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[目次]
   はじめに
(1)電場のシミュレーション
(2)結晶CAD
(3)周期表
(4)水ロケとの軌道計算
   まとめ

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                                   林 正幸

パソコンを利用した理科教材づくり

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はじめに
 私が往年の名機PC8801mkUを手に入れたのは1984年のことだった。それ以
前からコンピュータには関心があり、マイコンを自作したりそれにマシン語のプログラム
を入れたりしていた。それはコンピュータに非常な可能性を感じ、理科教師として乗り遅
れるようなことがあってはならないと考えていたからである。しかしそれはハード面から
のアプローチで、しばらくはソフト面は生徒(当時は工業高校に勤務)がプログラムをいじ
くっているのを横目で見て我慢していた。それだけにパソコンを手に入れてからはとり憑
かれたようにプログラムを作った。ただしその道のプロに教えてもらったりどこかの講座
を受けたりすることがなかったので、マニュアルと首っぴきでまったくの我流であった。
何かアイデアがわくと、下手でもなんでもそれを実現しきるまで諦めなかった。作り出し
たら最後、数日ないし一週間はおおげさに言うと寝食を忘れる。たしかにコンピュータは
人間を夢中にさせる魔力がある。現在ファイルに綴じているプログラムは長短まぜて数
10になる。言語にはBASICとマシン語を使っている。
 学校にパソコンが導入されている程度によって、生徒に実習させることができる場合と、
主として教師が教材づくりや演示に使う場合に分かれるが、私は後者の立場で2,3のプ
ログラムを紹介してみる。ただしこれはプログラムのくわしい内容を理解してもらうため
ではなく、コンピュータを使うとどんなことができるのかイメージアップしてもらうため
である。

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(1)電場のシミュレーション
 「いろいろな大きさの電荷(正負とも)を自由に配置した(立体的に)ときの電気力線
が描けたら面白いだろう。」 しかし電気力線そのものは複雑な場合はとても描けそうに
ない。そこで格子点を設けてそこでの電場の方向と大きさを、あちこちの方向を向いたい
ろいろな長さの線分で表現することにした。

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 計算の基礎は単純でクーロンの法則に基づく次の関係式を使う。
    F=kQ/r
ただしあちこちに電荷が存在するとある格子点の電場を求めるのに、ひとつひとつの電荷
についてその大きさと正負および距離からそれによる電場の向きと大きさを計算してそれ
をベクトルとして合成する必要がある。
 膨大な計算だがこれこそくり返しに強いコンピュータ向きの仕事である。それでも複雑
な場合は私のパソコンでは数時間を要した。もっとも寝ている間に計算させ、朝起きたら
「よくがんばったね」とほめてやるのである。こうしてほかでは見当たらない10数種の
電場パターンが作成できる。図−1に4つの例を示す。









                  図−1










・大きさが異なる正負の電荷(負電荷の右に特異点が現れている。)

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・イオン結晶(岩塩型の場合で、中央の陽イオンを外してそのイオンが受ける電場を求め
 ている。)
・平板コンデンサ(少し穴があいていても内部の電場はあまりかく乱されない。)
・球面電荷(理論どおり内部には電場が存在しない。)
 なおこのような計算を実際にすると、自然法則をより深く理解できたり、クーロンの法
則が見事に貫徹されていることが実感できたりして、教師自身にとっても勉強になる。

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(2)結晶CAD
 「結晶構造を立体視する作図をしたい。」
 そのためには左右すこし角度のずれた位置
から見た2つの遠近感のある作図が必要であ
る。苦労したのは図−2のような結晶格子を        図−2
表す6つの定数を直交座標に変換することだ
った。それができれば目の角度は座標の回転
に関する変換式で計算できる。遠近感のある
作図の方も透視図法で簡単にできる。
 結晶格子は64まで重ねることができ(これ以上は細かくなりすぎる)、原子やイオン
などミクロ粒子だけを表示することも、その結合状態まで表示することもできるようにし
た。またこの一対の作図をモニターの画面に赤と青で描くと、色めがねで立体視すること
ができる。
 図−3に4つの例を示す。生徒には2つの作図の中央に下敷きを立て、目を凝らして1
つの図になるように見なさいと指示する。慣れてくると下敷き無しでも見えるようになる。
・塩化ナトリウム(岩塩型)
・ダイアモンド(結合状態)
・アルミニウム(面心立方格子)
・硫化亜鉛(ウルツ鉱型)
 これまではこの種の作図はまれに本に載っているのを利用するしかなかったが、自分で
自由に作図できるのはなかな痛快である。ところが意外にも私には結晶のデータそのもの
があまり見当たらない。とくに分子結晶の情報があれば是非知らせてほしい。

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                  図−3















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(3)周期表
 「周期表の色分けが自由にできたら便利である。」 化学便覧や理科年表の膨大なデー
タを手軽に活用できたら新しい世界が開ける。たとえば周期表を単体の融点で色分けする。
これを色鉛筆で実行しても物質感覚が育まれる。しかしプログラムがあれば手間がかから
ないので、区切り目をあれこれ選んで色分けしてみることができる。こうして得られる物
質感覚はもっとレベルの高いものである。いくつかの性質について、私が合理的であると
思った区切り方(6色に分ける)の例を下に示しておくので利用してほしい。またプログ
ラムがプリントアウトするデータ入りの周期表を図−4に示す。





                  図−4






 ここでデータファイル(パソコンがデータを記録しておくノートのようなもの)の扱い
方が問題になる。私たちのサークル「インテク研」(「情報・技術と教育」研究会)は、
「ストック(保管)用はシーケンシャルファイル(他のひとつはランダムファイルと言わ
れる)で統一すべきである」という見解である。各種のデータが入ったフロッピーディス
クを交流できる体制が整うとたいへん便利であろう。
  単体の融点      〔゚C〕    2500,1100,500,0,160
  単体の沸点      〔゚C〕    4000,2000,1000,500,0
  イオン化ポテンシャル 〔eV〕   12,10,8,7,6
  電気陰性度(ポーリング)      3.0,2.5,2.0,1.5,1.1
  密度         〔g/cm3〕 18,11,6,3,1.5

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  モル熱容量      〔J/mol〕 30,27,26,25,22

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(4)水ロケットの軌道計算
 林ひろたかさん(愛知・長久手高校)と飯田さん(愛知・富田高校)が数10mも上昇
する水ロケットを開発した。あちこちの学校で教材として人気を集めているが、どんな法
則にもとずいて運動しているのかを確認しておきたい。それには軌道計算が実際のデータ
に合うかどうか調べてみれば良い。ところが計算式は微分方程式でしかも代数的な積分が
むずかしい。そこでコンピュータによる逐次計算の登場である。1.5lプラスチックびん
3つで製作したものについてその結果のごくあらましを紹介する。
  水噴射   0.82 s間  最終速度:25.8 m/s  到達高度:9.8 m
  空気噴射  0.33 s間  最終速度:27.8 m/s  到達高度:19.3 m
  慣性上昇  2.44 s間              到達高度:50.5 m
  落下    3.40 s間  最終速度:26.6 m/s
詳細は省くがこれらの計算によって、水の噴射だけでなく空気の噴射も基本的には非圧縮
流体としてベルヌーイの法則が適用できることが結論された。また空気の抵抗係数も始め
の予想よりかなり大きく0.4あたりに見積もるべきであり、最大抵抗はロケットの自重
(2.4N)の6割(1.5N)にも達する。もちろん高校で微分方程式を解かせようと言
うのではない。いくつかの初歩的計算は興味深いものであり、そのベースが得られるので
ある。

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まとめ
 最後にコンピュータについてのいくつかの考えをまとめておく。
 「プログラム学習」的使用は、コンピュータがもの珍しい故に成功しているように見え
ることがあっても、授業の基本形にはなりえない。これは生徒本人が承知してその訓練を
受けようとする場合を除いて、非人間的な面が強すぎる。
 パソコンのオーディオ・ビジュアル(聴視覚的)な機能は利用価値がある。オーディオ
の方は理科にはおかどちがいかもしれないが、ビジュアルの方はアニメーション化により
分かりやすくなる(私は動きが速い本格的32ビットパソコンに期待している)。たとえ
ば分子モデルを回転させるようなことである。
 シミュレーション(模擬的実験)は理科などにとって重要な活用法である。ただし実験

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の工夫ができるものまでプログラム化するのは、自然に対する冒とくとさえ言える。シミ
ュレーションは生徒にプログラムの内容が分かると大きな効果を発揮する。だから少なく
ともその内容を補助的に試してみることができるようなプログラムでありたい。そのプロ
グラムを生徒自身が組めるなら、これは高度な問題演習に相当してたいへんな威力となる。
 データ処理を伴わせる計測機器としての利用もおおいに期待できる。たとえば生徒が発
した音声波形を即座にグラフィックスで画面表示するようなことである。この逆にパソコ
ン制御の装置も製作できる。これらのためにはインターフェイス(パソコンとその他の機
器を接続する仲介装置)を規格化(統一)することが望まれるが、私たちのサークル
「E.H.C.(Electronics Hobby Circle)」もひとつの提案をしている。
 通信手段としても優秀である。図書館やデータベース(コンピュータに対応できる整理
されたデータを管理している基地)にアクセス(データのやり取り)して、検索したり資
料を瞬時に転送させたりできる。
 BASIC,LOGO、マシン語などコンピュータ言語(プログラムを組むときに使う
厳密に定義された用語)を学習するのは意義あることである。私自身がプログラムを作っ
てきて、論理的思考力がずいぶん強くなったと実感している。数学であれだけむずかしい
ことをやるのだから、中学校あたりからプログラミングの勉強をどんどんやれば、もっと
多様な分野に対して問題解決能力の高い生徒が育ってくると思われる。

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