差出人:山本 喜一
送信日:97年4月10日
宛 先:野中 林
件 名:ボルタ電池の水素過電圧について
今日は、山本です。私は花粉症で痛めた鼻の粘膜に、風邪の菌がとりついたようで鼻水が止まらず、毎日ティッシュペーパーの山を築いています。
野中さん、忙しいのに、本当に長文の引用を送ってくれて、ありがとうございます。ところで、あの引用はどこから取ったのでしょうか。原典を書いてもらうと、もっとうれしかった。というのは、あの文はどこかで読んだことがあるような気がするのです。確か、教科書会社(啓林館?)が持ってくるパンフレットだ
ったような記憶があるのですが、違いますか。ちなみに、あの引用文の最後にあった参考文献1〜4は、私もすべて目を通しました。中でも『電子移動の化学』は、平衡論、反応速度論の両方から電気化学を扱っていて、説明もわかりやすいと思います。林さんはメール(4/9)の中で「$2・・・水素過電圧のような
速度論的要素はどうするのか。」と、書いていますが、前にも書いたとおり、この本の中ではターフェルの式を導き、そこから水素過電圧について説明しています。
ところで、その水素過電圧ですが、2〜3日前、改めてボルタの電池を作って、起電力をはかってみました。はじめ、亜鉛板と銅板をきれいにサンドペーパーで磨き、直流電圧計の+からのリード線に銅板、−のリード線に亜鉛板をつないで、6mol/l硫酸に入れました。電圧計ははじめの一瞬1.0Vを越えま
したが、すぐ下がり、0.9Vふきんで一定になりました。3/31のメールにも書きましたが、ボルタの電池はもっと電圧が下がって、0.3Vくらいになるはずです。しかし、いつまでたっても、電圧は0.9Vで下がる気配がありません。「おかしいな、ずっと前にやったときと違うな」と思って、首を傾げたら、
思い出しました。あのときは、豆電球をつないで、電圧を測ったのです。「豆電球があるときと、ないときでは、電圧が違うのかな」と思いましたが、とにかくやってみました。今度は、亜鉛板に電圧計の−のリード線と豆電球(1.1V用)の片方のリード線をつけ、銅板に電圧計の+のリード線と豆電球のもう一方
のリード線をつけ、稀硫酸に入れてみました。すると、どうでしょう。そのとおり、電圧は0.2Vに下がりました(もちろん、豆電球は点灯しません)。「これで理屈通りだ。」と思ったのですが、「なぜ豆電球をつなぐと、電圧が下がるのだろう」という疑問が起こりました。そこで、豆電球をはずしてみると、なん
と電圧は上がって再び0.9Vを示したのです。「何だこりゃ」と思って、また豆電球をつなぐと、電圧は0.2Vに落ちます。
この日はこれで家に帰ったのですが、ふと思いました。「電圧計と豆電球を抵抗と見なすと、あの場合、二つの抵抗を並列に入れたことになるので、オームの法則で、全体の抵抗値が下がり、電流がたくさん流れる。すると、ターフェルの式から、電極電位が下がって、起電力が落ちたのではないだろうか?。」
次の日、それを確かめるべく、今度は電流計も回路に入れてみました。亜鉛板に電圧計の−のリード線と豆電球の片方のリード線をつなぎ、電圧計の+のリード線には豆電球のもう一方のリード線と電流計の−のリード線とつなぎ、そして、電流計の+のリード線を銅板につないで、稀硫酸につけました(図が送れないので説明がくどくなってしまう)。すると、電圧は0.2V、電流は150mAを示しました。そして、その回路から、豆電球をはずすと、電圧が0.9Vに上がり、電流は予想通り0.5mAに減少したのです。「やった、これぞターフェルの式」と、一人感激しました。ちなみに、ターフェルの式は次の通りです。
i = i0 * exp(αnFη/RT)
i・・・電流密度
i0・・・交換電流密度(平衡状態での電流密度)
α・・・係数
n・・・イオン価数(Cu2+なら2)
F・・・ファラデー定数
η・・・過電圧
R・・・気体定数
T・・・温度
また、この式は次のようにも表すことがあります。
η = a + blog(i)
a、b・・・定数
こっちの方が、過電圧が電流の対数とともに大きくなることがよく分かります。いずれにせよ、流れる電流(i)が大きくなると、過電圧(η)も大きくなる(それだけ電池の起電力が下がる)という式です。
そして、実験をやってみると、この式の意味が理解できるから、不思議です。電流が大きくなれば、それだけたくさんの水素が銅板から発生しているはずで、水素が発生するために、電圧を食うと考えれば、0.9Vが0.2Vに下がることが説明できるからです。豆電球をはずして、電圧計だけにすれば、抵抗が大き
くなって電流があまり流れなくなる。つまり、銅板で発生する水素が少なくなるので、電圧は0.9Vまで上がる。「そういうことだったのか」と、一人で納得し、本で読むだけでなく、実験してみることの大切さを改めて実感したのです。そして、次なる疑問の頭をもたげました。ボルタの電池が電流を流さないときの
起電力は、亜鉛と水素の電極電位の差であれば、なぜ0.9Vもの電圧を示すのかということです。標準電極電位の表を見ると、亜鉛と水素は0.76Vしか差がないのですから・・・。今回使った電圧計は生徒実験用のものなので、今度は物理から高入力抵抗電圧計を借りて、電流が流れない状態で、きちんとボルタの
電池の電圧を測ってみようと思います。
追伸
今日、藤田さんからアルケプレ通信が送られてきました。このメールのやりとりを資料として送り、インターネット仲間を増やしませんか?もっとも、林さんは毎回のようにインターネットについての文を送っていますが。ただ、こうやって実際に議論している資料を見れば、参加したいと思う人が増えるのではないで
しょうか。