差出人:山本 喜一
送信日:97年3月29日
宛 先:野中 林
件 名:電池における電解質の役割について

 林さん、野中さん、今日は。せっかくインターネットを入れたので、化学の話題を交換したいと思っています。今回は電池についての野中さんのアルケ資料に関する事です。実は、私は、この冬休みに、ある実験書の原稿を頼まれて、電池の部分と、化学反応の速さについての実験を書きました。その中で、電池を形成 するのになぜ電解質を含む溶液が必要なのかを述べたのですが、野中さんの電池のイメージとちょっと違うところがあります。私自身の考えを下に書きますが、この説に自信があるわけではありません。もし間違っていたら、今からでも原稿の手直しをしたいと思っていますので、ご意見をお聞かせください。
<電池にはなぜイオンを含む溶液が必要なのか・・・山本の考え>
 亜鉛板と銅板をリード線でつないで、食塩水に浸し、電池を形成したとします。この場合、亜鉛がイオンになって電子を放出し、銅板の表面では、食塩水に溶けている酸素が電子を吸収する反応が起こると思います。
 Zn → Zn2+ + 2e−
 O2 + 2H2O + 4e− → 4OH−
 この反応が進むと、亜鉛板の周りにはZn2+イオンが増加し、銅板の周りにはOH−イオンが増えることになります。そのままでは、亜鉛板のまわりの溶液が+になり、銅板のまわりが−になって、電位が変化し、上の反応は持続しません(従って、蒸留水では電池にならない)。しかし、食塩が溶解していれば、C l−イオンが速やかに亜鉛板のまわりに移動して+の電気を中和し、Na+イオンは銅板の方へ移動して−の電気を中和してくれます。こうして、溶解しているイオンが常に、溶液の電気的な片寄りを解消してくれるので、電池の反応が持続するのだと思います。なお、このとき移動するNa+イオンやCl−イオンは極 板のごく近くにいるイオンで、わざわざ遠くの方から泳いでくるのではなさそうです。亜鉛板で言えば、生じたZn2+に引きつけられるように、ごく近くにいるCl−が移動し、そのCl−が元いた場所にそのとなりのCl−が移動し、そのCl−がいた場所にとなりのCl−が・・・というように、熱運動しながら順々に移動するようです。このイメージは「電子移動の化学」(渡辺、中林著)を読んで、作りました。
 野中さんの資料には、「酸化還元反応によって、導体を流れて、モーターを回す電子を作り出すと考えるより、溶液中にかたよった+イオン、−イオンを作り、これらのイオンが+−を中和しようと移動することで、モーターを回す電子の移動を起こすと考えたらどうだろう。」という部分がありますが、私は上に述 べたように、イオンの移動は溶液中に電気的な片寄りができた結果として起こる現象で、電子を動かす駆動力だとは思えません。電子を動かす駆動力は両物質の電位差であると思います。これは、次のように、電位差(E)がギブスエネルギーの差(△G)と関連づけられていることからも、裏付けられると思います。
 E = △G/nF
 また、野中さんの資料には林さんの説も紹介されていますが、電解質溶液中のイオンに電子をバケツリレーのごとく渡していく、というのはどうなのでしょうか。希硫酸を使ったボルタの電池で考えてみれば、電子はH+に吸収され、その後、となりのH+に電子が移動するのではなく、H2になって溶液から逃げてし まいます。従って、新たにやってきた電子は、極板に新たに近づいてきたH+に吸収されるのではないでしょうか。上の亜鉛と銅を食塩水に浸した電池では、新たにやってきた電子は、溶液中を拡散して、新たに銅板に近づいてきた酸素に吸収されると思うのです。
 以上私の考えを書きましたが、いかがでしょう。電池にはこれ以外にもいろいろな疑問があります。メールを送りますので、いろいろ教えてください。それから、林さんの化学平衡の資料も興味深く読んでいます。「変化するいきおい」という言葉で、化学平衡や三態変化、凝固点降下などを統一的に説明しようという 試みはおもしろいと思います。新年度早々、3年の授業で化学平衡がありますので、今、林さんの説明の仕方の裏付けを得ようと、もう一度熱力学の本を読み返しているところです。こちらの分野でもわからないことがありそうなので、そのときは教えてください。