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06A−001
差出人:林 正幸
送信日:06年8月8日
件 名:松本レポートを読んで
こんばんは、林です。
アルケ合宿は、盛口さん始め皆さんに会え、意見交換もできて、充実感がありました。帰宅して2日目の昨日はさすがに疲れが出て、昼寝を3時間もしてしまいました(一昨日は孫が遊びに来て、それどころではありませんでした)。それでも科教協大会と合宿のレポートなどを整理することができました。
その中で長編の松本レポートも読みました。レポートは全体像が見えてよかったです。ものづくりを含めて、大胆な思い(思い切りと言ってもよいかも)は、授業に彩りを与え、ストーリーを産み出します。聞いて面白いことでしょう。そして合宿での「まず言い切ってみる」という発言は、松本流の本質なのでしょう。
藤田レポートはたまたま私が司会をしたのですが、放射線を原子構造を教える切り口にして、これでしっくりすると言うのです。私には考えにくい発想でした。山本レポートの二酸化炭素アラカルト、MOLの会でも紹介された澤田(紳)さんの廃棄物、町井レポートの原子論など、授業の視点が大きく広がります。
そんな中で私は、合宿でも話したように、今年の残り数ヶ月は「酸と塩基」に集中したいです。どんな思いを盛り込むのか、まだ半煮えですが頑張ってみたいと思います。
ではまた。
06A−002
差出人:杉山 剛英
送信日:06年8月13日
件 名:ペルセウスの火球
杉山剛英です。
8月13日未明のペルセウス流星群で発生した火球(特に明るい流星)の撮影に成功しました。高感度モノクロカメラによるビデオ撮影なので写真のような鮮明さはありませんが、限られた写角のカメラで撮影できたのはラッキーでした。授業でも使う予定です。流星の発光は高度80km程で砂粒が大気との摩擦で蒸発する過程で光ります。今回の火球はおそらく小石程度のもので、流星痕(小石が蒸発したガス)も映っているもので、価値のあるビデオです。

06A−003
差出人:林 正幸
送信日:06年8月14日
件 名:RE:ペルセウスの火球
こんにちは、林です。
杉山(剛)さん、火球のビデオ撮影、すごいですね。ずっとビデオをまわしていたのでしょうか。火球と言えば、私も2つの印象的な経験があります。ひとつは、四国のみかん山で仲間とバーベキューをしていました。東から西に空を横断するように流れ、流星痕が長々と残りました。ふたつは、帰宅途中の車の中です。夕方まだ明るいとき東に向かって走っていて、火球が縦に流れました。これは翌朝の新聞にも報道されるほど明るいものでした。他には01年のしし座流星群が記憶に残っています。私は高校時代には部活動で夜間観測に参加したり、教員になってから望遠鏡を作ったりもしたのですが、残念ながらあまりものになっていません。
そうそう、やっと「わかる!なるほど理科実験」の紹介をホームページに掲載することができました。
暑い日が続きますね。そんな中で科教協大会で講演した平さんの「日本列島の誕生」(岩波新書)を読みました。プレートテクトニクスに基いて日本列島の成り立ちが解き明かされたのがまだ最近であったとは驚きました。それまで地向斜の考えが根強くあったのですね。古い地層ほど上にあるという矛盾を抱えながら・・・。また日本海の生成を大陸の分裂、つまり地溝帯で捉えようとしてます。面白い本でした。
ではまた。
06A−004
差出人:藤田 勲
送信日:06年8月23日
件 名:温暖化のこと
藤田です。
大会、アルケ合宿とお世話になりました。連日暑い日が続きます。いやになってしまいますが、万年スケールで見ると、今の時代は温暖化のピークから寒冷化に向かう途上にあるのだそうですね。ちょっと考えにくい話ですが、次のようなことが言われています。
2万年前には氷河期の最盛期で、大陸の3割は氷河に覆われて海水面が100mも低くなって、気温が今よりも平均で6度ぐらい低かったようです。この最終氷期は10万年続いたと考えられています。ところが、この氷期も1万年前には終わり、その後急激に温暖化します。6千年前の縄文時代は温暖化のピークで、海水面が今よりも平均で3mほど高く、気温も3度ほど高かったと言われています。そして、現在がそのピークを過ぎて再び氷期に向かっているというわけなのです。
歴史的には氷期は約10万年のサイクルで続き、間氷期は約1万年のサイクルで続いています。このサイクルは逆にはならずに、必ず氷期の方が間氷期よりも長く続いています。したがって、寒冷化は10万年かけて徐々に進行し、温暖化は突然やってきて長く続かずに1万年で終息してしまうのです。氷期と間氷期の温度差は10度以上もあります。そして、このパターンと大気中の二酸化炭素濃度もほぼ同調して変化しています。
そこで、私の疑問です。
@なぜ寒冷化は徐々に進行し、温暖化は突然やってきて突然終わるのか。
A氷期・間氷期のサイクルとほぼ同調して変動している大気中の二酸化炭素は何によって吸収されたり、どこから放出されたりしているのか。
B現在の二酸化炭素濃度は過去の濃度と比べると異常に高いにもかかわらず、現在の地球の平均気温とは調和的とは言いがたい。このことは今後の気候変動にどういう影響をもたらすのか。
例えば@にはミランコビッチサイクルが引き金になっていると考えられているようですが、それだけで説明がつけられているわけではありませんね。Aでは海洋の大循環や植物や植物プランクトンの消長、氷河の挙動など、様々な要因が絡んでいるようです。誰か適当な文献をご存じないでしょうか。
06A−005
差出人:野中 直彦
送信日:06年8月28日
件 名:養護学校です その29
8月28日(月)今日から2学期が始まりました。いろいろありましたが、とりあえずメールを再開します。
養護学校では、夏休み中に、地域の会社を訪問して、雇用についての理解を深めていただくように学校のパンフレットを持ってでかけます。その写真を見て、一緒にいった先生が、「これは2年前の写真ですね」 彼らは2年前は、中学校のいたのです。(こちらでは中学部といいますが)その時の様子と現在の様子がずいぶんちがうのです。中学生のときは、元気に机にすわっていたのです。その先生曰く「歳と共にうごけなくなるんです」という言葉はとってもショックでした。体が発達していくと、アンバラスが大きくなっていくと言えばいんでしょうか。今は、2人とも、ずっと車いすの生活をしています。成長していくことで、体がうごかなくなる。どこかで成長はとまるのですが・・・。発達障害は、小さな時はあまり差異がない、大きくなるとその差が大きくなっていくのですが・・・。あちこちの筋肉の発達が遅れていくためのことなんでしょうか。
そして、さらにショックなのは、「ダウン症の子の寿命は短い。昔は20歳といわれていたが、いまは40歳が寿命でしょう」というのです。それは、体の異変というより、おおくは、食事制限なく飲み込むため、やや肥満から、大きく肥満になっていくことにより、心臓への負担が大きくなることが原因の1つだそうです。
私のクラスの5人は元気に学校にやってきました。でも、1人はすぐにケンカをしてしまいました。また、療育手帳の取得を進めていた子が、9月に誕生日をむかえ18歳になってしまうということで、ばたばたしました。18歳になってからの療育手帳の取得は、「子ども相談センター」で試験・認定をうけられないそうで、少し面倒になるとかで・・・。さらに、10月1日から障害者自立支援法が施行されるため、いろいろ面倒になっていることがあるようです。「措置」とか「契約」とか、また訳のわからない言葉が登場してきています。
06A−006
差出人:林 正幸
送信日:06年8月29日
件 名:講座プラン「酸と塩基」
こんにちは、林です。
このところ雨が多く、水まきの方は助かっていますが、またもや草がはえてきました。そして蒸し暑いですね。
藤田さん、参考文献は知りませんが、炭素の循環には不明な部分、ミッシングリングと呼ばれている部分がありますね。そして「氷河期と間氷期(の温度)と二酸化炭素濃度がほぼ同調している」ことと、「現在の濃度が平均気温と調和的ではない」というのは、時間スケールの違いを考慮しても断言できるのでしょうか。私自身も勉強してみたいと思います。ただし二酸化炭素の削減問題は別の切り口もありますね。
この10日ほどで、講座プラン「酸と塩基」の原案を8割方つくってみました。このプランに対して私には2つの思いがありました。ひとつは「酸と塩基を教える意義をより明確にする」こと、もうひとつは「ブレンステッドの定義をどこまで取り入れるか」です。教科書や受験問題に拘束されない立場から、自由には書けました。ひとつめの思いに対しては、pHの領域を広げることにしました。ふたつめの思いに対しては、講座プラン「電子やり取り反応の世界」で使った「電子得失表」の手法を「水素イオン得失表」として採用し、それなりに考えやすくなったと思います。しかしまだまだとても納得がいく状態ではありません。あと2,3ヶ月悩んでみようと思います。一番うれしいのはその時間があることです。
ではまた。
06A−007
差出人:野中 直彦
送信日:06年8月29日
件 名:養護学校です その30
障害者自立支援法なるものの説明会があり、学校の研修として聞きました。私の勝手な印象が以下のごとくです。
要は、国や県がやっていたことを市町村事業として丸投げしてしまった。そして、それに関わる費用は、市町村でやりなさいということになってしまった。(ではないのかもしれないが・・。)地域で、県ごとでサービスに差がでてくるでしょう。また、少しでもその費用を回収するために、お金を回収できるところは回収し、(裕福な家庭からはたくさんとる)、働ける者は少しでも働かせてお金を回収しようとしているとしか思えないものだと思う。(作成者の意図するものがこんなんでは、・・・。)世帯の所得によって、支払うお金がちがっていますが、基本は一割負担ということ。すべての人から消費税になみにとろうとする、食費に関してはやや徹底しているようにも思われる。これは、介護保険の第2弾というべきものなんでしょうか。今、私たちは、医療に対しては、3割負担です。とにかく、医師や市町村の福祉課の職員でランクづけをしていきます。分類、差別していくんでしょう。教育で、差別、分類されよとして、人々はきょうきょうとして、よりいい大学ということで、現在の方は加熱しているようです。その対岸に障害者は追いやれていくんでしょうか。教育や医療や福祉にもっとお金をかけるべきだと思います。
06A−008
差出人:野中 直彦
送信日:06年8月30日
件 名:養護学校です その31
「措置」と「契約」
養護学校来ている子の多くは、施設から通っています。私の勤めている学校も同じ敷地内に施設があり、そこから歩いて通っています。今、自立支援法のため、いままでとちがった形になります。まず、親と施設が「契約」を交わすことになります。施設使用料としていくら、食費としていくら、すべて日割りにして計算するとのことです。これに対しては減免制度があるようですが、いままでは、国なり、県なり、市町村からの補助とか助成金があったのですが、直接親から、お金を徴収?することが必要になってきます。シビアにならざるをえない状況です。そして、親に養育能力がないと判断されれば、(親がいないときも含むのだ思いますが)親から切り離した状態で施設であづかる状態になります。この状況のことを「措置」といいます。措置になれば、多くの援助がいただけそうです。が、高校を卒業すれば、働く能力があれば、施設においておくことはできず、施設をはなれなければならいようです。最近の状態では、いろんな虐待のために、「措置」になっている子どもがいます。その子たちも、最低でも6万円の収入がないと生活できないといわれています。また、高校を卒業して、18歳19歳は基本的になんら援助のない状態での生活ですので、年子で2人の障害を持った家庭では月12万円の費用が最低でも必要だといわれています。20歳になれば「年金」がおりるとか。でもいくらの年金なのか知りません。わからないことが多くあります。そして、なぜか、現在勤めている養護学校には、地域以外から来ている子(自宅までの距離が車で2時間以上の子)がたくさんいます。軽度の知的障害の子は、自宅から通学しています。10月になれば、いろんなことが問題としてでてくるようです。
06A−009
差出人:林 正幸
送信日:06年9月8日
件 名:pHのこと
こんにちは、林です。
野中さん、養護学校のこと勉強になります。そして野中さんの頑張りが窺えます。できればいつか理科教育あるいは授業のことも書いてください。どんな苦労や工夫があるのでしょうか。
講座プラン「酸と塩基」で工夫した実験です。pHは1ずれると水素イオン濃度が10倍違います。2倍3倍ではなく、10倍100倍つまり桁が2倍3倍になることでやっと大きな影響が生まれる、それがpHを考えるひとつのポイントでしょう。熱力学的には、モル濃度の対数が化学ポテンシャルに対応します(反応速度の方は、単純なものではモル濃度に正比例します)。
μ = μ0 + 2.3RT×log[H^+ ]
このことを実感できる次の反応を見つけました。
(1)pHが0,2,4,7,10,12,14の水溶液を準備して、試験管に10mLずつ入れる。
(2)0.01mol/L過マンガン酸カリウム1mLと2%チオ硫酸ナトリウム1mLを加えて振り混ぜる。
すると
pH 0:無色になり、やがて白色に濁る
2:無色になる
4:褐色に濁り、一部が沈でんになる
7: 同上
10: 同上
12: 同上
14:緑色になる
過マンガン酸カリウムとチオ硫酸ナトリウムは酸化還元反応をする。過マンガン酸カリウムは、含まれる過マンガン酸イオン MnO4^- が赤紫色である。そしてpHが0や2の酸性では、ほぼ無色の2価のマンガンイオン Mn^2+ に変化する。pHが4から12の比較的中性に近い領域では、褐色の酸化マンガン(W) MnO2 に変化し、これは水に溶けにくい。pHが14の塩基性では、緑色のマンガン酸イオン MnO2^2- に変化する。これに対応してチオ硫酸ナトリウムに含まれるチオ硫酸イオン S2O3^2- はジチオン酸イオン S4O6^2- に変化する。さらにこれとは別にチオ硫酸ナトリウムは、酸性では硫黄が生成する反応も起こる。
のです。
よく知られた紫キャベツの色素の変色も取り上げ、それを踏まえて次のような中和滴定を考えました。
(1)50mLビュレットに、0.100mol/L水酸化ナトリウムを充填する。
(2)ホールピペットを使って、50mLビーカーに0.100mol/L塩酸10mLを採り、ユニバーサル指示薬10滴を加える。
(3)水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、ビーカーを振り混ぜ続ける。0.5刻みの変色を検出したら直ちにコックを閉めて、pHと滴下体積を記録する。そして再び滴下し、0.5刻みの変色を検出したら直ちにコックを閉めて、pHと滴下体積を記録する。これをくり返す。 とくに滴下体積が10mLに近づいたら注意深く操作する。
(4)0.100mol/L酢酸についても同様に実験する。
pHメーターを使う似た実験もありますが、ユニバーサル指示薬の方が安価でかつ簡単にできると思います。そしてpHと滴下体積のグラフを描きます。塩酸も酢酸も中和点付近ではpHが大きく変動します。これはpHの定義から納得できます。他方でpHによって変色する色素があります。おかげで中和点がシャープに検出できるというものです。
他には、pHとカタラーゼの酵素活性も取り上げました。
ではまた。
06A−010
差出人:林 正幸
送信日:06年9月9日
件 名:塩の加水分解など
こんにちは、林です。
酸と塩基のブレンステッドの定義を扱うのに、前にも書いたように、水素イオン得失表を使うと考えやすくなります。私の講座プランの中では次の15個の反応を取り上げることにしました。
水素イオン得失表
酸 (共役)塩基 pK
@ HCl ←→ H^+ + Cl^- −7.0
A H2SO4 ←→ H^+ + HSO4^- −5.2
B H3O^+ ←→ H^+ + H2O −1.7
C HNO3 ←→ H^+ + NO3^- −1.4
D HSO4^- ←→ H^+ + SO4^2- 1.9
E H3PO4 ←→ H^+ + H2PO4^- 2.2
F CH3COOH ←→ H^+ + CH3COO^- 4.8
G H2CO3 ←→ H^+ + HCO3^- 6.4
H H2S ←→ H^+ + HS^- 7.0
I H2PO4^- ←→ H^+ + HPO4^2- 7.2
J NH4^+ ←→ H^+ + NH3 9.2
K HCO3^- ←→ H^+ + CO3^2- 10.2
L HPO4^2- ←→ H^+ + PO4^3- 12.4
M HS^- ←→ H^+ + S^2- 14.0
N H2O ←→ H^+ + OH^- 15.7
pK(ピーケー)は電離指数と呼ばれる。これは酸の強さを示し、小さいほど水素イオ
ンを失う傾向が大きい(これ以上の説明はしない)。
備考:複雑にしないため、金属水酸化物そして酸性酸化物・塩基性酸化物などは、この表
から省く。
この得失表では、右下がりの斜線で結ばれる酸と塩基は反応が起こりやすく、右上がりの場合は起こりにくくなります。その程度はpKから求められる傾きで比較することもできます。
この表からすると、酢酸ナトリウムと塩酸(オキソニウムイオン)は反応して酢酸を生成します。塩化アンモニウムと水酸化カルシウムは反応してアンモニアを発生します。アンモニアは水に溶けて塩基性を示しますが、右上がりの斜線だから弱いです。アンモニアは塩化水素と反応して塩化アンモニウム(白煙)を生成します。塩化アンモニウムはリン酸ナトリウムとは反応してアンモニアを発生しますが、リン酸二水素ナトリウムとは実質的に反応しません。硫化ナトリウム水溶液はリン酸とは反応して硫化水素を発生しますが、リン酸水素二ナトリウムとは実質的に反応しません。以上はひとつの実験にまとめました。
さて、反応Nの左辺の水と反応Bの右辺の水は次のように反応します。
2H2O ―→ H3O^+ + OH^-
これは水の電離で、わずかにしか起こりません。この傾きは17.4です。これより小さい傾きで起こる塩と水の反応は液性を変化させます。たとえば炭酸水素ナトリウムです。
H2O + HCO3^- ―→ H2CO3 + OH^-
この傾きは9.3であり、すこし塩基性であることが納得できます。
ところで硫酸ナトリウムはどうでしょうか。
H2O + SO4^2- ―→ HSO4^- + OH^-
この傾きは13.8であり、すこし塩基性のはずです。これまで私は単純に中性と思い込んでいましたが、ユニバーサル指示薬で調べるとpH7.5でした。新たに購入したホリバのpHメーターは7.6を示しました。中性ではありません。はじめは不純物の影響も考ましたが、理論的にも塩基性です。本来、塩の加水分解はブレンステッドの定義の領域であったのです。事実だけを述べるのは別ですが、問題集などにはいくつもの塩の水溶液の液性を予想する問があります。現状の中でそれに答えるのは無理な話です。
ではまた。
06A−011
差出人:山本 喜一
送信日:06年9月9日
件 名:RE:塩の加水分解など
こんにちは、山本です。
林さんから興味深いメールが送られてきましたが、よく理解できないところがありますので、もう少し解説をお願したいと思います。
「この得失表では、右下がりの斜線で結ばれる酸と塩基は反応が起こりやすく、右上がりの場合は起こりにくくなります。その程度はpKから求められる傾きで比較することもできます。」
とありますが、右下がり、右上がりとは何を指すのでしょうか?
「さて、反応Nの左辺の水と反応Bの右辺の水は次のように反応します。
2H2O ―→ H3O^+ + OH^-
これは水の電離で、わずかにしか起こりません。この傾きは17.4です。」
傾き17.4はどこから出てきたのでしょうか。
私だけ分からないのだと思いますが、よろしくお願いします。
06A−012
差出人:林 正幸
送信日:06年9月10日
件 名:水素イオン得失表について
こんにちは、林です。
山本さん、返信ありがとう。手短に書こうという意識から、分かりにくくなったと思います。
「得失表」については講座プラン「電子やり取り反応の世界」(このプリントはアルケ通信03A−1号に入れたつもりでしたが、忘れているかもしれませんね。とりあえずホームページを参考にしてください)で、次の電子得失表をつくりました。私としては頭が整理できて分かりやすいと思っています。そしてほとんど同じものを現役のときにも使っていました(最後の数年)。
電子得失表
還元剤 酸化剤 酸化還元電位
@ Na ←→ Na^+ + e^- 2.714[V]
A Al ←→ Al^3+ + 3e^- 1.662
B 2OH^- + H2 ←→ 2H2O + 2e^- 0.828
C Zn ←→ Zn^2+ + 2e^- 0.763
D S^2- ←→ S + 2e^- 0.447
E Fe ←→ Fe^2+ + 2e^- 0.440
F Ni ←→ Ni^2+ + 2e^- 0.250
G Pb ←→ Pb^2+ + 2e^- 0.126
H H2 ←→ 2H^+ + 2e^- 0.000
I Cu ←→ Cu^2+ + 2e^- −0.337
J 4OH^- ←→ 2H2O + O2 + 4e^- −0.401
K 2I^- ←→ I2 + 2e^- −0.536
L Fe^2+ ←→ Fe^3+ + e^- −0.771
M Ag ←→ Ag^+ + e^- −0.799
N 2Br^- ←→ Br2 + 2e^- −1.087
O 2H2O ←→ 4H^+ + O2 + 4e^- −1.229
P 2Cl^- ←→ Cl2 + 2e^- −1.360
そしてブレンステッドの定義は水素イオンのやり取りですので、同じように使えると講座プラン「酸と塩基」の中で「水素イオン得失表」をつくってみました(今日は表は省きます)。
この表は反応式が上から、水素イオンを失いやすい順番に並んでいます。左辺は上から酸が強い順に並び、右辺はその共役塩基です。つまり右辺は下から塩基が強い順に並んでいます。だから左辺の酸の1つと右辺の塩基の1つを選びそれを結んだとき、右下がりの斜線なら反応が起きりやすく、右上がりなら起こりにくいわけです。なお左辺どうしや右辺どうしを選んでも、それは水素イオンのやり取りにはなりません。またこれは平衡論的な内容で、速度論的な話ではありません。
水素イオンを失う傾向を示すのに、電離指数 pK を使います。酸 HB が次のように電離すると
HB ←→ H^+ + B^-
K = [H^+ ][B^- ]/[HB]
pK = −logK
です。つまりpKが小さいほど水素イオンを失う傾向が大きいわけです。ちなみにプランではこのようなpKの中身までは踏み込みません。そして傾きとは2つのpKの差です。
たとえば塩化アンモニウムの加水分解は次のようですが
H2O + NH4^+ ―→ H3O^+ + NH3
この斜線は右上がりで、傾きは10.9になります。中身に踏み込めば次のようです。反応Jより
−log{[H^+ ][NH3 ]/[NH4^+ ]}= 9.2
反応Bより
−log{[H^+ ][H2O]/[H3O^+ ]}= −1.7
上式から下式を引き算すれば
−log{[H3O^+ ][NH3 ]/[NH4^+ ][H2O]}= 10.9
となります。つまり傾きはその平衡定数と関係し、大きいほどその反応が起こりにくいことを意味します。ちなみに右下がりの場合は傾きは負になり、小さいほどその反応が起こりやすいことになります。ただしプランでは符号は無視して、右下がりの場合は傾きが大きいほどその反応は起こりやすいと説明しています。
ついでながら、昨日のメールの、反応Nの左辺の水と反応Bの右辺の水の反応は次のようになります。
−log{[H^+ ][OH^- ]/[H2O]}= 15.7
−log{[H^+ ][H2O]/[H3O^+ ]}= −1.7
引き算して
−log{[H3O^+ ][OH^- ]/[H2O]^2 }= 17.4 (1)
そして酸のpKはモル濃度ベースになっているので
log[H2O] = log55 = 1.7
log[H2O]^2 = 2×log[H2O] = 3.4 (2)
(1)から(2)を引き算すると
−log{[H3O^+ ][OH^- ]}= 14
[H3O^+ ][OH^- ] = 10^(-14)
となります。
講座プラン「酸と塩基」の形ができたので、おかげで12月の先進科学塾1日コースの原案「酸・塩基とは、そしてpHとは何か」もできました。もうすこし検討したいので、アルケ通信に入れられるのは来年始めの2号になります。
ではまた。
06A−013
差出人:山本 喜一
送信日:06年9月11日
件 名:RE:水素イオン得失表について
こんにちは、山本です。
林さんていねいな説明をありがとうございます。よく分かりました。最近、こういう理論的な分野は縁が遠くなってしまいましたので、勉強になりました。HCl、H2SO4、HNO3でかなりpKが違うのですね。でも、電離度でいえば3つとも1.0で良いのでしょうか?
06A−014
差出人:林 正幸
送信日:06年9月12日
件 名:水による平準化など
こんにちは、林です。
環境勉強会(9/17)が近づく中、昨日は日本評論社の例のシリーズ「地球と人間の環境を考える」の「地球温暖化」(伊藤著)を読みました(入手は早かったのですが・・・)。そしてこれはまともな本であると思いました。
酸の強弱と電離度についてです。水を溶媒にすると、水素イオン得失表の反応Bより上の酸は、たとえば塩酸は次のように反応し、酸がオキソニウムイオンに置き換わります。
HCl ―→ H^+ + Cl^-
H^+ + H2O ―→ H3O^+
積み算して
HCl + H2O ―→ H3O^+ + Cl^-
つまり酸の強さがオキソニウムイオンのランクまで下がり、これは「水による平準化」と言われます。強塩基についても似たことが言え、塩基の強さが水酸化物イオンのランクまで下がります(得失表では上に上がります)。ちなみに緩衝溶液は、オキソニウムイオンや水酸化物イオンをさらに平準化します。
次に電離度ですが、反応@から反応Bを引き算すると
−log{[H3O^+ ][Cl^- ]/[HCl][H2O]}= −5.3
昨日のメールの
log[H2O] = log55 = 1.7
を引き算すると
−log{[H3O^+ ][Cl^- ]/[HCl]}= −5.3−1.7 = −7
となります。これは実質的に反応@と同じです。
−log{[H+ ][Cl^- ]/[HCl]}= −7
log{[H+ ][Cl^- ]/[HCl]}= 7
したがって電離度は1と見なせます。
硝酸の場合は
log{[H+ ][NO3^- ]/[HNO3 ]}= 1.4
で、電離度は1mol/Lの場合で0.96になります。
しかし硫酸の第2段階になると、とても電離度を1とすることはできません。
ではまた。
06A−015
差出人:山本 喜一
送信日:06年9月13日
件 名:水による平準化について
こんにちは、山本です。
林さんの水素イオン得失表と、それを使った酸塩基反応の説明は見事だと思います。ひとつ質問させて下さい。
**林さんのメール**
酸の強弱と電離度についてです。水を溶媒にすると、水素イオン得失表の反応Bより上の酸は、たとえば塩酸は次のように反応し、酸がオキソニウムイオンに置き換わります。
HCl ―→ H^+ + Cl^-
H^+ + H2O ―→ H3O^+
積み算して
HCl + H2O ―→ H3O^+ + Cl^-
つまり酸の強さがオキソニウムイオンのランクまで下がり、これは「水による平準化」と言われます。
**ここまで**
私は、
@ HCl ←→ H^+ + Cl^- −7.0
この反応のpKは
HCl + H2O ―→ H3O^+ + Cl^-
の反応のpKだと思っていたのですが、上のメールを読むと、どうも違うようですね。したがって、@の反応は水溶液中での反応ではないことになると思います。いったいどのような条件でHClが電離したときのpKなのでしょうか?
06A−016
差出人:野中 直彦
送信日:06年9月13日
件 名:養護学校です その32
運動会です。朝から、すべて運動会の練習と準備です。私の勤めている学校は、小さな学校なので、小学校、中学校、高校が一緒に同じ日に運動会をします。朝9時からスタートで、途中で、昼食弁当の時間をはさんで、2時に終わる形で行います。高校生が、準備の手伝いをします。私も、重度の生徒と一緒に競技?に参加したり、準備、など忙しい日程になるようです。そんな中にも、いろいろなことがありますが、やはり、親やお客さんの中で行う当日はまた、ちがった物があるんではないかと思っています。
06A−017
差出人:林 正幸
送信日:06年9月14日
件 名:pKについて
こんにちは、林です。
山本さんの返信のおかげで、さらに勉強ができます。まず「平準化」という言葉ですが、どうも正確には「水平化効果」という用語を使うべきです。意味は同じつもりですが、平準化という言葉が参考書には見つからないのです。
pKは定義の違いに注目すべきようです。酢酸の電離を考えましょう。アレニウスの定義では、反応式は
CH3COOH ←→ H^+ + CH3COO^-
そしてpKは
pK = −log{[H^+ ][CH3COO^- ]/[CH3COOH]}= 4.8 (1)
です。そしてブレンステッドの定義では、反応式は
CH3COOH ―→ H^+ + CH3COO^- (2)
H^+ + H2O ―→ H3O^+
足し算して
CH3COOH + H2O ―→ H3O^+ + CH3COO^-
そしてpKは
pK = −log{[H3O^+ ][CH3COO^- ]/[H2O][CH3COOH]}
= 4.8+log[H2O] (3)
ここで
[H3O^+ ] = [H^+ ]
に注意します。
ところでブレンステッドの定義では、酸と塩基の反応は水素イオンのやり取りですから、上にも書いたように2つの半反応から成り立ちます。その半反応式を並べたのが「水素イオン得失表」であるわけです。この定義の下では、ひとつの半反応式がそのまま全体の反応式ということはありません。
各半反応のpKを目盛ろうとすると、ちょうど酸化還元電位の水素電極のように、基準が必要になります。そしてアレニウスの定義と矛盾しないためには、次の半反応
H3O^+ ←→ H^+ + H2O
を基準にし、そのpKを
pK = −log{[H^+ ][H2O]/[H3O^+ ]}= −log[H2O]( = −1.7)
とすべきです。
するとこれを式(3)に足し算して
pK = −log{[H^+ ][CH3COO^- ]/[CH3COOH]}= 4.8
このように半反応(2)のpKが、アレニウスの定義と矛盾なく決まります。つまり水素イオン得失表のpKはそのままアレニウスの定義の下での電離指数になります。
なお、前のメールを含めて、このようなことを具体的に書いた参考書が見あたりません。理屈を付けようとするとこう考えることになる、として書いています。思わぬ落とし穴がないことを願っています。
塩酸(本当は塩化水素)のpKですが、ブレンステッドの定義は溶媒が水とは限らない普遍的なものです。言い換えると、pKは溶媒が変わってもそんなに変化しないことが分かっています。ここでpKとは半反応に対応するものであることに注意です。塩化水素を酢酸などに溶かすと、電離度が下がり、計測可能になります。
HCl + CH3COOH ―→ Cl^- + CH3COOH2^+
ちなみに CH3COOH2^+ のpKは−6.0です。このような計測を積み上げれば強酸のpKも出てくるわけです。
ではまた。
06A−018
差出人:野中 直彦
送信日:06年9月16日
件 名:養護学校です その33
今日は、運動会でした。小学校、中学校、高校と合同の運動会でした。生徒の数と教員の数と保護者の数がほぼ同数の中で展開しました。各学校で、競技と発表という形で運営されます。高校生にはややもの足りない、小学生はやや待ちくたびれてしまう。そんな内容だったのかもしれません。特に、競技でむずかしいこと、高度なことをするのではないのですが・・・。私自身の感想は、やや消化試合のような雰囲気でした。もう少し、ひとりひとりが活躍し、また、集団でないとできないことなどをすると、一体感や成就感がわくのだと思うのです。・・でも、どうやったらいいのかとなると、何ともいえません。
それより、現在の自立支援法で、施設の子どもたちが、「措置」なのか「契約」なのかの判断をされます。「契約」ならば、親から、とりあえず、お金を徴収しなければならなくなってくるようです。授業料と同じように、未払いの場合が想定されます。高校へは、無料に近いから来ていたんですが、これでは、高校へくる生徒はへるだろうし、小中学校では養護学校へより、通級という形で、特別学級にのこる選択をする子がふえるのではないかと言われています。
06A−019
差出人:高橋 匡之
送信日:06年9月18日
件 名:弱酸の遊離
こんにちは 岩手の高橋です。
先日、岩手県の高校理科部会の化学教材研究会が行われました。その中で、「弱酸の塩に強酸を作用させると弱酸を遊離する」ということを教えるのにドロップの「シュワー」というのを使って、なめさせながら授業しているという
話を聞きました。ドロップの中に炭酸水素ナトリウムとクエン酸がはいっていて、口の中で溶けると二酸化炭素がでてくるというドロップです。お風呂に入れる「バブ」と同じ原理です。早速買ってみました。まだ授業では試していませんが、きっと楽しくなるだろうなと思いわくわくしています。その他にも、紫キャベツで焼きそばをつくると、かん水のアルカリによって緑色の焼きそばができるとか酢をいれると元の色に戻るとか楽しい話題がたくさん聞くことができました。焼きそばをつくって最後にはみんなでたべているそうです。
それから、仙台の荻野和子さんから、こんなメールをいただいております。本人の諒解をえていますので、掲載します。
「高橋匡之先生ご無沙汰しています。お元気でご活躍のことと存じます。本日は突然メールをさしあげます。9月末にオーストリアグラーツ大学のObendrauf教授を日本に招きます。詳細は
http://science.icu.ac.jp/MCE/MCEsympo2006.htm
にあります。
オーベンドラウフ教授のデモ実験は世界一です。今年の夏はアメリカの化学教育会議、ソウルでの国際化学教育会議、ザルツブルグ近郊のワークショップ、ブダペストのヨーロッパ化学教育会議、ドイツ・・・・・と続きやっと9月末に日本にお呼びすることができました。
私は、ブタペスト、ベネチア、メキシコといろいろな国際会議でなんどもオーベンドラウフ教授の見事なデモ実験をみていますが、エキサイティングな実験は常に参加者を魅了しています。また、私にとってもいろいろ勉強になります。ありふれた化合物間でこんなに不思議な反応があったのだと驚かされます。空気中では燃え上がる気体もマイクロスケールなので安全に爆発させることができるとか、空気中で危険で反応できない気体同士を水中で混合して水中で燃焼させるとかは1例です。ボンバーの高橋先生必見の実験も多いと思いますので是非おいでください。
オーベンドラウフ教授のすごさは、演出の素晴らしさだけではなく、広く深い学識に基づくもので、その実験の多彩さに驚きます。空気中では燃え上がるシランやホスフィンを安全につくったり、この夏イギリス機の爆破未遂で話題になった化合物についても昨年の雑誌にマイクロスケール実験を発表しています。現在、私はザルツブルグ近郊の学校で行われているマイクロスケール化学実験のワークショップに出席しています。講師陣の中心はオーベンドラウフ教授で、内容の充実しているのに圧倒されます。
荻 野 和 子」
熱いメッセージに心を動かされました。なんといっても「デモ実験世界一」という言葉を聞いて黙っているわけにはいかないなと思いました。27日は木曜日なのですがなんとか仙台に行こうと思っています。29日は土曜日なので、東京の講演会は参加しやすいのではないかと思います。ぜひ、ホームページをご覧下さい。
06A−020
差出人:山本 喜一
送信日:06年9月18日
件 名:ポリアセチレンとヨウ素
こんにちは、山本です。
林さんからpKについてていねいな回答があり、だんだん分かってきました。pKについては詳しい参考書がなくて、私の手持ちの本ではHClのpKさえ見つけることができません。林さんのメールを元に、もう少し勉強したいと思います。
ところで、この夏の科教協大会で、岡田さんから不飽和炭化水素とヨウ素の反応についてのレポートがありました。その時、ある参加者からポリアセチレンにヨウ素を付加させて、伝導性プラスチックを作ったのではないかという意見が出されました。しかし、ヨウ素は付加させたのではなく、不純物として混ぜ合わせたようです。この前、次のような資料(「化学」56,1,2001)が出てきましたので送ります。−−はこの雑誌の記者の質問で、白川さんがそれに答えています。
導電性高分子誕生の瞬間
−− アメリカではいつ頃からケミカル・ドーピングを始められたのですか。
白川 アメリカに行ってまもなく、先ほどの塩素の赤外吸収の話(12月号イン
タビュー参照)をします。そうしたら、向こうもたいへん興昧をもってくれて、
塩素じゃなくて、じゃ今度は臭素でやってみよう、ということになりました。そ
の頃はまだ、マクダイアミッドさんもボリアセチレンの導電性についてははっき
り意識されてなかったと思います。
−− ところが、とんでもない事態になっていくわけですね。
白川 そうです。塩素は最初、電荷移動でドーピングする。丁寧に測れば、ある
程度導電性はあがる。ところが、すぐ付加反応が進むから、π共役が途切れて
ドーピング効果はなくなる。臭素だったら、もうちょっとうまくいく。さらに、
ヨウ素はイオン半径が大きいので、二重結合に付加しない。これは、有機化学の
常識なんですね。僕の頭のなかには日本にいるときからそういう思いがあって、
塩素と臭素はやっていたんです。ところが、研究設備も不十分で、なおかつまっ
たく一人でしたからね。協力関係もなく…。
−− 劇的な導電性の上昇に遭遇するのはいつ頃ですか。
白川 確か76年の秋頃だったと思います。そのときは、もうびっくりしました
よ。この測定をした本人がC.K.チャンという、中国人のボスドク。彼が目の
色を変えて、ポリアセチレンに臭素を微量添加(ドーピング)して電気伝導度を
測っていた。何が起こったんだと、僕が聞いたぐらいでしたから。いや黙れ黙れ
といって僕を制して、夢中で測定機器のレンジを切り替えて。電気伝導が一気に
あがるものだから、測定が追いつかない。あれは今と違って、デジボルのオート
マチックじゃないのでレンジを素早く切り替えなければいけない。もうとにか
く、目の色を変えてね。当時の手帳を見ると、11月23日に臭素を使った実験
を初めて行い、続く11月24日に追試を行って確認しています。
−− その瞬間、何か大きなものをつかんだと思いましたか。
白川 ええ、それはもうたいへんなことになったと。すぐにグラフを書いて、
ヒーガーさんに見せたら、「わおう!」と。その驚きようは凄かった。臭素でう
まくいったから、次はヨウ素でやろうということで得たデータがこれです(右図
参(照)。ヨウ素を入れて、蒸気圧と温度を変えて測っている。最初の電気伝導
度が3.2×10^−6で、最終の電気伝導度が38/Ω・cmと書いてあります
から、その比が10^7になる。
−− 7桁アップ、1000万倍電気伝導度が上がっている!
白川 ですから、みんなびっくりして、それは凄いことになったと。
ヨウ素の前に実は塩素も測定していました。電気伝導度は1桁ちょっとあがっ
て、5分ぐらいで落ちる。次に測ったのが臭素ですが、塩素よりは伝導度があが
る。こういうデータを取ってみて、どんどん伝導度があがるので、じゃイオン半
径の大きいヨウ素でやってみよう、ということになったんだと思います。確か
76年の12月の終わり頃のことです。
<ここまで>
ヨウ素はイオン半径が大きいので、二重結合に付加しないというのは、有機化学の常識、という言葉が印象的です。ポリアセチレンにヨウ素をドープすると電流が流れることについては、π電子の性質が大きくはたらきます。共役二重結合が長くつながったポリアセチレン鎖のπ電子は移動しやすい性質を持っています。そこへヨウ素を加えると、π電子が移動し、鎖の中に電子不足のところが生まれます。その状態で電圧をかけると、電子不足の所へとなりのπ電子が移動します。こうして次々とπ電子が移動することによって、電流が流れようです。
このように、二重結合にはヨウ素は付加しないということで決着しそうですが、共立出版の化学大辞典を見ていたら、それを覆すような項目がありました。次回のメールに書きます。
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