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00A−256
差出人:杉原 和男
送信日:01年4月25日
件 名:たばこの実験
山本喜一先生も、かなりな「たばこ嫌い」のようで、嬉しくなります。伊佐山芳郎 さんの『現代たばこ戦争』(岩波新書)などを読むと、怒りの前に、わが国の異常さに唖然とします。
※厚生省が、大蔵省(省名が変わってますが…)に遠慮してたば
こ対策が具体化できないという図式は、法律による根拠があるわ
けです。たばこの基本法は、生産者保護が大きな柱になってます。
というわけで、現状では、ゲリラ指導しかできないわけです。その実践例として、「京都の科学の祭典」で、「大気を汚す気体を探る」というテーマの「たばこ実験」をしました。その時の冊子原稿を画像ファイルで送付します。雑巾ではなく、ポリ袋を用いましたので、後で、アルコール抽出しやすくなってます。また、ポリ袋を取り替えて、何度でも、再実験が可能です。お試しください。
なお、口で吸引しましたが、タバコ臭が漏れてきていやだったので、ペットボトル(500ml)に活性炭を入れたトラップをつけることになりました。これでも、まだ、少し臭いがします。タバコ臭はきついです。
00A−257
差出人:林 正幸
送信日:01年4月29日
件 名:ちょっと失敗
こんばんは、林です。
かつて教えた女生徒たちがよく声を掛けてくれたり、手を振ってくれたりします。それを見た物理の先生が「化学は1年で全体に教えるのでいいなあ」とうらやましそうでした。そうか、物理は2、3年の理系のみで、男子が圧倒的に多いのだ、と気づきました。そして教師にとっても男女共学は重要なのだと納得しました。
山本さん、新しい学校でも頑張っていますね。そして「今度の学校では、なかなか答えを言ってくれないのですが、」と書いていますが、今や私はそれが日本の高校なのだと「悟って」います。情けないことですが、ひとりの教師のがんばりではなかなか事態を変えられません。無理強いもできませんので、それを前提にした授業法になって行きます。本当にこれこそが「理科離れ」の内実ではないでしょうか。
杉原さん、たばこの煙の実験装置はリアリティがありますね。ところで、たばこの場合は検知管でどんな気体を検出するのですか。
今年度も1年生はワインの蒸留をやり、得られるエタノールを燃料させて炎色反応を見ました。昨年度は塩化リチウムを使ったのですが、花火の赤色には炭酸ストロンチウムを使うことが分かったので、話を発展しやすいようにそれに変えてみました。ところが直前に予備実験をしたところ、ほとんど色が出ません。アルコールの燃焼のような低温では無理なのでしょう。すでにプリントは炭酸ストロンチウムで作ってありました。良かれと考えたことが、確かめずに動くとこうなります。実験そのものは塩化リチウムでやり、生徒は暗幕を引いた実験室で紅色の炎に感動していました。
ではまた。
00A−258
差出人:杉山 剛英
送信日:01年4月30日
件 名:新生出版
ところで、新生出版から発行されていた実験本はどうなったのでしょうか。出入りの書店に聞くとどこかが引き継いで、継続販売されるようだとのことなのですが。ご存じの方、お教え願います。
00A−259
00A−260
差出人:野中 直彦
送信日:01年5月3日
件 名:支部長10
野中です。
「現役文部官僚が直言」
ゆとり教育亡国論 学力向上の教育改革を
大森不二雄 (PHP研究所 1300円)
大森氏は岐阜県の教育委員会に文部官僚として、1998年4月〜2000年3月までいた。この本で、「私は岐阜県でやりたいことをやりました。みなさんどう思いますか」と言っています。がちゃがちゃと岐阜県で試し的にやられて、現場・学校1つ1つはテンヤワンヤの感じがあります。添付ファイルはその内容をまとめたものです。
<引用>
学校は「上位下達」がある。校長であれば教育委員会の評価を気にし、教師であれば教科の専門家(教育委員会の指導主事や文部省の教科調査官など)の評価を気にする。 本来、学校や教師の評価は、教育委員会や文部省に気に入られるかどうかではなく、子どもや親が求める教育効果を上げているかどうか、すなわち、子どもの学力を向上させ、心身の健全な育成を図ることに成功しているかどうかを基本にしなければなりません。
<以上>
この部分は共感しましたが、他のやろうとしていることと、現場とのギャップがあり、本来の趣旨が、間にいる校長によって大きくねじ曲げられてしまっていることも多くあるように感じます。本当にそれで、今の教育に対応できていくのかも気になります。でも、とりあえず、県の教育委員会がやろうとしていることは少しわかりました。
<添付ファイル>
大森氏は岐阜県の教育委員会に文部官僚として、1998年4月〜2000年3月までいた。この本で、岐阜県でやりたいことをやりました。みなさんどう思いますかと言っています。がちゃがちゃと岐阜県で試し的にやられて、現場・学校1つ1つはテンヤワンヤの感じがあります。
改革案の骨子
学校運営及び教育行政で3つの柱 「選択の自由・競争原理・自己責任」
改革の具体的提案1のグル−プ @学習指導要領を最低基準化する
(教えることは、きちんと教える)
A全国共通テストを導入する
B各学校の教育成果を公表する
(自校評価なるものをして、インターネットで公表)
C内申書を開示する
(中学の内申書を高校で開示することになった)
具体的提案2のグループ @学校選択を自由化する
A公立学校をバーチャル法人化する
B学校ごとに校長・教員を公募する
1998年(平成10年)9月 中央審議会の答申「今後の地方教育行政の在り方」
学校の自主性と自律性の確率
文部省による教育委員会への指導を縮減
学校の自主性を制約する教育委員会の許可・承認などの関与を縮小し、学校の裁量権限の拡大
学校外の有識者等が校長に助言をする学校評議員制度
1999年(平成11年)10月 学校評議員制度+学校改革目安箱
2000年(平成12年)3月 岐阜県高等学校管理規則を改正
・「校長は、学校の教育目標、教育活動等に関する自校評価について、
保護者等に説明するとともに、ひろく一般への情報の提供に努めるものとする」
校長の義務教育目標と自校評価を
PTA総会で言う・学校評議員にいう・インターネットにのせる
・教育課程は教育委員会の「承認」から「届け出」に変更
・学校予算は校長が教育委員会に意見を申し出ることできる
・学校評議会や職員会議を位置づける?
2000年(平成12年)4月 教育委員会の組織再編+総合教育センターの設置
管理的側面から支援的側面に重点を変更
特色ある学校づくり
総合学科 県内4校 普通科目・職業科目から自由に選択ができ、退学者が減った?
単位制高校 各務原西 自主編成授業で大学進学の実績向上?
3部制高校 華陽フロンティア高校 志願者の大幅増?
スペシャリストの育成
インターネットの活用
本来、学校や教師の評価は、教育委員会や文部省に気に入られるかどうかではなく、子どもや親が求める教育効果を上げているかどうか、すなわち、子どもの学力を向上させ、心身の健全な育成を図ることに成功しているかどうかを基本にしなければなりません。
<以上>
00A−261
差出人:杉原 和男
送信日:01年5月5日
件 名:連休はいかがお過ごしですか?
連休中、いかがお過ごしでしょうか? 4月29〜30日は、名古屋の博物館へ行きました。
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1.産業技術記念館
かなり前にトヨタ自動車の製作過程を展示した博物館が開館したという情報を聞き、「京都パスカル」で見学にでかけました。しかし、間違って「トヨタ博物館」という自動車の展示館に行ってしまいました。当時は、最新の情報は新聞報道が中心で、それを切り置きしないと、わからなくなりました。そこで、電話番号サービスの利用となりましたが、頭に「トヨタ…」とついていなかったため探せなかったのです。現在は、インターネットの検索エンジンで「トヨタ自動車」を検索し、リンクをたどって、すぐに見つかります。
目的の博物館は、「産業技術記念館」といい、下記のホームページをご覧ください。昔のトヨタの本社工場跡にあり、当時のレンガ造りの壁を生かした粋な建物です。素敵なレストランもあり、展示の主旨に似合わないデートスポットです。
http://www.tcmit.org/main.html
場所は、名鉄名古屋駅から1区北の「栄生駅」下車、徒歩3分ですから、とても訪れやすいですね。
展示品の半分は豊田佐吉の紡績機(これがおもしろい!)で、あと半分の自動車展示も製造に主眼をおいた見事なものです。見学には、ある程度の専門知識が必要かと思いますので、何人かが団体を作って、きちんとした見学依頼をしたほうがいいかもしれません。しかし、個別で訪れても、それなりにおもしろいと思います。とってもお勧めです!
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2.名古屋市科学館
私が製作協力した「パスカル電線」が展示品になっているのですが、一度も見学したことがありません。そこで、それだけを目的に出かけました。電線は電気の展示スペースのなかにあり、すぐに見つかりました。なかなか上手に作ってありましたが、顕著な反応を示しておらず、また、説明書きも不十分で少しがっかりしました。やはり、教材は、先生がいて値打ちが高まると思いました。しかし、名古屋市科学館はおもしろいところで、お勧めの科学館です。詳しくは、下記のホームページをご覧ください。
http://www.ncsm.city.nagoya.jp/
※なお、「パスカル電線」は、希望者に、送料のみで差し上げております。必要な方は、メールで申し込んでください。
sugicom@mbox.kyoto-inet.or.jp
00A−262
差出人:鈴木 久
送信日:01年5月6日
件 名:復帰宣言
アルケミストのみなさん こんにちは 鈴木 久です。
長い間メールが不具合で受信をしてもその場で返信できず最近では、送信だけはhot mailを利用するなどしていました。おまけに受信は、前のパソコンで時々電源が切れたり・・・・散々でした。
さて、野中さんの書かれた文部官僚の指導要領批判については私も読んでいて興味を持っていました。岐阜県での彼の言動は本当はどうだったのか?気になっていました。もしよろしければ、分かる範囲で教えていただけませんか?
杉原さん。名古屋へ来られたとのこと。お会いできなくて残念でした。名古屋科学館も担当の学芸員を知っているので直接注文もできたのにとおもいました。こういうのをあとの祭りというのかな?
とにかく復帰宣言のつもりで書き込みました。ただし、学校が小規模校のためなかなか書き込みができないとはおもいますが大事な場面ではすぐに書き込みはできると思います。今後とも、よろしくお願いします。
00A−263
差出人:山本 喜一
送信日:01年5月9日
件 名:沸騰水の水上置換
こんにちは、山本です。
新しい学校に来てから、各クラスとも10時間ほど化学の授業をしました。説明と質問ばかりだと、生徒が飽きてしまうので、毎時間、何らかの生徒実験を入れようと心がけています。2,3日前、試験管に水を沸騰させて、発生する気体を水上置換であつめる実験をしました。これも生徒実験です。試験管の水をしばらく沸騰させても、水上置換している方にはある程度以上の気体が集まらないことを確認して、火を消します。すると、水が逆流して試験管が水でいっぱいになります。と、ここまでは去年までもやっていたことです。でも、今年、水でいっぱいになった試験管を再び加熱するグループが現れました。危なくないと思ってそのまま続けさせたところ、試験管内の水が再び沸騰して、水が半分ほどになり(残り半分は水蒸気になって)、火を消す前と同じ状態になりました。そうなってから火を消すと、また水が逆流します。そしてまた点火すると水蒸気が現れて・・・。と、生徒は同じことを繰り返しては喜んでいました。そればかりではなく、実験後「水が沸騰したときに出た気体は何だ」と聞いたところ、「水だ」という答えが返ってきました。何しろ、水でいっぱいだった試験管が沸騰すると、半分は気体になり、火を消すと再び水でいっぱいになるのですから、「気体は水だ」と考えるのが自然なんでしょうね。
そういうわけで、来年からはこのくり返しを教材化しようと思っています。では、また。
00A−264
差出人:野中 直彦
送信日:01年5月10日
件 名:電気パンの実験(その1)
生徒は食べ物の実験を喜びます。電気パンを久しぶりにやりました。
失敗1.焦って、クリップをつないだまま、コンセントにいれて、ショート、バチッという音ともに、火花がちり、クリップはとけてくっついてしまいはなれません。
失敗2.「先生、これ本当に電気流れているの?」と言って、片方の鉄板に素手でさわるのです。あれー、大丈夫かなぁと思って、私もさわってみるが何ともないのです。
石川博士に早速聞いてみました。「交流の片方は、アースされているから大丈夫です。たまたまアースされている方をさわったから大丈夫だったけど、反対なら、電流を感じたのではないか」とのことでした。一度、計ってみようと思います。
00A−265
差出人:藤田 勲
送信日:01年5月10日
件 名:ゼラチンゼリーの話
こんばんは、藤田です。
連休前からの風邪が長引いています。主な症状は咳とのどの痛みと鼻づまりです。皆さんはいかがですか。
ところで山本さん、新しい学校でもがんばっているようですね。毎回何らかの生徒実験を入れるとはすごいパワーですね。成果も着実に上がっているようですね。私の方は全く生徒実験はやらず、全て演示実験で済ましています。何とかしたいとは思っているのですが、このスタイルに悪慣れしてしまって、どうも億劫になってしまいました。いけませんね。
訳あってゲル化剤のことをあれこれ調べています。下の文章は、そのうちのゼラチンのことをまとめたものです。興味のある方はお読みになってください。それから、やはり訳あって、ウズラの卵のパッケージ(10個入りのもの)を捜しています。農協やパッケージ屋や卵の業者に聞いてみたのですが、色好い返事がもらえません。どなたか入手先をご存じありませんか。
解説 ゼラチンゼリーの話
ゼラチンは牛の皮や骨から煮出したノリ
体を支え結びつけている骨、皮膚、それから腱やじん帯といった、かたくて丈夫な部分には繊維状のタンパク質があります。これがコラーゲンです。保湿性がよく皮膚を乾燥から守る効果があるといわれ、よく化粧品に使われています。また、イカやタコなどのシコシコした食感はこのコラーゲンのせいです。コラーゲンはその性質上大変安定で、水やアルコールは言うに及ばず酸やアルカリなどの液体にも溶けにくく、消化酵素によっても分解されにくい性質を持っています。ゼラチンはこのコラーゲンから作られます。
では、ゼラチンはどのようにして作られるのでしょうか。コラーゲンからゼラチンができる仕組みを考えてみましょう。
コラーゲンを作るタンパク質は長いヒモ状の分子で、このうち3本がきちんとラセンを巻いて集まって1本の糸のようになり、さらにこの糸が何本も集まってロープ状に丈夫な繊維を作っていることが分かっています。コラーゲンには3つのアミノ酸、つまりグリシン・プロリン・ヒドロキシプロリンがつながった繰り返し構造がたくさんあり、この構造を含んだ部分のペプチド結合がお互いに水素結合することで3重ラセンを巻くことができると考えられています。しかし、コラーゲンは長時間お湯で加熱するとしだいにロープ状の繊維がほぐれて分解し、それぞれが糸まり状の勝手な形を作ってしまいます。この結果、コラーゲンは軟らかくなって溶けだして消化吸収されやすくなります。この水溶性のタンパク質がゼラチンです。すじの多いすね肉を長時間煮ていると軟らかくなるのは、すじ肉のコラーゲンがゼラチン化するためです。
ゼラチンはコラーゲンから作られますからコラーゲン構造を一部残していて、その性質を受けついでいます。つまり、コラーゲンが3重ラセンを巻いて集るように、熱湯で溶けだしたゼラチン水溶液も糸まり状態から冷えると部分的に3重ラセン構造が再生されてからまり合い、まわりの水を抱き込んで固まってしまいます。これがゼラチンゼリーです。煮魚の煮汁が冷えてゼリー状になったものを煮こごりといいますが、これも魚肉から溶けだしたゼラチンのせいです。熱湯に溶けたゼラチンはネバネバが強いため、感光液を写真用印画紙やフィルムに張りつける乳剤として使われたり、昔は牛の腱から取ったゼラチンをニカワといって強力な接着剤として使っていました。
熱や酵素に弱いゼラチン
ゼラチンは生物体を作っていたコラーゲンタンパク質が溶けだしたものですから、その性質上、熱や酵素に弱いという欠点があります。
まず、ゼラチンと温度との関係をみてみましょう。
水の中に溶かし出したコラーゲンの3重ラセン構造がこわれる温度は、体温より少し高めのほぼ40度で、ゼラチンゼリーのとける温度はそれよりもずっと低く、せいぜい20〜35度です。このため、ゼラチンゼリーは夏場は崩れやすく冷蔵庫に入れて保存する必要があります。しかし、体温以下でとけてしまうということは口に入れただけでとろけるということであり、ゼリーは口溶けの良いなめらかな食感を持つことになります。グミキャンディーはゼラチンがものすごく濃いゼリーですので、ゴムをかむような歯ごたえと弾力性を持っています。しかし、かむほどに口の中でとろけていくのはゼラチンならではの特徴です。
次に、ゼラチンと酵素との関係をみてみましょう。
タンパク質は生体を作るもっとも大事な高分子の一つですから、コラーゲンも必要なときに合成される一方で、不必要になれば分解されたえず入れかわります。この合成や分解を調節するのが酵素と呼ばれるものです。コラーゲンを分解する酵素はコラゲナーゼという特殊なものですが、コラーゲンの変性により生成したゼラチンはいろいろなタンパク質分解酵素によりペプチドやアミノ酸のような小さな分子に分解されてしまいます。
果物のうちキウイフルーツやパイナップル、イチジク、パパイヤ、プリンスメロンなどにはアクチニジンやブロメライン、フィシン、パパイン、ククミシンなどというタンパク質分解酵素が多く含まれています。このため、これらの果物を生のまま含むゼラチンゼリーは、そのタンパク質が小さな分子に分解されて分解されて粘り気を失い、うまく固まらないといった問題が起こることになります。これらのゼリーを作るには果物に火を通して酵素の働きを失わせてから用いる必要があります。なお、肉の煮込み料理に生のパイナップルを入れたり、焼き肉屋で食べるステーキに時々輪切りにしたパイナップルがのっていることがありますが、これは肉のタンパク質をパイナップルのタンパク質分解酵素が分解することで焼き肉のうま味を増すと同時に軟らかくする効果をねらったものです。
00A−266
差出人:杉原 和男
送信日:01年5月12日
件 名:司会は、いかが?
アルケミストの会の皆さん 杉原和男
科教協「京都大会」の化学分科会司会者を、
「町井弘明先生」
「野曽原友行先生」
のお二人に引き受けていただきました。本当に、ありがとうございます。
ただ、化学分科会は3分散会の予定で、9名の司会者が必要です。2名さん以外にも、立候補していただけると助かります。都合がつけば、担当の「平田庄三郎先生」まで、ご連絡ください。
(中略)
---------------------------------------
科教協「京都大会」ホームページ
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/kyotocom/
すべての申し込み用紙がPDFファイルで入手できるようにしました。また、大会の全容をまとめたチラシも入手できますので、増し刷りしていただき、身近な先生に配布していただくと助かります。ホームページに関するご意見などもいただけると助かります。
00A−267
差出人:岡田 晴彦
送信日:01年5月12日
件 名:山本さんにお尋ねします
名古屋の岡田です。
山本さんにマドラーのことでお尋ねします。以前、山本さんのメールだったと思うんですが、ガラス管からマドラーを作り、その中に塩化コバルトを入れるような内容があったと記憶しています。もしそうでしたら、教えてください。
@その塩化コバルトを入れる目的と効果
Aマドラーに入れる塩化コバルトの購入方法
化学部でのマドラー作りを発展させる方法として伺います。
00A−268
差出人:藤田 勲
送信日:01年5月15日
件 名:カラギーナンゼリーの話
こんばんは、藤田です。
前回に引き続きゼリーの話です。この辺りも皆さんがよく知っているような話でしょうが、参考までに。
カラギーナンゼリーの話
寒天とカラギーナンは海藻から煮出したノリ
海藻を熱湯で煮出して取り出したノリでは寒天がよく知られています。寒天はテングサ、オゴノリ、イギスなどの紅藻類と呼ばれる海藻が原料ですが、カラギーナンは同じ紅藻類でもスギノリ、ツノマタ、イリデアなどの海藻が原料です。
海藻の細胞壁を作る物質はいずれも共通で、セルロースという丈夫な多糖類の骨格で作られています。しかし、海水中で生活する海藻は波や潮の流れに耐えられるように骨格に柔らかさや粘りをつけるように発達し、セルロースの間をいろいろなノリ状の物質で埋めるようになりました。ちょうど鉄筋の間をコンクリートで埋めて、粘りと強度を強めた鉄筋コンクリートの建物ができるようなものです。紅藻類の一部は寒天をそれに利用し、他のものはカラギーナンを利用したと考えられています。一方、ワカメ、コンブなどの褐藻類ではアルギン酸やフコダインといったノリを利用しています。
固くてもろい寒天ゲル
寒天もカラギーナンも同じ紅藻類ですから、化学構造はよく似ています。すなわち、共にガラクトースと呼ばれるブドウ糖に似た親水性の糖と、そのガラクトースが分子内で水分子が抜けて親水性に乏しくなったアンヒドロガラクトースという糖からできています。このように糖が長くつながった高分子のことを多糖類と呼んでいます。ただし、寒天ではガラクトースとアンヒドロガラクトースが交互に規則正しく並んでいるのに対して、カラギーナンではこのらの糖がでたらめに並んでいます。また、親水性の硫酸基というマイナスの電気を帯びたイオン性の官能基をこれらの糖に含んでいるという点でも似ています。ただし、寒天はカラギーナンより硫酸基のユニットが少なくなっています。これはあとで説明するように、固さの違いとして影響してきます。
では、寒天はどのようにしてゲル化するのでしょうか。ゲル化の仕組みを考えてみましょう。寒天の場合、硫酸基ユニットはどの糖にもついているわけではなく、このユニットをを全く持たない非イオン性の多糖類があり、これをアガロース、硫酸基を持つイオン性の方をアガロペクチンと呼んで区別しています。ゲル化能力は主にアガロースで決まります。
その仕組みはラセンを巻いてからまるという点ではゼラチンの場合と似ています。すなわち、糸まり状のアガロースが冷えるにつれて2重ラセンを作り、その2重ラセン同士がさらに何本も集まってからまり合い、ゲル化すると考えられています。アガロペクチンは硫酸基がラセンを巻くじゃまをするのでゲル化能力は弱く、寒天に粘り気を与える働きをしています。アガロースはきれいな2重ラセンを巻くことができるため、その分子同士の集合するときの凝集力はとても強く、寒天は30度ぐらいでもすでにゲル化が始まり、そのゲルはゼラチンと違って大変安定で90度程度までとけません。あの固くもろい食感はこのためです。また、ゼラチンと違って生体内の酵素によって分解されませんからダイエット効果が期待できます。しかし、ゼラチン以上に酸に弱く、酸味の強い果汁を加えて長く熱すると小さな糖に分解してしまい、ゲル化しにくくなるのが難点です。
寒天より軟らかくゼラチンより固いゲルを作るカラギーナン
一方、カラギーナンはアンヒドロガラクトースを含まずに硫酸基を多く含んだラムダ(λ)タイプのもの、アンヒドロガラクトースを含み硫酸基の少ないカッパ(κ)タイプのも、それからその中間のイオタ(ι)タイプのものまで多くの種類があります。アンヒドロガラクトースは水となじみが悪く硫酸基は水となじみがよいユニットですから、ラムダタイプは冷水にも溶けて強い粘りを示し、カッパタイプは水に溶けにくく、イオタタイプはその中間の溶解性を持つといった性質を示します。しかし、実際の海藻が生産するカラギーナンはこれらのタイプが混じったものと考えられています。
ところで、どうしてカラギーナンなどという新しいタイプのゲル化剤が出回るようになったのでしょうか。それは従来のゼラチンが持っている熱や酵素に弱いといった欠点や寒天の酸に弱いといった欠点が少なく、しかもそれらと違ってカリウムイオンやカルシウムイオンといったミネラル類や牛乳や卵白といったタンパク質によって簡単にゲル化するという点にあります。
まず、ゲル化の仕組みを考えてみましょう。ゲル化の仕組みは寒天とよく似ています。ミネラル類でゲルが強くなるのは、2重ラセンを巻いたカラギーナンの内部にカリウムイオンが入ってラセンを安定にしたり、ラセン同士の硫酸基をカルシウムイオンがつなぎ止めてからまり合いを強くするためだと考えられています。硫酸基はラセンを巻くことの妨げになりますからラムダタイプのカラギーナンはゲル化せず、硫酸基のもっとも少ないカッパタイプがもっとも強くゲル化することになります。インスタントコーヒーにはカリウムイオンが他の食品以上に多く含まれていますので、今回作ったコーヒーゼリーはかなり固めの食感になりました。また、タンパク質でゲル化するのは、実はカラギーナンのマイナスの電気を帯びた硫酸基の影響でタンパク質自身がゲル化するからです。ちょうど豆乳がニガリ中のマグネシウムイオンで固まって豆腐になるように、牛乳がカラギーナン中の硫酸イオンで固まると考えればよいでしょう。
カラギーナンのゲル化温度は寒天よりさらに高い40度くらいで、そのゲルのとける温度は60度くらいですから、カラギーナンゼリーはゼラチンと違って冷蔵庫でなくても固まり室温に置いてもとけ出しません。また、寒天と同様にノンカロリーで、食感はゼラチンに近い透明さとなめらかさを合わせ持っています。しかも、このカラギーナンは凍結後の解凍でもそのゲル化能力は失われることはありません。
このため、カラギーナンは主にプリンやヨーグルトなど牛乳を使うゼリーや生の酸っぱいフルーツを使うフルーツゼリーのゲル化剤として使われています。その他、凍結解凍でも強い粘性を示すことを生かしてアイスクリームや冷凍食品の安定剤や増粘剤に、またタンパク質との相性がよいことからハムなどの保水結合剤に、さらに最近は自動車の固形芳香剤のゲル化剤としてなどにその用途が急速に広がっています。
00A−269
差出人:差出人: 山本 喜一
送信日:01年5月15日
件 名:槌田敦 『資源物理学入門』
こんにちは、山本です。
岡田さん、マドラーについては私のHPを見て下さい。そこにいろいろと書いてあります。
さて、アルケの今年のテーマの一つはエントロピーですね。私も勉強したいと思っていたところ、以前に同じサークルをやっていた物理の三門さんという人が、表題のような本を紹介してくれました。熱力学から見た資源問題や環境問題が中心テーマの本です。、5月の連休に途中までまとめましたので、送ります。ただし、図は省略し、数学の積分記号も「○○から○○まで積分」としました。
読書メモ 槌田敦 『資源物理学入門』 NHKブックス(1982)
附章 熱学の基礎
1.熱と温度
温度の違う二つの物体AとBを接触させる。その時、AからBへエネルギーが流れれば、Aの方がBより温度が高い。また、この時流れるエネルギーを熱という。AとBの接触面ではAを構成する粒子とBを構成する粒子の間で、力学的エネルギーの交換がある。AからBへ流れるエネルギーQABもあれば、逆にBからAへ流れるエネルギーQBAもある。この時、QAB>QBAならば、全体としてAからBへ熱が流れる。これによって、Aの温度θAはBの温度θBより高いと定義する。
物体を加熱すると温度が上がる。dQの熱を加えたとき、dTだけ温度が上がったとする。次式の比例定数Cを熱容量、または比熱という。
dQ = CdT (A1)
相変化が起こっているときは、加熱しても温度が上がらない。相変化に必要な熱を潜熱という。これには、融解熱、気化熱などがある。相変化のとき、構成する粒子の運動エネルギーは増加していない。粒子間の位置エネルギーが変化している。
2.熱と仕事
物体が圧力に抗して膨張するとき、その物体は外に対して仕事をする。圧力Pで微少体積dVだけ膨張したときの微少仕事dWは
dW = PdV (A2)
これをV0からV1まで積分すると、仕事Wが得られる。
W =(V0からV1まで積分)PdV (A3)
(1)等容加熱
理想気体1モルを体積一定で加熱する。すると、加えた熱dQに比例して温度は上昇する(dT)。この比例定数CVはモル定容比熱である。
dQ = CVdT (A4)
T0からT1まで温度を上げるのに必要な熱量Qは
Q = CV(T1−T0) (A5)
この場合、理想気体だから粒子間の位置エネルギーはない。また体積一定だから、外部に仕事もしていない。だから、加えられた熱はすべて粒子の運動エネルギー、つまり熱エネルギーになっている。
(2)等温膨張
理想気体1モルに熱を加え、温度一定で膨張させる。
理想気体の方程式は PV=RT だから、体積が増加すると図34のように圧力が下がる。V0からV1まで体積を増加させたとき、この理想気体が外部にした仕事は図34の斜線の面積であって、
W =(V0からV1まで積分)PdV
= RT・(V0からV1まで積分)dV/V
= RTln(V1/V0) (A6)
である。
等温膨張だから、この気体は加熱されているにもかかわらず温度は一定である。つまり、加えられた熱はすべて仕事に変わっている。したがって、
Q = W = RTln(V1/V0) (A7)
(3)可逆断熱膨張
理想気体を膨張させて仕事をさせる。ただし、加熱をしない。加熱しないから、温度は下がる。
気体はdTだけ温度が下がることによって、エネルギーを失う。理想気体の場合、失ったエネルギーは CVdT である。このエネルギーが仕事に変わっている。全体のエネルギーは変化していないから、
CVdT+PdV = 0 (A8)
体積がどれくらい変化すると、温度がどれくらい下がるかということは、気体の方程式 PV=RT と組み合わせると得られる。
TV^(R/CV) = 一定 (A9)
3.熱拡散
非可逆現象とは、始めと終わりのある現象すべてであって、他から何の作用もなければ再び元へもどることのない現象である。これは拡散とも呼ばれている。高濃度の物体が低濃度の空間へ拡散するのは物拡散であり、高温の熱やエネルギーが低温の空間へ拡散するのは熱拡散である。
まず熱拡散から考える。図37のように、高温の物体と低温の物体を接触させる。この時、熱Qの移動に伴って、次式にしたがって計算されるエントロピーSも移動すると定義する。
S = Q/T
そうすると高温の物体Aは熱Qとともに、Q/TAのエントロピーを失う。一方、低温TBの物体Bは熱Qを得るとともに、Q/TBのエントロピーを得る。AとB全体のエントロピー変化は
ΔS = SA+SB
= (−Q/TA)+(Q/TB )
= Q(TA−TB )/TATB > 0 (A10)
で、増大している。つまり高温物体から低温物体へ熱が拡散することによって、エントロピーは増大する。このことは、エントロピーが熱拡散の程度を示す指標であることを示している。つまり、エントロピーが増えれば増えるほど、熱はより低温の物体へ拡散したことになる。
またここで、高温の物体と低温の物体を接触させただけで、エントロピーが生まれたことに注意して欲しい。このようにエントロピーというものは、無から生じるものである。エネルギーは保存される量である。だから、ある形で蓄えられていたエネルギーが、変化と同時に違う形で現れる。化学反応とともに、化学エネルギーが熱や光になって出てくるように。しかし、エントロピーは変化する前に、どこかに別の形で存在していたものではない。熱拡散の例でわかるように、変化と同時に新たに生まれるものである。
ただ、エントロピーを無から生じる量とするのは理解しにくい。そこで、熱の拡散能力(ポテンシャルエントロピー)がエントロピーになると考えると良い。
4.物体のエントロピーの測定
測定したい物体を絶縁箱に入れ、絶対零度に冷やす。熱力学第3法則により、絶対零度では物体のエントロピーはゼロである。次に、物体を電熱線で加熱しながら、時々刻々の温度を測定する。そして、短い時間に流入した熱量ΔQiをその時の温度Tiで割った値ΔSiを求める。
ΔSi = ΔQi/Ti (A11)
これを求める温度まで合計する。
S = ΣΔSi (A12)
これが物体のエントロピーである。もっとも、物体を絶対零度まで冷やすことはできないから、絶対零度付近はデバイの比熱式などで外挿する。表はこのようにして得た物質のエントロピーである。固体は気体よりエントロピーが小さい。また、気体では原子番号が小さいほどエントロピーが小さいことが分かる。
5.物拡散
図39のような連結した容器に一方Aに、1モルの理想気体が入っていて、Bは真空とする。連結部を開くと、気体はAからBへ拡散し、等濃度になって止まる。これは外から加熱してないので断熱膨張である。しかし、外へ仕事をしていなから温度は変わらない。
次に、容器Bを圧縮して理想気体をAにもどす。この時発熱するので、熱Qを逃がして等温に保つ。この過程は等温膨張の逆だから、加えた仕事はA6式によって
W = RTln(V/VA)
ただし、V = VA+VB (A13)
このWは全部熱になって出ていく。
W = Q (A14)
エントロピーについて見てみよう。仕事Wはエントロピーゼロのエネルギーだから、気体に入るエントロピーはゼロ。熱Qといっしょに流れ出たエントロピーは、
S = Q/T = Rln(V/VA) (A15)
これはAにあった高濃度の気体が、空間Bへ拡散したときに生じたエントロピーである。つまり、1モルの気体の体積がX倍に拡散すると、エントロピーは RlnX だけ増加する。
Aという物体とBという物体が混ざり合う場合にもエントロピーは増加する。これは物体Aの空間Bへの拡散と、物体Bの空間Aへの拡散の合計である。
S = SA+SB = nARTln(V/VA)+nBRTln(V/VB) (A16)
これを混合エントロピーという。
6.熱機関の効率
高温熱源から熱を得て、熱の一部を低温熱源へ捨てることにより、周期的に仕事を得る機関を熱機関という。熱機関の効率はエネルギー収支とエントロピー収支の二元連立法的式を解くことによって求まる。
エネルギー収支:
図41の熱機関の場合、入るエネルギーはQ1、出るエネルギーはQ2と仕事Wである。したがって、
Q1 = Q2+W (A17)
エントロピー収支:
入るエントロピーは Q1/T1 、熱機関内で発生するエントロピーはSとしておく。この合計が出るエントロピー Q2/T2 に等しい。
Q1/T1+S = Q2/T2 (A18)
熱効率は熱機関に入ったエネルギーQ1のうち、仕事Wに変わった割合 W/Q1で定義されるから、
W/Q1 = (Q1−Q2)/Q1 = (T1−2)/T1−T2S/Q1 (A19)
となる。ここで、
W/Q1 = (T1−T2)η/T1 (A20)
とすると、ηは
η = 1−S/D (A21)
D = (Q1/T1)−(Q1/T2) (A22)
で示せる。ここでDはT1の温度の熱Q1が、T2の温度の空間へ拡散するときのエントロピー変化、ηは一般効率と呼ばれるものである。したがってA19式は熱効率と一般効率の換算式である。
効率は一般に、製品の量/資源の量 で表される。例えば火力発電所の場合、
熱効率 = 発電量/投入燃料
で示される。しかしこれは一般効率ではない。この式でいう投入燃料は発電のために直接燃やすものだけを考えているが、実際には、発電所の建設などにも燃料が投入されている。そこで効率の考え方を変更する。
利用しうる拡散能力 = 資源の持つ拡散能力 − 技術損失
そして、
一般効率 = 利用しうる拡散能力/資源の持つ拡散能力
= 1 − 技術損失/資源の拡散能力
とする。技術損失とは、資源を採取し、実用化し、廃棄するときに発生するエントロピーであり、技術に伴う熱の拡散と物の拡散を極力抑えることにより、効率を上げることが可能になることを上式は示している。
A20式のWは発電量ではない。発電量W2から投入した動力W1を減じたものである。
W = W2−W1 (A23)
ここでW1とは、例えば蒸気発生装置に水を送り込むためにポンプで消費する動力などである。ところが電力会社は、発電量W2をQ1で割った見かけの熱効率を使っている。
W2/Q1 = (T1−T2)/T1−T1S/Q1+W1/Q1 (A24)
つまり、真の熱効率より W1/Q1 だけ効率が良くなっているように見える。W1には、蒸気発生装置に水を送り込むための動力ばかりでなく、冷却用海水を取り込む動力などがふくまれている。原子力発電所では、ウランの採鉱から使用燃料の後始末まで、すべての必要な動力がW1に入る。これがどれくらいの値になるか正確な見積もりもないまま、原子力発電は見切り発車されたのである。だから見かけの効率は、
W2/Q1 > 0 (A25)
でも、本当の効率は発生するエントロピーが大きくて、
W/Q1 = (W2−W1)/Q1 = (T1−T2)/T1−T1S/Q1 < 0 (A26)
のように負であったということにもなりかねない。
7.拡散の分子論的意味
A14式で示したように、理想気体が2倍の体積に拡散すると Rln2 だけエントロピーが増加する。これを分子論で解釈しよう。図39のような連結した容器を考える。はじめ容器Aに1モルの気体が入っているとしよう。分子数でいえば、N=6×1023個の分子があり、これが管を通って拡散する。そして、終わりには容器A、Bにほぼ同じ数の分子が入ることになる。そこで仮に、分子に番号をつけ、それぞれの分子がどこにあるかを記述したとする。すると、
はじめの状態:
分子の番号 1,2,3,4,5,・・・・
場 所 A、A、A、A、A、・・・・
終わりの状態:
分子の番号 1,2,3,4,5,・・・・
場 所 A、B、A、B、B、・・・・
などとなっている。分子のいる場所を示す組み合わせの総数(場合の数)Wは、
はじめ W=1 通り、
終わり W=2N通り、
存在する。つまり、拡散の結果、場合の数Wは増大する。ここで全く同じ系をもう一つ考える。そうすると場合の数は、
はじめ W2=1×1 通り、
終わり W2=2N×2N通り
となる。場合の数は二つを同時に考えると2乗になってしまう。これは拡散は表現できても、物理量ではない。こういうとき、物理学では対数を取ることにしている。その値をσとすると、
σ = lnW (A27)
そうすると、図39のときは、
はじめ σ=0 に対し、終わり σ=Nln2
となり、σは拡散によって増大する量になる。まったく同じ系をもう一つ考えたときは、
はじめ σ2=0 に対し、終わり σ2=lnW2=2σ
となる。σは加算的であり、物理量である。σを統計力学的エントロピーという。
ここで、拡散によって増大するエントロピーSと、統計力学的エントロピーσを比較しよう。図39の場合、
S=Rln2 であり、σ=Nln2
である。k=R/Nとすると、
S = kσ = klnW (A28)
となる。これは有名なボルツマンのエントロピー表式であり、kはボルツマン定数である。
8.比喩的エントロピー批判
今やエントロピーという言葉は、乱れの渦中にある。例えば情報論では、熱学エントロピーが、
S = klogW (A29)
と書くことができ、それが情報量
H = logW’ (A30)
と似ているというだけで、情報量に情報エントロピーという名前を付けている。もっと良く似せるために、
H = KlogW’、K=1 (A31)
という表現さえ用いる。熱学の場合のkはボルツマン定数という物理学的な基本定数である。しかし、情報論のKはどんなにこじつけても意味は見いだせない。だから、情報エントロピーという呼び方は不当である。
熱学エントロピーは巨大数の法則であり、増大の法則である。情報論ではこういう基本的なことを無視している。また、情報量にエントロピーという別名をつけることによって、情報論はなにも利益を得ていない。情報論の教科書からエントロピーという言葉とその説明を全部消し去っても、情報論に関する「情報」は何一つ失われないのである。
エントロピーに関する言語の乱れは、他にもある。今度は、物理学者自身が原因になっている。エントロピーは、微視的な「乱雑度」とか「無秩序」という意味である。微視的とは、原子や分子の世界のことなのだが、このことを忘れて「整頓した部屋はいつの間にか乱雑になる。これはエントロピーの増大である」などと言う物理学者がいる。これは明らかに間違いである。エントロピー則は、巨大数の法則であって、少数の構成要素の系には適用できないのだ。部屋の中が良く整頓されているか、乱雑であるかは、可能な一つの配置が出現しただけであって、エントロピーとは関係ない。特にひどい比喩的エントロピーの文献を上げると、
都築卓司『マックスウェルの悪魔』、堀淳一『エントロピーとは何か』(いずれもブルーバックス)
がある。
また、最近の経済学の論文には、盛んにエントロピーという言葉が使われるようになった。この多くは「無秩序」という言葉に誘惑された結果である。地球、生物、人間社会について熱学的考察を行う資源物理学にとって、比喩的エントロピーはきわめて迷惑な存在である。
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