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09A−021
差出人:山本 喜一
送信日:09年12月3日
件 名:同素体について
久々に林さんと議論になっていますが、文章でやりとりするのは、なかなかしんどいですね。
なるべくトゲのある表現にならないように、注意しながら書くのは気を使います。もうすぐ安房塾ですから、そこで会って話した方が、お互いに言いたいことがよく分かるかもしれません。でも、乗りかけた船ですから、私の考えを書いてみます。
> 同素体ですが、どう転んでも、どこかで概念の飛躍が求められると思います。山本さん流に、赤リンを混合物ということで同素体から外すと、赤リンは単体ではなくなります(純物質は単体か化合物だから)。
赤リンは混合物でも単体であることに変わりはないと思います。ひとつの元素でできているわけですから。つまり、単体でも同素体が混ざり合ったものは混合物だと思うのです。たとえば、ダイヤモンドの粉に黒鉛の粉が混ざっていたら、これはやはり混合物と呼ぶべきだと思います。それと同じ意味で、赤リンや黄リンは混合物だと思うのです。
> 無定形炭素には−OHや−COOHといった官能基があると言うことですが、それは無定形炭素を C とは異なるある化学式で書けるほどのことはないでしょう。これはどこまで教えるかの問題です。官能基のはたらきが無視できない場面なら炭素の単体そのものではないと言うべきであり、そこまで踏み込まないなら単体の炭素でもよいと考えます。
無定形炭素にはOなどの元素が含まれていると同時に、フラーレンやカーボンナノチューブなどを含む混合物であることが分かったので、教科書では同素体からはずしたのだと思います。
> 学術的には、赤リンを同素体の仲間に入れるとどんな不都合が生じるのでしょうか。
学術的に言えば、赤リンは同素体の定義に当てはまらないと思うのです。いろいろな辞典に同素体は結晶構造が異なる単体であるという定義がのっています。リンの場合、結晶構造が異なるのは白リン、紫リン、黒リンの3つなので、これが同素体だと考えます。私の考えに近い辞典を見つけました。共立出版の「化学大辞典」です。そこには、次のような記述があります。
「リン」の項目
同素体には次のものがある。白リン、紫リン、黒リン。これらの同素体に関連するか、または固溶体といわれるものに黄リン、金属リン、紅リン、赤リン、および、無定型リンと呼ばれる多くの態種がある。
このように、黄リンや赤リンは同素体に入れず、”態種”とされています。なお、この項目の”化学的性質”のところには、白リン、紫リン、黒リンの融点、沸点、溶解度、毒性などはのっていますが、黄リンや赤リンについての化学的な性質はのっていません。
> 単に混合物だからと言うことであれば、ブドウ糖は3種の混合物、そして光学異性体や高分子化合物などはどうするのでしょうか。
ブドウ糖や光学異性体については、異性体の性質が問題になる場面では混合物と考えた方がよいと思います。サリドマイド事件がその象徴だと思います。高分子については、多少の分子量の違いは性質に現れませんので、純物質の仲間でよいと思います。
09A−022
差出人:林 正幸
送信日:09年12月16日
件 名:リンの同素体(その3)
こんにちは、林です。
現在は電飾ばやりで、私にはエネルギー浪費であるという印象がありましたが、1週間ほど前に「なばなの里」(三重県 フラワーパークのひとつ)の電飾を見に行って、感動してしまいました。
0.01℃刻みの温度計はまだやっています。0.5mol/kg食塩水の凝固点降下の計測は、私のやり方ではどうも正確な数値が得られないようです。そこでさらにひと思案したところ、水とベンゼンの凝固点(これは凝固が進行しても基本的に温度は変わらない)だけで校正できることが分かりました。一歩、前進です。
山本さん、現役で忙しい中で議論するのは大変ですか。返事ができなくもあまり気にしないでください。私はメールによる議論は、冷静によく考えて議論できるので、嫌いではありません。
私は、白リンのような純粋なものも、赤リンのような混合物も同素体と呼んではどうかと言いたいのです。混合物ではないはずの純物質の中にも、細かく見れば(レベルを深めて見れば)混合物があります。ブドウ糖を3種の混合物だから純物質でないとするのはおかしなことだと思います。
ではまた。
09A−023
差出人:杉山 剛英
送信日:09年12月21日
件 名:辰砂
杉山剛英@札幌です。
昨年、東急ハンズで辰砂を含む鉱石(握り拳位)を9000円で買ったのですが、1年たつとかなり昇華していました。HgSの結晶がルビーの様に赤く、米粒大位から大きいのは1cmくらいのものが石英や正長石の母岩にはまっていてで結構よいものでした。ただし、1cmくらいの結晶の表面には銀色のHgが析出していました。
調べてみると、HgSは常温で昇華しないみたいなことがあちらこちらに書いてありました。まっ、天然物なので色々化合物の形で混じってると思いますが、今は厚手のポリ袋に入れています。しかし、とにかく綺麗な結晶なので、授業の時に廻して見せています。東急ハンズの鉱物って、だんだん小さくなりますね。5年前と比べて、隕鉄は1/5に、方解石も1/2になってます。
09A−024
差出人:林 正幸
送信日:09年12月27日
件 名:凝固点降下つづき
こんにちは、林です。
杉山 剛英さん、久し振りですね。確かに辰砂(硫化水銀(U))は印肉の朱の主成分ですから、変化しにくいはずですよね。
今年も残り少なくなってきました。全体は一時かたづけバージョンですが、凝固点降下は時間を見つけて取り組んでいます。温度計は回路・校正などが確定して4台製作しました。そして改めて、時間を見つけ家内の協力を得て、計測しています。と言うのは、やはり冷却曲線を描いて凝固点を求めるようにしたため、1人ではできないのです。
新たに2つのことが出てきました。ひとつは0.2mol/kgのベンゼン溶液の凝固点を計測しました。ベンゼンのモル凝固点降下は5.07℃ですから降下度は1.01℃になるのが普通です。
ヘキサン 0.88℃
ナフタレン 0.90
安息香酸 0.50
ヘキサン、ナフタレンの降下度が1割くらい小さいのは気になりますが、安息香酸は期待通り、2分子が水素結合で会合していることが窺えます。
そして0.2mol/kgの水溶液では、降下度は0.37℃になるのが普通です。
エタノール 0.38℃
ブドウ糖 0.35
塩化ナトリウム 0.72
硝酸マグネシウム 0.82
硫酸ナトリウム 0.77
これによると硝酸マグネシウムも硫酸ナトリウムも3つのイオンに電離しているのではなく、次のように書くべきようです。
Mg(NO3)2 ―→ [Mg(NO3)]^+ + NO3^-
Na2SO4 ―→ Na^+ + [Na(SO4)]^-
さらに計測を続けるつもりです。
ではまた。
09A−025
差出人:林 正幸
送信日:10年1月21日
件 名:寒天を使う電気泳動
こんにちは、林です。
先日、先進科学塾の打ち合わせで伊藤さんから電気泳動の相談?を受けたので、そして以前から寒天を使うことを考えていたので、いい機会とやってみました。
1mol/L塩化カリウム水溶液(塩橋に使っていた)5mL、BTB溶液5mL、2%塩化アンモニウム水溶液3mLに水を加えて約50mLとし、加熱して寒天(私は市販の食用のものを使いました)0.5gを溶かします。塩化カリウムは、カリウムイオンと塩化物イオンの導電率がほぼ等しいので使いました。塩化アンモニウムはBTBの色を緑色にするためです。スライドガラス10枚をクッキングペーパーの上に並べ、できた水溶液をかけて固まらせます。両端をアルミ箔で包み、電池006P(9V)2つをつなぎ、3mol/L硫酸を浸ませた糸を中央に置くと、糸から陰極側に黄色のバンドが広がって行きます。電圧は18Vで十分です。電流は約5mAでした。水酸化物イオンの方は、1mol/L塩化カリウム水溶液5mL、フェノールフタレイン0.5mLに水を加えて50mLにします。糸には3mol/L水酸化ナトリウム水溶液を浸ませました。
この実験、もうすこし拡げてみようと考えています。
凝固点降下の方はまだ続きがあります。昨年暮れからまじめに冷却曲線を描いて凝固点を求めるようにしているのですが、これがくせ者のようです。冷却曲線は教科書にあるようにきれいな直線にはなりません。いろいろな傾きがあり、どの傾きで凝固点を求めるかで値が変わってきてしまいます。そしてこれは冷却条件にも依るようです。寒剤の温度を低くした方が、過冷却が早くブレークして計測が楽になります。そしてその場合には、温度が戻るところで短くグラフが水平になります。理論値と比較するとこの値が正しいように思えます。これは私が最初に直感的にやっていた方法で、これなら冷却曲線も要らず、1人でも計測できます。まだ確定的なことは言えませんが(ついトピックを書きたいので・・・)、硝酸マグネシウムも3つに完全に電離しているとしてよいことになりそうです。そして実験はくり返しやらないと、どこに落とし穴があるか分からないと思いました。
ではまた。
09A−026
差出人:林 正幸
送信日:10年1月22日
件 名:電気泳動つづき
こんにちは、林です。
引き続いて、導電率が小さい通常のイオンについて実験しました。やはりそれには倍の36V(電池4つ)が望ましいです。寒天は0.1mol/L塩化カリウムでつくります。
過マンガン酸イオンは色が濃いので、0.01mol/L過マンガン酸カリウム水溶液を糸に浸ませて実験してもよく見えます。濃度が薄いためか糸は色が抜け、赤紫色の細い線になって陽極に移動していきます。銅イオンと鉄(V)イオンは色の移動が見えません。ただし糸から1cm弱のところで陰極から来る水酸化物イオンと出会って反応し、それぞれうす緑色の水酸化銅(U)と、赤褐色の水酸化鉄(V)の沈でんが細い線になって現れます。間接的にはイオンの移動が確認できます。
そこでテトラアンミン銅(U)イオンにして実験すると、これはコバルト色の帯が広がり、そして1cm弱のところで水酸化銅になってせき止められます。
面白いのはチオシアノ鉄(V)イオン [Fe(SCN)]^2+ です。糸から陰極側に2mmほどの血赤色の帯ができますが、それから先は色が消えます。ところが1cm弱のところで水酸化鉄の赤褐色が現れるのです。これは電圧によって鉄(V)イオンとチオシアン酸イオンが引き離され、それぞれ陰極と陽極に向かうためと考えられます。配位子が電気的に中性のアンモニアではこのようなことが起きないわけです。
以上、電気泳動は2日の実験で一応片が付きました。
ではまた。
09A−027
差出人:四ヶ浦 弘
送信日:10年2月1日
件 名:高橋匡之さんが化学教育有功賞を受賞されました
皆さんこんにちは。四ケ浦です。
今日本化学会のホームページを見ていたら、高橋匡之さんが平成21年度の化学教育有功賞を受賞されたことが記されていました。高橋さん、おめでとうございます。同時に安房塾にもよく参加されている埼玉の岩田久道さんも受賞されていました。おめでとうございます。高橋さんは、野曽原さん、杉山さんを囲む会に参加されるようですので、その時に一緒にお祝いをしましょう。
09A−028
差出人:藤田 勲
送信日:10年2月2日
件 名:RE:高橋匡之さんが化学教育有功賞を受賞されました
藤田です。
高橋さん、化学教育有功賞受賞おめでとうございます。今度の「野曽原さん、杉山さんを囲む会」の喜ばしい話題が増えましたね。この賞、アルケのメンバーでは確か四ヶ浦さん、盛口さん、杉山さん(札幌)、それから佐藤さんが受賞されていたと思います(違っていたらごめんなさい)。高橋さんが5人目ですね。多くの人の刺激や励みになるのではないでしょうか。一緒にお祝いをしましょう。
なお、一緒に授賞する岩田さんは、埼玉で私とここのところ一緒に仕事をする機会が多い人です。若いのに大変力のある人で、おそらく埼玉の化学教育の力量を押し上げた人の一人でしょう。これも喜ばしい限りです。
09A−029
差出人:林 正幸
送信日:10年2月2日
件 名:凝固点降下など
こんにちは、林です。
はじめに高橋さん、化学教育有効賞をおめでとうございます。高橋さんのねばり強い実践や地元での活動を考えると、当然のことかと思います。
続いて吉田さん、今日「アルケミストの皆さんへ」を書きました。これをコピーすれば、アルケ通信2号の資料が送れます。
その中にも書いたのですが、1週間前に、7年ぶりに高校で2時間、実験を中心にした授業をしました。SPPで依頼されたのです。相手にしたのはごく普通の高校生たちでしたが、本当になつかしく、また可愛かったです。私は退職のとき、学校現場から距離をおく選択をしましたが、やはり現場もすてきですね。
また凝固点降下の話です。測定をくり返す中で、センサーに個性があり、それと計測装置を一体化しておかないと0.2℃くらいの差が出ることが分かりました。またセンサーは使い始めは抵抗が変動する可能性があるようです。寒剤に何度が浸けるなどの前処理が必要かもしれないのです。やれやれ、こんなわけでなかなかトラブルが解消しません。一歩、一歩、また一歩という感じになっています。
ではまた。
09A−030
差出人:高橋 匡之
送信日:10年2月4日
件 名:RE:「野曽原さん・杉山さんを囲んで飲む会」の詳細について
アルケのみなさん 岩手の高橋です。
さっぱりメールを開いておりませんでした。みなさんお祝いありがとうございます。昨年も推薦されたのですが、昨年はダメでした。今年も推薦していただいたのですが、忙しかったので、昨年と同じ資料を提出しましたが、今度は受賞することになりました。昨年ダメだっただけに、とてもうれしく思っています。3月30日は参加します。みなさんとお会いできることを楽しみにしております。
09A−031
差出人:山本 喜一
送信日:10年2月5日
件 名:岡田さんの分子模型
こんにちは、山本です。
安房塾で岡田さんから紹介された分子模型をさっそくつくって、授業で使っています。発泡スチロールにポリエチレンチューブ(?)をホッとボンドで接着します。チューブは原子の結合の”手”で、Cの球には4本、Hには1本接着します。そして、そのチューブどうしを赤ちゃん綿棒でつないで分子にするものです。
こうすると、CやHがお互いに結合の”手”を出し合って共有結合をつくるようすがうまく説明できます。生徒は往々にして、片方の原子が一方的に”手”を伸ばしてもう一方の原子をつかまえるというイメージで構造式を書いてしまいます。こうすると、Cから”手”が5本も6本も出ている構造式になります。そんなとき、この模型を使うと、それが間違いであることがすぐ分かるわけです。今年は生物の先生に化学の授業を手伝ってもらっているのですが、その先生も岡田さんの模型を使ってうまく説明できたと言っていました。
このメールでは模型がどんなものかイメージがつかめないかも知れませんので、岡田さん、今度の通信に資料を入れていただけないでしょうか。
09A−032
差出人:岡田 晴彦
送信日:10年2月7日
件 名:RE:岡田さんの分子模型
アルケの皆様
山本さん、新しい分子模型を早速利用していただき、ありがとうございます。安房科学塾で紹介した分子模型は、2010年理科教室4月号に「有機化学入門−2種類の分子模型を使用して」として紹介される予定です。これは、有機化学の最初の6時間の授業を紹介したものです。また、今年の夏の科教協大会の化学分科会で「3種類の分子模型を使用した有機化学の授業(仮題)」として化学Tの有機化学の授業全部についてレポートする予定です。新しい分子模型を今年、理科教室や科教協大会で報告しようと計画しています。
09A−033
差出人:藤田 勲
送信日:10年2月12日
件 名:リンのこと
藤田です。
リンの同素体について私も調べてみました。
(1)リンの同素体は白リン、紫リン、黒リンの3つか?
白リンはP4分子の集合体。黒リンはそれを高圧下で熱して生じたシート状分子の集合体。黒リンでは高圧下でP4四面体構造がつぶれ、それが開環・重合してイス型の六角形を基本単位にしたひだ状に折れ曲がったシート状構造に結晶化したらしいです。シート内では各原子は3価の原子価で結合しています。見かけが黒いのは、恐らくはシート内の無数のP原子の、結合に関わっていない3p電子(非共有電子対)が相互作用した結果でしょう。空軌道とのエネルギーギャップは小さく、それが黒リンが色付く原因だと思われます。
事実、黒リンはバンドギャップが小さい半導体です。シート間は弱い分子間力で結合していますが、さらに加圧すると半金属相へて単純立方構造の金属相になり、極低温で超伝導体になるといわれています。
問題は紫リンです。これについては『化学大辞典』(共立、1962年)に確かに記述があります。また、千谷『無機化学』(1959年)にもあるそうです。こっちは職場に置いてあるので確認してません。しかし、いずれも古い記述で、肝心の構造については記されていません。ウィキペディアの記述はほぼこの『化学大辞典』の引き写しですね。また、化学大辞典(東京化学同人、1989年)はもちろんのこと、シュライバー(1996年、原著第2版)やコットン・ウィルキンソン(原著第4版、1987年)にもありません。同素体としての記述があるのは赤リンです。
(2)赤リンは紫リンと白リンの混合物か?
『化学大辞典』(共立、1962年)には紫リンと白リンの固溶体と記載されていますが、ウィキペディアでは混合物となっていますね。固溶体といった場合、私の理解では結晶構造を維持しながら違う元素同士が溶け合っている固体というイメージです。しかし、同素体の場合、同じ元素ですからそういうことはありえないと思います。また、少量とはいえ、もし白りんが混合しているなら、空気中で自然発火する白りんが紫リン中で安定化できる仕組みも理解できません。それと山本さんが言うように、一定の融点を持っている理由も理解できません。
赤リンは前述のシュライバーによると、「通常は無定形固体の状態で得られるが、きわめて複雑な三次元網目構造の結晶性固体をつくることもできる。」とあります。また、コットン・ウィルキンソンには「色及びその他の物理的性質は合成法に依存している。市販の赤リンは、ピラミッド型のリンが無秩序につながったもので無定形である。」とあります。さらに、化学大辞典(東京化学同人)には黄リンから作った無定形のものが加熱温度で正方晶系、単斜晶系、立方晶系に変わることを記した後で、「P4分子の結合の一つが切れ重合した分子を含むと考えられる。」とあります。
ここからイメージできることは、赤リンは反応性の高いP4分子が開環し、その構造を部分的に残しながら重合したひも状分子の集合体ということです。しかし、一部にはシート構造も発達していて、それが赤色の原因と考えることができるかもしれません。要するに、高圧力下できれいにシート状に結晶化したものが黒リンで、熱でランダムに重合したものが赤リンと考えればよいと思います。こう考えると、私にはリンの挙動が何か炭素のそれに似ているような気がします。
「黄リンは白リンの表面が赤リンで覆われたもの」という表現にも疑問があるのですが、それはいずれ書きたいと思います。
09A−034
差出人:藤井 信洋
送信日:10年2月21日
件 名:エステルの合成について
こんにちは。アルケ2年目の藤井@大阪です。
はじめてメールさせてもらいます。一斉に送信する方法がわからず、今回は個別に送らせてもらいました。いつもアルケミストのメールでのお話を少し遅れながら拝見して、先輩の先生方の教材に対する熱心さをつくづく実感させてもらっています。私自身採用2年目で少しずつ生徒に見せるネタが増えてきたというものの、盛口先生の実験書や石川大会で習ったことや、地元大阪化学サークルで澤田先生にえてもらったことを元にまずは“真似をする努力”をしている段階です。一方で少しずつ自分なりのネタも模索しています。
年末に担当している高校2年生を対象に有機化学のエステルの実験を現在の勤務校に伝わる実験書を元に行いました。内容は「10種類のエステルを合成し、香りを比べてみよう」というものでしたが、実際少し甘い香りはするものの、とてもフルーツにはほど遠い匂いのものばかりでした。例えば、スタンダードな酢酸エチルなどは、どうよく評価してもセメダインの匂いにしか感じられません。生徒に模範解答(“酢酸エチルはバナナ”など)を強引に示しながらも、実験提供者として申し訳ない思いが抑えられませんでした。
一通り実験を終わらせた後、2年ほど前に元大学院時代の知り合いからフルーツフレーバーの調香例が載った専門書のコピーをもらっていたことを思い出し、もう一度目を通しました。それは6種類のフルーツフレーバーの調香例が載っている簡単な表で、もらったばかりの時は、「やはりエステルが実際のフレーバーに使われているのだな」と感じただけで、あとは特殊な聞きなれない名前の試薬ばかりであったため、高校の実験では到底無理だとあきらめていました。
しかしまた来年も同じことをすることに嫌気がさし、今年度の残った理科の予算の中からいくつかの高級脂肪酸や高級アルコールを注文し、あるだけの材料でやってみたところ、いくつかは意外にも「それらしい」匂いになったのでした。特にバナナなどは、調香して生徒に嗅いでもらうと、「チョコをつけたくなるぐらいでした」という感想が得られるぐらい、本格的なものでした。
しかしながら、イチゴやグレープなどは主な香りになっていると思われるエステルが合成できず、歯がゆい思いをしています。そこで、以下のエステルの合成法について、いい方法をご存知の方がいらしたらお聞きしようと思い、メールさせてもらいました。
@酢酸とベンジルアルコールから酢酸ベンジルを合成する。
Aアントラニル酸(安息香酸のオルト位に-NH2)とメタノールからアントラニル酸メチルを合成する。
B乳酸とエタノールから乳酸エチルを合成する。
通常のように、カルボン酸とアルコールを混合した液に濃硫酸を加えると、@は激しく煙(水蒸気)を出して反応し、一瞬にして試験管中に固形物(場合によっては全体がドロドロとしたクリーム色の液体)ができてしまい、Aについては、濃硫酸を入れた瞬間に“シュン!”といって反応後も液が二層に分かれず、エステルの生成が確認できない状態になってしまいます。酢酸を無水酢酸にしてみたりしましたが、同様な結果でした。Bもエステル層と水層との間に明確な境界ができませんでした。化学準備室で何度か肝を冷やしました。
あまり特殊で危険を伴う実験は生徒にさせるわけにはいきません。もうこれ以上は手を出さないほうがいいのでしょうか?化学合成の実験書などでいいものがあればご紹介してもらえないでしょうか。一工夫でうまくいくのなら、是非とも5種は本格的な香りを実験室でつくってもらい、生徒を納得させたいと考えている次第です。もう少し完成度を高めてからアルケのレポートにさせてもらおうと考えています。アドバイスをお願いします。
09A−035
差出人:藤田 勲
送信日:10年2月21日
件 名:RE:エステルの合成について
藤田です。
エステル合成で苦労されているようですね。私は酢酸ベンジル、アントラニル酸メチル、乳酸エチルのどれも合成したことはありませんし、実験書は全て学校に置いてありますので、手元にあるもののからの情報だけですが、何かの参考になればと思ってとりあえずお知らせします。
(1)酢酸ベンジルについて
@「塩化ベンジルと酢酸または酢酸ナトリウムとトリエチルアミンより得られる」(東京化学同人『化学大辞典』、1989)
A「@ベンジルアルコールを無水酢酸でアセチル化する。A塩化ベンジルを酢酸ナトリウムによりエステル化する。」(講談社『有機化合物辞典』、1985)
B「@ベンジルアルコールを無水酢酸と少量の無水酢酸ナトリウムでエステル化する。A塩化ベンジルに無水酢酸、無水酢酸ナトリウムを加えて加熱する。」(共立出版『化学大辞典、1961)
これを見る限り、ベンジルアルコールのエステル化には濃硫酸は使わないようですね。脂肪族の単純なアルコールと違ってベンゼン環が付いたアルコールはそのベンジル水素の反応性が高いことが知られています。したがって、濃硫酸を使うとベンジルアルコールからまずこの水素が引き抜かれて酸化や脱水が進み、安息香酸やスチルベンなどが生じてしまい、酢酸との反応は起こりにくいものと思われます。試しにベンジルアルコールだけに濃硫酸を加えてみてください。酢酸が一緒にあった時と同じような反応になるかもしれません。塩化ベンジル(C6H5・CH2Cl)は湿気を嫌いますから扱いにくいでしょう。ベンジルアルコールに無水酢酸(+無水酢酸ナトリム)が良さそうですね。これはすでに試してみたのでしょうか。
残りの2つはまたの機会に。
09A−036
差出人:早し正幸
送信日:10年3月2日
件 名:チンダル現象
こんにちは、林です。
吉田さん、アルケ通信受け取りました。ご苦労さまでした。多様なチャレンジに居ながらにして接することができるのは幸せなことです。
あらためてチンダル現象の実験をしました。現役時代は硫黄のコロイド溶液で見せていましたが、今日は水酸化鉄(V)です。沸とう水300mLに30%塩化鉄(V)水溶液6mLを加えてコロイド溶液をつくりました。ところがレーザー光を当ててもチンダル現象が見えません。濃すぎて散乱が起こり過ぎて光路が見えないのです。30倍に薄めてきれいに見えるようになりました。黒色の実験机の上でビーカーの横からレーザー光を当て、上から見ます。
そこで似た色になる0.2%の二クロム酸カリウム水溶液をつくって試したところ、チンダル現象が見えてしまいます。食塩水に代えて試しても見えてしまいます。水道水でも見えるのです。純水と考えましたが、元が水道水でしょうからやめました。きれいな環境でつくった蒸留水なら別かもしれませんが・・・。試薬だってコロイド粒子を含まないほど純粋かどうか、疑問があります。なお「見えてしまう」と書きましたが、コロイド溶液ほどではありません。
別の視点から考えてみます。きれいな真性溶液では本当にチンダル現象が見えないのでしょうか。光の波長より小さい粒子の散乱はレイリー散乱であり、これは粒子の分極率の2乗に比例します。分極率とは電場を受けたときにどれだけ分極するかの程度であり、粒子が大きいと大きくなる傾向があります。つまり小さい分子では散乱は起こりにくくなります。しかし散乱が起こらないわけではないと思います・・・。
昔はレーザー光はありませんでしたら、それほど気にならなかったのかもしれません。問題は生徒にどう説明するかです。「コロイド溶液では横から光を当てると、その光路がはっきりと見える。」 つまり真性溶液では光路ははっきりとは見えないというニュアンスです。パターン化して教えるなら悩むことはないのですが、実験を伴って教えるなら避けられない課題です。
藤井さん、エステル化触媒に関して、あまり役に立たない情報です。メールを見たとき、大学時代の友人(現在は岡山大の教授)から25年ほど前(昔だなあ)にエステル化で役に立つとある試薬をもらっていたことを思い出しました。それはジメチルアミノピリジンでした。それを使って酢酸と1−プロパノール(エタノールは、MOLの会の会場校に手違いで置いてきてしまった)のエスエル化を試みましたが、うまくいきませんでした。そこで調べてみると、この物質は酸無水物を使うエステル化の触媒であることが分かりました。酢酸ベンジルならうまくできる可能性があります。
ではまた。
09A−037
差出人:山本 喜一
送信日:10年3月3日
件 名:エステルについて
こんにちは。山本です。
私は次の5つのエステルを授業でつくらせています。それぞれの酸とアルコールを2mLずつ試験管にとり、濃硫酸0.5mLを加えてよく振ると加熱しなくてもエステルになります。エステルができたことは、それぞれの試験管に水道水を加えて油のようなものが浮かぶことで確認します。ただ、プロピオン酸も水に溶けにくいのですが・・・。
それぞれのにおいを調べるときは、エステルを短冊形に切ったろ紙にしみこませ、それを鼻の前でパタパタさせて行います。調香師がやるやり方です。生徒はどの臭いも「くさい、くさい」と言いますが、酢酸アミルについては「ああっ!バナナかも知れない」と言います。
@酢酸エチル A酢酸アミル(バナナ) B酢酸イソアミル(なし、リンゴ) Cプロピオン酸エチル(あんず)Dプロピオン酸アミル(パイナップル)
なお、酢酸エチルはセメダインの臭いでよいと思います。臭いは濃いか薄いかによってかなり感じ方が違いますので、濃い酢酸エチルの臭いはセメダイン臭になると思います。
09A−038
差出人:吉田 耕三
送信日:10年3月4日
件 名:RE:エステルについて
おはようございます。事務局の吉田です。本通信を先日遅ればせながら発送しましたので、そろそろ到着しているのではないでしょうか。
藤井さんのエステルについての質問に対して、私の経験を藤井さんだけに返信しようと思っていましたが、メールを開いたら山本さんのメールが入っていましたのでこのメールの返信の形で藤井さんの質問に対する私の考えを述べさせていただきます。
エステルの合成の実験の位置づけについて
まず、10種類のエステルのにおいを1時間の授業時間内でどの果物の臭いか嗅ぎ分けるという計画が無謀だと思います。その理由は次の通りです。
1 人間の嗅覚は視覚や聴覚に比べて非常に鈍感だということ。
2 強いにおいは弱いにおいを打ち消してしまう。
3 果物中に入っているエステルはほんの微量であるということ。
私は高校のエステルの実験では、次のことを理解させることで十分だと思います。
1 酸とアルコールから一般に芳香のある揮発性の物質ができる。
2 その物質をエステルという。
3 酸はカルボン酸・硝酸・硫酸などがあり、アルコールにはエタノール・メタノール・グリセリン・高級アルコール等がある。
4 油脂やサリチル酸メチルもエステルの仲間である。
5 果物や肉がうまいのは味もあるが、エステルの臭いによるところも大きい。
その代表例として身近なカルボン酸である酢酸と2種の1価のアルコールからできるエステル(下記の1と2)をつくり、この臭いの差を確認させれば、RCOOR’のRやR’が変わるとさまざまな臭いになることは理解させられると思います。
次の時間に、教卓実験で下記3のエステルをつくり、オレンジの臭いに近いなと思わせれば十分だと思います。
1 酢酸エチル −セメダイン臭
2 酢酸イソペンチル (isopentyl acetate) –バナナ臭
3 酢酸オクチル (octyl ethanoate) – みかん臭
カルボン酸の方を変えても臭いは変わるが、これは発展実験にするとよいと思います。また1日に臭うエステルは2〜3種までで、しかも臭いの弱いものから臭うことが大切です。薄めて臭うこともやってみてください。
生徒と文化祭の展示に向けてさまざまなカルボン酸と1価のアルコールのエステルをつくってみましたが、印象に残っているのは、酢酸オクチルのみかん臭と酪酸があんなにくさいのにエステルにすると甘いいいにおいになるということくらいでした。
09A−039
差出人:藤田 勲
送信日:10年3月4日
件 名:エステルのこと
エステルで何を教えるかという議論はするべきですが、それとは別にいろいろなエステルを自分で合成してみるという経験は大切だと思います。その中で生徒実験としてふさわしいもの、演示実験にした方が良いもの、さらには教育的には今のところそぐわないものと分けることができてくるのだと思います。そうすることによって、教科書や実験書にはない新しい発見があったりするのではないでしょうか。
エステル合成の実験に限らず、実験というのはそういうのもだと私は思っています。
(中略)
そういう意味で藤井さんがエステル実験に取り組もうとする姿勢には共感しています。
ちなみに私もこれを機会に酢酸ベンジルと乳酸エチルの合成をしてみました。やてみると思わぬ発展があって楽しかったです。今日、アントラニル酸メチルの合成に挑戦してみましたが、これは全く歯が立ちませんでした。悔しいですね。
私の場合、こういう時はぜひとも進展させたいテーマであれば、いろいろな文献に当たってみることにしています。まずは、県内の図書館の検索をします。それから、古本屋さんに行きます。次に、三省堂の本屋で新刊本を立ち読みします。そうすると何かしらヒントは得られるわけで、再び新しい試薬を買って試すわけです。それでも埒があかない場合も多々あるわけですが、そういう場合には少しほっといておくことにしています。そうすると、別な実験をやっている時に新しいアプローチが思い浮かんだり、何かしら別な雑誌を読んでいる時にヒントになる話が載っていたりします。そうすると再び挑戦するわけです。こういう泥臭いやり方しか私にはできませんし、これが私のスタイルです。皆さんはどうやっているでしょうか。
09A−040
差出人:藤井 信洋
送信日:10年3月8日
件 名:いろいろご意見ありがとうございます
山本先生、吉田先生、藤田先生、色々なご意見ありがとうございます。学校の業務でバタバタしており、ゆっくり返信する時間が持てませんでした。特に藤田先生は実際同じ様に挑戦して頂いているようで、ありがとうございます。私もあれからいくつか文献や人をあたってみましたが、未だあのやっかいなエステルの合成法については解決に至っておりません。行き詰ったときの過ごし方、参考にさせてもらいます。いずれにしても、自分の小さな悩みについてコメントを頂けるこのアルケの環境はとてもありがたく感じております。今後もよろしくお願いします。
先日2月28日(日)に大阪科学教育研究集会(澤田史郎先生も参加)にて、極めて簡単に最近とりくんでいる人工香料の発表をさせてもらい、バナナとイチゴとリンゴについて、試作品を試してもらいました。その時初めて試みたのですが、プラスチックの透明容器に絵の具で色水をつくり、そこに調香したエッセンスを数滴たらして楽しんでもらいました。先日読んでいた本で、”ワインの専門家に、白ワインをうまい具合に赤ワイン様に着色したものをそのことを明かさずに飲んでもらうと、赤ワイン特有のコメントを得ることができた”という例から、人間の視覚的効果の重要性を説いていたことにヒントを得ました。結果、効果はかなりあったように思います。(リンゴジュースは学校の試薬室で目についた塩化鉄(V)溶液を数滴たらしました。)(ちなみに後日それに加えてクエン酸と重曹を少量加えて炭酸溶液にすると、もうそれはアップルソーダでした!)
以下に比較的うまくいったバナナ香料の調香レシピを示します。このレシピには例のやっかいなエステルは含まれていませんので、ほぼ実際に使われている香料にかなり近いものが得られます。各数字は体積ベースの割合(%)を表しています。
酢酸エチル 5.0
酪酸エチル 5.0
酢酸イソアミル 50.0
酪酸イソアミル 12.0
イソ吉草酸イソアミル 6.5
アセトアルデヒド 10.0
Eugenol 3.0
Heliotropine 0.5
Linalool 5.0
Vanillin 3.0
下の4つに関しては自分で特別な試薬と判断して取り寄せることはしませんでした。しかしながらVanillinについては家庭科から賞味期限切れのバニラエッセンスをもらい、代用しました。最後に2滴ほど加えることでまろやかに仕上がります。自分で混合したときはあまり厳密にはせず、上の数字を5で割った値の滴数で(例えば酢酸エチルは1滴、酢酸イソアミルは10滴、イソ吉草酸イソアミルは1滴)混合し、それをエタノールで10〜20倍希釈ぐらいに薄め、そのうちの1〜2滴を絵の具で”バナナオーレ”様に着色した水に加えてかき混ぜました。(確かに吉田先生もおっしゃる通り、かなり微量で初めて心地よい香りになります)先日の研究集会に出席された20〜30名の中高の先生方にも、うちの職員室の数名の方にもバナナだけは異論なく(模範解答を示さずとも)納得して頂きました。
先日(3月3日)研修で住化分析センターへの見学会があり、数名の知り合いの高校化学の先生にエステルの話題をもちかけたところ、いろいろされた中で、おもしろかったエステルとしてケイ皮酸メチルという松茸様のエステルを教えて頂きました。そういえば、うちの試薬庫に、ケイ皮酸があり、(ベンゼン環にビニル基のどこかが修飾された様な構造だったと思います。)どのように使うのか疑問に思っていたところでした。今週から少し学校の業務が落ち着きそうなので、先日山本喜一先生からご紹介頂いたエステルとともにやってみたいと思っています。またエステルについて、情報があればよろしくお願いします!
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