99.8.3〜4
科教協山梨大会化学分科会
林 正幸(愛知・高校)
「授業プリント」を作って
昨年のレポート「思考を引き出すための断片」に続いて、同じくテーマは生徒の思考を
引き出すことである。生徒が書いた「授業ノート」を引用しながら、そのための「授業プ
リント」づくりの視点を探ってみた。
A 板書から「授業プリント」へ
昨年は転勤早々で、板書を中心に授業展開していた。しかし三学期になって、生徒から
「書くのがたいへん」という苦情が多くなり、私も新しい学校での見通しが立ってきたの
で、「授業プリント」を作成することにした。
これは「穴埋め式」を中心としたプリントで、説明の後にその用語などを答えさせる。
生徒には思考を停止しないように、説明を聴きながら予め自分で記入していこうと呼びか
けている。そしてところどころに生徒に思考させる質問や演習を、章末には宿題を入れて
いる。
生徒の手作業が軽減されて、結果的に生徒が思考しながら授業を聴く余裕ができたよう
である。教科書からの独立性が確保できるので、私が思考させたい項目を選び、それらを
順序よく配列できる。
できた授業プリントはホームページにも掲載しているが、授業実践をしながらどんどん
修正している。今回の資料は1年生の一学期分で次の4章から成っている。
1.元素と原子
2.化学結合と物質
3.物質量と化学反応
4.物質の三態
B 生徒が書いた「授業ノート」から
「授業ノート」は、毎時間順番に1人の生徒にB5の用紙に、「授業内容」「納得した
ことor疑問に思うこと」「感想or知りたいこと」を書かせているものである。
生徒A
「昔の人が、まちがいを恐がらなかったから今の化学があると思った。元素と単体の区別
が少し分かりにくかった。他のテーマについても昔の人の考え方を知りたい。答を知って
いる私が思いつかない考え方をしているのでおもしろい。」
- 1 -
生徒B
「アリストテレスはすごい考え方をしたんだなあと思いました。私はアリストテレスとち
がい、ただ「知っている」だけなので、「知る」だけにならないようにしたいと思います。」
生徒C
「授業で先生が「アリストテレスはいまから2500年前の人だ」と言ったのを聞いたの
で、すごい驚きました。だって、そんな昔の人は、何の技術もないのに、いろいろなこと
を考え出したりして、すごいなあと思いました。それに今日の授業は、ふしぎに思ったり、
すこしおどろいたりして、おもしろかったです。」
生徒D
「メンデレーエフという人は、原子を軽い順にならべ、それで表をつくりすごいと思う。
しかも、昔はだれも知らなかったので感動する。化学が進歩している中、こういった”も
と”がないと化学は進歩していかないのですごいと思う。」
生徒E
「今私たちはラボアジェが発見した、物質が突然誕生したり消滅したりすることがないと
いうことを、あたりまえのように知っているけど、質量保存の法則など学ばなければ気づ
きもしないことを、ラボアジェは自ら発見したなんてすばらしいと思った。」
生徒F
「メンデレーエフさんはすごいと思った。
なんかマジックって言ったら大げさだけど、1時間”ホー”っと納得する授業だった。
元素を覚えるのは苦手だったけど少し興味をもった。」
生徒G
「ドルトンはよくすべての物質は原子と呼ぶ小さい粒からできているということが分った
なあと思った。
化学の進歩はすごいなあと思った。最初、走査型トンネル顕微鏡ってなんだよそれと思
っていたけど、すごいものということが分った。」
生徒H
「どんな原子でも結合できると思っていたが、今日の授業を聞いて18族元素が他の原子
と化合物をつくらないということが分った。
僕は中学時代に、なぜNaのイオンは+、Clのイオンは−なのか分らなかった。だが
今日その謎が解けた。
僕たちは何人かの化学者が何十年を苦労して調べたことを短い時間で全てを知ることが
できるなんて、めぐまれている。」
生徒I
「電子の共有はルイスが描いた図で説明してくれて理解できた。
ふつうの原子は、なぜ希ガスの安定した電子配置になろうとするのだろうか。別に不安
- 2 -
定でも、原子は存在していられるのに?
今日の授業ははやくて少し分かりにくいところがあった。
原子というのは、本当にすごく頭がいいやつだなあと思う。だって、希ガスになるため
にいろいろ工夫できるから。(でも、原子には考える力があるのかなあ?)」
生徒J
「(前略)
どうして非金属どうしでしか共有結合が行われないのか?
そして陰イオンのイオン結合と共有結合の関係は?
引力の発生のナゾ。軌道の輪が大きくなるとなぜ発生するのか?
今日の授業をふくめ、いつも楽しいブレイクタイムがあってうれしいです。今日のはた
またま宿題になったけど、せんす(これは仕掛がすぐにわかってしまったけど・・・)や、
あの貯金箱、虹の見える箱など。いつも不思議に思います。特にあの三角形・・・、どう
なっているのでしょ?
あと昔の人たちは頭よかったのかな・・・どうやったら説明できるとか、どうやってわ
かるんだろう・・・そもそも物質が小さいもののあつまりだとかふつうには考えられない
し、目に見えないから。本当に電子が原子核の周りをまわるとかって、どうして分ったん
だろー!?と思います。やっぱりそれなりの努力があってこそだと思うから、やっぱりえ
らいなぁ・・・と思います。」
生徒K
「中学校の勉強では、ただ暗記するだけだったけど、今日の授業では、暗記ではなく、ど
うしてそうなるか、ということが分かり、化学がもっと追及でき、うれしくなり、また、
不思議に思うこともたくさんありました。」
生徒L
「化学の授業は先生のプリントを使用するので、教科書にはない、より深い意味が理解で
きるのでおもしろいと思う。」
生徒M
「化学結合は原子の最外殻電子に依存していることから、周期表はただ単に並べたのじゃ
ないんだということがわかり、周期表をつくったメンデレーエフはすごいとあらためて思
った。
・太陽電池の中にアモルファスシリコンの固体がはいっていることを知りました。
・ガラスの電導性実験で、熱して電気がとおるなんで、めちゃくちゃびっくりしました。
→どうして通るの?
・どうして金属結合はどうして方向性がないのか。
無定形をアモルファスというけどアモルファスとは英語ですか?
・図を目をよせてみるとき、目がおかしくなった。
- 3 -
・ガラス棒を熱して電気がとおったから、プラスチックなどの物でも熱したらとおるか知
りたいです。
・金属結晶、イオン結晶と、化学には同じような言葉がどんどんでてきて、あらためて、
化学は難しいと感じました。」
生徒N
「変形性のイオン結晶のとき、力を加えると、陽イオンどうし陰イオンどうしになるから
こわれるといったけど、力が強いなら、陽イオンと陰イオン、陽イオンと陰イオンという
ふうに組合せが変化する場合はあるのですか。
やっぱり1時間でも授業を休んでしまうと、次の授業の内容も分けが分らなくなってし
まう。」
生徒O
「液体の種類によって沸点がちがうということが分った・・・。100℃で沸とうするも
のもあれば、−10℃ぐらいで沸とうするものもある・・・。でもマイナスのって、どう
やって沸とうさせるの? 空気中だとダメだし・・・。
もっとたくさんの種類の沸点を知りたいと思った・・・。あと、ほんとにその温度で沸
とうするのか、実験をしてみたいな!!」
生徒P
「同じ原子で構成される単体でも結合の状態によって性質が異なるということの意味が、
同素体を勉強したことで分りました。
・結晶配列の違いを生じる原因は何ですか。
・原子量を、相対質量で求めるならば、1番軽い水素原子を基準にした方がやりやすいと
思ったのですが、なぜ炭素12が基準になっているのですか。
・イオンの式量を求めるとき電子の質量は無視できると習いましたが、本当に全く支障は
ないのですか。
化学の授業は、毎回今まで疑問に思っていたことが理解できたり、新しい知識が増えた
りして、とても楽しいです。特に共有結合を習ったときは驚き、そんなことを思いついた
ことに感心しました。このまま、今まで通り楽しく、分かりやすい授業を進めてほしいで
す。
・電気陰性度の差は何の違いによるものですか。」
生徒Q
「同じ原子からできているものでも、構造のちがいで、かたさが全然ちがうんだなとわか
りました。
原子量や分子量が炭素の12を基準にしていることもわかり、小さい原子、分子でもち
ゃんと質量をはかることができることがわかりました。けどどうして炭素を基準にするの
かなと思いました。
- 4 -
原子とかはとても小さいものだけど、そんな小さな原子でも、いろいろな質量をもって
いるのだなあと思いました。
ダイアモンドと黒鉛が同じ炭素からできているのにはとてもおどろきました。」
生徒R
「・物質量、molの計算の仕方がよく分った。
・mol数とg数の比は一定であるということも納得。
・同じモル数の物質=同じ個数の物質 というもの覚えておくと利用できる。
・(風船で)空気はけっこう重いんだなあ。
計算は、そんなに難しくなかったし、先生の説明も分かりやすくてなんとかできた。
大きくふくらました風船は、手を離すと空気がぬけるごとに、どんどんすごい勢いで
フッ飛んできてこわかった。でも、おもしろかった。」
生徒S
「亜鉛を希硫酸に投入すると、水素が発生して硫酸亜鉛ができるというように、反応式で
これを表したとき、水素が発生すると分らなくても、反応式を見れば、水素が発生すると
いうことが推測できるので、反応式は便利だと思いました。
今まで化学反応式は原子の数がよくわからなくて難しいと思っていたけれど、今回の授
業で、反応式の左辺と右辺の原子の個数の関係が理解できました。
それぞれの反応式を覚えるのは大変だと思っていたけども、ほとんどは物質の化学式を
覚えるだけでいいので安心した。中学校よりくわしく学習して、納得するところがあった
のでよかった。」
生徒T
「(前略)
実験で1[l]のはこにほぼきっかりなのを見て少しおどろいた。
反応量の計算で、[l]の単位が入ってくるとムズカシイ。
基本が大切だと思った。」
生徒U
「注射器で水蒸気をつくる実験で、こんなに簡単に、水蒸気ができるなんてびっくりした。
水蒸気をつくる方法は分ったけど、プリントの中に絵をかいた時、注射器の先に泡とやじ
るしがあったけど、どういうことかわからない。
沸点は大気の圧力によって左右されることも、びっくりした。中学は、沸点とははじめ
から決められているのだと思ったけど、圧力がちがうと、沸点もちがうのは、おどろいた。
中学ではきめられたことだと思っていたことが実は、まだ続きがあって、もっと化学が
深いことにおどろいた。」
生徒V
「洗たくものがなぜ100℃でもないのに乾くなんて、気にも止めたことがなかったので、
- 5 -
そうなっていたのかあと納得しました。
また、注射器の実験でも同じような感想をもちました。普だんなにげなくまわりに起こ
ったり、なっていたりすることの中には、こんなふうになりたっていることもあるんだよ、
ということが分った。
化学の授業をかさねていくにつけて、難しくて、複雑になり、よくわからなくなってき
た。どこがわからないのかもわからないので手のつけようがない。
富士山頂には、富士山を観測するところがあり、人が交たいで住んでいるというのを聞
いたことがあるので、そういう人たちは、レトルトカレーなどを食べるとき、どのように
して、湯が沸騰しているのかを判断しているのかなあと思った。温度計をつっこむとか。」
生徒W
「納得したこと
・細いガラス管に空気を封入するのも、酸素や水素を封入するのも、まったく同じ結果に
なること。
・この世の最低温度が−273℃であること。
疑問に思うこと
・なぜ−273℃であるといいきれるのですか?
精密といってもやっぱり−272℃とか−274℃とかにもなるのでは?
・絶対温度の単位はK(ケルビン)で、ケルビンという人が提案したからケルビンという
単位なのですが、なぜ自分の名前を単位につけたのですか?
感想
・シャルルの法則の実験は、すごく楽しかったです。最低温度がこんなに低いことが分か
り、すごいと思いました。
知りたいこと
・この世の最高温度はどれくらいなのでしょうか?」
C 思考を引き出すための「授業プリント」を
十分な授業プリントが生徒の思考を試験まで先送りさせては逆効果である。思考を引き
出すためのプリントづくりの視点を探ってみた。
(1)まずそれぞれの項目を理解する。
実験や事実から出発するのを基本とし、できるだけモデルやイラストを利用する。認識
や思考はそのようにして確かに発達する。
そして生徒が思考しやすいように、用語を選択し、表現に整合性を持たせるように努力
している。
(2)どうして分かるか、科学はすばらしい。
科学者はそれをどのように発見したのか。科学はそれをどのように理解するのか。科学
- 6 -
的認識のすばらしさが実感できる授業を目指す。
(3)それで納得する、さらに疑問が生まれる。
生徒が関心をもつことの謎解きができる。そしてさらに新しい疑問が湧いてくる。自立
した思考を引き出したい。
(4)知識・理論は、広がり深まっていく。
科学は固定的なものではない。教材を歴史的、発展的に構成する。毎時間が未知だった
世界を発見する授業でありたい。
(5)自然は互いに関連を持っている。
環境問題にも絡みながら、人間の生産活動も含めて、自然の多面的な相互連関を意識さ
せたい。
(6)科学が万能ではない。
持続可能な未来社会は、科学情報を踏まえて、人間がその自由意志で選択する問題であ
る。
最後の2項は、1〜4章ではまだ欠落している、これからの授業プリントに是非盛り込み
たいことである。
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林 正幸と主万子の始めの
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