99.12
                                   林 正幸

   比例計算の指導

 これはアルケミスト「メーリングリスト」で送信したメールをすこし手直ししたもので
す。

 比例計算については以前にも書きましたが、もうすこし見えてきたようなので、まとめ
ておきたいと思います。比例概念は微分積分にもつながる重要な概念ですが、そして理科
教師にとっては当たり前に感じるものですが、多くの生徒には理科の学習で最大の壁にな
っています。高校数学では「意外」にも比例概念を教えていません。それは小学校の比例
関係から中学校の正比例の関係式までに教えられます。それがなかなか習得されていない
わけです。どうしたら良いのでしょうか。

 比例概念を正比例の関係式から3つに分けてみました。
    (1)y = kx
    (2)y/x = k = y'/x’
    (3)x= y/k

 ひとつは(2)の関係式で、いわゆる比例関係です。時速4km/hで進む人を考えま
す。1時間に4km進むので、2時間では8kmである。それなら3時間では何km進む
か、という問に
    1[h]:3[h] = 4[km]:x[km]
という比例式を立て(ふつう単位は付けませんが)
    内項の積は外項の積に等しいという「公式」から
      x = 12[km]
と答えます。ここで重要なのは小学校では比は単位を揃えて取っている点です。要するに
正確に言うと
    x/x’= y/y’

                  - 1 -

という関係式を使うのです。これは多くの生徒が習得している唯一の比例概念です。
 しかし私たちが高校で教えたいのは(2)の関係式そのものです。そのために分からせ
るべきは
(a)単位が異なる2つの量の比が一定になっている
(b)その比は割合ないし倍率の意味で分数で表される
(c)分母分子を入れ替えた逆比も同じように使える
の3点です。
いずれも十分に納得させ、よく練習させる必要がありそうです。速度ができるようになっ
たら密度でも平気であるとは行かないのが比例計算です。それぞれに蓄積していって、そ
れがかなりの量になったときにはじめて、応用が利くようになり「単位を見れば分かる」
と言えるようになります。
例題 マグネシウム1gを燃焼させると、酸化マグネシウムは何gできるか。また必要な
   酸素は標準状態で何[l]か。(原子量:O=16 Mg=24.3  答は少数
   2位で)
    まず反応式を書くと
    ( 2Mg + O2 ―→ 2MgO )
    Mg(2)個から MgO が(2)個できることが分かる。
    したがって Mg (1)molから MgO が(1)molできる。
    Mg 1molは(24.3)gであり、
    MgO 1molは(40.3)gであるので
    Mg(24.3)gから MgO が(40.3)gできる。
    当然に反応する Mg の量が大きくなれば
    生成する MgO の量もそれに(比例)して大きくなるので、
    Mg のグラム数と MgO のグラム数の比は(一定)で
    ( 24.3[g]/40.3[g] )になる。
    だから Mg 1gから MgO がx[g]できるとすると
    次の関係式が成り立つ。
    ( 24.3[g]/40.3[g]=1/x )
      x=1.658・・・
                         答 1.66g

                  - 2 -

     (以下略)

 ふたつは(1)の関係式で、いわゆる「当たり量」です。1時間当たりに4km進むか
ら、3時間では、という問に
    4×3 = 12[km]
と掛け算で答えるものです。これはこれでよく訓練しないと習得できない概念です。みっ
つ目と混同して掛けたらよいのか、割ったらよいのか、となります。私は高校時代に近所
の中学生を教えて、ほとほと「分からないんだなあ」と実感した経験があります。とくに
公式主義で頭を鍛えずに答を出させることが横行していますので、事態は深刻と言えます。
1個5円のものを3個買うときに
    5×3 = 15[円]
払うというのは慣れていますが、それと同じだと言って簡単に理解できるものではなさそ
うです。
 私も生徒が分からないとひとつ目の比例関係に逃げて教えますが、当たり量はそれはそ
れとして高校でも引き続き訓練すべき重要な概念です。物理などで公式を使っていかにも
難しい問題が解けているように見えても、砂上の楼閣になっていることが多いと思います。
 これと関連して、当たり量そのもの求めることがあります。たとえばモル濃度を教える
とき、私は
    溶液1[l]当たりに溶質が何mol溶けているかの数値
として、モル濃度は次の公式で計算できる
    モル濃度 = 溶質の物質量[mol]/溶液の体積[l]
とは教えないように、そういう覚え方は避けるように生徒に言います。そしてたとえば2
mol/lは溶液1[l]に溶質2molが溶けているという表現と、溶質2molが溶
液1[l]に溶けているという表現の両方を用いるようにします。これはひとつ目の計算
にとっても効果があると思います。

 みっつは(3)の関係式で、もっとも考えにくい概念です。20kmの距離を時速4
km/hで進むと何時間かかるかという問に
    20/4 = 5[h]
と割り算で答えるものです。これは比例概念が習得できていない高校生には遠いゴールで

                  - 3 -

す。私としては、未知数を使う方程式は中学校でかなり訓練されているので、ひとつ目の
比例関係に逃げて切り抜けてしまうことが多くなります。

 最後に公式もときに利用するという話です。生徒は前に学習した比例概念をあいまいな
ままに次のものを学習することになるのが現実です。たとえばモル濃度では物質量が使い
こなせる必要があります。しかしいちいち復習していては混乱するばかりです。こんなと
きに前のものは公式を利用して計算させ、本題の比例概念の形成を図ります。
問1 次の計算をせよ。
(1)略
(2)0.5mol/lのショ糖水溶液を250ml作りたい。ショ糖を何g準備すればよ
   いか。(C12H22O11=342)
    水溶液を1[l]=1000ml作るにはショ糖が0.5mol必要
    250mlでは
      1000[ml]/0.5[mol] = 250/x
        x=0.125[mol]必要
    ショ糖0.125molは
      0.125×342=42.75[g]
                    答 42.75g
参考:物質量[mol]の復習をしておこう。
   ・物質量が等しいとは、「物質をつくる粒子」の個数が等しいことである。
   ・物質量は、質量[g]を分子量(式量)で割って求められる(n=w/M)。
   ・質量は、物質量に分子量(式量)を掛けて求められる(w=nM)。

 いずれにして比例概念は習得に手間がかかるものと心得て、一段ずつていねいに教えて
く必要があると考えます。

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