02.11.30
                                 中科研研修会
                                   林 正幸

  化学平衡の世界

T.実 験

[a]セルロースチューブによる浸透
(1)側面の一方を切ったセルロースチューブを水に浸しながら広げ、しわにならないよ
うに中ぶたに被せ、フィルムケース本体を押し込んで貼りつける。このときケースの口の
内側にワセリンを塗って水漏れが起こりにくくする。
(2)できた容器に1mol/lショ糖水溶液を一杯まで注ぎ、これにガラス管の付いたゴ
ムせんをしっかり押し込む。そしてガラス管を斜め下に向けてケースを押して余分な水溶
液を捨て、その高さがゴムせんから2cmほどになるようにする
注意:フィルムケース内に空気が入らないようにする。
   ガラス管は押し込まない。
(3)300mlビーカーに水を2/5ほど入れ、外を水洗いした(2)のフィルムケー
スを漬ける。このとき一度全体を斜めにして、セルロースチューブ下の気泡が抜けるよう
にする。
注意:ビーカーの底から眺めて確認する。
(4)始めの水溶液の高さに輪ゴムを移動して、水溶液の動きを観察する。
注意:数分しても水溶液が上昇しないときは、セルロースチューブがうまく貼れていない
   ので、器具を交換して最初からやり直す。

[b]フェノールフタレインの合成と変色
(1)乾いた試験管にフェノールと無水フタル酸を耳かき1杯ずついれる。
注意:フェノールは皮膚にやけどを引き起こす
(2)器壁に伝わらないように濃硫酸2,3滴を加える。
注意:試験管の口を指で軽く持って鉛直のなるようにして、口の付近で滴を落下させる。
(3)バーナーのごく小さい炎(1〜2cm)で間欠的に1分ほど加熱する。
注意:温度が上がり過ぎないように、数秒加熱したらその倍くらい炎の外に出す。
(4)赤色になり、それに黒みがかかってきたら加熱を止め、冷える前に水道水を試験管
の7分目まで加える。
(5)これを200mlビーカーに移し、水を加えて約50mlにする。
(6)1mol/l水酸化ナトリウム水溶液を、ガラス棒でかき混ぜながら赤色になるまで
加える。
(7)次に1mol/l塩酸を加えて無色にもどす。

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(8)(6)(7)の操作をくり返す。

[c]お天気ねこ
(1)塩化コバルトの5〜10%エタノール溶液を、モール付き白色スチロール球全体に
染み込ます。
(2)穴につま楊枝を差し、粘土に立てて乾燥する。
(3)糸を穴に接着剤で埋め込み、吊せるようにする。
(4)天気によって色が変化する様子を観察する。

[d]二酸化窒素のアンプル
(1)アンプル用試験管4本を200mlビーカーに入れて準備し、試験管に銅片1枚と
濃硝酸3mlを入れて導管を付け、反応液が泡立つようになったら次々にアンプルに充填
する。
参考:反応が激しくなるのにすこし時間がかかる。
注意:二酸化窒素が排気されるようにする。
(2)底を指で先をピンセットで持って、アンプルをバーナーの小さくて強い炎で封ずる。
注意:アンプルはまわしながら加熱し、すこし引っ張ってくびれさせ、最後はとかして切
   るようにする。
(3)できたアンプルを準備された湯と氷水に交互にくり返し浸けて色の変化を調べる。

[e]ブタンの沸とう
注意:バーナーの炎から離れて実験する。
(1)試験管に小さい温度計を入れ、ノズルを付けたボンベを逆さにしてブタンを数cm
注ぎ込む。
(2)まず沸点を調べる。
(3)次に口を指で押さえて沸とうを止めることができるか。
(4)続いて指を放すとどうなるか。
注意:無理に指で押さえ続けない。


備考:(a)(c)(d)が時間を要する。






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U.私のとらえ方・教え方

A 高校教科書の中での化学平衡
[1]ある温度において反応容器に水素とヨウ素を充填すると、それらが反応してヨウ化
水素が生成していく。その反応速度は次のように水素とヨウ素のモル濃度の積に正比例す
る。
    v1=k1[H2][I2
ところがヨウ化水素が分解するという逆向きの反応も存在し、その反応速度はヨウ化水素
のモル濃度の2乗に正比例する。
    v2=k2「HI]2
 こうして生成速度は次第に小さくなり、分解速度は次第に大きくなるので、長い時間の
後には両方の反応速度が等しくなり、全体としてもうそれ以上変化しなくなる。この状態
化学平衡である。
 そしてこのとき次の関係式が成立する。
  反応式  H2 + I2 ←→ 2HI
  関係式  「HI]2/[H2][I2]= k1/k2 = K
これは質量作用の法則と呼ばれ、K は平衡定数と呼ばれる。平衡定数は温度が一定なら決
まった数値である。
問1 次の反応式で示されるアンモニア合成が化学平衡にある。その質量作用の法則を式
で表せ。   N2 + 3H2 ←→ 2NH3
  [NH32/[N2][H23= K
 化学反応や状態変化は、必ず逆向きの反応や変化が存在するので、濃度温度圧力
いう条件(平衡条件という)を一定にしておくと、やがて平衡状態に到達する。

[2]それでは平衡状態にある化学反応や状態変化の、平衡条件が変化するとどうなるだ
ろうか。そのとき化学平衡は崩れて、どちらかの向きに進行し、やがて新しい平衡条件に
見合ったところで再び平衡状態になる。これは平衡移動と呼ばれる。
 これに対してはルシャトリエの原理が成立する。
  「濃度・温度・圧力などの条件が変化すると
               平衡はその影響を和らげる向きに移動する。」
 温度が一定なら質量作用の法則からも平衡移動の向きは判断できる。
問2 アンモニアを合成するには
   ( 熱化学方程式は N2 + 3H2 = 2NH3 + 92kJ )
(1)高圧がよいか、低圧がよいか。    高圧
(2)高温がよいか、低温がよいか。    低温

[3]以上は高校生に化学平衡を理解させる巧みな演出である。しかし反応速度と化学平
衡はまったく別の次元の概念である。

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 それぞれの物質は自由エネルギーと呼ばれる量を備えている。自由エネルギーは濃度や
温度によって変化する。
 そして(定温定圧系の場合)化学反応や状態変化では、全体の自由エネルギーが小さく
なる向きに進行し、全体の自由エネルギーが極小になるところで停止する。ここで停止と
は平衡状態になることを意味する。自由エネルギーとは化学的な位置エネルギー(ポテン
シャルエネルギー)である。

B 濃度と変化の勢い
[1]私としては化学平衡本来の概念を基本にして教えたい。
 自由エネルギーは高校生には理解できないので、それを「その物質が反応したり変化し
たりする勢いである」と説明する。まとめて変化の勢いという用語を使うことにする。
 ここで濃度の意味を深める必要がある。素朴には濃度は成分の割合を表すと受け取られ
ている。しかし濃度のより本質的な意味は「注目する物質の詰まり具合の程度」である。
高校で扱うモル濃度は「溶液1[l]あたりに注目する物質が何mol含まれるかを示す
数値」であり、その単位は「mol/l]である。モル濃度は密度に近い概念である。
問3 純粋な水のモル濃度はいくらか。
    1[l]= 1000ml = 1000g
             = (1000/18)mol=55.6mol
                    答 55.6mol/l
問4 0℃,1atm(気圧)における水素のモル濃度はいくらか。
    この条件では1molの気体はすべて22.4[l]の体積を占める。
                      (アボガドロの法則より)
    1/22.4 = 0.0446
                    答 0.0446mol/l
 そして「変化の勢いはその物質のモル濃度に比例する」と考えてよい。ここで比例とは
正比例ではなく単調増加するという意味である(実際は自然対数が関係する)。

[2]浸透
  セルロースチューブを挟んで、砂糖水の水分子が透過する変化と真水の水分子が透過
する変化が攻めぎ合う。真水の水分子のモル濃度の方が大きいので、真水の水が砂糖水に
透過する勢いが優る。
問5 氷水に食塩を加えてかき混ぜると、どうして温度が下がるか。
    始めに0℃で水が凝固する勢いと氷が融解する勢いがバランスして平衡状態にあ
    る。これに食塩を加えるともっぱら水に溶解して水のモル濃度を小さくする。
    そのため凝固の勢いが劣るようになり、氷が融解して融解熱のために温度が降下
    する。


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[3]フェノールフタレインの変色
 合成されたフェノールフタレインの構造式は複雑であるが、2価の弱酸と見なせるので
2A と表す。これが水に溶けたときには次のように電離とその逆向きの反応が平衡状態
になり、そのとき水素イオン H+ と A2- イオンのモル濃度はわずかである。
    H2A ←→ 2H+ + A2-
 これに水酸化ナトリウムを加えると、その水酸化物イオンによって次の反応が起こり
    H+ + OH- ―→ H2
水素イオンのモル濃度がさらに小さくなり、電離の逆向きに反応する勢いが劣るようにな
り(2つの物質が係わる変化の勢いは、それぞれの勢いを合計したものになる)、反応は
電離の向きに進行し A2- イオンのモル濃度が大きくなる。そして A2- イオンは赤色を
示し、H2A は無色である。
問6 飽和食塩水に濃塩酸を滴下すると、食塩の雪が降る。そのわけを説明せよ。
    飽和食塩水にさらに固体の食塩を加えても変化しないのでその状態で考えると、
    次のように固体の食塩が電離して溶解する変化とその逆向きに固体の食塩が析出
    する変化が平衡状態にあることになる。
      NaCl(固)←→ Na+ + Cl-
    塩酸を加えるとその塩化物イオンによって塩化物イオン全体のモル濃度が大きく
    なる。そのため固体の食塩が析出する変化の勢いが優るようになる。
[4]お天気ねこ
 錯イオンを含む次の化学平衡が関係する。
   [Co(H2O)6]2+ + 2Cl- ←→ [CoCl2(H2O)2] + 4H2
     赤色               青色
つまり湿度が高くなると左向きの勢いが優って赤色になり、湿度が低くなると左向きの勢
いが劣ってつまり右向きの勢いが優るようになって青色になる。

参考:圧力の影響は結局モル濃度の変化になる。一般に圧力が高いほど物質はよく詰って
   いる。

C 温度と平衡移動
[1]温度も変化の勢いに関係づけることが簡単であれば、どんなに話はすっきりするこ
とだろう・・・。そこで別の手口を使うことにする。
 熱化学方程式を見てみよう。
    2NO2 = N24 + 48kJ
これは二酸化窒素2molが持つ(内部)エネルギーは四酸化二窒素1molが持つ(内
部)エネルギーに48kJを加えたものに等しいという意味である。簡単に言えば、二酸
化窒素の方が四酸化二窒素より大きいエネルギーを持つ物質であるわけだ。
 温度を高くするとは、反応系に熱エネルギーを加えることである。するとエネルギー保
存の法則から、反応系はより大きいエネルギーを持つ状態に向けて変化するはずである。

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つまり温度が高くなるとより大きいエネルギーを持つ物質が生成する向きの変化の勢いが
優るようになるのである。言い換えると「温度が高くなるとより小さいエネルギーを持つ
物質の勢いの方が優るようになる」。(貧乏人は金をもらうと元気が出る!)
[2]BB弾ボックス
 以上のことは「BB弾ボックス」のモデル実験でもイメージアップできる。ボックスを
緩やかに振動させると、多くのBB弾が低い位置に留まっている。そこで振動を激しくす
ると、BB弾が高い位置に移動する。つまり温度が高くなると、平衡はより大きいエネル
ギーを持つ物質が増える向きに移動する。ただしこのモデル実験の限界は、いくら激しく
振動しても高い位置のBB弾と低い位置のBB弾の比が1:1以上にならない点である。

[3]二酸化窒素のアンプル
 アンプルの中では次の化学平衡が成立している。
    2NO2 ←→ N24
湯に漬けると、四酸化二窒素が変化する勢いが優るようになり、二酸化窒素のモル濃度が
大きくなる。そして二酸化窒素は赤褐色であり、四酸化二窒素は無色である。
問7 試験管の底に少量の塩化アンモニウムを入れ、水で湿らせたpH試験紙を内壁に貼
り、水平にして加熱すると、始めアンモニアによって試験紙が紫色になって移動し、続い
てそれを追いかけるように塩化水素によって赤色に変色する。次に示す塩化アンモニウム
の分解反応は発熱反応か、吸熱反応か。
      NH4Cl ―→ NH3 + HCl
    温度を高くすると分解するということは、そのとき塩化アンモニウムが反応する
    勢いの方が優ったわけであるから、この物質が持つエネルギーの方が小さい。だ
    から塩化アンモニウムは不足するエネルギーを吸収するとアンモニアと塩化水素
    に分解できる。
                    答 吸熱反応
[4]ブタンの沸とう
 ブタンが試験管から抜けていくのを放置すると、平衡状態に到達せず沸とうが最後まで
進行する。そして指で押さえてブタンを試験管の中に閉じこめて閉鎖系にすると、平衡状
態が実現して沸とうが停止する。
 このように物質が失われ続けたり逆に物質が増え続けるような開放系では、化学平衡は
成立しないのである。

備考:授業では質量作用の法則が導けるように、変化の勢いをもう少し定量的に扱ってい
   る。


参考:私のホームページのURLは次のようです(昨年と変わっています)。
     http://www.water.sannet.ne.jp/masasuma/

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