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99A−196
差出人:林 正幸
送信日:00年1月23日
件 名:蛍光についての情報をありがとう
こんにちは、林です。
昨日は、すでにメールで書いた日本化学会「年会」での講演依頼の、原稿を完成させたりしていました。予稿とアブストラクトを郵送する必要があったのです。私は今までこの種の発表には係わったことがなく、ちょっとばかり時間を掛けました。
さて藤田さん、蛍光についての情報をありがとう。実のところ、藤田さんあたりからの返事を待っていました。しかしやはり難しいのですね。私としては紹介された「けい光現象」という本を読んでみようと思います。
高校生の質問は次のようでした。
<引用>
高校3年生です。実験で無水フタル酸と2-メトキシフェノールの反応をやったのですが、その化学反応式とその反応機構がわかりません。また無水フタル酸とフェノールの反応、無水フタル酸とレゾルシノールの反応も同様にやったのですが、これらの水溶液の色・蛍光と構造との関係がわかりません。
(参考書にも高校生向けのには載ってなく、大学にも行ったのですが調べられませんでした。)
<以上>
1週間ほど悩んだすえに、方向性を示して今後の彼自身の勉強に期待しようと、次のような返事を書きました。
<引用>
フタレイン類に関する質問ですが、あなたが日本化学会編の「楽しい化学の実験室U」を参考に実験したと推測します。念のためコピーを添付しておきますが、そのp45には無水フタル酸とレゾルシノールからフルオレセインを合成するときの反応式が載っています。そしてレゾルシノールをフェノールに換えたときにできるフェノールフタレインと、また2ーメトキシフェノールに換えたときにできるジメトキシフェノールフタレインの構造式もそれぞれp42とp44に載っています。これらを比較すると、どれも同じタイプの反応であることに気付きます。であれば残り2つの反応式も分かります。そうです、無水フタル酸の一方の炭素・酸素二重結合(>C=O この部分をカルボニル基と呼ぶ)の酸素が外れ、空いた炭素の2つの原子価に、ベンゼン環から水素が外れたグループが結合するタイプの反応です。そして外れたどうしで水が生成します。こうしてこれらは、酢酸とエタノールから酢酸エチルを合成する場合のように、脱水反応であり、濃硫酸が反応を促進する触媒として利用されています。
さてあなたは反応機構についても質問しています。これは面白い分野ですが、高校生には難しいと思います。しかしすこしだけ説明してみましょう。無水フタル酸のカルボニル基は炭素原子がすこし正電荷を帯びています。とりあえず、共有結合が持つ極性から理解してもよいでしょう。他方でベンゼン環の水素がヒドロキシル基(−OH)やアミノ基(−NH2)で置換されたフェノール類や芳香族アミンでは、その置換基のオルトとパラの位置の炭素原子がすこし負電気を帯びます。これは「オルト・パラ配向効果」と言われています。こうして両方の部分が結合していくことで反応が始まります。これ以上は、あなたが関心を深めて勉強を続けてくれることを期待します。
もうひとつの質問は分子の発色についてでした。あなたは原子スペクトルの勉強をしたことがありますか。そうであればすこし手がかりがあります。原子核のまわりにはエネルギーレベルが異なるとびとびの電子の軌道があり、低い方からK殻、L殻、M殻と呼びます。水素原子がよく例に出されますが、光や熱のエネルギーを受けてたとえばK殻の電子がL殻に持ち上がります。すると続いてその電子がもとに戻るときに2つの軌道のエネルギー差に相当する色の光を放射します。この色は原子によって決まっており、たとえばナトリウム原子ではオレンジ色です。これがナトリウムの炎色反応の原理です。
さて分子においても、共有結合に伴っていくつかの電子の軌道が生まれるのです。したがって2つの軌道のエネルギー差に相当する色の光を発するわけです。そして、二重結合がひとつおきに連なる結合状態を「共役系」と呼びますが、この共役系では2つの電子の軌道のエネルギー差が小さくなり、それがちょうど可視光線の範囲に入ってくるのです。以上は大ざっぱな話ですが、ある程度イメージが湧いたでしょうか。蛍光については触れません。これ以上の説明はあなたがたとえば上級学校に進んで発見してください。
<以上>
製鉄についてですが、インターネットで検索してみました。東北大のホームページには、高炉での反応として一酸化炭素による還元反応の方が載っていました。そして「直接還元」という用語は、今ではコークスに依らず天然ガスや廃プラスチックで鉄鉱石を還元することに使われていて、かっての意味を調べることができませんでした。
続いて藤田さんの「トイレの汚れは塩基性?」は、物質名が難しいのですが興味深く読みました。
「尿ははじめは酸性で、尿素が分解してアンモニアができると塩基性になる。」
「アンモニアはとくに脳に致命的で、グルタミン酸の生成を阻害する。」
「トイレの汚れには塩基性のクレアチニンや、酸性の尿酸やウロビリンがあり、その洗浄はサンポール(塩酸)のみでは難しい。」
など参考にしたいと思います。ただし
「血清中のクレアチニンの濃度上昇は腎不全の的確な指標になる。」
という意味がよく分かりませんでした。
また「バッテリーが上がる」については、私も生徒から質問されたのですが、本を調べても的確な答は見つかりませんでした。
ではまた。
99A−197
差出人:大久保 和樹
送信日:00年1月23日
件 名:「やまかいの四季」のホームページを開設しました
こんにちは、山梨の大久保です。
遅まきながら、私もホームページを開設しました。とりあえず「やまかいの四季」のホムページと言う名前にしました。以前から出している教科通信を紹介するものです。よろしければアクセスしてみて下さい。
今、科学クラブの生徒達と、蓋をしたビンの中に入れたロウソクが消える原因を調べる実験をしています。このような関係の資料をご存じでしたらお知らせ下さい。
「やまかいの四季」のホームページURLはhttp://www3.ocn.ne.jp/~okubok/ です。
99A−198
差出人:林 正幸
送信日:00年1月25日
件 名:塩化鉛の電解に対する感想など
こんばんは、林です。
大久保さん、やりましたね。さっそくリンクを張りました。これで6名のメンバーがホームページを持つことになりました。メーリングリストと呼応して、掲載された資料をベースにした研究・交流が進むことを期待します。
今夜は、塩化鉛の融解塩電解の実験に対する生徒の感想などを紹介してみます。この実験は随分昔に小野さんに見せてもらったのを、私なりに改訂したものです。
「塩素の臭いがくさかったけど、なまりが大きかったので、なんかうれしくなった。」
「(前略)
鉛ができた時に、なんとなく、”すごい”と思った。
塩化鉛(U)がとけはじめた時の色は、黄色かったのに、加熱を続けると、赤茶色っぽくなった。」
「ガスバーナーで加熱している時プールのにおいでくさかった。」
「始めての〜水溶液以外の電気分解なので、どのような反応が起こるか楽しみだったが、発生した物質から、反応式がだいたい読めた。」
「粉から鉛ができるのがすこいと思った。」
「鉛は金づちでたたくとなぜ展性を示すのか?」
「試験管をくだくなんてびっくりしたけどたのしかった。
本当に塩化鉛は塩素と鉛でできていることがわかった。」
「なぜ塩化鉛がとけたら黒鉛棒を入れるのだろうか。先に入れといたらダメなの?」
「最初、粉だったのに、液体になって、固体の鉛になったにが不思議だった。」
「(前略)
たくさんの塩化鉛をつかったのに鉛が少ししかできなかったことにおどろいた。」
「鉛がバラバラでなく1つにかたまって出て来たのでふしぎに思った。」
「この実験は交流電源ではできない。
塩化鉛が液体になると、なぜ、だいだい色になるのだろうか。
試験管がもったいない。」
「実験成功。
俺、NASAに就職できるって感じ。」
「今日の実験は1つしかなかったので落ち着いて出来た。途中で塩素のにおいがしてきた。
試験管の底に融解した鉛ができているのが見えたので良かった。」
「コンセントから電流を流したので、入れる時や抜くときに怖かった。何をしたら火花が散るのか分からなかたし、ヒューズがあるので試験管を割ったときよりも怖かった。
黒鉛棒を使うということは、黒鉛棒が溶けて鉛になったのかと思う。」
「塩化鉛の加熱を止めたとき、色がとたんに黒→白に変わっているときがすごくキレイだった。
(後略)」
「とにかくとてもくさかった。あんがいと大きい鉛ができたのでよかったと思った。
鉛をかなづちでたたく時なぜだか楽しかった。鉛がうすっぺらくのびた。」
「(前略)
白い粉末の中に鉛が入っているとは思わなかった。」
「(前略)
塩化鉛(U)は粉末なのに熱しただけでとけてしまった。しかも白から黄色にかわった。」
「黒鉛棒を試験管に入れるときに下に長い方の黒鉛棒が下側にくるようにするのはどうしてだろう。
(後略)」
「(前略)
ガラスはすぐにわれてしまったけど、鉛はすごいかたくて、ちょっとびっくりした。また、やりたいと思いました。」
「水の電気分解では、水酸化ナトリウムを入れていたけど、この実験ではそういうものは必要ないのかと思った。」
「塩化物イオンが陽極にひきよせられて、どこにどうやって電子を与えて塩素にもどったかと思った。
PbCl2 ―→ Pb2+ + 2Cl-」
「(前略)
また実験の途中の塩化鉛も、熱していたら黄→赤になったり、黒鉛棒を差し込んだらすぐに黒くなったりしておもしろかった。」
「塩化鉛を電気分解すると塩素と鉛が出来るのはわかったけど、電気分解するときにどうして黒鉛棒というものを使うのですか。」
「鉛がどこから出てきたのか不思議だった。」
ではまた。
99A−199
差出人:藤田 勲
送信日:00年1月26日
件 名:山本さんの「酸と塩基」を読んで(2)
今晩は、埼玉の藤田です。
前回に引き続き、山本さんのHP上のテキスト「酸と塩基」に対するコメントを書きたいと思います。
<その3>「10 塩の加水分解」について
ここで山本さんが教えたいことは何なのでしょうか?率直に言って、今ひとつ山本さんの伝えたいものが見えてきません。
テキストでは炭酸ナトリウムが加水分解してアルカリ性を示す理由を次の反応式で説明しています。
CO3~2- + 2H2O = H2CO3 + 2OH-
これは弱酸の陰イオンがブレンステッドの塩基として働くことを電離平衡から説明したものですね。同様に、山本さんは弱塩基の陽イオンが酸として働くことも一覧表で示してあります。例えば、銅イオンが水中で酸性を示すことは次のように簡便に示すことが可能でしょう。
Cu~2+ + 2H2O = Cu(OH)2 + 2H+
これは簡略化して言うと、「陽イオンは酸、もっとも強い酸が水素イオン」、「陰イオンは塩基、もっとも強い塩基が水酸化物イオン」とも言い換えられると思います。でも、こういう理解がその後の学習にどう生きてくるのか、こういう理解で自然やものがどんな見え方をするのかが、このテキストだけでは伝わってきません。教科書に書いてあることを分かりやすく教えることが山本さんの本意ではないはずですよね。ものや自然の本質的なところを分かりやすく教えるのが本意でしょうから、もう少し山本さんの思いを教えてもらえませんか。
炭酸ナトリウムが加水分解してアルカリ性を示す理由を、弱酸(炭酸)と強塩基(水酸化ナトリウム)から中和で作られる塩だから、強い方の性質が塩に現れる、という便宜的ながら簡便な方法がありますね。山本さんは、炭酸ナトリウムに塩酸を加えて炭酸ガスがでる現象も電離平衡で説明していますが、これも同様に便宜的な説明が可能ですよね。繰り返しになりますが、ブレンステッドの酸と塩基を使って電離平衡で説明する意図はどこにあるのでしょうか。
思いつきですが、私なら海水が弱アルカリ性を示す根拠としてブレンステッドの酸と塩基によるイオン平衡を考えたいと思います。
海水中の主なイオンは次のようになっています。海水はその1kg中に38gという高濃度の塩分を含むために、水和以外にイオン間の静電気的な相互作用が起こりやすく、多くのイオンはイオン対を作って溶けています。次に、Ca2+イオンとCO3~2-イオンの海水中でのイオン対を示しておきます。海水中でイオンは色々なペアを作っていることが分かります。
Ca2+ CO3~2-
自由イオン 89% 自由イオン 8%
CaSO4 10% MgCO3 44%
CaHCO3~+ 1% CaCO3 21%
NaCO3~- 16%
Mg2CO3~2+ 7%
MgCaCO3~2+ 4%
ちょうど水分子が水素結合で小さなネットワーク構造を作っては絶えず壊しているように、イオンも静電気的な引力で会合しては離れるというごく小さなイオン結晶集団を作っているようです。このようなイオンのクラスターは、濃厚な塩類が結晶化して沈殿する前の種結晶になりうるものと思われます。
このため、海水中のイオンの濃度は、イオン対を作っていない自由イオンの実効濃度で表した方が便利な場合があります。この濃度を活量、その比率を活量係数と呼んでいます。活量で表すと、海水中のイオン濃度はマグネシウムイオンや硫酸イオンではかなり小さくなるのが分かります。
イオン濃度(mmol/l) 活量係数 活量(mmol/l)
Na+ 470 0.703 330
Mg2+ 53 0.252 13
K+ 10 0.624 6
Ca2+ 10 0.237 2
Sr2+ 0.09 − − (不明)
Cl- 550 0.630 350
SO4~2- 28 0.068 2
HCO3~- 2 0.504 1
Br- 0.8 − −
CO3~2- 0.3 0.021 0.006
F- 0.07 − −
H2BO3~- 0.02 − −
海水中で加水分解して液性に関与するイオンは何でしょうか。陽イオンではマグネシウムイオンが該当しそうですが、マグネシウムイオンの加水分解定数(酸解離定数)pKはかなり大きく、カルシウムイオン程度です。pHが11以上になるまでアルカリを加えないと、水中のマグネシウムイオンの半分は水和イオンのまま残ることになります。[Mg(H2O)6]~2+イオンは水中では加水分解せず酸性を示さないのではないでしょうか。実際、塩化マグネシウムや硫酸マグネシウムの水溶液はBTB液では緑色を示し、ほぼ中性であろうと思います。山本さんの表ではMg2+イオンは加水分解して酸性を示すように書かれているようですが、妥当な書き方でしょうか。私は疑問に思います。
[M(H2O)6]~2+ =[M(H2O)5OH]~+ + H+
M(U)=Mg pK=11.4〜12.8 (文献で差がある)
Ca 12.7
Ba 13.1〜13.8
Fe 6.74〜10.1
(一価ですがNa 14.5以上)
したがって、海水中の陽イオンは加水分解せず、陰イオンのHCO3~-(CO3~2- とH2BO3~-はごく少量なので今は無視して考える)が関与していることになります。海水中のHCO3~2-イオンの活量は1mmol/lですから、大気のCO2分圧を3.5*10~-4atmとして海水のpHを求めてみます。まず、炭酸ガスの海水中での平衡を考えます。
CO2(g) = CO2(aq)・・@(炭酸ガスが海水中に溶けるときの溶解平衡)
CO2(aq) = K*Pco2・・A 溶解平衡定数K=0.04mol/l.atm (10℃)
(溶解量はヘンリーの法則に従う)
CO2 + H2O = H2CO3・・B 平衡定数K1A=1.8*10~-3
(水中の炭酸ガスの炭酸との平衡)
H2CO3 = H+ + HCO3~-・・C 酸解離定数K1B=2.5*10~-4
(炭酸の第1段の電離平衡)
次に、B式とC式から水中に溶けている炭酸ガスの酸解離定数を求めてみます。
CO2 + H2O = H+ + HCO3~-
K1 = [H+][HCO3~-]/[CO2]・・D
=K1A*K1B
=4.5*10~-7
最後に、D式を書き換えて、K1と[CO2](=K*Pco2)と[HCO3~-]に具体的な数値を入れて[H+]を求めてみます。
[H+] = K1*[CO2]/[HCO3~-]
=(4.5*10~-7)*(0.04*3.5*10~-4)/10~-3
=6.3*10~-9
pH = -log(6.3*10~-9)
=8.2
このPHは実際の海水のpH=8.3前後にかなり近い値です。実際には、水温や塩分濃度の関係でpHは一定にはならないでしょうが、炭酸イオンやホウ酸イオンを考慮すればさらに近くなると思われます。すなわち、海水中の炭酸水素イオンがブレンステッドの塩基として働き、加水分解して海はアルカリ性を示していると言いたいと思います。
HCO3~- + H2O = H2CO3 + OH-
それから、塩の酸加水分解反応もできればケイ酸塩の雨水による加水分解をやって、自然界における岩石の化学的風化作用をとらえなおしたいと思います。苦土カンラン石の加水分解反応と灰長石のそれを示しておきます。
MgSiO4 + 4H2CO3 = 2Mg(HCO3)2 + H4SiO4
CaAl2Si2O8 + 2H2CO3 + H2O
= Ca(HCO3)2 + Al2Si2O5(OH)4
上の式は炭酸より酸性の弱いオルトケイ酸がコロイド状に生じる例であり、下のは カオリナイトという、言わば固体酸が生じる例です。いずれにしても酸性の雨水が岩石を溶かして、水溶性になったマグネシウムイオンやカルシウムイオンが炭酸水素イオンと一緒に硬水として川を下り、海に入って、結果として海はこの炭酸水素イオンの加水分解により弱いアルカリ性を示すに至ったと考えたいと思います。
以上の話は、主にアンドリューズ『地球環境化学入門』(シュプリンガー・フェアラーク東京,1997)をもとにし、他に田中元治『酸と塩基』(裳華房,p220,1981)や松尾禎男『地球化学』(講談社,p121,1989)なども参考にしました。特に、『地球化学入門』は私には大変ためになりました。皆さんもできれば目を通してみてください。
99A−200
差出人:山本 喜一
送信日:00年1月27日
件 名:RE:山本さんの「酸と塩基」を読んで(2)
こんばんは、山本です。
21日から25日まで、金沢で行われていた教研集会に司会として行っていました。理科分科会の話の中心は、『理科教室』に盛口さんが書いていますので、参考にして下さい。一言でいえば、「持続可能な社会をどう作るか」ということです。
ダイオキシンや環境ホルモン、核のゴミ、資源枯渇、温暖化など、人間が生きていけない環境になりつつあります。これを打開する道は、循環型社会を作ることでしょう。そのための理科教育はどうあるべきか。というより、そういう社会を作るには、理科だけでなく、家庭科や保健、社会科などを総合したカリキュラムが必要ではないかという話でした。
ところで、藤田さんから指摘を受けた塩の加水分解について。ここは、私は何のために勉強するのか、目的がつかめていないところです。確かに、ここから海水のpHや、岩石の加水分解につながりますね。これから勉強してみます。
藤田さんのメールで一つ気になるのは、CO2が溶けることによって、海水が塩基性を示すという解説です。CO2が水に溶けたら(どんなに溶解量が少なくても)、酸性になるのではないでしょうか。水が電離することによって生じるH+を、計算に入れていないのではないかと思います。まだ、藤田さんの解説を詳しく理解していませんので、明日、詳しく検討してみます。
では。
99A−201
差出人:藤田 勲
送信日:00年1月28日
件 名:海水中の炭酸水素イオンの電離平衡に関する補足
今晩は、埼玉の藤田です。
山本さん、日教組の教研集会の司会、ご苦労様でした。盛口先生はもちろんですが、山本さんにしろ、林先生にしろ関心事がいつも外の社会に向かって開いているのですね。私は出不精な性格が直らないみたいで、どうもいけません。皆さんの行動力が羨ましいです。
山本さんは「持続可能な社会をどう作るか」というテーマの司会だったようですが、名司会者の山本さんのことですから、有意義な議論ができたことと思います。環境問題に関する山本さんの認識の深さはこういうところでも鍛えられているのですね。それから、林先生の「インターネットと教育」の講演は確か3月でしたね。一般の高校生や主婦の化学に関する質問に、インターネットで答えて交流を深めていくという林先生のやり方は、全く新しい教育的な試みだと思います。この間の蛍光に関する高校生への返事も、よく配慮された丁寧な回答だと思いました。この件に関する先生の並々ならぬ情熱を感じます。今後の発展を期待しています。
ところで、表題の件に関する私の説明が不十分でしたので、少し補足説明をしておきたいと思います。
まず、海水中の炭酸水素イオンの出所ですが、これは前述したように主に岩石の風化に伴って川から運ばれてきます。また、海水中の炭酸ガスの方は、主に大気からの溶解で供給されています。したがって、海は弱酸の炭酸ガスとその塩の炭酸水素イオンが共存した一種の緩衝溶液と考えることができると思います。そのpHは炭酸ガス濃度と炭酸水素イオン濃度で決まるわけです。
CO2 + H2O = H2CO3 ・・@ 平衡定数K1A=1.8*10~-3
H2CO3 = H+ + HCO3~-・・A 酸解離定数K1B=2.5*10~-4
CO2 + H2O = H+ + HCO3~- ・・・・B
HCO3~- + H2O = H2CO3 + OH- ・・・・C
前回はB式の平衡からpHを求めましたが、当然のことながらC式からでも同じ結果になりますね。B式の平衡定数をK1(=K1A*K1B)、C式の平衡定数をK2として、まずこの値K2の具体的な値を求めておきます。
K2=[H2CO3]*[OH-]/[HCO3~-] (分子と分母に[H+]をかけて)
=Kw*[H2CO3]/([HCO3~-]*[H+]) ・・・・D
=Kw/K1B
次に、D式を変形して[H+]を求める式を導いてみます。
[H+]=Kw*[H2CO3]/(K2*[HCO3~-]) (K2=Kw/K1Bを代入して)
=K1B*[H2CO3]/[HCO3~-] ([H2CO3]=K1A*[CO2]だから)
=K1A*K1B*[CO2]/[HCO3~-]
=K1*[CO2]/[HCO3~-]
この式は、結局C式の電離平衡を表したものですね。いずれにしても海は炭酸と炭酸イオンからなる緩衝作用を持つ水溶液だということになります。したがって、程度の差はあれ石灰岩を多く含む地域から流れてくる河川などの天然水も、緩衝作用を多少とも持つ水溶液だろうと思われます。
天然水のpHは炭酸ガスと炭酸水素ナトリウムイオンの比で決まることになります。今、天然水に飽和している場合の炭酸ガス濃度は、前回のメールから1.4*10~-5モル濃度程度であることが分かります。一方、河川の炭酸水素イオン濃度の実測値は0.18〜3.00*10~-3モル濃度程度ですから、B式から河川のpHを求めてみます。
CaCO3 + CO2 + H2O = Ca2+ + 2HCO3~-
[H+]=K1*[CO2]/[HCO3~-]
=(4.5*10~-7)*(1.4*10~-5)/(0.18〜3.00*10~-3)
=2.1〜35*10~-9
pH = -log(2.1〜35*10~-9)
=7.5〜8.7
風化活動の盛んな堆積岩地域を流れる河川ではカルシウムイオンや炭酸水素イオンの濃度が高く、そのpHも大きくなると言えます。一方、風化しきったカオリナイト系の土壌や風化しにくい花崗岩結晶質岩盤を流れる河川では、カルシウムイオンや炭酸水素イオンは減ってナトリウムイオンが増える傾向にあるようです。
今回のメールの後半は、前回同様ほとんど『地球環境化学入門』を参考しました。因みにこの本の訳者は「化学と教育」誌に関係が深い渡辺正氏です。なお、私は可能な限り引用文献や参考文献をあげています。これは何も私のメールを権威づけようとしているわけでなく、文献の著者に対する当然の礼儀だと思っているのと、皆さんが後で調べる際の手掛かりになると思っているからです。もっとも私のは手に入りにくい古い文献が多いのが難点ですね。新刊本が高いのと、古本に掘り出し物が多い結果です。
99A−202
差出人:林 正幸
送信日:00年1月28日
件 名:「コンクリートが危ない」を読んで
こんばんは、林です。
山陽新幹線の度重なるコンクリート落下事故は記憶に新しいところですが、岩波新書の「コンクリートが危ない」(小林著)を読んでみました。
この本は2005〜2010年の間に橋やビルが一斉に崩れ出す可能性があることを指摘している。東京オリンピックを境に、高度成長の波に乗ってそれまでの数十倍の、粗悪なコンクリートの建造物が建設された。それ以前のものは100年経っても使用できほとんどメンテナンスフリーであるのに、それ以後のものは10年を待たずして破壊が始まる・・・。
コンクリートは、セメントに骨材と呼ばれる岩石材料(全体の70〜80%)と水を加えて練り、それを打って固まるのを待つ。もちろん中には鉄筋を入れる。セメントは、石灰岩と粘土を4:1に混合し、ロータリーキルンで焼成してクリンカーとし、砕いて少量の石こうを加えたものである。セメントは水と反応して徐々に各種の結晶がちみつな組織をつくり骨材と一体化する。
コンクリートは表面からゆっくりと、空気中の二酸化炭素と反応してもとの炭酸カルシウムにもどる「炭酸化」が起きていく。この進行速度がコンクリートの耐用年数を決める。鉄はpHが11.5以上では表面にちみつな酸化被膜ができて腐食反応を起こさない。健康なコンクリートのpHは12〜13である。そして炭酸化が鉄筋に達すると次のように電池を形成してさび始める。
Fe ―→ Fe2+ + 2e-
4e- + 2H2O + O2 ―→ 4OH-
できた水酸化鉄(U)はさらに酸化されて水酸化鉄(V)、含水酸化鉄 FeOOH となり、一部は酸化鉄(V)になる。これによって鉄筋の強度が減少するとともに、生成物の体積が2.5倍になるためコンクリートがひび割れし破壊していく。
この炭酸化は粗悪なコンクリートでは急速に進行する。生コンを打つとき、現場では作業しやすいために水を加えることが日常化しているそうである。水が多いコンクリートは生成する結晶が粗くて、ひび割れを起こしやすくなる。
もうひとつはコンクリートの内部で起こる「アルカリ骨材反応」である。水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような「アルカリ」が異常に高いと、骨材の二酸化ケイ素と反応して水溶性になりコンクリートの強度が減少する。そして体積増加のため、マスクメロンのように表面にひび割れを生じる。
セメントの製法が改良されてかえって一部にアルカリ濃度が高い製品ができるようになってしまった。これは外国でも問題になり、セメントの品質管理が必要である。加えて骨材の方も需要の拡大で、非晶質でアルカリ反応性が高いものが容赦なく使われている。
加えて問題なのは、海砂が除塩することなく骨材として使われる。塩化物イオンは承知の通りに鉄の腐食を促進する。そしてナトリウムイオンの方もアルカリ濃度を高くしてしまう。
以上は化学的な内容だが、さらに単純な手抜き作業の問題がある。阪神淡路大震災はそのことを露呈した。コンクリート打ちを中断したために接合していない柱や、鉄筋を伸ばすときの溶接が不十分な柱がまるでそこで切断されたように破壊した。鉄筋が入れてなかったり、廃棄物が埋め込まれていた例もある。そして校舎などはもっとも手抜きされやすい建物だそうである。
いやはや、情けなくなるような現実ですね。ではまた。
99A−203
差出人:山本 喜一
送信日:00年1月28日
件 名:塩の加水分解について
こんにちは、山本です。
昨日は金沢の疲れが抜けきれず、きちんとしたメールにする気力がありませんでした。改めて藤田さんからの指摘について書いてみます。
(1)加水分解を教える意味
これは、昨日も書いたとおりです。塩の加水分解を教えて何が見えてくるのか、私は分からないまま授業をしています。ですから、藤田さんからのメールは、いわば痛いところをつかれたものでした。ただ「酸と塩基から塩ができたとして、どちらか強い方の性質が塩に残る」という教え方は好きではありません。こういう言い方をすると、生物の遺伝について間違ったイメージを植え付けてしまうのではないかと思っています。
(2)Mg2+の加水分解について
藤田さんの言うとおり、H2Oとは反応しないグループに入れた方が良さそうですね。
(3)海水のpHについて
ここで藤田さんは、CO2が海水に溶けることによってpHが8近くになることを計算しています。でも、空気と平衡にある水のpHは5.7になるはずです。以下、その計算を書きます。なおこの部分は「生徒や教師が抱く意外な疑問」埼玉県高等学校理科研究会化学研究委員会を参考にしました。
二酸化炭素CO2の水溶液中では、次の平衡が存在する。
CO2 十 H2O →← H2CO3
K3 = [H2CO3]/[CO2] …@
H2C03 →← H+ 十 HC03^-
K1 = [H+]・[HCO3^-]/[H2CO3] …A
HCO3^- →← H+ 十 C03^2-
K2 = [H+]・[C03^2-]/[HCO3^-] …B
K1、K2、K3の値は、25℃において、
K1 = 1.2×10^-4(mol/l)
K2 = 4.7×10^-11(mol/l)
K3 = 3.7×10^-3
二酸化炭素の水溶液中では、@、A、Bの関係を満足する濃度のCO2、H2C03、H+、HCO3^-、CO3^2-が存在する。
二酸化炭素の水溶液中では、@、A、Bに加えて以下のC、D、Eの関係が成立している。
[C02] + [H2C03] + [HC03^-] + [CO3^2-] = c…C
(cは二酸化炭素の1リットルの水への溶解度 25℃の空気ではc=1.1×10^-5(mol/l)))
[H+] = [HCO3^-] + 2×[C03^2-] + [OH-] …D
[H+]・[OH-] = Kw …E
(Kwは水のイオン積 25℃ではKw=1.O×10^-14(mol/l)^2
連立方程式@〜Eを解けば各化学種の濃度が求められることになる。@〜Eより、次の式が得られる。
(1/K3+1)[H+]^4 + K1[H+]^3 + {K1K2−K1c−Kw(1/K3+1)}[H+]^2
− (2K1K2c+K1Kw)[H+] − K1K2Kw = 0 …F
Fに、上述のK1、K2、K3、c、Kwの値を代入し、解を求めると、
[H+] = 2.0×10^-6(mol/l)
pH = 5.7
したがって海水のpHが弱塩基性である理由は、CO2が水に溶けることではないと思います。海水にはいろいろなイオンが存在しています。それぞれのイオンの濃度を考慮すれば、pHを計算できるのかも知れません。しかし、イオン種が多すぎて、その計算は困難なのかも知れません。
(4)岩石の加水分解について
ここは不勉強で特にコメントはできません。苦土カンラン石と灰長石の加水分解の化学式は、難解ですね。これをどうやってかみ砕いて高校生に説明するか・・・。勉強します。
では、また。
99A−204
差出人:山本 喜一
送信日:00年1月28日
件 名:塩の加水分解について(2)
「塩の加水分解について」というメールを送りました。これは藤田さんの「海水中の炭酸水素イオンの電離平衡に関する補足」を読まずに書いたものなので、的外れだったようです。海水には空気中からCO2が、岩石からはHCO3^−が供給されてpHに影響を与えているわけですね。それで、藤田さんのメールが理解できました。
なお、金沢で私が司会した分科会は理科分科会でした。では。
99A−205
差出人:林 正幸
送信日:00年1月30日
件 名:アルケ資料を発送しました
おはよう、林です。
昨日、アルケミスト通信2号のための私の資料を宅配便で送りました。前回入れると書きながら、原稿が間に合わずに遅れなかった、私の友人の原さんのすばらしいレポートも含んでいます。7月にメールで本文だけ紹介したものに資料を加えたものです。じっくり読み解く価値があると思います。なお彼が秋の県教研で発表したレポートには一人ひとりの研究報告もありました。量が多いので、こちらは次回のアルケ通信で届けるつもりです。彼は定期試験の50分で研究報告を書かせているのですが、生徒たちの取り組みには、そして彼の実践には感動します。
いま各論の授業プリントを作っています。前にも書いたと思いますが、各論こそは化学教育の視点が問われますよね。現時点で私が整理したのは次の6点です。
1)身のまわりの物質、主要な生産物(製法や用途を含む)
2)面白みがある物質
3)生命、地球、宇宙に係わる物質
4)毒性、環境、リサイクル
5)周期表で整理
6)すでに学習したことの応用
できる限り受験問題からは離れたいと考えています。
そして各論を書きながら皆さんの実践や提起を参考にしています。今日はそのうちの2つを書いてみます。
ひとつは野曽原さんが昨年の科教協山梨大会でレポートした
「ヨウ素は還元剤の検出試薬、ヨウ化物イオンは酸化剤の検出試薬」
です。このバックグランドはヨウ素滴定ですよね。「酸化と還元」の章には、私の流れがあって組み込めないのですが、ハロゲンのところなら話の筋道を付けるのに「持ってこい」です。これまで実験でヨウ化カリウム・でんぷん紙をやっていたのですが、これをヨウ化カリウム水溶液のみを染み込ませたろ紙に変えてすっきりさせ、塩素に触れて赤褐色になって酸化剤の検出ができるとします。そしてヨウ素液(ヨウ素・ヨウ化カリウム水溶液)に亜鉛粉末を加えて振る実験を加えました。赤褐色が消えて、還元剤の検出ができるとします。
もうひとつは藤田さんの1月9日付けのメールの次の部分です。
<引用>
私は、地殻は塩というふうに捉えて、この塩を雨が溶かしたと教えたいと思いま
す。すなわち、大気中の炭酸ガスを溶かし込んだ弱酸性の雨は、長い間降り注ぐこと
によって地殻を構成するアルミノケイ酸塩を加水分解した、と考えます。その結果、
アルミノケイ酸塩から塩基性酸化物が溶け出して海に流れ込み、海は現在のような弱
アルカリ性になったと考えます。そして、塩基性酸化物が抜けた無機高分子の地殻は
やや低分子量のコロイド状のケイ酸や水酸化アルミニウムに変わり、再構成されて一
部アルカリ(土類)金属イオンを吸着して現在のような粘土鉱物(ベントナイトやカ
オリナイト)になった、と考えます。土をこのように捉えると、後のイオン交換作用
が説明しやすくなるように思います。したがって、私は「空気・・酸性、海・・塩基
性、地殻・・中性」という立場です。
<以上>
私としてはこれを二酸化炭素が地球環境に大きな影響を与えていると受け取りました。温暖化だけでなく、こちらに触れることも重要です。ただし以上はまたホームページに掲載するまでには至っていません。
ではまた。
99A−206
差出人:山本 喜一
送信日:00年1月30日
件 名:RE:バッテリーが上がるとは?
こんばんは、山本です。
藤田さんから、バッテリーが上がるとはどういうことかという質問がありました。私なりの考えを書いてみます。検討して下さい。
これはPbやPbO2、H2SO4などが減少(その分PbSO4が増加)したため、得られる電流が小さくなると同時に、起電力が低下するということではないでしょうか。
大まかにいって、電池の起電力は反応物として何を使うかによって決まります。そして、電流は反応物どうしがどれくらいの反応速度で反応するかで決まります。しかし、電圧と起電力には切っても切れない関係があります。つまり、流す電流が大きくなればそれだけ起電力が低下するという減少が見られるのです。この辺の話は97年3月あたりのメールを参考にして下さい。
さて、バッテリーの場合、放電が進むと正極、負極ともPbSO4でおおわれ、PbやPbO2がH2SO4と接触しにくくなるでしょう。そうなると、PbやPbO2に水溶液中のSO4^2−イオンを引き寄せるために余分の電圧が使われると思います。また、放電が進むと水溶液中のSO4^2−が少なくなり、極板から離れたところのSO4^2−を引き寄せなければならなくなります。これも、余分の電圧を食います。バッテリーの起電力が下がる理由は、他にもいろいろあるでしょう。でも、私はこのようにイオンの拡散に電圧の一部が使われることによる起電力の低下が大きいのではないかと思っています。
似たような例として次のようなことがあげられます。
・1.5Vの乾電池を8個直列にすると12V。でも、これで車のセルモーターを回すことはできません。大きな電流を流そうとすると起電力が降下するためです。これも、電池内でのイオンの拡散が追いつかなくなるために大きな電流が得られず、電圧も下がってしまうことに起因します。
・くだもの電池を何個直列につなげても、100V用の電球はつきません。これも同じ理由です。
藤田さんや林さんがどこまで調べているのか分かりませんので、釈迦に説法になっているかも知れません。何かコメントがありましたら、送って下さい。
では。
99A−207
差出人:藤田 勲
送信日:00年1月31日
件 名:「バッテリーの質問」の件
今晩は、埼玉の藤田です。
山本さん、私の「バッテリーが上がるとは?」の質問、覚えていてくれたんですね。林さん以外にこの件に関するコメントがなかったものですから、皆さんから忘れられているものと思っていました。さすがに山本さん、ありがとうございました。
「流す電流が大きくなればそれだけ起電力が低下するという減少が見られるのです。」という所は、硫酸イオンの拡散が律速になって電圧を下げる、つまり電解液の抵抗による電圧の低下(濃度過電圧)という理解でよいのでしょうか。
それでは、冬にどうしてバッテリーが上がるという現象が起きやすいのでしょうか。放電生成物の硫酸鉛は確か硫酸に比較的溶けやすいはずでしたね。古いバッテリーは硫酸濃度が下がっているので、溶液内の放電生成物の硫酸鉛は溶けにくくなってくると想像できますね。溶液内で電気を運ぶ硫酸イオンの減少は、一般的なバッテリーの起電力の低下になるでしょう。冬場にはさらに希硫酸の温度が下がるので、場合によっては電極などに大きな結晶として析出する(一般的にはサルフェーションと呼ぶようです)ことが考えられると思います。こういう結晶は、放電によって電極に析出する硫酸鉛とは結晶構造が異なり、容易に電気分解されず、電気を通さない絶縁物として電極を覆うことになり、電極はその機能を果たさなくなるのでしょう。こうやって、冬にバッテリーが上がるという現象が起こりやすいと考えられると思います。
ソニー中央研究所『ソニー中央研究所』(三田出版、1991,p266)にごく一部記述があったのですが、山本さんの今回のメールも参考にしながら私なりにまとめてみました。メールによる意見交換は刺激が強いですね。調べようという気になります。ご意見をください。
99A−208
差出人:山本 喜一
送信日:00年1月31日
件 名:RE:バッテリーが上がるとは(2)
こんにちは、山本です。
昨日は両極の活物質が減少することによって、電流、電圧とも降下することを書きました。今日は、充放電を繰り返すことによって、なぜバッテリーの性能が落ちるのかということについて書きたいと思います。
私の予想は二つでした。
(1) 充電反応が放電反応の完全な逆反応ではないため。これによって、充電でPbSO4のすべてがPbおよびPbO2にもどらず、一部、他の物質に変わってしまうのではないか。
(2)極板に付着している物質が脱落するのではないか。
こんな予想を立てて、調べてみました。
(1)について
化学大辞典(共立出版)には、充電反応と放電反応がほとんど可逆的に繰り返されるという記述がありました。ですから(1)は、バッテリーが劣化する原因とは言えないようです。ちなみに、ニッカド電池で起こるメモリー効果は、放電反応と充電反応が違うために起こるといわれていますね。ただ、その反応の詳細については分からないようですが。
(2)について
極板の作り方には2種類あるようです。一つはペースト式。これは、鉛−アンチモン合金や鉛−カルシウム合金の枠に、希硫酸でペースト状にした鉛の酸化物を塗りつけたものです。これを陽極で酸化すると正極ができ、陰極で還元すると負極になります。負極は構造上の問題がないため、すべてこの方法で作られています。
もう一つはクラッド式。多孔性のガラス繊維などでチューブを作り、その中央に鉛合金の心金を通します。そして、心金とチューブの間に鉛酸化物をつめて、棒状にしたものです。これを何本か集めて正極にするわけです。これで作った正極は丈夫で、かなり深く放電しても寿命が長いという特徴があります。
というわけで、極板から物質が脱落することが劣化につながる、ということをズバリ書いてあったわけではありませんでした。しかし、正極をクラッド式で作って丈夫になった、ということは、極板からの脱落が防止できたためと考えたのですが、どうでしょうか。さらにクラッド式はペースト式に比べ、鉛酸化物どうしの密着がよいのかも知れません。チューブの中に鉛酸化物を詰め込んでいるわけですから。
99A−209
差出人:山本 喜一
送信日:00年2月1日
件 名:RE:バッテリーが上がるとは(3)
こんにちは、山本です。
尼崎公害訴訟に、画期的な判決が出ましたね。NOxやSPMの大幅な削減に向けて、国や企業は本腰を入れて欲しいものだと思います。
さて、バッテリーが上がることについてですが、藤田さんから新しい情報が寄せられましたので、私なりにまとめてみたいと思います。
(1)性能の落ちたバッテリーがトラブルを起こす
新品のバッテリーは気温が下がっても平気ですよね。ヘタったものが、低温になってまいっちゃうわけです。そこで、バッテリーの性能が落ちるとはどういうことかを考えました。私は、次のような理由で、活物質が減少することだと思います。
@ 活物質(特に正極)が、電極から脱落してしまう。
A PbSO4が、電極から脱落してしまう。
B 活物質と極板との密着が悪くなり、一部が放電反応に参加できなくなる。
C PbSO4と極板の密着が悪くなり、一部、充電されなくなる。
これらは、バッテリーに加わる振動が一番の原因ではないかと思います。それから、おとといのメールでPbSO4がSO4^2−の移動のじゃまになると書きました。それはCが頭にあったからです。つまり、充電反応を受けなくなったPbSO4はイオン移動の妨害になるだけだ、ということです。
(2)活物質の減少したバッテリーは、得られる電流が減少し、起電力も低下する。
これは、藤田さんが言うように、イオンの拡散が律速になるためだと思います。
(3)低温にさらされることの影響
@ バッテリー内の化学反応が遅くなり、得られる電流がさらに減少し、起電力もいっそう低下する。
A 低温では、電気分解を受けにくいPbSO4の結晶が析出する。
バッテリーも化学反応ですから、温度が低くなると反応速度が小さくなるでしょう。ただでさえ活物質が減って、得られる電流が小さくなったバッテリーは、低温の影響で電流がさらに小さくなってしまうのではないかと思います。これらは、あくまでも私の考えですが、いかがでしょうか。
99A−210
差出人:藤田 勲
送信日:00年2月2日
件 名:「バッテリーの質問」の件−その2
今晩は、埼玉の藤田です。
山本さんの「RE:バッテリーがあがるとは(2),(3)」、拝見しました。鉛蓄電池の極板のペ−スト式からクラッド式への技術変化は、確かに正極活物質である二酸化鉛の極板との密着性を狙ったもののような気がしますね。それだけ振動による脱落が起こりやすいと言うことなのでしょう。長寿命化の一つは二酸化鉛の脱着防止にあるようですね。
それにしても現在様々な二次電池が開発されてきているのに、鉛蓄電池発明から100年以上たった今も、こうして車に使われているのはなぜなのでしょうね。結構重いし、廃棄の際には有毒な鉛や鉛イオンが出るわけですから、安くて長持ちということが環境面より優先しているということなのでしょうか。外国でもエンジン起動時はこの電池なのでしょうか。
なお、「1.5Vの乾電池を8個直列にすると12V。でも、これで車のセルモーターを回すことはできません。」という山本さんの指摘はその通りだと思いますが、単三のアルカリ乾電池10本で容量の落ちたバッテリーを充電してからだと、エンジンがかかることがあるそうです。もっともルームランプも消えてしまうほどバッテリーが上がってしまっていてはだめなようですが・・・。この方法をバッテリーにホットでお湯をかけて、バッテリー本体を暖めてから行うと効果抜群(西村昭義『電池の本』CQ出版,1992)だとか。中には、お湯をかけただけでバッテリーが回復してエンジンがかかることもあるようです。お湯は電池内の化学反応を早め、析出した硫酸鉛を溶かしているのでしょうね。
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