先進科学塾1日コース

    Advancing Science Workshop

  「科学(理科)をわくわくしながら勉強する」にはどうしたらよいだろうか。
  先進科学塾はそれに答えようとする企画です。

酸・塩基とは、そしてpHとは何か

 塩酸、酢酸、水酸化ナトリウム、アンモニア水など、BTBという指示薬に加えたり、
味見したり、混ぜ合わせたりして、酸と塩基の特徴をつかみます。
 そしてpHの意味を探るために、紫キャベツの色素を変色させ、過マンガン酸カリウム
という酸化剤やカタラーゼという酵素の実験をし、中和滴定をします。酸性雨や血液の話
もしましょう。

        

  日 時   12月23日(土) 10時〜4時

  場 所   名古屋市科学館の8階科学実験室


   氏名:

                  - 1 -

                               06.12.23
                                講師:林 正幸

酸・塩基とは、そしてpHとは何か

          自己紹介
 36年間、高校の化学の先生を勤め、03年3月に退職しました。そして自由になって
ますます「理想の化学教育」を追求できると燃えています。
 ホームページは96年から開設しています。
    http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/
そして高校生などからメールで質問を受けています。
    masasuma@water.sannet.ne.jp

実験の取り組み方
(1)危険防止のため安全めがねをかける。
(2)積極的に取り組み、協力し合う。
(3)文章を読んで予め操作を頭に描き、分からないときは先生に確かめる。
(4)よく観察し、その意味を考察し、できるだけ疑問を見つける。
(5)「」記号がある操作はドラフトで行う(今回はない)。
(6)実験中に気分が悪くなったらすぐに申し出る。
(7)廃棄物に配慮し、器具を洗浄し、机上を雑巾で拭く。

        目 次
    実 験
      
実験1 酸とは、塩基とは
      演示実験1 酸味
      演示実験2 電離度
      演示実験3 紫キャベツの色素とpH
      実験2 pHと化学反応
      実験3 中和滴定とpH
    知識と理論
      1.酸とは、塩基とは
      2.酸性の強弱
      3.pHと化学反応
      4.酸性雨と血液

実 験

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実験1 酸とは、塩基とは
[a]BTBの変色
(1)6本の試験管にそれぞれ水5cmほどを入れ、BTB2滴ずつを加えて振り混ぜる
(色を確認する)。
(2)次の物質を加え、色の変化を観察する。
    @36%濃塩酸1mL  A98%濃硫酸1mL  B酢酸1mL
    C水酸化ナトリウム1粒  D水酸化カルシウム小さじ1杯
    E28%濃アンモニア水1mL
注意:CとDはガラス棒でかき混ぜ、他は振り混ぜる。

                  - 2 -

備考:酸性が強いと赤みを帯びる(文末も参照)。
(3)廃液はビーカーに集める([b]と[c]も)。後でまとめて中和処理する。
[b]マグネシウムと酸
(1)3本の試験管にそれぞれ水5cmほどを入れ、次の物質を加えて振り混ぜる。
    @36%濃塩酸1mL  A98%濃硫酸1mL  B酢酸1mL
(2)マグネシウムリボン約3cmずつを投入し、様子を観察する。そのとき硫酸の入っ
た試験管の口には、ゴムせんを逆さにして被せておく。
(3)ゴムせんを取ってマッチで点火する。
[c]酸と塩基の反応
(1)100mLビーカーに水約40mLを入れ、BTB8滴を加えて振り混ぜる。
(2)まず濃塩酸0.5mLを加えてガラス棒でかき混ぜる(変色を確認する)。次に水酸
化ナトリウム1粒を入れてかき混ぜる。これを水溶液が変色するまでくり返す。次に濃硫
酸0.5mLを加えてかき混ぜる(変色を確認する)。
 さらに水酸化カルシウム小さじ1杯を加えてかき混ぜる。これを水溶液が変色するまで
くり返す。さらに酢酸0.5mLを加えてかき混ぜる(変色を確認する)。さらに濃アンモ
ニア水0.5mLを加えてかき混ぜる。これを水溶液が変色するまでくり返す。

(3)最後に、容器類はブラシをかけながら水洗いする。
<メモ>




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演示実験1 酸味
(1)100mLビーカーに水約100mLずつを入れる。
(2)次の物質を加えてかき混ぜる。
    @濃塩酸10滴  A濃硫酸10滴  B酢酸1mL
(3)ピペットで手のひらに採り、味見をする。

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演示実験2 電離度
 300mLビーカーに水約200mLを入れ、濃塩酸10mLを加えて約0.5
mol/Lの水溶液をつくる。同様に酢酸6mLを加え、約0.5mol/Lの水溶液をつく
る。
 これらに「電球テスター」を差し入れて、電球の点き具合を調べる。
参考:電球テスターは、100W電球に銅板の電極を付けたものである。

                  - 3 -

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演示実験3 紫キャベツの色素とpH
(1)200mLビーカーに水約100mLを入れ、粗く刻んだ紫キャベツをひたひたま
で加え、バーナーで加熱し、ときどき振り混ぜて色素を抽出する。
参考:水はすべて水道水を使う。
(2)試験管立てに11本の目盛付き試験管を並べ、両端に1mol/L塩酸20mLと1
mol/L水酸化ナトリウム20mLを入れ、それぞれpH0とpH14の水溶液である。
 また中央の試験管に水そのものを20mL入れてpH7とする。残りの試験管にも水
18mLずつを入れる。
(3)酸用の5mLピペットで、pH0の水溶液2mLを隣の試験管に移し、ピペットで
液を出し入れして混合する。これはpH1の水溶液である。
 次にそのピペットでこの水溶液2mLをまた隣の試験管に移し、同様に混合してpH2
の水溶液をつくる。
 さらにpHが3と4の水溶液もつくる。
(4)塩基用の5mLピペットで、同様に操作して、pHが13〜10の水溶液をつくる。
(5)別の5mLピペットで、試験管に抽出液4mLずつを勢いよく加え、できる変色列
を観察する。
注意:抽出液を混ぜ過ぎない方がきれいである。背景に白紙をおく。

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実験2 pHと化学反応
[a]いろいろなpHの水溶液の調製(代表者)
(1)4個の100mLビーカーを並べ、水道水(pHはだいだい7である。)約100
mLずつを入れる。
(2)1つめのビーカーに1mol/L塩酸(pH0である)1mLを入れ、そのピペット
で液を出し入れして混合する。これがpH2の水溶液である。
 同じピペットでこの水溶液2mLを2つめのビーカーに移して同様に混合する。これが
pH4の水溶液である。
(3)1mol/L水酸化ナトリウム(pH14である)と別のピペットを使って、同じよ
うにpHが12と10の水溶液をつくる。
参考:pH0の塩酸とpH14の水酸化ナトリウム水溶液の試薬びんも準備する。
[b]過マンガン酸カリウムの場合
(1)試験管立てに7本の試験管を並べ、それぞれpHが0,2,4,7,10,12,
14の水溶液を1/3ずつ入れる。
(2)0.01mol/L過マンガン酸カリウム1mLずつを加え、振り混ぜて様子を観察
する。
(3)続いて5%チオ硫酸ナトリウム1mLずつを加え、振り混ぜて様子を観察する。

                  - 4 -

[c]酵素カタラーゼの場合
(1)大根をおろし金でおろし、絞った液約10mLを試験管にろ過する。
(2)[b]と同様に、pHが0,2,4,7,10,12,14の水溶液を準備する。
(3)35%過酸化水素水1mLずつを加え、振り混ぜて様子を観察する。
(4)大根の汁1mLずつを加え、振り混ぜて様子を観察する。

(5)最後に、すべての容器類はブラシをかけながら水洗いする。
<メモ>




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実験3 中和滴定とpH
備考:ビュレット、ホールピペットの細かな扱い方はその場で実演を交えて説明する。
(1)50mLビュレットに、0.100mol/L水酸化ナトリウムを充填する。
注意:スタート時のビュレットの目盛りを記録する。
   目盛りの読みとりは0.1mLあるいは0.05mLまででよい。
(2)ホールピペットを使って、50mLビーカーに0.100mol/L塩酸10mLを
採り、ユニバーサル指示薬10滴を加える。
参考:この指示薬はpHによって「実物色見本」のように変色し、4から10の間で0.5
   刻みにpHを判定できる。pHが4より小さくても4の色を保ち、またpHが10
   より大きくても10の色を保つ。
備考:「実物色見本」については、「任意のpH溶液の調製」を参照。
(3)水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、ビーカーを振り混ぜ続ける。0.5刻みの変色を
検出したら直ちにコックを閉めて、pHと滴下体積を記録する。そして再び滴下し、0.5
刻みの変色を検出したら直ちにコックを閉めて、pHと滴下体積を記録する。これをくり
返す。
 とくに滴下体積が10mLに近づいたら注意深く操作する。
参考:2人で協力するとよい。
   1滴でpHが0.5刻みを越えて変色することもある。
   1回目は、速く滴下し途中でコックを閉めないで、様子を見る。
   そして2回目にpHと滴下体積の計測をする。
(4)0.100mol/L酢酸についても同様に実験する。
参考:こちらは手間がかかる!
(5)反応溶液のpHと滴下体積の関係をグラフにまとめる。

                  - 5 -

<メモ>



  pH  滴下量  pH  滴下量  pH  滴下量  pH  滴下量







知識と理論

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1.酸とは、塩基とは

[a]酸と酸性
[1]実験1では、水に滴下したBTB(ブロモチモールブルー)が、塩酸を加えても、
硫酸を加えても、酢酸を加えても、緑色から黄色になった。
 ちなみにBTBのような試薬は指示薬と呼ばれ、他にフェノールフタレイン、メチルオ
レンジなどがある。
 3種の物質を水に溶かしてマグネシウムリボンを加えると、いずれも気体が発生し、硫
酸の場合に点火して調べると、それは水素であると推定された。ただし酢酸では気体の発
生はゆっくりであった。
 演示実験1では、3種の物質を水で十分に薄めて味見すると、いずれも酸味があった。
[2]他方で水に滴下したBTBが、水酸化ナトリウムを加えても、水酸化カルシウムを
加えても、アンモニア水を加えても、緑色から青色になった。ちなみに水酸化カルシウム
は水に溶けにくかった。
[3]そして水に滴下したBTBの色が、塩酸を加え、水酸化ナトリウムを加え、硫酸を
加え、水酸化カルシウムを加え、酢酸を加え、アンモニア水を加えると、黄色と青色の間
を往復した。
 ちなみに水酸化カルシウムを加えたときには白色沈でんが生じた(これは硫酸カルシウ
ムが生成したのであるが、深入りはしない)。

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[4]塩酸、硫酸、酢酸などはまとめて酸と呼ばれる。実験1と演示実験1から分かるよ
うに、これらは次のような共通の性質を示す。
@酸味がある
ABTBを黄色にする(リトマス紙を赤色にする)
Bマグネシウムや亜鉛などの金属と反応して水素を発生する
C塩基性という性質を打ち消す
これらの性質は酸性と呼ばれる。
[5]酸性を示すのは、酸が次のように水中で電離して生じる水素イオンである。
  塩酸    HCl ―→ H+ + Cl-
            水素イオン 塩化物イオン
  硫酸    H2SO4 ―→ 2H+ + SO42-
                   硫酸イオン
  酢酸    CH3COOH ―→ H+ + CH3COO-
                     酢酸イオン
 したがって
    酸:水に溶けて水素イオンを生成する物質
である。

[b]塩基と塩基性
[1]水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水などはまとめて塩基と呼ばれ
る。これらは次のような共通の性質を示す。
@ある種の苦味がある
ABTBを青色にする(リトマス紙を青色にする)
B酸性という性質を打ち消す
これらの性質は塩基性と呼ばれる。
[2]塩基性を示すのは、塩基が次のように水中で電離して生じる水酸化物イオンである。
  水酸化ナトリウム   NaOH ―→ Na+ + OH-
               ナトリウムイオン 水酸化物イオン
  水酸化カルシウム   Ca(OH)2 ―→ Ca2+ + 2OH-
                    カルシウムイオン
  アンモニア水     NH3 + H2O ―→ NH4+ + OH-
                    アンモニウムイオン
 したがって
    塩基:水の溶けて水酸化物イオンを生成する物質
である。なおアンモニア分子には水酸基 OH がなく、水と反応して水酸化物イオンを生
成する。

                  - 7 -

成する。

[c]中和反応と塩(えん)
[1]実験1では、どの塩基も酸性を打ち消し、どの酸も塩基性を打ち消すことを確認し
た。それは次の反応に依っている。
    H+ + OH- ―→ H2
水素イオンは酸から生じ、水酸化物イオンは塩基から生じるので、全体としては酸と塩基
が反応することになる。これは中和反応と呼ばれる。
[2]それでは中和反応を普通の反応式で書いてみよう。
    HCl + NaOH ―→ H2O + NaCl
                   塩化ナトリウム
    H2SO4 + 2NaOH ―→ 2H2O + Na2SO4
                       硫酸ナトリウム
    HCl + NH3 ―→ NH4Cl
             塩化アンモニウム
    CH3COOH + NaOH ―→ H2O + CH3COONa
                        酢酸ナトリウム
アンモニアだけが注意を要する。
[3]中和反応で水と共に生成する物質は塩(えん)と呼ばれる。塩の種類は多く、この
項では4種が登場した。
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2.酸性の強弱

[a]酸の強弱
[1]酸性が水中の水素イオンによって生じるなら、酸性の強さは水素イオンのモル濃度
に比例すると考えられる。
 ここでモル濃度とは
    溶液1Lあたり、物質(溶質)が何mol溶けているか
であり、単位は[mol/L]である。そして[mol]というのは物質量の単位であり、
1molとは6×1023 個だけの分子やイオンのことである。
 すぐに納得できないなら次ページの図のように、溶液の体積が同じ2種の水溶液がある
場合、相手に比べて含まれる物質量が1/2ならその水溶液のモル濃度も1/2、含まれ
る物質量が1/10ならモル濃度も1/10である。そして含まれる物質量が同じ2種の
水溶液がある場合、溶液の体積が相手に比べて2倍ならモル濃度は1/2、溶液の体積が
10倍ならモル濃度は1/10である。

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 そして同じ物質量の物質、たとえば3molの物質は、どれでも同じ個数の分子やイオ
ンを含んでいることだけ納得しておこう。
注意:モル濃度が十分に理解できなくても、pHの話は何とかなるでしょう。
[2]演示実験2では、モル濃度が0.5mol/Lの塩酸と酢酸に「電球テスター」を差
し入れたところ、塩酸では明々と点いたが、酢酸ではぼんやりと点いただけだった。
 水素イオンは他のイオンに比べて格段に移動しやく、水溶液の電導度は、主に水素イオ
ンのモル濃度に依存している。
 と言うことは、酸には電離しやすいものとそうでないものがある。塩酸はほぼ100%
電離して、水中に塩化水素分子 HCl はほとんど残っていない。これに対して酢酸は電
離するのは元の酢酸分子の1%程度であり、上の実験では水中の水素イオンのモル濃度は
0.005mol/Lほどである。
 塩酸、そして硫酸のように電離しやすいものは強酸と呼ばれる。これに対して酢酸のよ
うに電離しにくいものは弱酸と呼ばれる。

[b]酸性の強弱
[1]酸性が水中の水素イオンにより、塩基性が水中の水酸化物イオンによるなら、どち
らも存在しないのが中性と言えそうである。確かに大体はその通りである。しかし私たち
はこれを踏み越えねばならない。
 酸も塩基も溶けていない純粋な水は中性とされる。しかし純粋な水も次のようにわずか
に電離している。

                  - 9 -

    H2O ―→ H+ + OH-
そして純粋な水では水素イオンと水酸化物イオンのモル濃度はもちろん同じであり
    10-7 mol/L
というごく小さい数値である。
 これで定義が正確になる。中性とは、水素イオンと水酸化物イオンのモル濃度が等しく、
10-7 mol/Lの場合である。
[2]化学平衡の理論によると、純粋な水でも酸や塩基などが溶けた水溶液でも、水素イ
オンと水酸化物イオンのモル濃度の積は一定である。この積は水のイオン積と呼ばれ、次
の数値になる。
    [H+ ][OH- ] = 10-14   (1)
ここで [H+ ] は水素イオンのモル濃度、[OH- ] は水酸化物イオンのモル濃度を表す。
参考:指数の意味と計算法
   ・10-7 = 1/107 = 1/10000000 > 0
   ・10-1 > 10-2
   ・100 = 1
   ・10-2 ×10-12 = 10-14
 純水に酸を溶かすと [H+ ] は大きくなる。酸性とは、正確には [H+ ] が10-7
mol/Lより大きい場合である。そのとき [OH- ] は10-7 mol/Lより小さい。
 同様に考えると、塩基性とは [OH- ] が10-7 mol/Lより大きく、したがって
[H+ ] が10-7 mol/Lより小さい場合である。
[3]それなら塩基性の強弱も [H+ ] で表せる。たとえば1mol/Lの水酸化ナトリウ
ムを考えてみよう。強塩基で電離度は1だから、その [OH- ] も1mol/Lである。こ
こで水の電離による水酸化物イオンは無視できる量であることに注意しよう。すると関係
式(1)から
    [H+ ] = 10-14 mol/L
である。つまり [OH- ] が1mol/Lの塩基性の強さは、[H+ ] が10-14 mol/L
と表せる。
 酸性、中性、塩基性(液性という)をまとめると次のようになる。
      酸性   [H+ ] > 10-7 mol/L
      中性   [H+ ] = 10-7
      塩基性  [H+ ] < 10-7

[c]水素イオン指数(pH)
[1]話はさらに進む。水素イオンのモル濃度の指数の符合を変えた数値に注目する。こ
れは水素イオン指数と呼ばれ、略してpH(ピーエイチ)と表す。数学的には

                  - 10 -

    pH = −log[H+ ]   (2)
である。
 1mol/Lの塩酸のpHはいくつか。強酸で電離度が1だから [H+ ] も1mol/L
である。これは指数を使って100 mol/Lと表せるので、そのpHは0である。それで
は0.1mol/Lの塩酸のpHはいくつか。この [H+ ] は0.1mol/Lである。これ
は10-1 mol/Lだから、pHは1である。中性はpHが7である。そして1mol/L
の水酸化ナトリウムは、上で計算したように [H+ ] が10-14 mol/Lだから、pHは
14である。
 pHは1ずれると、水素イオンのモル濃度が10倍違うことに注目しよう。
[2]このことは、水素イオンのモル濃度の「桁」に注目しようと言うのである。化学で
はモル濃度が2倍、3倍となってもあまり影響がなく、10倍、100倍、つまり桁が変
化するようになってやっと大きな影響があることも多いからである(だから中性の水素イ
オンのモル濃度も無視できない!)。このことが実感できるようになったら化学の学習も
核心に近づく。
[3]pHを含めて液性をまとめ直してみる。

    

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3.pHと化学反応

[a]pHと化学反応
[1]演示実験3では、紫キャベツの色素の色がpHによって図のように変化した。

    

                  - 11 -

 色の変化は、化学反応で色素の構造が一部変化することによって起こる。つまりこれは
pHによって、物質の反応の仕方が変わってくる事例である。視点を変えると、紫キャベ
ツの色素はpHの判定に利用できる。
[2]実験2では、いろいろなpHの水溶液に、赤紫色の過マンガン酸カリウム
KMnO4 水溶液と無色のチオ硫酸ナトリウム Na223 水溶液を加えると、次のよう
にpHによっていろいろな変化が観察できた。
  pH 0:無色になり、やがて白色に濁る
     2:無色になる
     4:褐色に濁り、一部が沈でんになる
     7:    同上
    10:    同上
    12:    同上
    14:緑色になる
 過マンガン酸カリウムとチオ硫酸ナトリウムは酸化還元反応をする。過マンガン酸カリ
ウムは、含まれる過マンガン酸イオン MnO4- が赤紫色である。そしてpHが0や2の
酸性では、ほぼ無色の2価のマンガンイオン Mn2+ に変化する。pHが4から12の中
性およびそれに近い領域では、褐色の酸化マンガン(W) MnO2 に変化し、これは水に溶
けにくい。pHが14の塩基性では、緑色のマンガン酸イオン MnO42- に変化する。こ
れに対応してチオ硫酸ナトリウムに含まれるチオ硫酸イオン S232- はジチオン酸イオ
ン S462- に変化する。さらにこれとは別にチオ硫酸ナトリウムは、酸性では硫黄が生
成する反応も起こる。硫黄の微粒子は白色である。
 細かい反応の中身を記憶せよというのではない。物質の反応の仕方がpHによって変わ
ってくる典型例と捉えてほしい。教科書などで「酸性の下で」とか、「中性ないし塩基性
の下で」などという記述をときどき目にするのは、pHが物質の反応の仕方に深く係わっ
ていることを示している。
[3]いろいろなpHの水溶液に、過酸化水素水を加えると、pH14の水溶液ではすこ
しだけ泡が発生した。
 これから過酸化水素は、塩基性では分解しやすいことが分かる。消毒薬のオキシフル
(3%過酸化水素)は、リン酸を加えて分解を防ぐ。
 さらに大根の汁を加えると、pHが4から12の水溶液で泡がよく発生した。pH14
の水溶液の泡の発生状態は変わらなかった。
 過酸化水素は次のように分解して酸素を発生する。
    2H22 ―→ 2H2O + O2
    過酸化水素
この反応は触媒として酸化マンガン(W)を加えると促進されることはよく知られている。

                  - 12 -

 生物の体内では代謝の結果として活性酸素が発生し、それを分解する過程で過酸化水素
が生成するため、この分解を促進するカタラーゼという酵素(生体内の触媒)がある。濃
度が高いのはレバー(肝臓)であるが、実験ではにおいを考慮して大根を選んだ。
 カタラーゼはpH4から12で酵素活性を示した。多くの酵素が中性付近で活性を示す
が、胃液に含まれるペプシンというタンパク質を分解する酵素はpH2で活性が最大にな
る。4節では血液の例を学習するが、生体内の反応にとってpHは大切なはたらきをして
いる。

[b]中和滴定
[1]それでは中和が完結する中和点はどのように検出できるだろうか。
 実験3では、塩酸および酢酸水溶液それぞれ10mLを、水酸化ナトリウム水溶液で中
和した。濃度はすべて0.100mol/Lであるので、10mL加えたところが中和点で
ある。ユニバーサル指示薬を加えてpHの変化を追跡し、反応溶液のpHと滴下体積の関
係が図のようになった。

  

このようなグラフは滴定曲線と呼ばれる。塩酸の場合も酢酸の場合も、中和点付近におい
てpHが急激に変化した。1節でも例示したように、それぞれ反応式は次のようである。
    HCl + NaOH ―→ H2O + NaCl
    CH3COOH + NaOH ―→ H2O + CH3COONa
[2]これはpHの定義から納得できるだろう。塩酸の場合で考えてみよう。水酸化ナト
リウム水溶液を9.9mL加えた時点のpHを計算する。塩酸からの水素イオンはあと

                  - 13 -

1/100残っている。体積がほぼ2倍になっていることを考慮すると、そのモル濃度は
次のようになる。
    0.1×(1/100)/2 = 0.0005[mol/L]
これは0.001=10-3 mol/Lと0.0001=10-4 mol/Lの間である。つま
りpHは3と4の間で、ユニバーサル指示薬はまだ赤色のままである。2節[c]項で学
習したように、pHは1ずれると水素イオンのモル濃度が10倍違う数値だからである。
備考:関係式(2)を使うと、pHは3.3と計算される。
[3]酢酸の場合は、弱酸であるため様子が異なる部分もあるが、それでも中和点付近で
はpHの変化は著しい。一般にこのことは、強酸と強塩基、あるいは一方が弱酸か弱塩基
の中和反応について言える。
 ちょっと待て! 弱酸である酢酸は1%程度しか水素イオン(と酢酸イオン)に電離し
ないのではないか(2節[a]を参照)。それは、強塩基である水酸化ナトリウムから生
じる水酸化物イオンが水素イオンと反応して水になるに連れてまた酢酸が1%程度電離し
・・・、こうしてズルスルと酢酸から水素イオンが引き出されてしまう。だから10mL
加えたところが中和点になり、通常の化学量論において問題は起こらないのである。
 しかし最後のすこしの部分についてや、中和点のpHが弱塩基性であることは別の機会
にゆずりたい。
 よく使う指示薬の変色を図に示す。

    

灰色の部分は変色域と呼ばれ、この領域で変色が起こり、他の領域では色の変化はほとん
どない。
 これから塩酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和では、どの指示薬を使ってもよいことが
分かる(チモールブルーについては黄色と青色の変色域を使う)。これに対して酢酸水溶
液と水酸化ナトリウム水溶液の中和では、フェノールフタレインやチモールブルーが適切
であることが分かる。
目次へ

4.酸性雨と血液

[a]酸性雨
[1]石炭の主成分元素は炭素であり、石油や天然ガスの主成分元素は炭素と水素である

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ので、これらを燃焼すると二酸化炭素が発生する。もちろん生物の呼吸によっても二酸化
炭素は発生する。雨には大気中の二酸化炭素が溶け、次の反応
    CO2 + H2O ―→ H2CO3
               炭酸
で炭酸という弱酸が生成し、そのために元来、雨はpHが6くらいの酸性である。一般に
「非金属の酸化物は水と反応して酸になる」ことに注意しよう。
 ところが石炭や石油には硫黄元素も含まれ、燃焼に伴って二酸化硫黄が発生する。そし
て水と次のように反応して亜硫酸が生成する。
    SO2 + H2O ―→ H2SO3
   二酸化硫黄       亜硫酸
亜硫酸は弱酸の中でも強い方であるが、それだけではない。大気中の酸素が太陽からの紫
外線や浮遊微粒子の助けを借りて、亜硫酸を強酸である硫酸に変化させていく。
[2]さらに燃焼では空気を加えるが、空気は高温になるとその成分の窒素と酸素が化合
して一酸化窒素や二酸化窒素が発生する。
    N2 + O2 ―→ 2NO
           一酸化窒素
    N2 + 2O2 ―→ 2NO2
           二酸化窒素
大気中の二酸化窒素は、複雑な反応で強酸である硝酸 HNO3 が生成する。一酸化窒素は
次第に二酸化窒素に変化していく。
[3]化石燃料の大量消費は、硫黄酸化物や窒素酸化物による大気汚染を引き起こす。こ
れはpHが5や4(あるいはそれ以下)の酸性雨をもたらし、コンクリートなどを腐食し、
土壌や湖沼という環境を破壊して森林の立ち枯れや魚類の死滅を引き起こす。また汚染し
た大気を呼吸することで、慢性気管支炎(いわゆる「ぜんそく」)などの健康被害を引き
起こす。
        2000年度の降水のpH(年平均)
    札幌 4.59   仙台 4.93   川崎 4.53
    大阪 4.77   北九州 5.20*   屋久島 4.57
        (*:1999年度  「理科年表環境編」より)
 発生源や防止技術に関しては別の機会にゆずりたい。

[b]血液の緩衝作用
[1]血液のはたらきには体内環境を一定に保つことがあり、そのひとつが緩衝作用であ
る。緩衝作用とは、水素イオンや水酸化物イオンが加わってもそれを消費してpHをでき
るだけ一定に保とうとするはたらきである。

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 正常な血液のpHは7.4(±0.05)であり、pHが6.8から8.0の間を越えると
生命が維持できなくなる。
 血液の緩衝作用は、主に炭酸と炭酸水素イオンによっている。細胞呼吸によって炭酸水
素イオンが産み出されて血液に供給される。これはわずかな水素イオン(10-7
mol/L以下)と次のように反応して、一部が炭酸に変化する。
    HCO3- + H+ ―→ H2CO3   (3)
そして炭酸は肺において次のように分解して二酸化炭素が排出される(肺呼吸)。
    H2CO3 ―→ CO2 + H2
こうして血液には炭酸と炭酸水素イオンがほどよく存在するのである。つまり反応(3)
が一種の定常状態にある。
[2]血液に水素イオンが加わると反応(3)によって消費される。
水酸化物イオンが加わると次の反応によって消費される。
    H2CO3 + OH- ―→ HCO3- + H2
このような緩衝作用によって血液のpHは7.4付近に保たれる。
 過呼吸になると、緩衝作用の一方の担い手である炭酸が多く失われ、それを補うように
反応(3)が進んで水素イオンの濃度が下がり、血液は塩基性になって生命が危険にさら
される。


<BTBの変色について>
 講座の中で硫酸の場合についてBTBが赤みを帯びることが見い出された。その場で試
してみると、濃硫酸では赤紫色になった。参加したある先生の後日のメールによると、
「pHが0より小さい領域では赤みを帯び、強塩基性では青紫色になる。」



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