および鉄イオンが電子をやり取りする電池
  負極  Fe ―→ Fe2+ + 2e-
  正極  e- + Fe3+ ―→ Fe2+

(1)木板に炭素板を置いてクッキングペーパー2枚を載せ、5%塩化鉄(V)水溶液12
mLを浸み込ませ、セロハンを被せる。
(2)さらにクッキングペーパー2枚を載せ、2%硫酸鉄(U)水溶液12mLを浸み込ま
す。
(3)鉄板を被せて、豆電球につないでみる。またモーターにつないでみる。電圧計で正
極・負極を確認する。
(4)ペーパーなどは可燃物に捨てる。

<準備>
・クッキングペーパー  4.5×12cm
・5%塩化鉄(V)水溶液
  六水和物5gを水95mLに溶解する。
・2%硫酸鉄(U)水溶液
  2%食塩水でもよい。

                  - 25 -

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発展実験2 電極がナトリウムの電池
 過塩素酸銅 Cu(ClO4)2・6H2Oに結晶水が含まれるが、水を使わない電池である。
  負極  Na ―→ Na+ + e-
  正極  2e- + Cu2+ ―→ Cu
 電圧は2.9Vまで上がり、電流は調子が出ると数10mAになる。
 なおモーターがすぐに回り始めない理由は現時点ではよく分からない。ナトリウムと過
塩素酸ナトリウムが反応したりしているかもしれない。

注意:この実験はナトリウムを使うので、化学の先生の指導の下で実施する。
(1)試験管にテトラヒドロフラン8mLを入れ、過塩素酸ナトリウム0.4gを加え、加
熱溶解する。
(2)同じように、別の試験管にテトラヒドロフラン5mLを入れ、過塩素酸銅0.5gを
加え、加熱溶解する。
(3)木板に銅板を置き、クッキングペーパー2枚を載せて、(2)の溶液を浸み込ま
す。
(4)シャーレにクッキングペーパー3枚を置き、(1)の溶液を浸み込ませピンセッ
トで(3)のペーパーに重ねる。
(5)ピンセットでナトリウムの角柱をその上に置き、メロディテスターをつなぐ。
(6)テスターで電圧や電流を調べ、ナトリウムを動かして大きい電流(20mA以
上)が得られたら、その状態でソーラーモーターにつなぐ。
(7)ペーパーなどは燃焼処理する。

<準備>
・クッキングペーパー  8×4cm
・ナトリウム  約5×5×30mm



                  - 26 -


追記(09.4)

もうひとつの「非金属だけの電池」
 先進科学塾における受講者からの質問に絡んで、下のような「非金属だけの電池」もつ
くれることが分かった。反応式は次のようである。
  負極  S2- ―→ S + 2e-
  正極  2e- +2H+ ―→ H2
        過酸化水素を加えると
      2e- + 2H+ + H22 ―→ 2H2

(1)木板に炭素板を置いてクッキングペーパー2枚を載せ、10%硫化ナトリウム水溶
液12mLを浸み込ませ、「寒天塩橋」を被せる。
(2)さらにクッキングペーパー2枚を載せ、1mol/L塩酸12mLを浸み込ます。
(3)ソーラーモーターをつないでみる。
(4)さらに塩酸が染みこんだペーパーに35%過酸化水素水3mLをかける。
(5)豆電球につないでみる。またモーターにつないでみる。

 塩酸だけでしばらくソーラーモーターがまわる。過酸化水素を加えると、しばらく豆電
球が光り、モーターの方はいつまでもまわるようになる。


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