差出人:林 正幸
送信日:97年4月29日
宛 先:野中 山本
件 名:電池について(その3)
おはようございます、林@愛知です。
すこし時間が空いてしまいましたが、山本さんのつぎに3つのメールに対して意見を書いてみます。
メール1 3月31日 「電池などについて」
メール2 4月6日 「Re:電池について」
メール3 4月17日 「電池について」
#メール2「質問1」の「分極」という用語につて
私は分極という用語を、電気的に中性であたものが、条件の変化で正電気を持った部分と負電気を持った部分が生じるという意味で使いました。確かに「電池の分極」は、正極で水素イオンが反応して水素になった結果逆起電力を生じるような場合に使います。しかし本質的には、亜鉛板が水中で亜鉛イオンと電子に電離するのと同じ反応が起こっています。だからどちらの「電離」と呼んでもいいと思います。このあたりの用語はあいまいに使われているのではないでしょうか。私としては、電極と付近の溶液が異なる電気を持つことを強調するために分極という用語を使いました。ちなみに、このような場合に「電気二重層」ができることも重要です。つまり「分極」した陽イオンと電子がその界面に寄り合った状態を生じます。
#メール2の「質問2」について
これは私の単純なミスです。銅のイオン化は負極ではなく正極で起きます。
#メール2の次に引用する部分について
<山本さんからの引用>
ところで、亜鉛と銅を接触させて希硫酸に入れた場合、なぜ亜鉛が溶ける速度が大きくなるのか、理由をご存じでしたら、教えてください。
先日、学校で鉄と鉛を電圧計のリード線の先につけて、希硫酸中に入れたら、鉄が+、鉛が−で約0.2Vの電池になってしまいました。水溶液を食塩水に換えると、鉄が−、鉛が+で約0.2Vを示しました。食塩水と、希硫酸で鉄と鉛の+、−が逆転したのです。これは、鉄と鉛を希硫酸に入れた場合、鉛の水素過
電圧が大きい(1.0V)ので、鉛では水素が発生しにくく、逆に、水素過電圧の小さい鉄(0.3V)で水素が発生するためでしょうか。
考えられる反応式は
Pb → Pb2+ + 2e−(負極)
2H+ + 2e− → H2(正極)
ただし、正極では
Fe → Fe2+ + 2e−
も同時に起こっているでしょう。
さらに、この場合、鉄が+であると言うことは、ここで鉄が稀硫酸に溶ける速さは、鉄だけを稀硫酸につけたときよりも遅くなっているのでしょうか。鉛の方は、鉄があることによって、稀硫酸に溶ける速さは大きくなっているはずですが。
こんなことを考えていると、2種類の金属を接触させ、水溶液に入れた場合、必ずさびが速く進行するわけではなく、組み合わせられた金属の種類、使う水溶液が酸性か中性かアルカリ性かによって、金属のさびの速さは変わってくるような気がします。
<以上>
いろいろな問題を含んでいるようですが、まず肝心なことを書きます。電解質に硫酸を使う場合は、鉛は単独ではなく、鉛蓄電池のように次の変化で電子を放出していると思います。
Pb + (SO4)2− ―→ PbSO4 + 2e−
この酸化還元電位は
Fe → Fe2+ + 2e−
より高いのでしょう。
次に山本さんがさかんに書いている「水素過電圧」について考えてみます。たとえば0.5mol/l硫酸を電気分解すると、次の反応が起こります。
陽極 2H2O ―→ O2 + 4H+ + 4e−
陰極 4H+ + 4e− ―→ 2H2
電極に酸素と水素が吸着された状態を想定すると
正極 O2 + 4H+ + 4e− ―→ 2H2O
負極 2H2 ―→ 4H+ + 4e−
の反応が平衡状態にあるときの酸化還元電位はおよそ0.68V(水のモル濃度が1mol/lでないので「およそ」とした)だから、理論的にはそれよりすこし高い電圧をかければ、平衡は移動して水素が発生するはずです。しかし目に見えて水素を発生させるためには余分に電圧を掛けなければならない。これが水素過電圧ですよね。要するに陰極の電子密度をさらに過電圧分だけ高くしてやらないと、実質的に水素イオンは電子を受け取って水素になれないということです。
ここで「亜鉛と銅を接触させて希硫酸に入れた場合、なぜ亜鉛が溶ける速度が大きくなるのか」に移りましょう。この場合亜鉛が電離して、その電子は亜鉛と銅の両方に分散します。亜鉛と銅は導体でですから同電位でしたがって両方の電子密度は同じはずでです。その電子を求めて水素イオンがやって来ます。
銅の表面での水素の発生では、そこに水素が吸着された状態を想定します。すると
正極 2H2 ―→ 4H+ + 4e−
負極 Zn ―→ Zn2+ + 2e−
の反応が平衡状態にある時の酸化還元電位は約0.76Vだから、これは銅の水素過電圧0.4Vを越えているので目に見えて水素が発生し、それにつれて亜鉛の電離も起こりやすくなると思います。これに対して亜鉛の表面では同じ反応が考えられ、亜鉛の水素過電圧は0.8Vで越えることができず、水素はほとんど発生しないことになると思います。しかし現実には亜鉛表面からも水素が発生します。それは亜鉛の純度などの問題があるのではないでしょうか。なおボルタの電池の両極に負荷(たとえば電圧計)を入れた場合は、差し引きの0.36V程度の電圧を示すことになります。
#メール1の次に引用する部分について
<山本さんからの引用>
ところで、亜鉛よりも水素過電圧が大きいものに鉛や水銀があります。以前、乾電池に使う亜鉛板に水銀を塗っておいたのは、亜鉛板から水素が発生しにくいように(つまり亜鉛がイオン化しにくいように)しておいたのだと思います。ということは、亜鉛と水銀、亜鉛と鉛で電池を作ったらどうなるのでしょう。学校
に行って、試してみたいと思います。それから、鉄の水素過電圧は0.3Vで、銅よりも小さいのです。でも、鉄も銅と接触させて食塩水の中に入れておくと、早くさびますよね・・・。どういうことでしょうか。私の理解が間違っているのでしょうか。
<以上>
これは私も理解できない内容です。電解質の種類によっても変わるしょうが、水素が発生する反応とは異なるメカニズムで、なにがしかの電池になると思います。とくに鉄と銅を食塩水に入れる場合は、山本さんが3月29日づけで書いたメールにある
O2 + 2H2O + 4e− ―→ 4OH−
という反応が銅の表面で起こり、それが鉄の電離を促進するのではないでしょうか。
#メール3の次に引用する部分について
<山本さんからの引用>
#3マグネシウムと食塩水
鉄とほかの金属が接触していると、速くさびるかどうかを調べようと思い、亜鉛や銅、ニッケル、鉛、マグネシウムなどとともに鉄くぎを、3%食塩水に入れました。すると、マグネシウムと鉄くぎを入れた試験管から、盛んに泡がでてきました。明らかに、マグネシウムが食塩水と反応しているます。しばらくすると、試験管の中が乳白色になるほど、細かい泡をたくさん出して反応しているのです。
<以上>
かつて「水素ペレット」という商品が売り出されたことがありました。食塩水に浸けると水素を発生するのです。そのとき調べた結論は「マグネシウムと鉄の小粒を固めたもの」でした。
負極 Mg ―→ Mg2+ + 2e−
正極 2H2O + 2e− ―→ H2 + 2OH−
沸とう水ならマグネシウム単独でもこの酸化還元反応は起こります。これが鉄の存在で促進されるわけです。そして山本さんが4月20日づけのメールで追記してしているように、硫酸イオンではほとんど泡がでず、塩化カルシウムなどの塩化物イオンがそれを促進しているとなれば、塩化物イオンも触媒になっているのでしょう。私は塩化ナトリウムは単に電解質と考えていました。
ちなみに商品の方は性能がいまいちで、いつの間にか姿を消しました。
#メール1の次に引用する部分について
<山本さんからの引用>
#ボルタ電池におけるH2O2の役目について
野中さんの資料の中に「銅板は、空気中に放置しておけば、表面は酸化されてCuOになる。この酸化された銅板はH2SO4のなかでCu2+になる。Cu2+が電子を受け取ることで・・・」という部分がありますが、CuOは硫酸に溶けなくても、Cu2+とO2−でできていると考えるべきでしょう。これは、
鉛蓄電池のPbO2がPb4+とO2−であるのと同じです。僕は、CuOのように金属元素と非金属元素でできたものはイオン性物質で、CuはCu2+に、OはO2−になっている、そして電子はこのCu2+に入ると説明しています。
それから、H2O2を入れたときの変化ですが、僕も野中さんのように、H2O2を発生するH2を酸化する減極剤だという説明はしないことにしました。この辺も「化学と教育」に詳しく出ていて、それを「理科教室」に書いたのですが、標準電極電位を見てみると、
H2O2 + 2H+ + 2e− = 2H2O (+1.763V)
ですから、電子がH+に入って、いったんH2を作り、それをH2O2が酸化すると考えるよりも、電子はH+よりも電位が高いH2O2に入り込むと言ったほうが、自然でしょう。つまり、酸化剤がH+からH2O2に変わったわけです。
<以上>
過酸化水素と水素イオンが共同で電子を受け取るのが正極での反応とするのは賛成ですが、それに関してH+よりH2O2の電位が高いというのはどういう意味でしょうか。過酸化水素が単独で電子を受け取るわけではないと思います。
それからCuOやPbO2をイオン性物質として扱うのはすこし無理があります。私は過酸化水素と同様に
CuO + 2H+ + 2e− ―→ Cu + H2O
などと教えた方がよいと思います。
あれこれ書きましたが、間違いもあると思います。ご意見をきかせてください。次は新しいテーマにアクセスするつもです。
ではまた。